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第3話

3

アビスは、自分用に用意された簡易の椅子に腰掛け、これまた簡易の机で不味い軽食を食し煎った葉と根で作られた、これまた不味いお茶を啜りながら先程までの事を書類にまとめていた。

今回の一連の騒動、それはハヌマ自身のプライドを守る為の暴走。そう言い切ってしまえば、確かに早々に決着が着くだろう。だが、実は事はもっと根深いだが単純な物だ。その原因とは、騎士と魔導師にある溝、というより単純に騎士と魔法どちらが優秀か?といった物だ。

周りから見てみれば下らない、だが当の本人達には真剣な喧嘩?は、この千年もの間続いた魔物と人間の戦争よりも長い間続いている。アビスは少々効率主義のところがあるためか、特に戦場では騎士も魔導師も区別はなく、互いにただの兵士であるとのことだ。

アビスは書類に、今回の騒動の原因、自分がハヌマにどういう対応をしたか等々、嘘偽り無く書いていると背後から手の様な物で目を塞がれ「だ〜れだ?」と後頭部にとても大きく柔らかい、だがハリのある物を押し付けられながらその上から甘い声で無邪気な女性の声が聞こえてきた。


「今は職務中だ、そういう遊びはまたの機会にしてくれないか、ピューリ1級魔導師長?」

「え〜!別に良いじゃないですか班長、私にとってこうやって班長成分を補充することが、何よりの楽しみなんですから」


ピューリ・マーニ。人類救済連合軍航空魔道班001に所属する1級魔導師長だ、アビスの部下である。

そんなピューリがアビスに絡んでいると、また女性がテントに入ってきた。


「何が班長成分ですか?ピューリ1級は単に班長を抱きしめて、オモチャにしたいだけじゃないですか」

「へぇ〜、ちょっと前まで隅で縮こまっていた小動物が言うようになったじゃないミリ3級魔導師?」


ピューリとは対照的に、女性の象徴とも言える部分の成長が乏しく真っ平らな女性。

彼女はミリ・ユーティン。アビスやピューリと同じく、人類救済連合軍航空魔道班001に所属している3級魔導師だ。

ミリとピューリは先程の会話で分かる通り、仲が良くない。例えば身体的特徴を挙げるとすれば、ピューリとは真逆の貧乳だ。更に性格面ではピューリは誰彼構わず積極的に接し、ミリは基本的に対人関係は消極的であるなどなどその他にも、2人は良いところも悪いところも真逆である為、仲が良いとは決して言えない。


「全く班長の目の前で、それにここは戦場だ。仲が良いのは結構な事だが、少しは自重したらどうだ!」

「「喧しいハゲ‼︎」」


いきなりテントに入って来た男性は、ピューリとミリの喧嘩を止めよう?とするが、2人から同時にハゲと罵倒されて少し落ち込んでいる。

彼はカルトロス・マースリー。人類救済連合軍航空魔道班001の副班長を務めている。階級は1級魔導師長だ。

班の中では最年長で、魔導師ではあるが素手での喧嘩は強いが、精神的な攻撃には弱く「ハゲ!」等の悪口は特に効果的である。


「お前ら、仲が良いのは結構だが、


いい加減にしないと消し炭にするぞ」


いつも通りの声色と思わせると、一瞬で今までとは違うドスの効いた声で、3人を注意すると、3人は敬礼をしてすぐに出て行った。

アビスは「はぁ〜」とため息を吐くと、カップの冷めたお茶を飲み「不味い…」と呟いて、今まで止まっていたペンを持ち、書きかけの書類を仕上げたのだった。



翌朝


アビスは朝から固くてパサパサしてボソボソしているパンと、ドロっとして無駄に甘みのあるスープの様な物を腹に流し込み、その後出来上がった書類を、昨夜言っておいた兵士に渡した。

そして時間になると、広場に向かった。そこには指揮台が設置されており、その前に航空魔道班001と、元ハヌマ騎士中隊が縦に数列に別れて並んでいた。もちろんこれはアビスがカルトロスに今朝指示していたからこそ、このような奇妙な光景が出来上がったのだ。

まあとは言え、結局彼等は啀み合っている者同士、時折片方が睨めば片方は睨み返すといった、少々おバカな啀み合いを続けていた。

アビスが指揮台まで到着し、階段を登ろうとすると、台の真横に立っていたカルトロスから「傾注‼︎」と声が上がると、睨み合いを止めアビスの顔に話に顔を向けるのであった。


