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144/149

144.満開開花(上)

長くなったので2分割しています。

2022/7/5 世界樹のマスターデバイスとアーフェアを別の存在としました。


本当に申し訳ありません。本日の事件でまったく手がつかなくなり…。次回更新は2022/7/10 20:00とさせてください。

「ぐるぐるぐるーっとな。よしっ! でも、うーん……」


 え? 何をやってるのかって? 気絶したプラパゼータを新巻鮭あらまきじゃけのごとくふん縛ってるんだけど……いかんせん、相手が相手だけにぐるぐる巻にしても安心できない感じなんだよね。


 そこらへんに落ちてた太いロープを使って拘束したんだけどさ。「先史文明ビーム!」とか言い出して、焼き切って逃げそうじゃん?


 状況が状況なだけに、後腐れのないようにトドメを刺すのも選択肢のひとつかなってぼくは思うんだけど、


「さすがに命まではとる気はあらんへんよ」


 というわけである。

 んもう! めんどくさい! そこがウィルベルのいいところではあるんだけどさ。


 でも、どうしようかな。塔の中を探索しようにも、こいつを連れて回って、最悪のタイミングで脱出されるとか勘弁だし……。せめて手足だけでも完全に封じておきたいなぁ。なんて考えていると、


「ならば、この手錠を使うといいかしら!」


 言って渡されたのは不思議な光沢の在質でできた、厚みのある手錠だった。確かにこれぐらい頑丈なら勇者ですら破壊できないだろう。


「って、どちらさま?」


 手錠を渡してきたのは、神秘的な雰囲気の少女だった。どことなく、過去の無表情なマシロに似ているかもしれない。

 歳のころは20中盤だろうか。空色の髪。空色の瞳。マシロが10歳ほど成長すればこうなるだろうな、というスレンダーなボディ。


 ぼくの問いかけに少女は微笑んだ。そして言う。


「ちゃお! はじめまして! わたしはシアン! この塔のマスターデバイスかしら! あなたたちが言うところの! いわゆる! 精霊なの!!」


 ビシ バシ ババーン!

 !マークごとにポージングしながらのエクストリーム自己紹介であった。神秘的な雰囲気? もちろんぶち壊しだよ!


 その、雰囲気と話し方のあまりのかけ離れ具合に、ウィルベルですら戸惑い気味に、


「え、えーと……シアン様?」


「マシロちゃんのお姉ちゃんなので、シアンちゃんって呼んでくれてもいいかしら! むしろ呼べ」


 あ。これ、絶対にめんどい人だ。

 できるだけ関わり合いになりたくないけど、シアンはそんなぼくらの思いをよそに、さらにシュバババ!とポージング。


「わたしは! 普段は塔の底で封印業務とかをしてるのだけど! 懐かしい石が起動したのを感じたから! 封印ほったらかしで! きちゃった♡」


「きちゃった♡じゃねーよ。いま封印どうなってんだよ。というか、さっき魔王の慟哭とかいう変な風が吹いたのは……」


「ふっ。わたしのせいかしら!」


「誇らしげに言ってんじゃねーよ」


 駄目だ、こいつ。早くなんとかしないと……。

 ぼくらが呆れていると、「でもね」と、シアンはぼくの額――魔法宝石ルーンジェムに触れた。


「それくらい、わたしにとっては重要なことなのかしら。母なる海の黒金剛ブラックダイヤなんて500年ぶりに見たものだから」


「ははなるうみの……?」


「ええ。この石は、かつてリゼットちゃんが使っていたものなの。あのが最後に願いを託した、大切な……」


 はえー……。この石ってそんなすごいもんだったのね。リゼットさんの夢を見たのもそのせいなのかな?

 ――ハッ! ってことは、


「伝説の石を手に入れたぼくは、スーパーチートパワーを手に入れて、ミラクルでイケてる精霊としてモテモテハーレムへグローリー・ウェイ! ってこと!?」


 やったぜ!

 異世界転生してからこのかた死にかけてばっかりだったけど、ついに報われるときがきたのだ! これからはおっぱいに囲まれてパフパフな生活が待っているのだ! ぐふふ。


「? その石は中期に生産された古い(レガシー)なデバイスだから性能はクソザコかしら! リゼットちゃんとマシロちゃんが強かったから伝説になっただけかしら! ぶっちゃけ、現代のマシロちゃんが作ってる石のほうが高性能かしら!」


 なんてこったい!

 あっという間にイケイケ気分がどん底である。


 失意の底に沈むぼくだったけど、それとは正反対に、ウィルベルはぼくの額に手を触れると微笑んだ。


「性能がどうあれ、この石がミラクルなことには変わらへんよ。リヴィエラの人や、ゴブリンさんも。うちらはみんなこの石に助けてもろたんよ。もしかすると……リゼットさんが見守ってくれとったんかもしれんね」


 言って、ウィルベルが「ありがとうございました」と石に軽く額を当ててお礼を伝える。

 それを見たシアンが微笑む。


「あなたのような子がその石を所持してくれたのは嬉しいかしら。その石は、パワーはそれほどでもないけど、先史文明の遺産に触れたときのアクセス権が高めに設定されちゃってるから、場合によっては持ち主を始末しなきゃいけないと思っていたかしら」


 ひぇっ、物騒!? きちゃった♡なんて言ってたけど、それがメイン目的だったわけ!?

 こういうことを笑顔で言えるあたり、やっぱりこの少女も人間ではないんだなってことを思わされる。

 でも、もともとはクロラドの少女が所持していた石だって考えると、仕方ないところはあるのかな?


