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邪鬼の刻印  作者: どんC
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第七章 誰が為にその剣は振るわれる

「お父様!!」


 バタン!!


 アリーヤはドアを開けた。

 屋敷の中は静まり返り、返事をするものはいない。

 シェルナー伯爵邸はかなり大きい。いつもは活気に溢れている。


 ころん


 と一人のメイドが転がっている。

 蠅が集り、かなり時間が経っている。

 首には【邪鬼の刻印】が刻み付けられていた。

 幼いその顔は恐怖で歪んでいる。

 アリーヤは直ぐに奥の書斎に向かう。


「まて!! アリーヤ!! 一人で行動するな!!」


 スイが後を追う。


「これは酷いな……」


 魔法兵団長は悪臭に眉をひそめる。


「くっ……」


 ライル神官の脳裏に両親や兄弟や村人の顔が浮かぶ。

 こんな死に方をして良い者など一人もいない!!


「し……師匠?」


「ああ。すまない。怒りに我を忘れている場合じゃない。アリーヤ殿は?」


「あっちに行ったよ。スイが追っていった」


「取り敢えず玄関ロビーに死体を集めてくれ。魔法兵団長!!」


「なんだ?」


「これを遺体にかけてくれ」


 ごそごそとアイテムポーチから何かを引っ張り出す。


「これは?」


 差し出された白い布を見る。

 何やら魔法陣が書かれている。


「浄化の魔法陣です。これで死人しびとにならずにすむ」


「暗黒魔法か? 古代の?」


 ライル神官は頷いた。

 身内や顔見知りが死人になって襲って来ることほど精神に来るものはない。


「私の村も危うく死人しびと汚染になる所だった。私を助けてくれた冒険者の迅速な対応で第二次被害は免れた」


 魔法兵団員達は部屋を巡り遺体を玄関ホールに集める。

 冒険者達も手伝う。


「アリーヤ。大丈夫かな」


 リースがおずおずとシャインに尋ねる。

 シャインは首を振る。


「スイがいるから……多分大丈夫だよ」


「覚悟していても……辛いよね……」


「彼女は強い。大丈夫だよ」


「こう言うのは苦手だよ。シャインの方が大人みたいだ。私の方がお姉ちゃんなのにダメだね。アリーヤになんて慰めていいのか。分からないよ」


「そんな時はね。黙って抱きしめてくれるだけでいいんだよ。僕もスタンピードで村が滅びた時にたった一人生き延びて、泣くこともできず生きる屍だった。そんな時師匠は黙って抱きしめてくれた。言葉はいらないんだ」


「そうか……分かった。そうするよ」


 シャインは微笑んだ。





「お父様!!」


 アリーヤはドアを開けて書斎にいる父親を見つけた。

 父親の変わり果てた姿を……

 父は大きなテーブルに俯せに倒れていた。

 手には私が五歳の時の家族の肖像画が置かれていた。

 父と母と私が描かれている肖像画。

 床には剣が転がっている。

 父は死の間際に気が付いたのだろうか?

 異物の存在に……

 しかし全ては遅すぎた。


「お……とう……さ……ま……」


 父の亡骸にすがって泣く。

 返事はない。

 言いたいことがあった。

 聞きたいこともあった。

 しかし……全てが遅すぎた。

 時を巻き戻すことは出来ない。


「アリーヤ」


 スイはただ、抱き締めてくれた。


 館の人々は皆死んでいた。


 お父様の遺体を玄関ホールに運ぶ。

 パサリ

 父の遺体に浄化の魔方陣が描かれた布を被せる。

 アリーヤは父の剣を握りしめる。

 マリンが心配そうにアリーヤを覗き込む。


「大丈夫?」


「……大丈夫です」


 アリーヤは笑った。

 涙をこすった目が赤い。

 無理をしているのがまるわかりだ。

 マリンはアリーヤの頭をポンポンとたたく。


「無理をしないで。貴族のお姫様にはキツイ事だから」


 うっかり忘れてしまうが、アリーヤは貴族のご令嬢で王族の血も引いている本物のお姫様だ。


 玄関ホールにバタバタと駆け込んだ来た魔法兵団員。


「団長!! 枯れ井戸の中にかなりの遺体があります!!」


「仕方ない。今は死体を運んでる時間はない」


「井戸の上に浄化の布を掛けてロープで縛っておけ!!」


 後の調査で分かったが。

 辞めた事になっているメイド達が三十三人そこにいた。

 半分以上が、白骨化していたとのことだ。


「急ぎましょう!! 王族が、危険です」


 アリーヤは涙を拭い皆にそう言った。

 皆は魔行船に乗り込み王都に向かう。

 ざわざわと心がざわめく。

 イライザ……

 友の顔が浮かぶ。

 無事を願いながらアリーヤは剣を握りしめた。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




「なぜ? こんな事に?」


 柱に縛られ、足元に積み上げられる薪の山。

 これからイライザは広場で火炙りになる。

 イライザは数日前の事を思い出していた。



「アリーヤ・シェルナー伯爵令嬢殺害の容疑で逮捕する」


 学園のカフェテラスで数名の令嬢とお茶をしていたイライザの所に王族直属の騎士達が押しかける。


「はぁ?」


「何の冗談ですの?」


「先日森で冒険者が殺害されたアリーヤ殿を発見した。彼女の母親の葬儀のすぐ後に殺されたようだ」


「アリーヤが!! 嘘……嘘……そんな馬鹿な!!」


「ご同行願おう」


 イライザは罪人として引っ立てられた。

 縄をかけられ引きずられる。


「これは何かの間違いです!!」


 ざわざわと周りの人たちは騒めくだけで誰も助けない。

 取り調べも無くイライザは塔に閉じ込められた。

 夜になり。

 コツコツと足音がした。


「ご機嫌いかが? イライザさん」


 アリーヤの妹。ミザリーがそこにいた。

 イライザの婚約者の王太子やパスティ第二王子そして取り巻きの五人の男達を引き連れて。

 だが皆無表情で生気がなく。

 まるで人形のようだ。


「私はアリーヤ様を殺してないわ!! デトラス様私は無実です!!」


「貴女が悪いんですのよ。お姉様を逃がしたりするから。まあ。貴女が死ぬことは、早いか遅いかの違いでしかありませんが」


「貴女は誰? いえ……なに?」


 初めてミザリーに得体の知れない薄気味悪さを感じた。

 人間じゃない者が人間の振りをしている。


「ふふふ……私はヒロイン」


「ヒロイン?」


「そう私はヒロイン。世界は私にひれ伏すの。だって私はヒロイン。皆に愛され。幸せになる運命。美しい男達に傅かれ。女達は私を羨む。私が笑うだけで男達は幸せになるの」


 夜の塔で高笑いするミザリー。

 イライザには狂女にしか見えなかった。


「ではごきげんよう。明日貴女は火炙りに決まりました」


「そんな馬鹿な!!」


 思わず鉄格子に駆け寄るイライザ。


「ぐっ……」


 ミザリーはイライザの首を鷲掴みすると呪文を唱える。


 じゅうぅ……


 肉が焼ける臭いがした。


「あぐっ……!!」


 イライザはずるずるとその場に倒れて気を失う。


「これで貴女の知識も経験も命も私の物。ふふふ……お姉様が逃げた時はどうしょうかと思いましたが貴方がいてくれて良かったわ」


 ミザリーは笑いながら塔の階段を降りた。


 その様子を月だけが見ていた。




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 2018/5/22 『小説家になろう』 どんC

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