A国の平和
Eは激怒した。
大統領が国外の戦争に踏み切ったからだ。
それも大統領の任期を二期に制限する憲法を改正し臨んだ大統領選挙での公約
に、国外での戦争に参加しないことを盛り込み当選していたからだ。
大統領は選挙においては、母親達に約束していた。
「息子さん達を、国外での戦争には、巻き込まない。」
その舌の根も乾かぬ内に、
「同盟諸国を救うため、自国の民主主義を守るためにも
国外の戦争に参加する。」
選挙はなんだったのか。一番うまく嘘をついたものを大統領に選ぶためのも
のか。男達がそれを支持するとEの怒りが彼女の体を突き破らんと膨らんだ。
Eはストを女達に呼びかける。男の求めを一切拒む、性ストを。
男に、夜のとばりの満足ではなく、尽きぬ渇望を与えようと。
そして、呼応した女達は、家庭を、職場を抜け出し、元老院を取り囲む。
季節が夏であることも手伝って、女達は下着姿で、武器は持たず続々と
集まった。家にいながらも、性ストに参加する女達はさらに多かった。
この可愛い抗議者達のストを初日は軽く見た大統領も、五日目には恐ろしく
感じ始めた。なんと女性人口の30パーセントがこのストに参加したのである。
妻の同意を得ずに肉体にて愛を交わした男は、強姦罪で逮捕されていく。
元老院を取り囲むE達を、警官がさらに取り囲む。
E達は、男性警官達のズボンのいきりたった膨らみを囃し立てる。
七日目には、大統領はストに対する敗北宣言をして、自国単独での専守防衛へ
の転換を打ち出した。
大統領は、Eに、自身の妻に敗北したのだ。
4年の専守防衛により、世界の大部分は独裁国家とその同盟諸国の手に落ちた。
大統領の二枚舌も民主主義を守るという崇高な目的のためには正しかったのか。
大統領は、戦争準備を遂行し、国外戦争の必要性を訴えさらに一期再選された
直後に亡くなった。
その後をうけて大統領に選出されたEの娘は、国外の戦争への勝利を公約とし、
世界に民主主義を取り戻した。
そして古の英雄Cのごとく、人類の扉を再び開いた者として称賛されたのは、
また別のお話。
エレノア・ルーズベルトに捧げます。
迷惑かもですが。