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129.プラパゼータという男(上)

サブキャラ視点です。

あまりにも長くなりすぎたので2話に分割しております。

 ――それは1時間前に遡る。




 ゴブリンを(ビン)に詰めてポイッ。ゴブリンを瓶に詰めてポイッ。


「……プラパゼータ船長、それは何をされているのですか」


 黒船のデッキの上。

 ラクチェは奇行を繰り返すプラパゼータに尋ねた。


 修理が終わり、航行可能になった塩水の民(クロラド)浮遊有船(ふゆゆせん)は、いざ魔法宝石(ルーンジェム)奪取(だっしゅ)に向かう――のかと思いきや、その逆方向、ゴブリンゾンビたちの埋め尽くす大地の上空へとやってきていた。


 黒船は世界樹が一望できる高さで停止飛行し、デッキからは真下、地上にゴブリンゾンビたちが這い回っているのが見える。


 デッキにいるのはセドルヴェロワとプラパゼータ、そしてラクチェの3人だけだった。

 黒船の本来の乗員たちは、応急処置をした設備にいつ異常が出てもおかしくないため、張り付きっぱなしになっているからだ。


 ゴブリンを(ビン)に詰めてポイッ。

 プラパゼータがさらに瓶を地上へと投げ落とす。


 詰められているのは、さきほどの森で捕獲していたゴブリンたちだ。

 瓶詰になったゴブリンたちには、ガラス瓶ごと飛行できる浮力はないらしく、自然の摂理に従って落下していき、ゴブリンゾンビの上にポテンと落ちると、瓶ごと群れに取り込まれていく。


 奇行である。

 ゴブリンゾンビの侵攻を遅らせるわけでもなく、かと言って促進するわけでもなく。まったくもって、意味不明の行動であった。


「……」


 さきほどのラクチェの質問に対し、プラパゼータからの返答はない。とは言っても軽視して、無視しているわけではない。

 傍らに置いたコーヒーが冷めていることすら気にもせず、彼の手は、ゴブリンを閉じ込めるガラスの瓶に模様を描くことに集中しており、


(案外、芸術家気質なのかしら)


 瓶に描かれた模様は、芸術に興味がないラクチェからしても、非常に繊細で美しかった。


 ……わざわざ、苦労して模様を描いた瓶を投下する理由は、それこそ奇怪でしかなかったが。


(それにしても、ぞっとする光景ね)


 ゴブリンゾンビで埋め尽くされた地上を見下ろして思う。

 まるで絨毯のように隈なく地上を埋め尽くし、進路上にあるものを貪欲にむさぼりつくす。

 立派な大木は幹ごと食い尽くされ、凶暴な肉食獣すら数の暴力に屈服し、無様に骨のみを残すのみ。


 なるほど、ゾンビ。

 食欲――原始的な本能のまま進む姿は、まさにゾンビと言うにふさわしい。生理的な嫌悪感すら感じる。


「怖いですか?」


 突如として顔を覗き込んできたのはプラパゼータだった。どうやらさきほどの奇行は終えたらしい。軽く伸びをしながら尋ねてくる。


「……」


 改めて地上を見る。

 また一匹、大型の肉食獣がゴブリンゾンビの群れに追いつかれ、その身を削られていく。


 まるでピラニアのようだ。

 肉食の動物は柔らかい穴――特に尻の穴から喰らいつくと言うが、小さな糸状態(しじょうたい)のゴブリンゾンビはさらに容赦がない。


 眼、鼻、口、ヘソ。ありとあらゆる穴に群がり、あるいは皮膚の薄い場所に穴を開け、喰らい尽くしていく。

 自分があの立場なら、痛みなく殺してくれと、泣き叫んで懇願してしまっていることだろう。


「……そうですね。怖いです、とても。わたしが塩水の民(クロラド)でなければ勇者にすがっていることでしょう」


 それが一般的な人間の感性だ。

 だが、その答えはプラパゼータのお眼鏡にかなわなかったらしい。


「そうですか。それは、悲しい答えですね」


「悲しい……ですか?」


 彼の表情は逆光でわからなかったし、声音から表情を読み取ることもできなかったが、落胆しているように見えた。


「――かつて、2000年前。人類は滅亡の危機に瀕していました。ひどい時代でした。人々の心は絶望のなかにありました。

 それを救ったのが勇者リゼットと女神マシロ様です。彼女らは当時の人々の期待と信頼と、そして――多少の依存心を背負って、ヒトガタの王を打ち倒しました」


「はぁ……」


 あいまいな相槌(あいずち)を打つ。

 有名な神話だ。その際に、球体だったこの世界は、バラバラになって浮遊島世界と呼ばれるようになったという。

 だが、そんな御伽話(おとぎばなし)をして、何が言いたいのだろう?


 プラパゼータは「見てください、この世界を」と天を仰いだ。


「その結果が、この【勇者に依存する世界】です。

 人は自立して、初めて(ひと)()りうる。なのに、人々はいまだ……いや、以前よりもなおその依存度を高めています。

 私はそれが、目を覆いたくなるほどに悲しく、そして……醜悪だと感じてしまうのです」


 ――だから、壊れてしまってもかまわない。


 プラパゼータは言葉にはしなかったが、穏やかな笑みを浮かべるその目は狂気に染まっていた。


「……さて、そろそろですかね」


 ふと、プラパゼータが地上を見下ろして、言う。

 その視線の先では、瓶が投下された場所を中心に、ゴブリンゾンビたちが渦を巻き始めていた。

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