11.ステータスのその先
今回はサブキャラ視点です
ルセルはピロモーテンの街における、いわゆる街の名士の娘である。
父親は街の戦士ギルドを統括するギルドマスター。
その関係でルセルも幼少のころから戦いに慣れ親しんできた。
そのおかげで15歳で戦士ギルドのCクラスに所属し、今期の精霊の儀においては有望株の筆頭として見られている。
今回の精霊の儀でも、いわゆる”当たり”の精霊を引き当てた。
精霊は人とともに成長するものだが、しょっぱなからBクラス相当の精霊を得られたのは大きなアドバンテージだ。
ピロモーテンの街の同世代に対し、己がもっとも優秀であることを証明したと言えるだろう。
少なくともここまでは、偉大な父親の跡を継ぐにふさわしい順風満帆な人生と言っていい。
基礎体力・魔法制御・実戦経験。すべてにおいて最優。
それがルセルという人間であり、その自負こそが彼女を彼女たらしめるものである。
そのルセルですら、
「ウィル……ベル……?」
目の前の光景には息を呑まざるを得なかった。
ウィルベル――ライバルと思っていたけれど、精霊の儀で、よりにもよってマグロなどと意味のわからぬ精霊を呼び出してしまった娘。
Cクラスから昇格どころか、将来性なしとEクラスまで落とされた娘。
ライバルが落ちぶれる、というとき人はどう思えばいいのだろう?
いいか悪いかは別として、ルセルの胸中に湧いたのは一抹の寂しさと、そして「これで見比べられることがなくなる」という安堵感だった。
そう。『だった』だ。
ルセルは頭を振った。
――強い。
目の前で繰り広げられている光景に、ルセルはハンマーで殴られたような衝撃を感じざるを得なかった。
いや、呆然としているのはルセルだけではない。
ウィルベルに引導を言い渡した男ですら、ただ上空で行われる光景を呆然と見ていた。
周囲の小クラーケンはあらかた退治されたが、喜びの声を上げるものはいない。
ただみんな、一人の少女がクラーケンと戦うのを呆然と注目していた。
「……なんだあれは」
誰かつぶやいたのを聞いて、ルセルは思わず同意するようにうなずいてしまう。
――はじめはただの無謀だと思った。
呼び出したばかりの精霊は弱い。カーバンクルを呼び出したルセルですら、小さなクラーケンと1:1で戦うことは避けるほどに。
だというのに、あろうことかあの娘は徒手空拳でBクラスの魔獣にたった一人で立ち向かい、あろうことか相手を圧倒しつつある。
それはとてもすごいことだと思う。だが、それ以上に。
「……きれい」
まるで舞いだ、とルセルは思った。
人と精霊が手を取り合うダンスを見せられているような、そんな感覚。
この場にいる、戦いを生業とする大人のほとんどは、ウィルベルよりも強いだろう。
精霊を召喚したばかりの子供など、とるに足らない駆け出しとしか見えないだろう。
――だがしかし、
(この場の、ほかの誰にあんなことができるというの?)
この世界において『ステータス』は強さの絶対価値。そのはずだ。
だが、目の前のこれは……強いとか、弱いとか、そういうものの先を見ているようだった。
Eクラスと判断された人間とBクラスの魔獣。
1:1では戦うことなど思いもしない絶望的な力の差を超えて――
「決着が……つくぞ」
誰かがつぶやき、広場にいる全員がその決着の予感に唾を飲み込んだ。