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23.空の向こうから来たるもの

 どべちーん!


「あいだー!」


 ぼくらは豪華客船のオープンデッキにあるプールへと降り立った。


 降り立ったって言っても、50メートルくらい落下してのダイビングなので、まるでコンクリートにぶつかったような衝撃である。


 ぐえー、口からネギトロが出そう。


 プールの水が盛大にびっしゃーんと飛び散って、デッキを水浸しにする。


「な、なんだ!?」


 デッキチェアでくつろいでいた少年が驚いた様子で、ぼくらを見た。


 ウィルベルと同年代かな? 細マッチョ&黒髪イケメン。

 日本だったらモテモテ間違いなしだろうけど、いまの水を被って、髪はびしょ濡れ、かけてたサングラスはずり落ちてる。


 イケメン台無し。ざまーみろ!


「うー……死ぬかと思った」


 ずぶぬれになったウィルベルが、ぼくを片手にプールから這い上がる。


 海水だったらもっと浸かっていたかったけど、残念ながらこのプールに張られているのは真水(まみず)

 水中適正レベル0な現在のぼくにはただの有害な水たまりである。


「はえー……それにしてもすごい船」


 上から見下ろしたときもそうだったんだけど、やっぱりデッキは近代的な感じだ。


 プールの周辺は水はけがいいタイルが敷き詰められ、船の上につくられたホテルを思わせる建築物へは小洒落たモザイク模様が続く。


 さらに、上空から見えていた庭園に続く道には日本庭園のような飛び石と、落ち着いた背の低い花草で彩られている。


 成金とかじゃなくて、ガチで高級な感じっていえばわかっていただけるだろうか?


 くそっ。イケメン&ブルジョワジーめ!


「おい。お前ら……大丈夫か?」


 少年が心配そうに声をかけてくれるけど、妬ましいので、もう一度プールの水をバシャーンとな!


「うわっぷ。なにしやがる!? もしかして空賊か!?」


「いいえ。通りすがりのヒッチハイカーなマグロ属の精霊です」


「ひっち? マグロ……。精霊っ!?」


 召喚されたときもそうだったんだけど、驚きすぎじゃない? マグロの精霊って珍しいのかな?


 まあ、そんなことはどうでもいいや。


 ぼくは、少年の肩に気安げに胸ビレを乗せた。


「ねえねえ。ところで聞きたいんだけど、この船どこまでいくの? よかったら途中まで乗せてってくんない?」


「あん?」


「えーと……うちら、こうやって浮遊有船(ふゆゆせん)を乗り継ぎながらレヴェンチカを目指しとるんよ。そろそろ近づいてきたかなーって」


「……お前ら、まさかセレクション受験生なのか?」


 言って、少年がウィルベルを値踏みするようにじろじろと見る。


 ここで言っておくと、ウィルベルはさっきからのプールへのダイブのせいでびしょ濡れ。服も濡れて、ちょっと透けてる感じ。

 それをじろじろ見るなんて……この少年ってばエッチだなぁ。


 と思ったので、


「うわ、ドスケベ発見! ウィルベル、早く逃げるんだ! あんなことやこんなことされちゃう! この変質者め。ぼくの目玉が黒いうちはそういうことは許しませんよ!?」


 正直に言ってみた。

 ちなみにマグロの語源は「目が黒い」であるとの説があります!


「そんなことするか、バカ!」


「なーんだ、残念!」


 イケメンブルジョワジーを(たら)し込めれば、玉の輿だったのにね。

 でも仕方ない。いまのウィルベルは必死に空を飛んできたもんだから、髪の毛ぼさぼさ。化粧すらもしてないんだもん。


 まったくもう!


「だから、下着はセクシーな真っ黒(マグロ)にしとくべきだってあんなに言ったのに! ――あいたぁっ!」

 

 無言でめっちゃ殴られた。


 だがしかし! 我がご主人様に色気が足りなさすぎるのは純然たる事実なのである!


 ここはやっぱり、このぼくがあーんなことやこーんなことを教えてあげねばなるまい。ぐふふ。


 って考えてたら、伝わっちゃっていたらしくもう一発殴られた。この世界の精霊には思考の自由が許されぬというのか。解せぬ。


 そんなぼくらを見て、少年が呆れたようにため息をついた。


「こいつはいったい何を言ってるんだ……というかお前の精霊、自由すぎるだろ」


「あ、あはは……うん。まだ召喚して2日目だから――」


「失敬な! ぼくのこの両手が自由だったら、一緒のお布団にはいったときに、もっとおっぱいとか揉みしだいてるっつーの! 不自由の塊だよ、このマグロボディは本当に!」


「……ミカ?」


 わーお。なんか視線がつめたーい。

 ともあれ。


「あー。オレの名前はエリオ。レヴェンチカの受験生だ」


「ウィルベル・フュンフです。同じく受験生です」


「ちょっとぉ!? なんでぼくを無視するのさ!?」


「うっせえ黙れ。――それで? 受験生なのは理解した。どうして空から?」


「ミカ――この精霊の滑空スキルでレヴェンチカに向かおうとしてたら墜落しちゃって……」


「滑空?」


 エリオ君が眉をひそめて空を見た。

 ぱっと見た感じはお天気だけど、実際には乱気流が渦巻いているとてもデンジャーな空である。


「まじかよ。田舎者ってすげーな。自殺志願者かと思ったぜ」


「ミカ、すごくない? うち、めっちゃ褒められたんよ」


「褒められてないよ!? どこをどう聞いても、田舎の山ザルだってバカにされただけだからね!?」


「ば、バカじゃないもん!?」


「――とバカが申しております」


「まあ、本人は気づかないって言うしな……」


「ちょっとぉっ!? なして2人してそういうこと言うんよ!?」


 ――だって……ねえ?

 ――ああ。うん。

 

 以心伝心。

 不思議だね。召喚主でもないのに、アイコンタクトだけでエリオ君と意志疎通ができるなんて。

 

 ごほん。


「とにかく! いますぐバカなことはやめろ」


「えー、なんで?」


「いいか。大空嘯(だいくうしょう)っていうのは魔獣たちの棲家(すみか)なんだ。浮遊遊船はその合間を縫って航行してる。もしも縄張りを荒らされたと認識されたら……」


「されたら?」


「……ああなる。手遅れだったな」


 エリオ君が指さした先には黒い小さな何か。

 んー? 何かの群れ? 10、20……100くらいはいるかな?


「……鳥?」


「ま、頑張って生き残ってくれ」


 なんか意味深なセリフだけど、いったい何が来てるのさ!?

【マグロ豆知識】

借金まみれの人が乗せられるものといえばマグロ漁船。


現在は資格がないとマグロ漁船に乗れないため、カニ漁に連れて行かれることが多いそうです。


労働的には、いわく『ベーリング海のカニ漁船のほうが断然キツイ』そうです。

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