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邪鬼の刻印  作者: どんC
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第一章 邪鬼の森

 馬車は、森の中をひた走る。

 私は馬車の窓から見える木々を見ながら、お母様の遺髪の入った箱を握りしめる。

 お母様は故郷について多くを語らなかった。

 ただ実家の庭にはそれは見事な薔薇園が在るのだ、とポツリとこぼした事があって。

 それがとても印象に残って……

 母は遠い異国の出身で二度と故郷に帰ることは許されなかった。

 まるで咎人の様に。

 だからせめてお母様の遺髪を故郷に埋めたい。


 お母様とお婆様が、愛した薔薇園に……



 *****   *****   *****   *****



「アーリャ様何を見てらっしゃるの?地図?」


 図書館でお母様の祖国を眺めていた時にお声を掛けて下さったのは、皇太子の婚約者イライザ侯爵令嬢でした。


 平凡なニキビだらけの顔。冴えない白い髪。

 くすんだ黄緑の瞳の私とは違い。

 イライザ様は、金髪碧眼のうるわしいご令嬢だ。

 イライザ様は皇太子の婚約者で、私は第三王子パスティ様の婚約者だから仲良くさせて頂いていた。


「母が産まれ育った国ですの。いつか行ってみたいと思っております」


「あら。だったら卒業パーティーの後で行かれてはいかが? 卒業した後は少し時間があったはずですわ。この時を逃せばもう時間が取れないでしょう」


 一年後皇太子様とイライザ様の結婚式がある。

 私達の結婚式はその半年後だ。

 イライザ様は、馬車と護衛と侍女の手筈をしてくれると約束してくれた。

 二人でこっそり計画を立てた。

 まさか卒業パーティーの前日に。

 パスティ様に婚約破棄されるとは思わなかった。



 まして卒業パーティーの次の日にお母様が、亡くなられるなんて……



 ******   *****   *****   *****



 ミザリー



 妹の名前はミザリーと言います。

 フワリとした銀の髪。アメジストの瞳。

 妖精の様な華奢な体。女神のごとき美貌。


 みっとも無い白い髪にニキビだらけの顔の私とは大違いだ。

 妹と私は比べるなら月と鼈、薔薇とペンペン草、ダイヤモンドと泥。

 そこまでの差がある。

 私の目を「トルマリンみたいで綺麗だ」と言ってくれた方も結局は、妹を選び彼女の取り巻きとなった。

 パスティ様が出来が良くて美しい妹を選ぶのは……当然だわ。



 こんな不美人な私が第三王子のパスティ様の婚約者に成った事は学園の七不思議だった。

 私とパスティ様が婚約したのは私が七歳、パスティ様が十歳の時でございました。


 その時妹は体が弱くベットからなかなか起き上がれなかったのです。

 妹が健康なら間違いなく彼女が、婚約者であったでしょう。


 我が家を訪ねてこられたパスティ様は、良く妹と庭でお茶を飲んでおられました。

 私はそんな二人を羨ましげに見つめながら、先生に怒られて庭で剣をふっておりました。

 勉強も剣も魔法も妹には、敵いませんでした。

 どんなに努力しても越えられない壁って有ったのですね。

 妹は15を過ぎる頃には、人並みの健康を取り戻し学園に通うようになりました。

 パステル様と妹が連れ添う姿が、学園のあちらこちらで見受けられました。


「本当にお似合いね」


「まるで神話の絵のよう」


「それに比べて」


「ほんとにね~」


「何故?彼女が、選ばれたのかしら?」


 クスクスクスクス…




「すまない。君には本当に悪いことをした」


 卒業パーティーの前日パスティ様に婚約破棄を言い渡された。


 卒業パーティーの日。

 妹は、パスティ様に贈られた美しいドレスを身に纏いパスティ様に手をとられ出かけて行きました。両親も卒業パーティーに出かけ。


 私は、一人庭の隅で泣きました。


 私の十二年は、何だったのでしょう。


 勉強勉強勉強…遊ぶ暇も無く。友達も居ない。


 私には家族さえ居なかった。



 卒業パーティーの次の日。


 屋敷が騒がしく、侍女に何があったのか訪ねると。


「奥様が、お亡くなりになられました‼」


 父の話によると母は、体調がわるく。時々気だるさを訴えていた様です。


 私は、何も知りませんでした。


 母の体調のことも……


 妹の事も……


 パスティ様が妹に送ったドレスは、直ぐに用意出来る物ではありません。

 それこそ私の婚約破棄は、妹が健康に成った段階で準備されていたのでしょう。



 私は単なる繋ぎでしか無かった。



 *****   *****   *****   *****



「今日は、ここで野宿をしよう」


 護衛リーダーのスイさんが、馬を止めて仰いました。


 イライザ様が雇って下さった護衛は【暁の船】と言うパーティーで、リーダーのスイさん。スイさんのお姉さんで魔法使いのマリンさん。無口な盾の騎士のゴーリーさん。神官のシャインさん。盗賊のリースさんです。


