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21.大空嘯を駆け抜けて

 この浮遊世界の島と島の間には、外空でも特に乱気流が暴れる大空嘯(だいくうしょう)と呼ばれている空域がある。


 最大規模の浮遊有船(ふゆゆせん)のみが行き交うことを許される暴風域。


 その大空嘯(だいくうしょう)を、


「わひぃぃぃぃっ!」


 ぼくの背中にまたがったウィルベルが、体重移動で風のなかを突っ切っていく。


 ぶぁっと荒々しく吹く風が、ぼくらを叩き落そうと牙を剥き、油断しようものなら奈落の底に引きずり込もうと腕を伸ばす。


「いやぁっふううう!」


 その奈落のうえを弾丸が飛ぶようにして流線型のボディを走らせるのはぼく、マグロ。


 ふはは! 見よ、この雄姿!! これこそスキル『滑空』の能力!


 空中遊泳まで取得できればよかったんだけど、スキルポイントが1ポイントしかなかったからね。仕方ないね。


 時速はただいま60キロメートル。

 自動車なんかだと巡航速度だけど、身ひとつでぼくの背中にまたがったウィルベルにとっては恐怖の速度である。


 速度をゆるめてあげたいけど、滑空じゃあんまり速度や高度をコントロールできないんだよね。失速して奈落に落ちると死んじゃうし。


 それはそうとして、お(そら)のヒッチハイクは順調!

 ここまで3つほど船を乗り継いできて、あと3、4つほど乗り継げればレヴェンチカに到着しそうな感じである。


 レヴェンチカまで、直接たどりつく船があれば手っ取り早いんだけど、残念ながらまだそういう船は無し。


 ちなみに空賊っていう海賊みたいな人らもいるらしく、間違えられて捕まったのが1回である。なお、空賊への処罰は極刑の模様(もよう)


 乗り継ぐたびに、迷惑料として結構な額の料金を支払っているので、そろそろウィルベルの財布もさびしくなってきたけど……



 ともあれ、ぼくらは乗せてもらっていた船に別れを告げ、向こうのほうを航行する船へと向かっていた。でも、


「ウィルベル、本気であれに着陸する気なの?」


 ぼくはウィルベルに尋ねた。というのも、その船があまりにもでかかったからだ。


 大型の浮遊有船しか外空(がいくう)に出られないっていうから、いままで乗り継いできた船も充分に大きかったんだけど、眼下を航行している浮遊有船はそれよりも遥かにでかい。

 

 簡単に言うと、めっちゃ豪華客船っぽい感じ。

 地球風に言うなら、船内に大型のショッピングモールがあるとか、石油王が世界一周するのに使ってるとか、そういうレベル。


 デッキのうえには、テニスコートみたいなのとか、お城みたいなホテルとか、湖みたいなプールまでついてる。


 しかも、それらが「中世ヨーロッパ風ファンタジーどこいった?」みたいに近未来的なのである。

 

 この世界すごいな。中世くらいの文明レベルなのかな、って思ってたら、いきなり近代的なの出てきたんだけど。


 もちろん、そこにいる人々は明らかに上流階級っぽい人たち。


 外空にいるのでデッキに出ている人は少ないけど、透明なガラスの奥にはレストランでは優雅な食事風景が見える。


 上品で優雅。来てる服もウィルベルのものとは全然違ってるんだけど……。あれ絶対にVIPとか呼ばれる人だ。

 

 あそこで空賊に勘違いされたら確実にクビちょんぱである。

 

 想像してほしい。

 デッキに着地⇒不審人物としてとっつかまる⇒エラちょんぱ⇒すぐに血抜き⇒クビちょんぱ⇒ドレス⇒ロイン⇒コロ⇒サクからのお刺身フィニッシュ。


「そうして、ぼくは美味しいお料理となって、あのレストランでその生を終えるのでした。めでたしめでたし」


「ぜんっぜん、めでたくないんよ!?」


 それは真黒(ブラック)ジョークとして、実際問題、着陸するにしてもどうしようかな?


 あえて人の多そうなところに降りて無抵抗さをアピール? それとも船長室っぽいところを占拠してから説得?


 ハッ!? 台所に潜入して無害な冷凍マグロを(よそお)って密航するのもありかもしんない。

 

「ウィルベルはどれがいいと思う?」

 

「最初の案、無抵抗さアピールを採用で」

 

「それが無難だよね。それじゃ、あそこのレストランっぽいところの前に着陸ってことでいい?」


「うん。着地のコントロールは任せたんよ」


「おっけー」


 言われて、ぼくは胸ビレ、背びれ、腹ビレをバッと開き、速度を落とす。


 マグロはこうやって、減速や方向転換をおこなうのである。

 

 みるみるうちにデッキが迫る。いまのぼくは空母に着陸する戦闘機の気分。


 マグロ・グランドフィーバーでは、太平洋上に浮かぶ空母への離着陸は基本技術。今回も手慣れた感じに着陸準備を整える。

 

 と、そのときだった。


「あああああ!!! 風が! 風が!」


 強い風がぼくらを巻いた。大空嘯(だいくうしょう)に吹く乱気流だ。


 上に下に。右に左に。やめて! そんなに揺らさないで!

 

「ああああ! 落ちる! 落ちる!」


 巡航中ならともかく、着陸体勢にはいっていたぼくはコントロールを失ってしまう。


「ミカ! なんとかコントロールして、あそこのプールに!」


 ウィルベルが落下地点を指示した先は、豪華客船のオープンデッキ。湖のように深そうなプール!


 大空嘯を航行中であるためか、人の姿は見えない。落下しても周囲への被害はなさそう。


 なるほど、あそこなら!


「おっけぃ。了解!」


 ぼくは体勢を立て直し、プールに狙いを定めた。

【マグロ豆知識】

ラウンド⇒GG⇒ドレス⇒ロイン⇒コロ⇒サクというのは一般的な冷凍マグロの加工順。


ラウンド:

漁獲されたままの状態。


GG:

元プロ野球選手のG.G.佐藤選手――のことではなく、Gilled(エラ取り) and Gutted(腸取り)の略。

鮮度維持の為に、血抜きやエラや内臓といった部位が取り除かれた状態。ここから尾を落としたものがセリにかけられます。エラちょんぱです。


ドレス:

無頭(ヘッドレス)の略。

GGから頭と尾を切り落とした状態です。クビちょんぱです。


ロイン:

ドレスを脊髄に沿って半分に割り(この状態をフィレと呼ぶ)さらに背と腹で割ったもの。

ちょうど身の部分を四等分した状態です。


コロ・サクはさらに使いやすい大きさにカットしたものになります。

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