(1)
願いよ叶え、君のために
1.僕
僕は5年制の専門学校に通う学生で、ここに通うのはもう4年目になる。
今日もいつもの電車に、いつもの教室、いつものクラスメイト達。まあ人生というのはだいたいこんなものだと思う。つまらない日常の繰り返しだろう。
授業のチャイムが鳴る。どうやら四時限目を終わりを告げるチャイムのようだ。「おい、起きろよ」声が聞こえた。目を擦りながら、「寝てないよ」。と机の前の友人に告げる。僕の前に立つ彼は僕の唯一とも言える友人である。前々から思っていたが彼は変人である。変人を自負する僕が認めるほどの変人なのでかなりの変人だと言えるだろう。どこが変かというと、彼は容姿もよく勉強もそこそこにでき、スポーツが得意でおまけに趣味は洋楽鑑賞と来たものだ。どこが変なんだと思うかも知れないが、それはこれだけ素晴らしい人間が僕みたいな取り柄のない人間と一緒にいる事である。ひねくれていると思うかも知れないが僕はそういう人間であることを知っといてほしい。おまけに偏屈で頑固でめんどくさがりでもある。挙げ出したらきりがないが、まあつまり言いたいことは彼は素晴らしい変人ということだ。
彼は「早く学食に行くぞ」と僕に言った。「うん。」と僕は腰を上げ彼と学食に向かう。学食に着き僕と彼のお決まりのメニューであるうどんを互いに券売機で購入すると席に着き食事を始める。彼はうどんをすすりながら「あの子可愛いなー」彼の目線を追ってみるとちょうど学食に入ってきた後輩の女の子がいた。確かに可愛いかもしれない。だがこのセリフを何万回も聞いた僕としては、「そうだね」と素っ気ない返しをする気にしかならない。「ちゃんと見ろよ」。と怒ったように彼が言う。わかったわかったと軽く流すと彼は不満げにまったくと呟いていた。彼が口にするのは大体女の子が絡んだ話題である。まあ男の僕からみてもモテると思う彼が物心ついた頃からチヤホヤされてきたのは安易に想像できる。そのせいか今や超のつく女好きである。彼の華麗なる彼女変遷を聞くと、彼がどうしようもない人間に見えてくる。その事について指摘すると「モテる男はつらいよ」と悪びれる様子もなく言ってくる。「イケメンはいいな。」と僕が言うと、「お前もイケメンだと思うけどな」と彼は言う。そういう社交辞令は聞きあきた。また軽く流すと、食事を終え二人で教室に戻り午後の授業を終え駅に向かい互いに逆方向の電車に乗り込み別れを告げ、それぞれの家の最寄り駅に向かう。
僕は駅につくと自転車に乗りいつもの帰り道を通る。小・中学生が友達とはしゃぎながら帰っているのが見える。あの頃は良かったなとおっさん臭い事も考えてしまう。ふと視線の先の歩道に綺麗な黒髪の少女の後ろ姿が見えた。歳は同じくらいだろうか白いワンピースが風に揺れていてその情景に僕は見惚れていた。瞬間は目の前に壁が見え僕はすんでのところでブレーキをかけ激突はまのがれた。彼女に声を掛けようとも考えたが、そんな勇気は僕にはないし、何より後ろ姿だけでも想像ができる整った容姿の彼女には僕のような人間には興味が無いだろうし、迷惑以外のなにものでもないだろう。再び自転車をこぎ家路につく。僕の願いはこの退屈で変わらない日々をずっと過ごすことだ。よくも悪くもそれを変えてしまうような事には関わりたくはないのだ。今思えばこの日が運命の分かれ道だったのかもしれない。後悔はしていないが、この日に戻れればと、半年後の僕は願うだろう。