凶弾が襲う
「こ、こんな、こんなことをしてタダで済むと思っているのか!? お前ら仮課の人間だろう? 公務員の癖に一般人に銃を向けるとはなんだ! 必ずクビにしてやるからな!」
「お決まりなセリフだな。二〇点」
「〇点だろ。俺たちをクビにしたら日本が無くなるぞ」
「何をゴチャゴチャと言ってるんだ! 私は顔が広いからな。お前らだけじゃなく、家族も全員追いつめてやる! 両親の仕事はなんだ? 兄弟はいるのか? 結婚はしているのか?」
その言葉に今度は月村がキレた。
「やってみろやクソがぁぁぁ」
アサルトライフルを乱射し、会社の外壁に銃弾の跡を増やしまくった。三〇秒で全てを撃ち終えた月村は腰にある手榴弾を取り出す。
「シスコンも拗れると大変だな」
一之瀬は止める事もせずに傍観を選んだ。
「注目ー。ここに手榴弾があります。先ほどから会社会社うるせぇヤツの会社を粉にしたいと思いまーす」
手に持つ手榴弾を会社の一階部分に放り込んだ。
「おら、大切な会社が爆発すんぞ」
「……お前も大概だよ」
それに慌てたのは社長だ。自分の会社に投げ込まれた爆発物。取りに行かねば会社が大惨事。取りに行けば自分が大惨事。この二択を迫られた男性は、どちらも選べず何もできないでいた。
「ところで月村君よ。お前ピンは外したのか?」
手榴弾には安全装置としてピンが刺さっている。そのピンを抜かない限り爆発はしないのだが、先ほど投げられた際にはピンが刺さっているように見えた。
「あれ? 刺さってた? てっきり外したもんだと思ってたよ。普段使わないから失敗したのかな」
戦闘を生業にしているのだから、ピンの抜き忘れなどというミスは絶対に無い。なので、完全にからかっているのだ。
「手榴弾は後から来る警察官に渡しておいてください。そのまま所持すると捕まりますよ」
からかわれている事は通じたらしく、顔を赤くして怒った。しかし、銃に撃たれ手榴弾を投げられた事は何よりもトラウマになったになったのだろう、口は開かなかった。
だが、いつの間にか集まっていたギャラリーは違った。この地域で働く人々は数に任せた暴言を浴びせた。
「相変わらず市民から好かれてねーな。俺ら」
「公務員のあるべき姿じゃないとか、野蛮だとか言われてるからな」
市民からの怒りの声は彼らには届かない。それどころか、銃をチラつかせて脅しにも取れる行動をしている。
「今すぐ私たちの目の前から消えてッ!」
「そうだ! お前らみたいなのはいらないんだ。俺たちの平穏を乱さないでくれ」
そんな事をしていると、一之瀬の視界の端で何かが動いた。何かとは言っても、この状況で犬猫ではないだろう。
人垣をかき分け、中年の女性が現れた。
「アンタたちね、そうやってなんでもかんでも暴力で解決しようとすんじゃないよ」
その女性は一之瀬と月村を見上げる。
「だいたい、あのゾンビってのは悪いやつなの? 話もしないで一方的に打ち殺すんじゃあんまりじゃないか。彼らにも家族がいたんじゃないのかい」
「何言ってんだ。このババア」
「気にするな。人間、パニックになったら馬鹿な事を口走るもんさ」
月村は優しく語り掛ける。
「ババ……お嬢さん、良いですか? ゾンビになる前なら話は通じていたでしょう。しかし、ゾンビでは話は通じません。無意識に歩いていただけです」
「歩いてるだけの人を殺すなんて、それこそ最低じゃない!」
ヒステリー気味に叫ぶ女性に対し、一之瀬が割って入る。
「それなら、アイツは任せる。怪我もしてるようだし、手当もしてやってくれ」
彼が指さす先には這いずりながら向かってくるゾンビがいた。
「帰るか」
「そうだな」
そう言って帰ろうとする二人を周りが全力で止めた。
「待ってくれ。俺たちじゃどうにもできない。何とかしてくれ」
「向こうに手榴弾があるから、ピンを抜いて投げろ。そしたら爆発だ」
「貴方達に文句を言ったことは謝る。あのババアにも土下座でも何でもさせる。だから、だから!」
「でも、俺たちがまた銃を撃ったら窓とかに当たるかもしれないしな」
「窓などどうでもいい。被害も請求しないし苦情も入れない!」
今までの喧嘩腰が嘘の様に低姿勢に変わり、頭を下げる。
それを見てから、一之瀬は銃口の先を見ることも無く引き金を引いてゾンビの頭を弾き飛ばした。
「帰るか」
「そうだな」
今度は誰にも引き留められることも無く解放された。
その後、処理班が到着してゾンビは回収され、このゾンビ事件は収束した。
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