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邪鬼の刻印  作者: どんC
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第二章 薔薇の館

 港から馬で五日でその館に着いた。

 甘い香り。

 お婆様とお母様が愛した薔薇の園。

 ああ…何て綺麗…

 溢れんばかりの薔薇の花が咲き誇っていた。

 ああ…

 お婆様お母様…

 私とうとう来ちゃいました!

 お二人が産まれ育った場所に。


 大きな門だ。

 その館はまるで砦の様に厳めしかった。

 もっと小さくて可愛らしい館を想像していたが。

 昨日手紙を出しておいた。

 先触れも出した。


 ドアのノブを叩く。

 すると執事が出てきた。

 彼は私の髪と瞳を見るとわずかに表情が動く。


 ?


 護衛の四人は別室に案内された。

 メイド(護衛)としてマリンさんが私の側についててくれる。

 館の近くの町で手紙を書き。マリンさんはメイドの格好をしてくれた。

 立派な応接室に通され侍女がお茶とお菓子を持ってきてくれた。

 五・六分たった頃、館の主が現れた。

 その老人はがっしりした体型で軍人だと分かった。

 どこか懐かしい母と同じライトブラウンの髪と琥珀の瞳。


 ?


 もう一人老人の影に居るみたいだ。

 小柄なのかよく見えない。

 何か霞んでる?

 認識障害?

 魔法使いの護衛かな?


「私は君の母親の叔父に当たる。アラン・マグリス公爵。君がアリーヤ・シエルナー嬢か?」


「はい。アリーヤ・シエルナーと申します。以後お見知り置きください」


 アランは悲しげに私の白い髪とペリドットの瞳を見る。


「君の祖母は、私の年の離れた姉だった。母上に聞いているかい?」


「そうなんですか。母はこの国の事やお婆様の事をほとんど話してくれなくて。ただ祖国には大好きな薔薇園があった事だけ話してくださいました。母が亡くなり遺髪をこの薔薇園に埋めたくてやって来ました」


「そうか。キャサリンが亡くなったのか」


「あの…母はお城で侍女をしていたそうですが。そこで父に見初められ結婚したんですか?」


「そうか…本当に何も知らされてないんだな。まず君の祖母から話さなければなるまい。嫌な話だが覚悟はあるかい?」



 私は唾を飲み込み頷いた。


「姉は可愛そうな人だった。『あの娘には可愛そうな事をした』と父も嘆いていた」


 叔父の話によると。

 祖母のメアリーは伯爵令嬢でこの国のカルロス皇太子の婚約者だった。

 二人はとても仲が良かった。


 あの忌々しいミザリー・ハマー男爵令嬢が現れるまでは…


 ミザリーは銀の髪にアメジストの瞳を持っとても美しい女だった。

 ミザリーはその美しい姿と声で、次々と高位貴族の子弟を虜にしていった。

 メアリーの婚約者。

 カルロス皇太子も例外では無かった。

 学園の卒業パーティーでカルロス王太子と取り巻き五人に、メアリーはミザリーを苛めたと断罪され婚約を破棄された。

 一年後カルロス王太子とミザリーは国を挙げて、華々しい結婚式が執り行われた。

 メアリーはカルロス王太子を愛していたから酷く傷ついた。

 父も祖父も嘆き悲しむ、その姿を見て心を痛めた。


 そんな彼女の心を慰めたのは、庭に咲き乱れる薔薇の花と庭師のチェイスだった。

 チェイスはザクロス将軍の五男で騎士にならずにマグリス家の庭師になった。

 チェイスは幼馴染のメアリーが好きだった。

 メアリーは王太子の婚約者。

 叶わぬ恋だ。

 せめてメアリーの好きな薔薇の花で慰めようと庭師になったのだ。

 その心にほだされメアリーはチェイスのプロポーズを受け入れた。

 メアリーは王太子から婚約破棄され結婚相手が見つからなかった。

 皆王族に睨まれるのを恐れたのだ。

 チェイスはザクロス将軍の子供ではあったが平民だ。

 メアリーを愛していたからマグリス公爵は二人の結婚を許した。

 貴族の世界から遠ざけたかったのだ。

 結婚させた後、領地の別荘に住まわせる事になっていた。


 薔薇の花が咲き乱れる庭で結婚式は執り行われた。

 白いドレスに身を包んだメアリーは美しかった。

 神官の前で愛を誓った二人。


 その時‼


 身内だけの小さな結婚式の日に彼は現れた。

 元メアリーの婚約者で王太子だった現国王。

 カルロス王と五十人の騎士団。

 呆然とする新郎新婦に客達。


「カルロス様、私達の結婚式をお祝いに来て下さったのですか?」


 おずおずと尋ねたメアリー。


「私カルロス国王はメアリーの初夜権を行使する」


「それならば私は羊六匹を王に捧げます」


 チェイスは微笑を浮かべるとそう言った。

 それはよくあるやり取りだった。

 結婚式をあげる夫婦に王や領主が、初夜権を求めそれに答えて新郎が羊や牛を差し出す。

 一種の結婚税だ。


 しかしカルロスは、祭壇の前からメアリーを攫った。


 三日後メアリーは帰ってきたが…

 男に怯え父や弟さえ側に寄せ付けなかった。


 そして小さな塔に閉じ籠り乳母さえ食事会を運ぶ事しか許さなかった。


「オギャア‼ オギャア‼ 」


 赤子の鳴き声が塔の中に響きわたった。

 産声に驚いた家の者は、扉をけ破り中に入った。

 メアリーは死んでいた。

 血だまりの中、へその緒つけたままの赤子が泣いていた。


 赤子はキャサリンと名づけられた。


 それが君の母親だよ。

 と叔父様がおっしゃった。

 この国の王族はみな、白い髪にペリドットの瞳なんだ。

 と私の髪と瞳を見ながら笑う。

 君はお爺様に似たんだねと微笑する。


 赤子は平民の子として育てられた。

 変化の魔法で母親と同じ瞳と髪の色に変えて。


 チェイスは、メアリーの葬儀が終わるといずこかへ姿を消した。


 キャサリンは母親に似て美しく賢く育った。

 キャサリンが十二歳になると王は、彼女を侍女に差し出すよう命じた。

 今まで散々放置しておきながらの物言いだ。


 さすがにマグリス公爵も腹に据えかねる物があった。

 しかし王の命令には逆らえない。


 キャサリンは十五歳になると、遠い国から留学中の貴族と結婚させられた。

 それが私の父、ダウイン・シェルナーだ。



 二人が国を出た数年後に内乱が起こった。












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