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110.VSフカビト(腐海のヒトガタ)(☆)


「なんじゃこりゃあああああ!!」


 それは、あまりにも巨大で、そして異質な存在だった。


「イヒィィィィ………」


 肌のテカリ具合はサメ(フカ)に似ているかもしれない。

 大きさは数十メートル。まるで船の進路を塞ぐように、巨大なバケモノが湖から半身を出してこちらを見下ろしていた。


 この世界にやってきて、いままでも充分にでっかい怪物たちと戦ってきたけど、これはとびっきりに怪獣だ。

 例えるならば、ドラクエをやってたらウルトラマンの世界に紛れ込んでしまったような、場違い感といえばいいだろうか。


「この世界ってば、人間さんがこんなになっちゃう世界だったの!? やだー! おうちに帰りたーい!!」


「バカを言うな。こんなものが……そうそう、現れてたまるものか」


 ぼくが混乱してわちゃわちゃしてる横で、顔を真っ青にしたレアさんがかすれた声を絞り出す。

 ? さっきの感じだと汚染された人間さんが出現するのってそんなに珍しいことじゃないんじゃないの? そもそもこれってなんなのさ?


 それを教えてくれたのはアリッサちゃんだった。


「マグロさんは、この浮遊島世界がかつて球体で、2000年前に砕かれたという神話はご存知ですよね?」


「そういえばそういう話だったよね。それがどうしたの?」


「砕いたのがアレと言われています」


 ラスボスじゃねーか。

 ちょっと待って。旧文明ぶっ壊したような相手って、普通、もっと勿体(もったい)つけて出てくるもんじゃないの? 登場するタイミング、間違ってない?


「とはいえ、あれはその眷属でしかありませんが……」


 神話いわく、先史文明を滅ぼし、星を億万の断片に砕いたのは、空の彼方から現れた、光輪を帯びた巨大なヒトガタであったという。


 ()()は長い年月をかけて人類が誇った高度文明と戦い、焼き払い、人類を滅亡の危機に追い込んだが、やがてマシロと始原の勇者、聖女リゼットに打ち倒されることになる。そして、その際、()()はこの星に呪いをかけた。


 この世界にたゆたう瘴気とは、かつてヒトガタが滅びる際に遺した怨念。腐海とは、呪いを凝縮し、生命の在り方を歪める場所。

 魔獣とは、腐海に歪まされた生物の【成れの果て】なのだ、とアリッサちゃんは教えてくれた。


「呪い……」


 溢れ出した瘴気が湖へと溶け出し、まるでこの島全体を腐海へと変えてしまおうと言わんばかりに、周囲の空気を汚染し始める。

 故郷が穢されていく様子を見て、アリッサちゃんがギリッと歯を食いしばってフカビトをにらみつける。


 とはいえ、ぼくらが戦ってどうにかなるような相手じゃない。

 ちらり、と湖の向こうを見ると、プルセナ先生たちは3匹目のゴブリンキングを相手にし始めたところだった。

 ざっと見積もるに、プルセナ先生たちが戻ってくるまで、約20分くらいだろうか。それまでなんとかこの場に釘付けできれば……


「イヒャアア……アアア……」


 そんな思惑を知ってか知らずか。フカビトがふらふらと動いたかと思うと、手を甲板に突き、こちらを見る。


 つぶらなひとみがプリティキュート。ゴロンと甲板の上にほほをなすりつけながら上目遣い。

 本来の少女の恰好でやってくれたら、可愛らしい光景なのだろうけど……頭だけで数メートルはあるから下手なホラー映画より怖い。

 目もぎらぎらして血走っているせいか、まるで餌を吟味してるみたいで、ぞっとする。


「治療する方法は……あらへんのですか?」


「ない。おとぎ話のなかであれば、王子様の愛の力で元の姿に戻るという話もあるが……しょせんは空想のなかの話だな」


 レアさんがきっぱりと断言する。


「さっきの君たち――レヴェンチカの諸君は見事だった。不可能を可能にした。だが、そのときの教師殿でさえ言っただろう。『壁をひとつずつ超える努力をしてきた』と。

 君の願いは美しい。だが、それを為すに越えねばならぬ障害(かべ)は、ひとつやふたつどころではないよ――くるぞっ!」


 レアさんが声を上げた瞬間だった。

 まるでケモノが獲物を狙うように、フカビトの腕に力が入る。船上にただよう緊迫感が一層増して、その直後――


「ヒャアアッ!!!」


 獣のような叫び声をあげて、狙うは――レアさん!

 めっちゃ速い! でも、速さだけならウィルベルも負けちゃいない。

 襲い掛かってくることがわかっているなら、ぜんぜん余裕! 正気を失って猪突猛進になってる相手ならなおさらだ。


「でえええいっ!!!」


 フカビトの横から、持ち前の野生の勘でドンピシャのカウンター! 手加減なしのハイキック!

 狙いは頭部。タイミングは完璧。

 魔獣と言っても相手は生物(せいぶつ)。脳天への一撃で意識を切って落とそうと――


 カぁン。


 ハイキックがヒットした瞬間、まるで分厚い鉄を打ったような音が響き渡った。


「ひぇ!?」


 ウィルベルが思わず驚愕の悲鳴を上げる。

 それもそのはず。キックが直撃したバケモノのほうは、気絶どころかノーダメージ。

 よろめいた様子も見せず、勢いはそのまま、ウィルベルの足をがっちりとキャッチ。力任せにぶんぶんと振り回して、


「ガアアアア!!!」


「ぎゃふんっ!」


 ウィルベルが数メートルの高さから、甲板にたたきつけられる。

 めきぃという音は、甲板の音か、あるいはウィルベルの骨がきしむ音か。頑丈なはずの甲板にひびが入り、ウィルベルの口から血が吐き出される。

 それでも、甲板にたたきつけられる直前、指の付け根を蹴って、拘束から抜け出すあたりは、さすがはウィルベル!

 逃れたウィルベルは体勢を立て直すために、甲板上にあるキャプスタンの物陰に避難し――


 バキバキ。


「うそぉっ!?」


 固定されているはずの装置が、フカビトの手によって剥ぎとられていく。

 大きな、金属製のキャプスタンの付け根。深く固定されたボルトが悲鳴を上げて、圧倒的なパワーに屈し、ゆがんでいく。

 やがて、邪魔な構造物を取り除いたフカビトは、 ダメージから回復していないウィルベルに対し、腕を振り上げ――


「やばっ――」


「そうはさせません!!」


 その腕が振り下ろされる直前。

 その背後から、斬りかかったのはアリッサちゃんだった。

【おふね豆知識】

船舶の装置のなかでも特に有名な装置、それがキャプスタンです。

と言うと、多くの方は首をかしげるかもしれませんが、画像を見ると一目でわかると思います。

挿絵(By みてみん)

いわゆる『奴隷が回してる謎の棒』です。


錨鎖やロープや漁船の網を巻き上げるための装置で、現代でも(さすがに人力ではないですが)活躍しています。

ちなみにキャプスタンの使用時は、均一の速度を維持することがとても重要です。そのため、シー・シャンティ(日本語で言うところの漁師歌みたいなもの)でリズムを取りながら回します。

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