 スイさんとゴーリーさんは、テントを二つ立て始めました。


 シャインさんとリースさんは、ウサギを取りに行きました。


 私はサクサク草をむしると、土魔法で釜戸を作りました。


「あんたは貴族のお嬢様なんだからそんな事しなくていいんだよ」


 スイさんの姉のマリンさんがそう言ってくれたが、私は首をふった。


「いえ。野営には馴れております」


 マリンさんは可笑しな顔をした。


「あんたん家は、軍関係か?それでもあんまり娘に軍治教育はしないだろう」


「婚約破棄されましたが、王族に嫁ぐ事になっておりましたので……」


「皇太子かい?」


「いえ。第三王子です」


 私はテキパキ薪を組み上げ生活魔法で火を付けた。


「本当に手際良いね~あんたが貴族令嬢じゃなかったらスカウトしてたよ」


「そう言っていただけると嬉しいです。私どんくさくて人の三倍は努力しないと覚えなくって」


 私はアイテムボックスから鍋を出し魔法で水を入れた。


「家庭教師には怒られてばかり…ふふ…マナーに勉強に魔法に剣…全部無駄になったわ」


「へーじゃ無駄にならないように冒険者になったら?」


「あら。それも良いかも…ふふ…」


 国を捨てるのもいいかもしれませんね。

 王族に婚約破棄された娘に碌な縁談は無いでしょう。


 私は水が沸くと、簡単スープの元を入れた。


「おや?それはなんだい」


「私が考えた携帯食よ。野菜やベーコンを乾燥させて固めた物よ。只今特許申請中でえーす」


 私は、おどけてそう答えた。

 イザイラ様のザイラ商会から特許申請してもらった。

 私家追い出されてもやっていけるだろう。


「すごいね~これは、君が考えたのかい?」

 私は頷いた。


「まあ技術は魔法協会の魔法陣がいるけど」


 近くの川の魚を雷魔法で捕まえて内蔵を取って塩焼きにする。


「しかし父上には手紙だけで大丈夫なのかい? 皆心配しているよ」


「大丈夫です。妹さえいれば…」


 パステイ様の婚約者だった時から皆妹の事ばかり。

 お陰で僻み根性丸出しの嫌な娘に育ったわ。


 リースさんとシャインさんが、ウサギを三羽捕まえて来てくれました。

 血抜きはしてくれていたので、私は解体して塩コショウで焼きました。

 野菜スープに焼き魚。バターを塗ったパン。

 ウサギの串焼きにプチトマトのサラダ。


「さあ出来た。召し上がれ」


「おほ~」


「旨そう」


「いただきます」


「うん。旨い」


「ほふほふ」


 皆美味しそうに食べてくれる。

 私もスープを食べました。

 ひさしぶりに大勢での食事はなんて暖かいのでしよう。


 家族皆で一緒に食事したのは……いつだったかしら?


「誰も君を探さない?」


「誰が私を探すの? それにイライザ様の馬車に乗っているなんて思いもしないわ」


 皿を洗いながらどんな親なんだと言う顔をスイはした。

 葬式の時ですら誰も私に声を掛け無かった。

 まるで私などいないみたいに……


 国境付近の小さい町でイライザ様が、用意してくれた馬車を帰した。

 そこから馬で2週間アグリ国を抜け。

 バリフリ国の港から船で三週間かかる。


 母の故郷は、島国で名をイリス国と言う。

 20年前に母の国は、内乱が起きたそうです。

 父と母は内乱が、起きる前に国を出ました。

 母はその国のお姫様の侍女をしていました。

 母は多くを語りません。

 ただ……時折遠くを眺めながら育った屋敷に、大好きな薔薇園があったとポツリとこぼした。


「ねえ…知ってますか?」


 神官のシャインが、川の向こうの森を眺めながら私に尋ねる。


「あの魔の森に邪鬼の塔が、あるのを…」


「邪鬼の塔?」


「ええ…僕のお師匠様が、昔住んでいた村の近くにあったそうです」


「その地方のおとぎ話から取った名前で正確には、天の邪鬼(てんのじゃき)って言う化け物です」


「名前からすると恐ろしい化物が、閉じ込められていたみたいね」


「その化物は、美しい娘を見つけては、娘の皮を剥いで成り代わるそうです」


 私とマリンとリースは、顔を顰めた。


「シャイン!! やめてよ!! 怖い話ダメなんだ!! 」

 リースは、マリンにしがみつく。


「お師匠様の村もそいつにやられて全滅したそうです」


「魔王みたいだね」


「魔王よりたちが。悪いです。少なくとも魔王は、同族の魔族は、守りますからね」


 シャインは、森を見詰めてそう言った。





お読みいただきありがとうございます。

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