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27.クロックアップ

「びゃああああああ!」


 右へ左へ。上へ下へ。盾代わりにぶん回されるぼくのボディ!


 ときに七星サーディンたちの攻撃を遮る盾となり、ときに死角を補う目にもなり、さらに言うならウィルベルの姿勢制御すらコントロールしたり!


 っていうのも、滑空スキルっていうのは、空を飛ぶだけじゃなくて、振り回されるときにも効果を発揮するみたいだった。


 なので、軽くなったり、風をばふっと受け止めたり、逆にオフにして重さによる遠心力を利用したり。

 振り回されるたびに滑空スキルをオンオフオンオフ。おっと、尻尾のところだけオン! みたいな感じ!


 でも、あまりにも動きが早すぎて、頭が! 脳が! マグロの低いIQじゃ処理が追いつかない!


 さっきから超高速で移り変わる光景にぼくのブレインはクラッシュ寸前!


 ちょっと考えてほしい。人間ってどれだけ激しく動いても、頭の位置はそんなに動かないよね?


 でもこの野蛮人――じゃない。我が愛すべきご主人様は、尾っぽを持ってぶんぶんと遠慮なくマイボディを振り回しておられるのだ。


 ジェットコースターってレベルじゃねーぞ。ぐえー。口からネギトロが出そう。


「はぁっ! はぁ! ははは!」


 しかも、うちのご主人様ってば超ハイテンション。

 視界を共有してるはずなのに酔った感じもなく、遠慮なくぶんぶかと振り回すのである。あばばばば。


「ははっ! ミカが見ている景色ってすごいね! ぐわんぐわんって感じなんよ!」


「振り回してるのはウィルベルなんだけどぉぉぉぉっ!?」


 ツッコミを入れながらウィルベルとの視界の共有と意志の伝達をおこない、さらにスキルの切り替えと態勢の制御をおこなう。


 あばばばー、脳みそから変な汁(ドリップ)が出そう。


 ぼくたちの意識はネギトロのように混ざり合い、加速していく。

 ウィルベルをマスター、ぼくをスレーブにした、ダブルコアのCPUがあるって考えるとわかりやすいかもしれない。


 ――おおっと、ウィルベル。後ろからサーディンが!

 ――アイサー、了解なんよ!


「なんていうか。もうあれなんよ! ぜんぜんよゆーって感じ!」


 さよですか。さて、それはともかく、ひとつ想像していただきたい。

 200キログラムのマグロを、片手で棍棒代わりに振り回しながら奇声を発する少女の姿を。


 それはまさしく【蛮族すらも裸足で逃げ出す超野蛮人】の爆誕であった。


 不思議だね。人と精霊が一心同体になったからこその美しい(ファンタスティックな)光景なはずなのにね。


 でも、余裕が出てきたっていうのいいことだ。

 どれくらい余裕かっていうと、七星サーディンたちの攻撃を躱しながら、見物の人たちを観察する余裕があるくらい。


(うわー。ほんまに偉そうな人ばっかりなんよー……)


 いつのまにだろうか。

 ウィルベルの言うとおり、いまぼくたちのいるプールのあるオープンデッキはもちろん、船の上方に設えられた展望デッキのほうにも上等な服を着ている裕福そうな人たちで溢れかえっていた。


 ウィルベルの着ている服がファストファッションの安売りシャツだとすれば、王室御用達なブランドのフルオーダーのスーツくらいの格差。


 でも、この世界の文化レベルって地球と同程度には格差があるのかな?

 どこか素朴さを感じる民族衣装の人もいれば、びしっと決めたスーツの人もいる。

 素朴って言っても、ウィルベルの着ているものに比べれば雲泥の差ではあるんだけど。


 まるで見世物だなー、なんて思うけど、逆にそれが気持ちいい! 注目を集めるのって、高揚感を感じるよね。


 って、ああああ! ミリオ君ってば王子様風のイケメンとなんかお話してる!

 ええい、浮気者! エリオ君があんなこと言っちゃったからこんなことになってるのにさ! ちゃんと見ててよね!?


(うちは、上にいる人たちは危なくないんかなー? ってほうが気になるんよ)


(余裕が出てきたって言っても、油断するのいくない!)


