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応対するなら、まず銃で  作者: 矢壱
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上を狙うか下を狙うか

世界は不思議に満ちている。


 灰色の空が上から地上を圧迫している。

「雨降りそうじゃん。俺傘持ってねーよ」

「持ってても差せねーけどな」

一之瀬恭平いちのせきょうへい月村翔太つきむらしょうた。スーツを着た二人の男がビジネス街の道路の真ん中に立ち、煙草をふかしていた。足元には二〇本以上の吸い殻が散乱している。

一之瀬は口元で短くなった煙草を捨て足でもみ消す。


「煙草切れそうだな。お前持ってる?」

「俺も切れそう。今ならコンビニから拝借してもバレないんじゃないか?」

 平時であれば、道路の真ん中に立っている事も煙草のポイ捨ても咎められるべき事だが、今に限ってはそうではない。


 この街で働いているサラリーマンはおらず、全員が避難している。

 すると、何かすえたような臭いが風に乗って来た。

「ひどいな」

「死体なんだから良い匂いはしないだろ」

 二人は袖口で鼻を抑えながら顔をしかめる。


 そして視線の先、道路の向こうから臭いの発生源が大挙して歩いてきた。足取りは重く遅いが、それが六〇を超える人数だった場合、恐怖が出てくる。

「何で日本でゾンビなんだよ。火葬だろウチの国は」

「どっかの馬鹿野郎が、秘密裏に死体を持ち込んで実験してたんだとよ」

 辟易へきえきとしながらも仕事を始める二人。

 背中に担いでいるアサルトライフルを身体の前に移動させる。マガジンを抜き銃弾を確認、戻してからコッキングレバーを引いて装填を完了する。


「頭か?」

 そう疑問を口にした一之瀬だが、月村も首を傾げた。

「不明、マガジンは死ぬほどあるんだ。全弾使いきったれ。どうせ税金だ」

「それもそうか」

 銃を構える。右肩に銃座を当て照準を定め引き金を引く。ただでさえ脆いゾンビ。銃弾が当たれば簡単にはじけ飛んだ。頭に当たれば頭部は消し飛び、手足に当たれば後ろのゾンビにも貫通した。

「的としても微妙だな」

「動くだけ良いかもしれないが、遅いしな」

 そのまま銃を乱射し続ける男たち。しかし、そこで異変が起きた。


「数が減ってない気がするな」

 月村が気付き、首をかしげる。

 自分は頭を狙い、弾き飛ばしている。見た限り頭の無いゾンビはいない。つまり頭を狙っていれば、ゾンビは起き上がってこない事がわかる。

「おい一之瀬、頭狙えよ。そしたら殺せるぞ」

「仕事ってのは楽しくないと長続きしないだろ。そうは思わないか?」

 何を言っているのかと思い、一之瀬が撃っている箇所を見る。銃弾は確かにゾンビに当たっている。


しかし、

「なんでお前はゾンビの股間を撃ってるんだよ! バカかお前は」

 一之瀬はゾンビの股間だけをピンポイントで撃ち砕いていた。生きている男ならば大ダメージだろうが、死人に対しては無意味だ。

それでも撃たれたゾンビが一瞬動きを止めるのは生前の痛みの記憶か。

「遊んでないで頭を撃て! じゃなきゃお前の頭撃ち抜くぞ」

 月村は吠え、一之瀬は笑う。


 男たちはゾンビの頭を砕きながら後退する。

「やっぱり銃だけじゃ足りなかったな」

 一之瀬はそう言って、ポケットから携帯端末を取り出した。そして、端末を操作してパスコードを入力し終えると、ゾンビがひしめく道路が爆発した。

「やっぱり爆発物を使うと手っ取り早いなぁ」

 爽快な表情と共に笑顔を見せる一之瀬。目の前に広がるのは抉れた道路と粉々に割れたビルの窓。そして飛び散る肉片だった。


 ゾンビは全て死体に戻った。もともと、実験材料として持ち込まれた七四体しかない上に人間を殺害したという情報もない。ゾンビがゾンビを生むかは不明だが、感染から増殖していることも無いだろう。

 動いているヤツがいない事を確かめて月村が本部に連絡を入れる。

「片付いたぞ。警報を解除してくれ」

 その知らせがあれば、非難は解除される。避難所は各所にあり、すぐさま人々がやって来る。

 応援の人員が来るまで近づいてほしくはないが、自分の会社の近くであれば、気になるのも仕方のない事。


「な、なんだこれは!」

 一之瀬と月村の後ろから男性の声が響いた。

 振り返ると、そこにはスーツを着こんだ六〇代くらいの白髪の交じった男性がいた。

「あぁ、ゾンビは全部片付けたんで、大丈夫ですよ」

 適当に笑みを浮かべながら一之瀬は男性に説明した。

「なんで私の会社の窓が吹き飛んでいるんだ」

 道路やゾンビでは無く会社の窓。一番被害の少ないものに反応した。それは男性がこの会社の社長だからだろう。


「おい、お前ら。何で私の会社の窓が割れているんだ。説明しろ!」

 喚く社長に対し、一之瀬はこめかみをヒクつかせながらも冷静に対処した。

「ゾンビを倒すのに必要な事だったんです。申し訳ない」

「申し訳ないで済むか! 責任は取ってもらうぞ!」

 それが限界を迎える一言だった。

「…………うるせぇんだよ」

 俯きながら小声で喋る一之瀬の声は男性には聞き取れなかったようだ。

「何だ? 聞こえんぞ」

 苛立たし気に聞き返す社長に向かって、今度はハッキリとした声で吠えた。

「うるせぇって言ってんだよ! 殺すぞテメェ!!」

 そういってアサルトライフルの引き金を引く。

 軽快な発射音を響かせ凶弾が社長を襲う。

「あああああああああああああああああああ」

 悲鳴にもならない悲鳴を上げる。咄嗟に伏せた事で当たることは無かったが、その分会社に全弾が命中した。


「テメェの会社なんざ知らねーんだよ!」

「おい一之瀬。いくら何でもやり過ぎだ。オッサン、ビビッて泣いてんじゃねーか」

 月村は煙草に火を付けながらうんざりしていた。この手のクレームにはハイハイ言って場を収めるのが正解だというのに銃まで撃った。

「また課長に怒られるな」

 犯人は一之瀬だけだと説明する段取りを考えていると、銃を撃ち終わった一之瀬がマガジンを捨てた。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

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