生き残れるか
「終わったか。さっさと帰ろうぜ」
「その前に病院だ」
ため息交じりに脱力する一之瀬と月村。東も全てが終わった事に安堵していると、不意に銀色の筒がパカリと割れた。
その中から煙が立ち上り、一人の若い男が出てきた。
男は自分の両手を眺め、その手で自分の顔に触れた。
「素晴らしい。素晴らしい! オリジナルでなくとも私は私ではないか!!」
何を言っているのかわからないが酷く興奮している。
「おい、お前はなんだ」
一之瀬がそう問うと、男はニヤリと笑った。
「私は丸山十藏だよ」
「そんな訳ねーだろ。ヤツは九〇を超えるジジイだぞ」
「ここに居るという事は、私の野望も知っているのだろう?」
「不老不死だろ? 知ってるよ」
話が見えない三人に対し、丸山は尚も語る。
「私はクローンだよ。不老も不死も必要だが、クローンもあって困らないだろ?」
「その金と熱意をまともに活かせ」
「お前みたいなのが五人も六人も居てたまるかよ。全裸野郎」
「人前に出られるほどの立派な肉体になってから出直せ」
東、月村、一之瀬の順に言葉を吐きかける。
「貴様らの様な低能どもと会話をすると頭が痛くなるな。死ね」
丸山がそう言って足元にある刀を拾った。
「ハハハ。身体が勝手に動くというのは素晴らしいな」
そう言って笑う丸山は、刀を振りかぶりながら襲い掛かる。が、立て続けに銃が三発発射された。
咄嗟に自分の銃を拾って丸山の胸部を撃つ月村。眉間を撃ち抜く一之瀬。肩を撃ち抜く東。
三人とも容赦なく引き金を引いた。
「先輩撃つより気が楽だったな」
「正当防衛だよな」
「銃撃のプロと素人の刀じゃ話になんねーよ」
ドサリと崩れ落ちる丸山の遺体を眺める。
「さて、残るは外の警備員か」
そう言いながら煙草に火を付け一服する一之瀬。
「面倒だな。……でもさっきから静かだな。入ってくるどころか、様子をうかがってる気配も無いぞ」
自分の銃創を確認する月村も不審に思っていると、東が思い至った。
「もしかしたら、応援が来てるのかもしれないですよ」
「応援の連絡なんてしたのか?」
月村の問いに東は首を振る。
「いえ、もしかしたら――」
そこで、突然扉が開いた。反射的に銃を構えたが、目の前に居たのは敵ではなく神崎希だった。
「すいません」
銃口を上に向け、謝罪する。
神崎は頭を左右に振り、月村たちを見る。
「神崎がいるってことは、制圧完了か」
頷く神崎。
「俺たちの仕事は終わったな。今から病院か」
「今のうちにタバコ吸っとけよ。また禁煙って言われるぞ」
そんなことを言いながら地下室をで出る。
廊下には一〇人以上の警備員が伸びていた。
そのまま外に出ると負傷者二人は救急車で病院へ、東と神崎は応対課に戻った。
「お疲れ様。大変だったね」
犬飼課長が東を労う。
「いえ、俺は怪我もしてないですから」
怪我をしてなくてもだよ。と困ったような笑みを見せる。
「あの、応援要請はしてなかったのに何故応援が来たんですか?」
東が犬飼課長に聞くと、課長は不思議そうに首を傾げた。
「それがね。応対課に電話が入ってねぇ。男性の声で『近所の施設が騒がしい。場所は第二丸山研究所だ』と。それで応援を急行させたんだよ。でも不思議なんでよねぇ、何か人間ぽくないというか何というか」
それを聞いて東は確信する。
(ミーシャさんか)
彼女は月村の携帯端末を盗聴している。それが常時なのか時々なのかはわからないが、あの時は聞いていたのだろう。人間の声に聞こえないというのは、合成音声などを使った事による違和感だと判断できた。
こればかりは彼女の仕業だとは言えなかった。なので、無理やり話を変える。
「月村さんたちは大丈夫でしょうか」
犬飼課長も電話の事より部下の方が心配らしく、あっさりと月村たちの話になった。
「病院からの連絡で、今は手術中らしいけど命に別条は無いみたいだし、すぐ帰ってくるよ」
その話は本当で、一週間で二人とも退院してきた。
「二人とも退院おめでとう」
「入院の時点でめでたくないですよ、課長」
「医者が言ってましたよ。刀傷なんて治したの初めてだって」
肩を吊った状態で出社した二人が、今度は笑顔で東に近づいていく。
「東ぁ。お前覚えてるか?」
「お前に撃たれた肩が痛えよー。東ー」
後輩に絡む二人を止めるものはいない。
犬飼課長と菊池は苦笑を浮かべ、神崎は無表情で眺めている。
「安心しろって。シバくと言っても仲間内の事だろ?」
「せいぜいパシリだ」
笑う一之瀬と月村に困惑を覚えつつ、東も笑うしかなかった。
特殊事案応対課。一般では扱えない事案を扱う部署。そこに異動してきた新人は生き残ることができるのか!?
完




