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17.マグロ・インテリジェンス

「無理です」


 セバスチャンさんが去って、孤児院では遅めの夕食の席。

 食事の最中(さなか)、エーリカちゃんが発したのはそんな言葉だった。


 何が無理って? それはレヴェンチカへ入学するためのセレクション受験について。


「なんでさー!」

「エーリカねーちゃんのケチンボー」


 ぶーぶーとお子様たちが粗末な食事の食べカスを飛ばしながらブーイング。


 でも、エーリカちゃんはまったく動揺することなくヴァンのおっさんにもらった封筒から資料を取り出し、みんなに見えるよう広げた。


「ウィルベル、このセレクションの概要読んだ?」


「な、なんとなくは……受験料は無料って書いてるし、旅費だっていまま貯金したぶんで大丈夫かなって」


 ピシャリとした口調にタジタジのウィルベル。

 エーリカちゃんって学級委員長系っていうのかな? ウィルベルってば、めっちゃ苦手そう。

 

「エーリカ。レヴェンチカの受験をしたってだけで、戦士系のギルドから引く手あまただろうし、いいんじゃないか?」


 エーリカちゃんに問うたのは、この場にいる2番目に年長の男の子、マークくん(19歳)だった。

 続けて彼は白い歯を覗かせながら、爽やかにウィンク&サムズアップ。


「いままで孤児院の経営のために身を粉にして働いてくれてたんだし、ここは笑顔で見送ってやろうぜ!」


 なんていい人なんだろう。うちのウィルベルを嫁にやってもいいぞ!


(勝手に嫁にやらんでよー……。だいたい、この2人、付き合っとるし)


 ちっ。なんだよ、リア充かよ。爆発しろ!


 ぼくらのやりとりをヨソに、マークはエーリカちゃんを説得するために言葉を続ける。


「合格までいかなくとも最終試験まで残れれば、スカウトの話だってくるんだろ? ギルドのSクラスだって夢じゃない。ここは孤児院のみんなでウィルベルを応援してやろうじゃないか」


「そうだそうだー!」


 マークの言葉に、お子様たちも乗っかってくる。

 この情に訴える攻撃の前には、いくら強情でも折れざるを得まい。


 でも、エーリカちゃんは「はぁっ」と大きなため息をついて、受験のしおりを手にとってみんなに見せた。


「あのね、みんな。お金とかじゃなくてね……」


 彼女がトントンと指差したるは日程の記載箇所。


「この試験、開催が3日後なんだけど」


「「えええぇぇぇぇ!?」」


 ? それが何か大変なのかな?

 もしかしてレヴェンチカってそんなに離れてるのかな?


(レヴェンチカへの浮遊有船(ふゆゆせん)の直通便は……2ヶ月に1本かな)


 ド田舎ってレベルじゃねーぞ!? 日本だったらどんな田舎でも1日に1本はバスがあるのにさぁ!?


 ちなみにいまの時期だと、直通便でも丸一日かかるらしい。(浮遊島は絶え間なく動いているので時期によって到達日数が変わるのだ)


「調べたのだけど、船を乗り継いでも最低でも5日はかかるわ」


「」


 突如発生したアクシデントに、金魚のように口をパクパクさせるとするウィルベル。


 その姿は、ギルドの勧誘を迷いなく断ったカッコよさとは完全に無縁な感じ。


 さっきまで騒いでいたお子様たちすら、ろくにパンフレットに目を通してなかったウィルベルにジトーっとした冷たい目線を送る。


 まったく、うちのご主人様は脳みそまで筋肉でできていらっしゃる。


 しかぁっしっ! こんなときこそぼくの出番!


「落ち着きたまえ、君たち!」

 

 いまこそ異世界人ならぬ異世界魚ならではのインテリジェンスで、エブリワンをハッピーにするジャストタイムなのである!


 そう! マグロの目にはDHAがたっぷり! ゆえに、ぼくは賢いのだ!


「あのヴァンって人、レヴェンチカってところの教師なんでしょ!? だったら、受験の試験官かなにかもするんだろうから一緒に――」


「さっきあなたたちが話し込んでる間に調べたんだけど、今日の夕方にレヴェンチカへの便は出発してたわ。たぶん、それで帰ったんでしょう。つまり――」


「つまり?」


「物理的に受験する手段がありません!」


 な、なんだってー!?

 くそっ、我が身に宿るDHAめ! どうしてお前は脳じゃなくて、目玉に含まれているんだ!?


 いや違う。ぼくが頼るべきはDHAなんていう、得体のしれない栄養素ではなく、積み重ねられた経験と、身のうちから湧き上がる煌々(こうこう)たる知性なのである。


 考えろぼく。異世界転生すげーって言われてハーレムを作るために考えるんだ!


 えーとえーと……


「はい! 浮遊有船をチャーターするっていうのはどうでしょう!」


「そんなお金はありません!」


 そりゃそうだ!


「受験を来年に持ち越すとか!」


「受験資格は15歳オンリー! 浪人不可!」


 厳しすぎない、それ!?


「えーっと……大砲で撃ち出されて飛んでくとか!」


「そんな距離じゃありません! 真面目に考えなさい」


「こちとら大真面目だよ! マグロのちっちゃな脳みそでめっちゃ考えてるっつーの! ……そうだ! クロマグロの特性を活かして――」


「活かして?」


「身売りして浮遊有船をチャーターするお金を稼ぐ! ――ああ! 無視しないで!」


 喧々囂々(けんけんごうごう)。


 そのあとぼくたちは色んな案を出したけれど、どれも解決には至らなかったことをここに記す。

【マグロ豆知識】

DHA=ドコサヘキサエン酸は有名ですが、ときおりエン酸を塩酸と間違えている方が見受けられます。正しくはドコサ+ヘキサエン+酸(脂肪酸)です。


DHAは英語で書くと、『Docosa hexaen oic acid』

⇒6つ(hexaヘキサ)の二重結合(eneエン)を含む22個(docosaドコサ)の炭素鎖をもつカルボン酸(oic acid)


『n-3系列脂肪酸』というと、健康診断などでは馴染み深いかもしれません。

ちなみにこの『n-3系列脂肪酸』、魚からよくとれるのか他に、イワシ酸(テトラコサヘキサエン酸)、ニシン酸(ドコサペンタエン酸)というものがあったりします。


続きは↓のマグロ豆知識で!


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