 でも、確かにウィルベルの言うとおり。


 上にいる人――ぼくたちがいるオープンデッキよりも高い場所にある展望デッキに、何人かの子供たちの姿が見えた。大人たちの背に隠れて見えないため昇ったらしい。


 とはいえ、こっちがいる場所ですら体が浮くような風が吹いているのに、ここよりも2メートル以上は高い位置にある吹き曝しのデッキが安全なわけもなく。


 ……一応、係員っぽいひとが展望デッキにあがらないように言って、誘導してるっぽいけど、


「余を誰と心得る! 余は映えあるアズヴァルト王国の女王、ベルメシオラ・ラ・セーラ・アズヴァルトであるぞ!」


 なんて、なかなか言うことを聞かないガキンチョがいて苦戦しているようだ。


 10歳くらいに見えるけど本人曰く、女王であるらしい。


 王女じゃなくて女王なの? って思うんだけど、地球でも血統主義な国であればよくある話だし、そんなに不思議なことじゃないのかな?

 この世界にもこういう典型的なワガママ王族がいるんだね。


 銀髪蒼眼。生意気そうなお顔。将来美人さんになること間違いなし。

 着ているのは柔らかそうな黒と深い紅を基調としたパーティドレス。風のあることを前提にしているのだろうか、スカート丈は風に流されないようにけっこう短め。

 さすがに寒かったのか、フリルとリボンの付いたボレロカーディガンで胸元や肩を包み、さらにはフィンガーレスグローブ。


 未来の姿はともあれ、現在はガキンチョな女王様は係員に向かって偉そうに胸を張った。


「もう少しであの催しも終わりであろう? あとほんのちょっとくらい、よいではないか」


「ですが、しかし。危険でありまして……」


 1件の重大事故が起きる裏には、30件の軽微な事故、そして300件のヒヤリハットがあるという。


 あと少し、これくらい、って感覚はときに致命的な出来事を発生させる。それは地球でも、このファンタジー世界でも一緒だ。


 ――そのとき、強い風が吹いた。


「うわっぷ!」

 

 強いって言っても、油断してたらせいぜい体勢を崩す程度。


 ぼくたちを攻撃していたサーディンなんかは、体重が軽いから何匹か吹き飛ばされたみたいではあるけど。


 でも、そんなことより、


「あ」


 ぼくとウィルベルの思考が完全に重なる。

 ぼくたちが見たのは、展望デッキで身を乗り出していた自称女王様が、突風に煽られて落下するところだった。


「危ない!」


 ぼくたちの声に気づいた人たちが遅れてガキンチョ女王に気付く。


 落下地点にいる人たちが、すぐさま上着を脱いで、クッション代わりに広げようとするけど、でも――それじゃダメだ!


「ウィルベル!」


「うん。わかっとる! みんな、どいてどいてー!」


 ぼくらはサーディンたちとのダンスを中断し、ダンっと地面を蹴って、見物人の頭の上をひとっ飛びに大ジャンプ。向かう先は船の右舷!


「あいたっ」


「ごめんなさいなんよ!」


 あ。ごめん。嘘ついた。正しくは進行方向の人たちの頭を足場にしながら、だった。


 っていうか、めっちゃVIPっぽい人の頭を足蹴にしてるけど、これって後で問題起きたりしない?


(そんなことは知らーんっ!)


 そんなぼくらが向かうは右舷の(すみ)。お空と浮遊有船(ふゆゆせん)の境界!


「シャアアアア!」


 七星サーディンの群れもぼくたちについてくる。あーもう! しつこい!


 ――さらに風が吹いた。


「ぎゃああああ!」


 体重の軽いガキンチョ女王は、木の葉のようにくるくると回転して方向転換。上着を広げていた人たちと、ぜんぜん違う方向へと吹き飛ばされる。


 その先は浮遊有船の外。落ちたら二度と浮かばぬ空の奈落!


 ガキンチョ女王の死を想像した人たちから悲鳴が上がる。その悲鳴を背中に浴びて、

 

「おりゃああああ、なんよぉぉぉ!!」


 アイ・キャン・フラーイ!

 ぼくたちは一切の躊躇なく、悪ガキを追いかけてデッキの(ふち)を蹴って大空へと飛び出した。

【マグロ豆知識】

マグロの視力は魚のなかでもトップクラスで(年齢によって異なりますが、成魚で)約0.5!

……人間と比べると低いですね。ただし、これは形態視力と呼ばれるもの。


マグロがすごいのは動体視力です。

視界の悪い水のなかをぎゅんぎゅん泳ぎ回って餌を得るマグロは、人間の40倍の動体視力を持っているとも言われています。

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\お読みいただきありがとうございます!/
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マグロ豆知識補足はこちら
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