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35.2章エピローグ:これはひどい

今回はサブキャラ視点です

「まじかよ、こいつ」


 浮遊有船(ふゆゆせん)グランカティオの一室。医務室。

 目の前で眠る少女を前に、エリオはつぶやいた。

 

 ドラゴンたちを倒したウィルベルは、ベルメシオラを連れてグランカティオに戻ってくるなり「あうー……、なんか目がぐるぐる回るんよー……」と言ってぶっ倒れて気絶したのだ。


 そして船内の医務室に運ばれてそのままずっと眠っている。


「自己強化魔法に慣れてない体が悲鳴をあげたようね。命に別状はないわ。明日の受験には万全の態勢とはいかないかもだけど」


 と、さっき退室していった船医の診察はそんなところだった。


「ぐーすかぴー。ぐーすかぴー」


 船室のベッドが気持ちいいのか、少女ときたらのんきな寝顔である。


 エリオはウィルベルの隣に横たえられたマグロを見た。こちらも主と同じように目を回しているが……。


(こいつは本当に精霊なのか?)


 いわゆるレア精霊と呼ばれるもののなかにはエリオの知らないものも多い。


 たいていの場合は独特の能力を持ち合わせているが、それにしたってこいつらは特異すぎる。


 召喚主が気絶しても送還されないし、何よりあのドラゴンを倒したアレは……。


 精霊の定義からすると規格外も規格外であった。

 

再従兄妹(はとこ)殿、どうした?」


 とエリオに声をかけてきたのはベルメシオラ・ラ・セーラ・アズヴァルト。


 エリオの母親の妹の母親の姉の娘の娘にあたる。


 本来であれば国の規模や身分的にはベルメシオラのほうがよほど上なのだが、素行が悪い同士で慕われているといったところ。悪いことはだいたいエリオが教えたと言っていい。


 ちなみにリーセルとベルメシオラは従兄妹(いとこ)同士である。貴族というのはだいたいどこかでつながっているのだ。


 エリオはふとウィルベルの頬を指の先で突っついた。


「ほんとになんなんだろうな、こいつ。

 アホかと思えば、とんでもないバカなことをしでかしやがるし」

 

「ならば見ればよいではないか。ステータス!」


 マグロの額に手をあてて、ベルメシオラがコマンドワードを唱える。


「あ。おい。こら!」


 当たり前だが、精霊のステータスなどというものは超個人情報だ。


 そんなものを主の了承なしで見ようなどと、庶民と王族という立場を考えてもすら、殴られてもしかたない暴挙である。

 

 さすがのエリオも止めようとするが、ベルメシオラはチッチッチと指を振った。

 

再従兄妹(はとこ)殿よ。そんなことを言うのであれば、見なければいいのだ。

 ふふん。余はすでにこの娘を青田買いした立場である。半分は臣下のようなものではないか。ならば、これくらいは許されるであろう? ――あいたぁっ」


「許されませんよ。ベルメシオラ様」


「あいたたた。ギギ、本気で殴りおったな!? だが、ふふん? そうは言いつつもギギも興味津々ではないか」


 ギギにゲンコツを落されたベルメシオラが目に涙を浮かべるが、その言葉の通り、この場にいる誰もがマグロの頭上に表示された青白い文字を凝視し――それを見て、エリオはひきぃっと自分の顔がひきつるのを感じた。


種別:精霊

レベル:3

攻撃:E

守備:B

魔力:E

攻撃補正:E

守備補正:E

魔力補正:E

総合ランク:E

所有者:ウィルベル・フュンフ


「な……」


「むう……いや、しかし……」


「これは……」


「レベル……たったの3?」


 リーセルやベルメシオラ。それどころかギギすらも同様の表情で、黙りこくる。


 重くなった空気に耐え切れず、ベルメシオラの近衛騎士の一人が口を開いた。


「なんというか……これはひどいですね?」


 もう一人の近衛騎士もその言葉にうなずくが、そのほかに賛同者はおらず、四者四様の沈黙である。なぜならば、


「……おい。こいつ、攻撃力も攻撃補正もEしかないのに、災害レベル1に指定されているドラゴンを倒したのか?」


 しかも複数を相手どって。

 しかも素手で。


「ギギよ。余は戦闘というものについてあまり知らぬが……そのようなことができるものなのか?」


 この世界においてはステータスが絶対である。

 防御力はまだしも、攻撃力および攻撃補正がEの精霊でドラゴンを?

 

 勇者ギギはしばらく考え事をするように自分の唇を触っていたが、やがてエリオたちにも説明するために口を開いた。

 

「この精霊が使用していたのは、至極単純な初歩の自己強化魔法です。精霊のステータスとステータス補正に比例してその能力を向上させるという特徴をもっている魔法ですが……」


 そこで沈黙する。


 誰も言葉にしなかったが、目を見合わせたところをみると、みな同じことを思っているようだった。


 ――だったら、この精霊がレベルアップしてステータスが上がったなら……いったい、どうなるんだ?


「ぐーすかぴーむにゃむにゃ。ミカのネギトロおいしいんよー」


「ぐーすかぴーむにゃむにゃ。やめて。素手で直接ねぎりとろうとしないで……」


 そんな周囲の戦慄に気付かず、平和に眠りこけている少女とマグロの精霊を見て、


「なんにせよ。今年のセレクションは楽しくなりそうじゃないか」


 そう言ったのは、今年のセレクションの大本命、リーセル・A・ソーラ・ディオルト。


 普段はいつも貴公子然とした融和な表情を浮かべている少年。


 本来であれば、生まれながらにレヴェンチカに求められる資質を持ちながら、当時の第一王子が病弱だったという政治事情で召集されなかった王子。


 その才能はずば抜けており、受験生のなかでは間違いなく圧倒的に最強であろう。


 そのリーセルが、獅子が美味そうな獲物を前にしたような、獰猛な笑みを浮かべていた。珍しい。


「ほう? 楽しそうではないか。従兄(いとこ)殿」


 ベルメシオラがからかうように言うが、エリオは首を横に振った。


(珍しい? いや、違うな)


「楽しそう? そうかな?」


「ああ、リーセル。お前のそういう表情は初めて見るよ」


 恐らく、こっちがこいつの本性なのだ。いままでライバルと呼べる者もなく、ただただ作業的に勝利をおさめてきただけの天才が、ついに戦うに相応しいと思える相手を見つけたのだ。


 エリオはふと思った。


 セレクションの合格枠はたった10人。その合格者の枠を巡って、リーセルとウィルベルが戦うとしたらどちらが勝つのだろう?

 

 客観的に見たならば、まだまだリーセルのほうが圧倒的に強い。だが、この阿呆(ウィルベル)のバカげたほどの意外性を考えたなら、もしかして。


「いや、まさかだな」


 外を見ると、浮遊有船は外空を抜けて、島の静空圏に入ったところだった。


 ここから6時間もすれば港にたどり着くだろう。


 レヴェンチカまでもう少し。

【マグロ豆知識】

マグロに関わらず魚の心臓をホシ(星)といいます。

特にモウカザメの心臓は、モウカの星と呼ばれ、レバ刺しにも似た食感ということで人気があります。


魚類のなかでもマグロの心臓は血を送る能力が高く、脈拍は約55拍/分。

普通の魚の脈拍が30~45拍/分程度、と考えるとかなり高いのが分かります。


ファンタジー世界でヒロイン(人間は約60分/拍)と息を合わせる描写ができる魚はマグロだけなのです。

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マグロ豆知識補足はこちら
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