答え
「「危ね」」
そう言って避けた先輩たちに対し、新人は真正面から蹴りを貰った。両手はヌイグルミが入った袋を持っていたためにガードも間に合わず、踵が鳩尾にめり込んだ。
その場で崩れ落ちる新人を目の当たりにして、戦慄を覚える一之瀬と月村。
蹴りを食らわせた少女は、肩で息をしながら目を見開いている。
「貴様らは何度言えば解るんだ! アタシの事はミーシャと呼べ! リアルネームを口にするな!!」
そう宣言して再び部屋に戻り鍵を閉めた。
「お、おい。生きてるか?」
月村の問い掛けに、東は呻く。
「何なんですか、あの子」
「情報屋だよ。まったく、年頃の女の子の扱いは解らんな」
「ミサとかミーシャとかって?」
「本名は八重樫三咲。でもミーシャと名乗っているからそう呼べと五月蠅いんだ」
なるほど。と思いながら東は深呼吸を繰り返す。鳩尾とはいえ年端もいかない少女の蹴り、新人とはいえ普段から鍛えている事も幸いして深刻なダメージにはならなかった。
何とか起き上がり、月村に詰め寄る。
「彼女が呼ばれたくないのを理解したうえで、本名を連呼してたんですね?」
東からしてみれば、完全にとばっちりだ。
「俺たちなりのコミュニケーションだったんだがな」
一之瀬は悪びれる様子も無くそう告げた。
「そんな、好きな子につい意地悪する小学生男子みたいなコミュニケーション方法は捨ててください」
東は一之瀬にそう言ってから、ドアをノックした。
「ミーシャさん。開けてもらえませんか? 情報が必要なんです」
具体的になんの情報が欲しいかは東には知らされていない。しかし、ドアを開けてもらえない限りは話が進まないのは明白だ。からかう事を当然の様に行う先輩たちより、自分の方がマシだろう。
もう一度ドアをノックしようとした時、鍵が開けられドアが開いた。
「今回は特別に許してやる。さっきは蹴って悪かったな」
三人は部屋の中に入る。そこには部屋中に飾られたヌイグルミと、部屋の一角を占めているPC類があった。
モニタが三つにキーボードも三つ。使いこなせるものなのかと疑問に思った東だが、彼女には可能なのだろう。
「それで、丸山十藏についてか?」
「ああ、ヤツの仕入れルートを全て割り出したい」
当然の様に話を進めるミーシャと月村だが、こればかりは東は納得できなかった。
「一之瀬さん。何で彼女は丸山十藏の事を知ってるんですか? 僕たちもついさっき知ったばかりなのに。もしかして盗聴、とか」
「いや、それは無いだろ。もう懲りてるだろうしな」
「懲りる?」
「アイツは以前、応対課にハッキング仕掛けてきた事があるんだよ」
「え? 応対課にですか?」
警視庁のファイヤーウォールは強固だ。職員や犯罪者の個人情報は人によっては喉から手が出るほどのお宝だ。それを狙ったのだろうか。
「応対課で扱うのは一般では扱わない事件しかない。いわばオモシロ事件のみだ」
「事件の内容を知りたかったという事ですか?」
「そうだ。事件内容、報告書などを盗み見ようとして捕まった。だが、正体を確かめたら一〇代の少女だったうえに、ハッキング能力が異常に高かった。応対課じゃなかったら成功してただろうな」
一息。
「初犯だったし、ハッキング技術を持つヤツは幾らいても困らない。それにハッキングで得た広い情報網は必要だった。だから応対課で雇ったんだ」
その経緯を聞いた東も、納得したように頷いた。
「じゃあ、丸山の事を知っていたのも独自の情報網からってことですか」
「だろうな」
二人がその会話をしているうちにも月村とミーシャは丸山の話を進めている。
「静老商会・七眼堂・魔窟・仙招協会・狂奏堂。この五つが出所だろうな」
ミーシャはあっさりと答えを出した。