「じゃあ、ぼくらは石の所有者として合格なわけ?」


「そう身構えないでほしいかしら。そこのプラパゼータが石を悪用しようとしていたから念の為に見に来ただけなの。

 本来、わたしには誰が石を使うかなんて決定する権利はないかしら。『現代のことは現代の子たちが決める』。それがマシロちゃんとわたしたちが交わした約束ごとなの」


 そういえば、シアンとマシロってどういう関係なんだろう?

 お姉ちゃんとは言ってるけど、この人は自分を精霊って名乗ってるわけで。でも、マシロは女神なんでしょ? 不思議だね。


 そこらへんが気になったので、じーっとな。


「? どうかしたのかしら?」


 熱い視線を送っても、シアンは首を傾げるばかり。

 マシロと違って心を読むようなミラクルパワーはないらしい。ってことはもしかして――


「マシロのお姉ちゃんって名乗ってたけど、もしかして……シアンちゃんってマシロと比べて古くて(レガシーで)クソザコ(低スペック)!? ――ああ、やめて!? エラに手を突っ込んで奥歯ガタガタいわせようとしないで!?」


 シアンによる、いわれのない暴力がぼくを襲う。

 ぐえー。口からネギトロが出そう。


「ウィルベル、助けてヘルプミー!」


「誰がどう見ても、いわれがありまくりやよ。100パーセント自業自得や」


『見捨てられてて草』『マグロざまぁ』『黒いから仕方ないね』


 ゴブリンどもにすら笑われた!?


「ちくしょー! 藻類ゴブリンごときにもバカにされた!! 藻類 ご と き に! というか、黒いのは関係ないやろ! クロマグロは英語でブルーフィン・ツナだから! イメージカラーは青だから!」


『ごとき?』『は?』『やったれやったれ』


「おう、やってやんよ!」


 ぎゃーぎゃーわーわー。


 突如として始まるクロマグロVSマリモ(ゴブリン)の戦い。


「……って待って!? 塔のなかにいたゴブリン全部集まってきてない!? こんな数が相手だなんて聞いてないよ!? ぎゃー。エラを責めるのはやめて!!」


「はいはい。遊ぶのはそこらへんにしたってな」


 ゴブリンにたかられて劣勢のぼくを救い出してくれたのはウィルベルだった。


「さっすがー! ウィルベル愛してる! お礼にぼくの大トロにかじりついてくれてもいいぞ」


「絶対にノーなんよ」


 いやん、そんなに強く否定しなくてもいいじゃん。他人に提供したことはないけど、たぶんおいしいよ。ぼくの大トロ。


 そんなぼくらを見て、ふふ、とシアンが微笑む。

 ぼくが責められる姿を見て微笑むだなんて、ドSなんかな? って思ってると、


「失礼したかしら。まさかこんな光景が見れるだなんて思ってもいなかったから……」


 そういうシアンの目は、何かを懐かしみ、過去の記憶を呼び起こしているような、遠い目をしていた。


「あなたたちは、誰よりも正しく、リゼット――いえ、いままでの勇者たちの意思を受け継いでいるのね。わたしはそれを嬉しく思うかしら」


 言って、シアンが塔の中央に座するシャフトのほうへと歩んでいく。


「ついてきてほしいかしら」


 ウィーンと機械的な音を立てて、シャフトの一部が凹んで、ドアのように開いた。

 あまりにも継ぎ目がなかったので気づかなかったけれど、どうやら物資運搬用のエレベーターが存在したようだ。


 シアンの案内に従い、ぼくらはエレベーターへと乗り込む。すると、3秒ほどの待機時間ののち、シアンの操作に従い、カゴが上昇していく。


 あれ?ってぼくは首を傾げた。てっきり下に行くと思ってたんだけど。

 

 そんな疑問はさておき、エレベーターの上昇速度は速く、すぐに目的の階層にたどり着いた。


 階層の表示的には50階。

 過去の、宇宙まで届いていた軌道エレベーター時代ならともかく、いまの折れた状態の世界樹の塔では最上階に位置する階層である。


 エレベーターの扉が開くと、高所特有の強い風が吹き込んできて、ウィルベルの髪を舞いあげた。

 強い風をものともせず、シアンが外へと向かう。その足が向かう先は、空に向かって伸びる巨大な枝だ。


「正直なところ、魔法宝石(ルーンジェム)のことだけなら、あなたたちに会おうとは思わなかったかしら。まだ勇者候補生であるあなたに会うのは時期尚早だと思うから」


 確かに、「あ、こいつクソ野郎だから殺そ!」って判断したならともかく、「石持っててもいいや」って判断したなら放置しときゃいいもんね。

 でも、じゃあ、なんでぼくらに会いに来たんだろう?

 

 世界樹の塔の最上階よりもさらに上――巨大な世界樹の頂点を目指してぼくらは枝の上を歩く。上へ、上へ。

 踏みしめる一本一本の枝が、樹齢1000年のヒノキのように太い。茂る葉もまた大きく、酸素の匂いがキューッとする。


 シアンがトットッと軽いステップで枝を登っていき、その後ろをウィルベルが猿のような動きでついていく。


 そうしてたどり着いた場所は、世界樹の枝葉が最も高くまで伸びる場所だった。文字通りの天辺てっぺんである。


「ウィルベルちゃん。わたしがあなたに会いに来た理由。それは――彼と会うべきだと思ったからなの」


 シアンが微笑みながら言うけれど、でも、ウィルベルにはその言葉の半分以上は耳に入っていなかった。なぜなら、


「あなたがアーフェアやね?」


『はじめまして、ウィルベル。あいにきてくれてうれしいな』


 大きな大きな、2メートルほどの球状体のマリモが、そこにいた。

次回更新は2022/7/10 20:00となります。

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