「諸君、おはよう。昨夜はよく眠れたかな?私はよく眠れたよ。そこでそんなアビス3等魔導師に、イタズラをした勇者が居れば手を挙げるといい。後でご褒美を与えることにしよう」


アビスはそう言って不敵な笑みを浮かべながら、そんな事を言うがそんな顔を浮かべているからだろうが、誰も手は挙げずアビスは「フフ」と鼻で笑った。


「さて冗談はここまでにして、天気予報士によると本日の天気は晴れ時々砲弾や魔法、それから弓矢の雨だそうだ。味方の弾に当たる者、または味方に弾を当てる者は居ないと思うが、頭上には注意するように」

「「ハッ!」」


アビスの言葉に兵士たちは敬礼するが、アビスは何か物足りないのか、頭を掻き兵士たちに敬礼を止めるよう指示すると、咳払いをし話を続けた。


「さて、今から仕事を始めても良いのだが、魔道班の諸君には今から新たな同僚と仕事をするのだから、少しお話しをしようと思う。

さて、軍人ならばこれを聞いておかなければならないだろう。同士達よ君達は何の為に戦う、何を求める為に戦う、何を守る為に戦う?世界の為か?人類の為か?国か?王か?家族か?愛する者の為か?それとも己が名誉やプライド、自尊心の為か?もしくは地位や名誉、女や男を得る為か?」


誰もその問いには答えなかった。いや、答えることが出来なかった。何が正解なのか、何を答えればアビスの機嫌を損ねずに、済むのかが分からないからだ。

この拠点はそこまで広大ではない。昨夜のアビスの行なっていた事を、知らない方が難しいくらいなのだから。きっと今日の仕事が終わるまでは無事であろう。だがそれが終わればどうなるか、彼等にとってそれを考えると恐怖せずにはいられなかった…

そんな彼等を見たアビスは、また「フフッ」と笑みを浮かべた。


「誰も言わないところを見ると、必死で色々考えているようだが、敢えて言おう。それら全ては正しい!私が先程挙げた事も、それ以外を考えた者も全てだ!世界や人類といった英雄の様な考えも、国や王をといった軍人としての在り方でも、家族や愛する者といった個人的なことでも、名誉やプライドといった自分自身の為でも、それで構わない。何故なら間違っていないのだから!

だがここで君達には、1つ疑問が生じるだろう。私が何故、昨夜に騎士中隊の元ハヌマ中隊長を痛めつけたのか、それは…彼が弱かったからだ。

騎士中隊の諸君はもしかしたら、彼のどこが弱かったのか?と問いたくなるだろう。だが君たちの周りを見たらどうだ?元ハヌマ中隊の3分の1が昨日の戦いで殉職した。それは彼が弱かったからだ、君達は強いのに…」


アビスのその言葉に、騎士達が「強い?俺たちが?…」「私たちが強い?…」と口々に呟き始めた。


「そうだ、君たちは強い!そんな君たちを使いこなせなかったアイツが、私たち魔導師を利用しようと考えることすら出来なかった奴が、弱かったのだ!」


アビスがそこまで言い切ると、当然魔導師たちも口々に抗議を始めた。「班長!俺たちだって負けてませんぜ!」「騎士が何だ!ぶちのめしてやる‼︎」「班長!結婚して〜!」「俺たちだって毎日班長の下で訓練してるんだからな!」等々、魔導師たちの抗議にアビスは三度目(みたび)笑みを浮かべた。


「その通り!魔導師たちよ、君達もまた強い。だが、どんなに強い騎士でも魔導師でも、それだけでは奴等に勝てない。我々には奴等のような強靭な爪や皮膚も、柔らか過ぎる皮膚もどんな物でも噛み砕く顎も無い。そんな中、勝てる可能性が有るのはただ一つ!隣を見よ周りを見よ、そこに居るのは啀み合うだけの好敵手か?否である!我々は人間だ!同じ言語を話し、同じ目的を持つ同志である。ならば手を取れ、互いが互いを利用しろ!その時、我々は本当の強者になる‼︎そして、その時こそが我々が人類最強の精鋭である‼︎」

「うおおおおおおおおお‼︎」


そして、高らかに宣言した。


「さぁ同志諸君よ、仕事(戦争)の時間だ」


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