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3.彼女

病院の扉を開けるとベッドに座る彼女がいた。僕に気付きこちらを向く。綺麗だ。素直にそう思った。部屋の白い壁と相まって彼女の白い肌はさらに白く見えそれに加えて彼女の美しい黒い髪は窓から入る夕焼けの日差しが差しこみ輝いて見えた。彼女が口を開く「あなたは?」。彼女の声にハッとなり僕はそれに答える。「君が倒れているところを発見して、救急車を呼んだんだ」それを聞くと彼女はベッドから僕の目の前に来て「ありがとう!あなたがいなかったら私死んでたかもしれない。本当にありがとう!」と僕の両手を握りブンブンと振ってきた。慌てて彼女の手を振りほどき彼女から顔をそらしながら「べ、別に大したことしてないから、気にしないで」とすこし早口につげると彼女は僕の顔を覗きこむと「どうして?あなたに命を救ってもらったんだよ。大したことだと思うけどなー」彼女の距離感にドキドキしながら僕は彼女に背を向け「とにかく、今から医者を呼んでくるから!」あわてて部屋から飛び出す。彼女は女子に免疫のない僕には致死的だった。医者を探していると父と話しているようだ。僕は二人に声を掛ける「父さん、来てたんだ。お医者さんから話は聞いた?」僕の問いに頷くと「その事だが彼女は、我が家で預かることにした。お前にも迷惑が掛かるかもしれないが、彼女の身元が分かるまではよろしく頼む。歳もお前と同じだし話しやすいだろう。」と父は淡々と告げる。「わかった」僕も素っ気なく答える。その様子に父は「驚かないのか?」。「まあね」と僕。まあ何となく予想はついていた。父は警察では立場のある人間だし、家がないからと牢屋に入れるわけにもいかないのだろう。何より僕の頑固は父ゆずりで、僕が言っても聞かないだろう。母と姉も「良いんじゃない」と言うだけで父の意見は覆らないだろう。抗議しても無駄なだけだ。父は「じゃー悪いが。彼女を呼んできてくれるか。彼女の名前は花芽里(かがり)だ。」花芽里?変な名前だな。と思ったが僕が言えた義理ではないので口にするのはやめた。花芽里の部屋にはネームプレートがありそこには「夢佐 花芽里」名字は「むさ」と読むのかな。ますます変な名前だな。ドアを開け声を掛ける「夢佐さん」僕の呼び掛けに彼女は「あ!さっきの!あれ?どうして私の名前を知ってるの?」と首をかしげる。「実はね...」僕は彼女に僕の家で住むことや、僕の家の事軽く説明すると、彼女は嬉しそうに「じゃー今日から私は君と一緒に暮らすんだね!」と言う彼女に僕は「正確には僕の家族とだけどね」と訂正する。すると彼女は「そうだね。でもこれから一緒に暮らすなら名字じゃあ無くて名前で呼んでほしいよ。私も名前で呼ぶからさ!名前教えてくれる?」とニコニコしながら言ってきた。まあ来るだろうと覚悟はしていたが、本当にくるとは。名前を呼ぶのはまだしも呼ばれるのが嫌だったが、断る理由もなかったししょうがない。躊躇いながら僕は「わかったよ、か、花芽里。僕の名前は(あかり)だよ、相馬(そうま) (あかり)」と言い彼女の反応を伺う。この名前で何度女の子みたいとバカにされたか、まあどうとでも言ってくれと思っていると、彼女は「燈君かー良い名前だね!かっこいいよ!」それに対して僕は「別に」と素っ気なく答えたが、内心とても嬉しかった。話を終わらせるために僕は「行こう、父さんが待ってる」と告げ彼女をロビーへと連れていく。彼女は父に頭を下げると「初めまして!夢佐 花芽里と言います。話は燈君から聞きました。お世話になります。」父は「ご丁寧にどうも。遠慮しないでいいから何でも言ってくれ。