第五章 広がる闇
「なぜ?こんなことに?」
牢屋の中で少女はポツリと呟いた。
鉄格子のはめられた窓から三日月が見える。
白い月が異国へと旅立った友人の微笑みを思い出した。
全てが可笑しくなったのは、彼アリーヤが旅立って直ぐだった。
いや……気が付かなかっただけで前から少しずつ可笑しかったのかも知れない。
だが、ハッキリと可笑しくなったのは。
そうアリーヤの母親の葬式からだ。
イライザは馬車にアリーヤを乗せて見送った。
そして侍女にアリーヤの父親に手紙を渡すよう使いを出した。
侍女は帰って来なかった。
しばらくして別の侍従を使いにやったが、彼も帰って来なかった。
学園ではある噂が流れた。
アリーヤの妹が、第二王子から王太子に乗り換えたと。
「ちょっと待って。第二王子はミザリー様と結婚するために、アリーヤ様との婚約を破棄されたのではなくて?」
「確か卒業パーティーではそうですが。その後お城で王太子様に会われて……あの……二人は恋に落ちたとか……」
「ちょっと待って……何処からそんなデマが?」
イライザは苦笑した。
昨日も王太子とお茶会をしたのだ。
そんな素振りは微塵も見られなかった。
「それに高位の貴族の子弟を周りに侍らせているとか……まああれをご覧になって!!」
一人の令嬢が城のベランダから指を指す。
マナー違反ではあるが。
彼女の怒りも頷ける。
彼女の婚約者もそこにいたからだ。
そこには、五人もの高位貴族の子弟を引き連れたミザリーの姿があった。
まるで女王の様に堂々と歩いて行く。
第二王子の姿もある。
「えっ?」
イライザは我が目を疑った。
城で公務を果たしているはずのおのが婚約者が現れ、ミザリーと楽しげに語らっていた。
たしか今日は南の辺境伯との話し合いがあったはずだ。
なぜここに?
ミザリーとその集団は人目もはばからず、その場を後にした。
「あの……第二王子もいらっしゃたわね」
「どういうことですの?イライザ様?」
「あれは第二王子とミザリー様とのご結婚のお祝いに入らしたんですよね?」
「でも……王太子様はミザリー様と手を組んで恋人の様に歩かれておりましたわよ」
「……」
その時城の昼休みが終わる鐘が鳴った。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
クルㇱャ伯爵家のお茶会でご婦人たちと若い娘がおしゃべりに花を咲かせていた。
「ねぇ。お聞きになりまして?」
「ええ。ミザリー様の取り巻きの方たちが次々と婚約を破棄されているとか」
彼女達は扇で歪んだ笑みを隠す。
「王族騎士団長のご子息ウルフレッド・アンスル様とフレイ・クライトン伯爵令嬢が三日前に婚約を破棄されたそうです」
「魔術師団長のご子息のアトライヤ・ゼス様とミデル・アトレー男爵令嬢も三日前に婚約を破棄されたそうです」
「神官長のご子息リヒト・レーグェ様とアメリア・パイトス公爵令嬢とは五日前ですわ」
「首相のご子息ラオネ・エリセド様とエリス・デトラス様は今日ですわ」
「どうなっているのです?」
「そう言えばアリーヤ様はどうなされたのですか?」
「私心配してお手紙を出したのだけれど、ご返事がなくって……心配しておりますのよ」
「婚約者を妹に奪われた上にお母様が亡くなられた。可笑しくありません?」
「ええ。妹は我が物顔で男を侍らしていますわね」
「アリーヤ様を見かけたのはお葬式の時だけですわ」
「修道院に入れられたと言う噂は聞きませんね」
「まるで居ない様な扱いですわね」
「彼女には落ち度は無かったのでしょ?」
「妹のミザリー様の方が出来がよくって美しいからと言ってこの扱いは酷いわね。彼女は彼女なりに頑張っていたのに」
「私息子の卒業パーティーでシェルナー一家にご挨拶しましたわ。ビックリしましたわ。パステイ様の婚約者がミザリー様に代わっていた上に。ミザリー様のドレスはパステイ様が贈られたとか。婚約を破棄されたのも卒業パーティーの前日だなんて……」
「アリーヤ様はシェルナー伯爵の実の子ですわよね~。母君が浮気された子供では無かったはずですわ。何でもお爺様に似たのだとか……」
「それを言うならミザリー様の方こそ誰にも似ていませんことよ」
「何かおかしいですわ」
「今度のお城でのお茶会、何も無ければいいのですが」
ひそひそとご婦人たちは囁く。
不安がさざ波の様に広がる。
ギシャリ!!
何かがねじれ踏みつぶされる音がしたが。
誰もその音に気付くものは居なかった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
2018/4/27 『小説家になろう』 どんC
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
最後までお読みいただきありがとうございます。
不定期更新ですので気長にお待ちください。