表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

113/149

113.やっぱりマグロ食ってるようなのはダメだな!

『フザケンナ! アンポンタン! オマエノ、カーチャン、デベソ!』


 聖水(おしっこ)はダメージを与えたわけじゃなくて、単純にばっちくて怒っただけだったらしい。

 残念な語彙(ごい)の罵倒はしばらく続いたけれど……だけど、言葉が通じるならこっちも言わせていただきたい!


 ぼくは、真正面からびしぃっとハラビレを突き付けた。


「変態って言うほうが変態なんですぅー↑ なんだよ、そのカッコ。ボディラインを浮き出しにしていてとってもエッチなんだけど! こっちに近づくな! 変態! エロポンチ!」


 なんて言ったらいいんだろね? 

 もともとロボットアニメに出てくるパイロットスーツみたいな、ファンタジー要素(ようそ)皆無(かいむ)のピッチピチの黒いボディスーツ着てたんだけどさ。

 巨大化したときに全裸でボーン。なんかすごいぬらぬらしてて、ニッチなAV女優っぽくなってるんだよね。


「いままでシリアス展開だったから、あんまり言えなかったんだけど、大きさとか禍々しさを横に置いて、冷静に見るとお前なんてただの痴女なんだからね! やーいやーい。ジャイアント痴女!」


『グヌヌ!』


 むむむ? 今度は言い返してこないな? それどころか、ひるんでるように見えるんだけど。

 もしかして、フカビトってば物理防御は強いけど精神攻撃(レスバ)に弱いタイプ? こんな痴女めいたカッコしてるのに!?


 ならば!!!


「だいたいさー、その真っ黒のカッコってすごい陰キャっぽいよね。コーディネートセンスなさすぎない? 君ってば、ぜったい友達いないタイプでしょ。ぷーくすくす」


 物理攻撃が効かないのであれば、ひたすら精神攻撃あるのみである! 

 だいたい、この戦闘の勝利条件って、敵を倒すことじゃなくて、プルセナ先生たちがもどってくるまでもちこたえることだしね。相手がお話に応じてくれるなら、時間を稼ぐに越したことはないよね!


『グヌゥっ!?』


「あ。もしかしてだけど、根暗(ねくら)だから暗い色が好きなの? でも、ジャイアントで痴女で根暗って、人生ハードモードすぎるよね。超ウケる。かわいそー」


『ギギギ……!!』

 

「あ、でも女の子をおそっちゃうようなクレイジーサイコレズだからね。仕方ないね。やっぱりマグロを食ってるようなのはダメだな! べろべろばー!」


『ヒギャアアアアアア!!』


 甲板を叩いて悔しがるジャイアント痴女。


 まさかのまさか。効果は抜群だ! 

 頭をガジガジと両腕で掻き乱して、怒りの感情をあらわにし、のたうちまわる。自我がないって言う割に、わりかし感情表現が豊かなやつである。


「おーっし、めっちゃ効いてる! このままいけばプルセナ先生たちも――」


 戻ってくる――なんて、都合のいいことを考えた瞬間だった。フカビトの表面が、さざなみのように波打ったのは。


「へ?」


 ぽこり。

 その表面、胸の中心あたりにイクラを思わせる赤い核がぼこりと浮かび上がった。


「あれは……」


 さっき、禍々しい魔力を蓄えていた魔法宝石(ルーンジェム)

 そういえばあれって何だろね? 勇者さんや候補生が持ってるやつに似てるけど。


「ア……アァァァア……」

 

 目をうつろにしたフカビトがうめく。

 つぶやく吐息に、悪臭が混じる。まるで腐ったウミガメのような匂いが、ツーンと鼻を刺激する。


 この世界の魔力とは心の力。どうやら”怒り”すらもその力のひとつであるらしい。

 さらなる悪意を絞りだすように、赤い魔法宝石(ルーンジェム)が、ぼくのすぐ目の前で明滅する。


「こ、これは……」


 そのあまりにもおぞましい光景を前に、レアさんやアリッサちゃんが絶句し――。



 ――ところで、みなさま。ご存じでしょうか。魚の捕食方法は大きく分けると【噛みつき型】と【吸い込み型】の2つに区別されることを。


 前者、噛みつき型の代表はブルーギル。するどい歯で獲物をガジガジするやつ。

 後者、吸い込み型の代表はブラックバス。ルアーでもなんでもぱくっと飲み込んでしまうやつ。


 そしてクロマグロはというと、


「あっ。イクラみたいでおいしそう。パクッ」


 典型的な飲み込み型のお魚さん!