大体の事は燈に聞いたら何とかしてくれるから。」僕は「僕に丸投げかよ!」とつっこむと「じゃー行こうか車に乗って」とスルーされた。彼女は助手席に乗り僕は後部座席に乗り込むと車が動き出した。父が「でも大変だったね。あんなとこで倒れるなんて。燈が通りかからなかったら本当に危なかったかもしれない。でも本当に何も覚えていないのかい?どうしてあそこにいたのかも。自分がどこから来たのかも。」彼女は「はい。名前以外は何も...すみません」慌てたように父は「謝ることはないよ。そういうつもりで言ったんじゃないから。ゆっくりでいいからね」彼女は小さく「はい」と頷く。その様子を僕は後ろから眺めていた。その後も父と雑談しているようだったが、睡魔に襲われた僕は家に着くまでうたた寝をしていて内容はよくわからなかった。「着いたぞ」と父に起こされ車からおりる。花芽里は「素敵なお家ですね!」と目を輝かせている。玄関を開けると母と姉が出迎えてくれた。花芽里は父にしたように挨拶をすると、母は「今日から自分の家だと思っていいからね」姉は「そうだよ。遠慮しないでいいからね。まあ困ったら燈に全部やらせなせい」と父みたいなことを言っている。花芽里は「ありがとうございます!」と答える。父が「じゃー花芽里ちゃんの部屋だが、空き部屋が片付くまではとりあえず燈の部屋で我慢してくれ」これにはさすがの僕も「は!?何で僕の部屋なんだよ!姉ちゃんの部屋のが良いだろ!」姉が「ダメよ、私の部屋は掃除してないし二人だと狭いわ。花芽里ちゃんも燈の部屋のが良いでしょ?」それに対して花芽里は「私は構わないけど、燈君は私と一緒じゃ嫌だよね」と俯きながら言う。その様子に僕は焦って「いやそんなことはないよ!でやっぱり僕たちもう年頃だから何かあったら大変だよ」すると姉が「え?あなた何かするつもりなの?」とニヤニヤしながら聞いてきたので「しないよ!」と言うと「じゃー良いじゃない。決定ね。花芽里ちゃん、何かされそうだったら叫ぶのよ」僕は「だから、何もしないよ!」と言うのが精一杯で気づいたら決まってた。その後夕食を済ませ、お風呂から上がり部屋でゆっくりしていると扉が開きパジャマ姿の花芽里が入ってきた。「どど、どうしたの?もう眠くなった?」と言うと「ううん、ちょっと燈君が何してるのかなーと思って」と言いベッドに寝転んでいた僕の近くに座る。「そうなんだ。ゴロゴロしてたよ」と平静を装ってみたものの心臓の鼓動が聞こえそうなくらいドキドキしていた。大体女子を自分の部屋に入れたことなど無いし、ましてや風呂上がりの女子なんてと沈黙に耐えきれずトイレに逃げようと腰を上げると花芽里に肩を掴まれそのまま僕に覆い被さるような形となった。これはヤバイ密着した体からは今まで体験したことの無い様々な情報が伝わってきて脳みそがパンクしそうだった。「か、花芽里?」とかろうじて声を出し問いかけると「今日は本当にありがとう。あなたが見つけてくれてとても嬉しかった。私が出来ることなら何でもするから言ってね」と僕の上で言葉を発する、それに対して僕はどう答えて良いのかも分からずまた沈黙が続く、自分の鼓動と伝わってくる彼女の鼓動しか聞こえなかった。すると廊下から「花芽里ちゃーん」と姉の声が聞こえる。彼女は「私、お姉さんに呼ばれてるんだった」と顔が真っ赤なまま部屋を出ていった。彼女が出ていった後もドキドキは止まらなかった。夜寝るときもお互い恥ずかしくて顔を見れず、背を向けて眠りについた。僕の願いはこの鼓動が止まってくれることを願う。

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