表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
願い  作者: S
2/3

(2)

2.非日常へと

ぼやけた景色の中でいくつかのものが見える病院、レンガの床、少女。これがなんなのかはわからない。けど懐かしい気もする。そして少し泣きそうになる。そんな気持ちのまま気付けば自分の部屋のベッドの上だった。今日も日常が始まる。眠い目を擦りながら自分の部屋を出てリビングにいる家族に「おはよう」と告げる。おはようとキッチンで朝ごはんを作る母、ソファーで新聞を読む父、部活の朝練へと向かおうとする姉。三人から挨拶が返ってきた。いつも変わらない朝の風景だ。簡単に家族の事を紹介すると、おっとりした専業主婦の母、真面目だが優しい警察官の父、元気で明るい僕と正反対の姉。まあこんなところだろう。「もうご飯できてるわよ」と母。席に着きゆっくりと食事を始め、食べ終わる頃には時間ギリギリで家を飛び出した。何とか電車に間に合い学校の最寄り駅につくと友人の姿を見つけた。おはようと声を掛けると、挨拶を返す間もなく彼は「あの子可愛くない?」とまあ平常運転だ。さあ学校に着いてからはいつも通りなので割愛する。本当に日常とはそんなもので僕が日記を書けば90%が同じ内容のものを書くことになると思う。いつもと違ったのは、駅から家への帰り道でのことである。道端に女性が倒れているのだ。しかも昨日も目にした黒髪の少女だった。関わりたくはなかったが倒れている人間をほっといて通りすぎるなど小心者の僕にはできず、自転車から降り彼女に近づき声を掛け肩を揺するが起きる様子はない。躊躇いながらも胸に耳を当てると心臓は動いているようだ。携帯を取り出し急いで119番を押し救急車を呼んだ。まさか偶然とはいえこんなことが自分の身に起こるなんて思ってもいなかった。しかし仰向けで倒れている彼女は、ひねくれた僕から見てもまさに美少女と言えるだろう。白い肌、綺麗な黒髪、長いまつげに日本人離れしたはっきりとした顔立ち。しかし昨日見た後ろ姿からイメージした僕の想像通りの顔だったからか、あまり驚きはなかったと言うのが率直な感想だった。人間こういう事態のときの方がどうでも良い事を考えてしまうものだ。遠くからサイレンの音が聞こえ、救急車が到着すると隊員に事情を説明すると、僕も救急車に同行することとなり病院へと向かった。病院のロビーで僕は待つこととなった。まあ彼女とはただの他人だし彼女の家族が来れば一言二言言葉を交わして帰れば良いや。そんな気持ちで待っていたが、彼女の家族らしき人の姿は見えず、何故か彼女を担当とする医師が部屋へと僕を呼び出す。何故だ。と思いつつ医師の前に座ると医師が口を開く「落ち着いて聞いてくださいね。あなたが連れてきた女性は身分を証明するもの持っておらず、本人に聞いても家族の名前も覚えていないと言うのです。調べて見ても彼女の戸籍のようなものは見つかりませんでした。分かるのは自分の名前だけらしいのです。」声もでなかった。僕は医師の言葉にただポカーンとするだけだった。まず我が国、日本で戸籍も分からず身元も家族もわからないそんな人がいるのかという疑問と何よりそんなあり得ない事に巻き込まれている自分受け入れる事ができず、僕もその場で卒倒しそうだった。とりあえず両親に事情を説明する事を医師に告げ、ロビーの公衆電話で家に電話を掛けた、電話に出たのは父だった。半ばパニック状態の僕の会話にも落ち着いて耳を傾け、「今から、向かう。」とだけ答え通話が終わった。父の落ち着いた声を聞き少し冷静になれた。とりあえず僕は意識を取り戻した少女の部屋へと向かう事にした。僕の願いはこの退屈な日常が続くことだが今にも日常は脅かされそうとしている。漫画や小説にありがちな物語が始まらないことを願い病室の扉に僕は手を掛けた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