こんな風に普通に新年を迎える事が二人にはとても幸せなことだった。
年の瀬。
街の空気が慌しい。そんな空気が僕は好きだ。
正月の準備をするために、妻と二人で商店街へ出掛けた。
シャッター通り商店街が問題になっているけれど、ここはいつでも活気があって賑やかだ。
二人で両手いっぱいの荷物をぶら下げて帰ってきた。
妻はこれから御節の支度に取り掛かる。僕はその横で邪魔にならない様にその様子を見ている。
料理をしている妻の姿が僕は好きだ。
「ねえ、どうかしら?」
「どれどれ…。うん! 悪くないよ」
こんな風に時折、料理の味見をする。
紅白歌合戦が始まった。
一通りの料理を作り終えた妻はテレビの前へ。僕は、年越し蕎麦の支度を始める。
「あなた、ほら! 奈美恵ちゃんだよ」
妻の呼びかけに僕は出来上がった蕎麦に海老の天ぷらを一尾ずつ乗せてテレビの前へ移動する。
安室奈美恵の歌声を聴きながら蕎麦をすする。
紅白歌合戦が終わったら、二人で出かける支度をする。
「寒いから、いっぱい着て行かなきゃ」
「ああ。正月から風邪をひいていられないなかな」
風はないけれど、冬の空気がまとわりついてくる。近所の神社には既に初詣のために並ぶ参拝客で賑わっている。僕たちもその列に並ぶ。
参拝を終えると振舞われている甘酒を頂く。
「あったまるね」
「うん。美味しいね」
それからおみくじをひいた。
妻は“大吉”で、僕は“凶”だった。
「あら!」
「大丈夫だよ。君がそばに居てくれるから」
「そうね」
手を突っ込んだ僕のジャケットに妻が手を滑り込ませてきた。
「帰ろう」
僕は妻の手をしっかり握りしめた。
「あ! 明けましておめでとうございます」
「おめでとうございます。今年も宜しくお願いします」
「こちらこそ」
そう言って微笑む妻と二人で歩く時間はとても特別な時間だと僕は思った。
この作品はスマホで執筆したものです。