24.VSいわし(☆)
「ひえぇぇ……なんかいっぱいきたーっ!!」
「あ、あわわ……」
鳥っぽい感じの群れはすごい勢いでまっすぐにぼくらを目指してきていた。
ぼくたちが泡を食うのと対称的に、エリオ君が呆れたように溜息をつく。
「まったく、そんなザマでレヴェンチカを受験しようだなんて、いくらなんでも無茶なんじゃないか?」
「そやな」「そだね」
まったくもう! エリオ君にはがっかりだな!
せっかくぼくらが緊迫感を演出してるのに、そんな無粋な言い方ってひどいと思う。
「で、あれって何なのさ」
まだ結構遠くにいるから作戦だけは立てておきたい。特に弱点とかね。
「あれは七星サーディンって魚だ。普段は大人しいが、縄張り意識が強い。
大空嘯に巣をもっていて、誰かが縄張りに足を踏み入れるとああやって集団で襲ってくる。
中型の浮遊有船くらいなら穴を開けて沈没させるくらいには危険だな。ちなみに危険度はCクラス」
サーディン? どこかで聞いたことが……。えーと、確かマグロ・グランドフィーバーで東アジア沿岸域のフィールドにいたような。
ぼくは目を凝らした。
まるで鋭い剣のように太陽の光を浴びて、銀色に光るそれは――通称マイワシ!
「わお!」
I WA SHI。
レベルアップチャンス、キタコレ!
魚編に弱いと書いて鰯。
びっくりさせてくれたけど、ぜんぜん余裕じゃん! ふふ、知っているか。マグロの餌はイワシなのである。
キスリップ・クラーケンを倒したぼくらにとっては、よゆーよゆー!
マグロ・グランドフィーバーでも、イワシは経験値をくれる美味しい敵だったしね!
「よーっし、そうとわかったら、ばっち来やがれ!」
数は100くらい? いまぼくがレベル2だから……レベル5くらいまであがりそうな感じ?
ふひひ。ぼく、この戦いが終わったら空中適性をレベルアップさせるんだ。
……なんて思ってると、
「言っとくが、殺したら極刑だからな?」
エリオ君がじとーっとした目で見ながら言う。
「……ぱーどぅん?」
「あいつら、魔獣じゃなくて、普通に絶滅危惧種の魚だから。
向こうが一方的に襲ってきたならともかく、お前たちは自分からやつらの縄張りに踏み込んじまってるしな。非はお前ら側。
1時間もすれば彼らの縄張り領域から離れるから、それまで頑張って避け続けることだな」
なんてこったい! 目の前に潤沢な経験値があるっていうのに、手出しが許されないなんて!
「そ、それどころじゃないんよ」
ぼくとウィルベルは向かってくる七星サーディンを見た。
刃物のようにするどい口先、トビウオのような直線的に鋭い軌道。目はぼくたちだけに向けられて……。
この世界の鰯は、弱という字にふさわしくない凶暴さを持ち合わせているらしい。
「ウィルベル! 船内に――」
「言っとくが、密航者も極刑だからな? 甲板への不時着くらいならともかく、許可のないうちから船内に入るのは……警告なしで斬られても文句言えないぞ。一応、この船って各国の重要人物乗ってるし」
「この空って死亡フラグで溢れすぎじゃない!? 誰だ、飛んでレヴェンチカまで行こうって言ったバカは!!!」
「ミカのばかーっ!!」
そんなことを言ってる間にもサーディンたちはみるみるうちに近づいてくる。
「あぶなーい、避けろぉぉーっ!」
「わひゃあ!」
間一髪セーフ! 甲板の上にズサーっと倒れ込んだウィルベルの上をイワシの群れが過ぎていく。その先にはエリオ君が寝ていた白くて素敵なデッキチェア。
ベキィ! バキバキバキ……
複数のサーディンの口先がデッキチェアを縦横無尽に貫く。
「わひぃ……」
その音がおさまったあとに残されたのは、粉々になった無残なオブジェクト。
ひー。あんなのが人体に当たったら死んじゃう!
デッキチェアを破壊しつくしたサーディンたちは、ぶーんぶーんとヒレを蠅のように上下にはばたかせてホバリング。ぼくたちのほうに向き直る。
「み、ミカ……」
複数の視線がぼくたちに集まる。
魚の目ってなんか怖いよね。無表情っていうか……なんというか。
「ちゃ、ちゃおー。ここはお魚同士、お話し合いで……」
「……」
ぼくが声をかけると、群れのうちの一匹の身体が真っ赤に光った。
……もしかして彼が代表者ってこと?
「バカ! それは攻撃魔法だ!」
「へ?」
――ひゅっ。
「うひゃあ!!」
エリオ君の警告とほぼ同時。
赤く光っていたサーディンが、ゼロスピードから一気に加速して、咄嗟にウィルベルの盾になったぼくの鱗を撫でていく。
なにこれやばい。人体くらいなら余裕で貫通する威力があるんだけど!? この世界のお魚さんってば、凶悪すぎない!?
でも、また突撃してくるのには時間がかかるようだ。
攻撃を外したサーディンを見ると、赤い光は消えていて、再度魔法を使うための魔力をチャージし始めている。
見た感じ1分に1回くらい? だったらなんとかなるかな?
「ふ、ふふん! しょせんはイワシ。青魚だけあって、しょせんは青二才だな! ええい。恐れ多いぞイワシども。クロマグロ様の後光の前にひれ伏すがいい!」
「……ミカ、油断するのは早いかも」
「へ? ……って、ちょぉっと待ってぇぇぇ!?」
それを皮切りに他のサーディンたちも同じように、赤く光りだす。
「ははっ。みなさん揃って発熱しちゃって。インフルエンザの集団感染には気をつけましょう!」
「そんなん言うとる場合じゃないんよぉっ!!」
ウィルベルの悲鳴と同時、七星サーディンたちが一斉に突撃してくる。
「わひゃあああ!」
反撃することが許されない、一方的な攻撃が始まった。