 口の中で赤い魔法宝石(ルーンジェム)が暴れるように振動するけど、でも、ぜんぜん大丈夫。マグロの歯はめちゃくちゃ鋭いのだけど、噛むためではなくて飲み込んだ獲物(えもの)を逃がさないためにあるんですよ、これは。


 ごっくん。うーん、デリシャス。


「……」「……」「……」


 一瞬、モジャコの上が静寂(せいじゃく)に包まれて……


「ほ」


「ほ……?」


「ほあああああああ!?!?」


 最初に我に返ったのはウィルベルだった。

 素っ頓狂な声をモジャコの上に響き渡らせ、


「ちょっ!? ミカァァッ!? なにやってんよぉぉぉっ!? いま飲んだやつを吐き出すんよ!? ばっちぃんよ!? ペッてするんよ。ペッて! っていうか、なんでそんなもん飲み込むんよ!?」


 ぶん。ぶんぶんぶん。

 尻尾をもって逆さ吊り。ぼくの頭を揺らすシェイクはリズミカルな16ビート。


 え? ぼく、なにかやっちゃいましたか。ぐえー。口からネギトロが出そう。

 

「しかたなかったんや! 目の前に、赤くて点滅するものがあったら、マグロとしてはパクつくしかなかったんや!!」


 マグロの本能のとおりに行動したのにね。批難されるだなんてね。こんな不条理なことが許されてよいものだろうか。いやよくない。


「不条理なのはミカの行動やよ!?」


「『飛び出すな! マグロは急には止まれない!』。急に目の前に飛び出してきた赤い球が悪いんや!」


 今回の出来事の過失割合は、10:0で赤い球側に問題があった、と被告は主張するものであります!


「あーん、もう! ミカはなんでいつも()()なんよぉぉぉっ!?」


「あばばば!? エラに手を突っ込んで奥歯ガタガタ言わせようとするのやめて!?!? ――っていうか、あっち! ウィルベル、あっち!!」


 ぼくがヒレで示した方向には、


「……ア? ……アァァァ?」


 まるで心臓を失った人間のように、フカビトがぐらりとよろめく。

 もしかして、さっきのが核かなんかで、それを食べちゃったから倒せたりしたんだろうか?

 そんな淡い期待が甲板の上を支配する。


 ぼくらを除いて。


「ウィルベル!」


 人の持つ、もっとも強い感情は怒りであり、(いきどお)りである、という。

 それを負の感情――悪いものだと言う人はいる。実際、怒りに任せて行動して破滅した人は、歴史上にも数多く存在する。でも、その一方で『憤りこそが発明の母』という人もいる。

 よくも悪くも、それだけのエネルギーを秘めているのが、憤怒という感情なのである。


 ――この世界の魔力とは、心の力。


 ぼくの目には魔力が見える。そして視覚を共有するウィルベルにも。


 綻び。

 フカビトの、おぞましいほどの瘴気のなかに、それに抵抗するような魔力の流れが見えた。

 それはとても儚い、いつ消えてしまうかわからない程度の抵抗だったけれど……それはまさしく人間らしい感情の輝きだった。


「おうともなんよ! やるんよ、ミカ」


 甲板の上に充満する瘴気の匂いを散らすべく、清浄な空気が舞う。

「憤りこそが発明の母」というのは『ダブルゼータくんここにあり』というだいぶ古い漫画(1988年)のなかに出てくるお話で、自分が大好きな言葉でもあります。


【マグロじゃない豆知識】

世界でもっともひどい悪臭は『腐敗したウミガメの臭い』


“What’s the worst thing you’ve smelled in the course of your work?”

生物学者が同業者に対し、twitterで「どんなときに最凶の悪臭がしましたか」という問いをしたとき、もっとも多かった回答が『腐敗したウミガメの匂い』。


いわく「destroyed my soul」(魂を破壊する)


https://www.theverge.com/tldr/2017/6/15/15808490/worst-smell-stench-stink-ever-in-the-world-science

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
\お読みいただきありがとうございます!/
kca6igro56nafpl9p7e8dm7bzjj_yhg_6n_78_1klike2.gif
マグロ豆知識補足はこちら
↓アクセスランキングサイトのバナーです(気にしないでください)
cont_access.php?citi_cont_id=448265494&s
― 新着の感想 ―
[一言] 毎度ながらマグロ界隈の素敵な知識を、世界に散乱させる素晴らし……あ、ファンタジーですよね、うんうん。 因みに稲村某のワースト悪臭は【ジャガイモの腐敗した臭い】です。もうね、嗅いだ瞬間、眼の…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