第96話 土魔術士の力(1)
ジュウジュウと肉の焼ける匂いに誘われたように、天道君はフラっと帰って来た。
「……なにやってんだ」
「あー、天道君、おかえりぃー」
「肉焼いてるんだよ、食べる?」
語尾にハートマークがついていそうな、ジュリマリの台詞。だが、協力体制が約束された今となっては、そんな媚びた態度の二人も、どこか微笑ましく思える。
「何の肉だ」
「その変にいた普通の蛇だよ。食べても大丈夫ってのは、『見れば』分かるよね」
ギロリ、と鋭い視線で僕と、手に持つちょっと不恰好なかば焼きを睨まれる。気にしない、天道君は元々目つきが悪いから、普通に見ただけでも睨まれたように感じるだけ。余計に恐れる必要はない。
「まぁな」
「ただの塩味だけど、焼き立てだから美味しいよ」
「悪いな、それじゃあ、貰うぜ」
僕らが囲む焚火の輪に、どっかりと天道君が座った。
「はい、コレあげる!」
「大きいの、とっておいてあげたんだー」
「ああ、ありがとな」
久しぶりに味わう肉の欲求には抗えないのか、差し出された蛇のかば焼きを大人しく受け取る天道君。
「……美味ぇ」
「でしょ」
僕らはこの日、初めて五人集まって、食事をとった。まだまだ、気持ちはバラバラだけれど、きっと、傍から見れば、僕らは仲間に見えたことだろう。
さて、天道君を肉で釣ったところで、僕は交渉に入る。
「天道君、ちょっと頼みがあるんだけど」
「素材はもうねぇぞ」
「素材はもう十分だよ。全然、違う件だから」
「言ってみろ」
「蘭堂さんの、土魔術士としての訓練を積みたい。少しの間、ここを拠点にして、育てる時間が欲しい」
下水道の進軍を通して、僕は蘭堂さんの育成を決意した。いくら弱い天職だからといっても、そこで諦めてしまっては、無力な一般人のまま。初期スキルがクソ構成だったとしても、新たなスキルはチートかもしれない。成長の可能性に賭ける価値は、十分すぎるほどある。
このままダンジョンを進み続ければ、いずれスケルトンやゴーマのような手頃な雑魚は全くいない、強力な魔物ばかりが住みつくエリアになるかもしれない。手遅れにならない内に、レベル上げをしておくべきだ。
そうでなくても、すでにして蘭堂さんは他のみんなと、僕と比べたって、大きく遅れてる。遅れてるというか、完全に初期状態、つまりレベル1のままだ。一刻も早くその差を埋めなければ、結局はお荷物のままで、攻略が厳しくなってくれば、抱えることも難しくなってくる。そうなると、最早、仲間だ友達だ、なんて言ってられない。
合理的だが、残酷な末路を迎えるだけ。そう、腹を刺されても、治してもらえず放置された、メイちゃんのように。僕は、蘭堂さんにそんな風になって欲しくはない。
「……できるのか?」
「できる。蘭堂さんは、必ず強くなる」
僕だって、今やそれなりに強くなったのだ。あの、樋口と真っ向勝負しても、辛うじて勝利を拾えるほどに。
蘭堂さんの『土魔術士』は、小鳥遊さんの『賢者』みたいにサポート前提の天職ではない。委員長の『氷魔術士』と同じように、その魔法でもって敵を撃ち、身を守る、立派な戦闘職のはず。
あくまで初期スキルがハズレだっただけで、新スキル、あるいは、習熟した初期スキルが真の威力を発揮する可能性は極めて高い。
「好きにしろ。ただし、あんま長くは待ってられねーぞ」
「十分だよ、ありがとう」
よし、最大の難関はクリアした。天道君は一度約束したら、それを守る男だと思う。律儀、なのではなく、ダサい真似はしない、カッコつけるだけのプライドがあるからだ。
これで、全ての根回しは完了した。後は、蘭堂さんの頑張り次第。
「――というワケで、早速、蘭堂さんのレベル上げに行きたいと思いまーす」
「うぇー、マジでぇ……」
妖精広場の入り口で、あからさまに蘭堂さんが嫌な顔。
「まっ、今までサボってた分、頑張んな、杏子」
どこか晴れやかな笑顔で蘭堂さんの肩を叩くのは、ジュリマリのジュリの方、野々宮さんである。
今回、蘭堂さんのレベル上げ編成は、言いだしっぺのパーティリーダーとして、僕、主役の蘭堂さん、そして、いざという時の護衛として、野々宮さんがついている。勿論、レムもいる。
妖精広場では、天道君と芳崎さんが留守番となる。どうぞ、二人きりの時間をお楽しみくださいよ。
「天道君の話だと、この沼地には、ジーラとゾンビが出るらしい。この面子でジーラの群れを相手にするのは危険だから、ゾンビを狙っていこう」
「うぇーい」
「ほーい」
どこまでもテンション低い蘭堂さんと、軽い野々宮さん。僕だけが張り切ってもしょうがないんだけど……でも、蘭堂さんだって自分の能力の使い道が分かれば、きっとヤル気も出るだろう。
「それじゃあ、出発の前に、蘭堂さんの土魔法を確認しておきたいんだけど」
「えー、それはさっき教えたじゃん。もー忘れたのかよ桃川ぁー」
「忘れてないよ。でも、実際に効果を見てみないと――って、グリグリしない!」
何が不満なのか、蘭堂さんが僕の頭を拳でグリグリしてくるのだ。大して痛くはないけど、スキンシップするなら、もうちょっと気持ちいい方が……ともかく、真面目に説明しているんだから、邪魔しない欲しい。
「……分かった。んじゃあ、いくよぉー」
気だるげに両手を前に突き出し、蘭堂さんが構えた。
「――『石盾』」
唱えた次の瞬間、彼女の手前の地面がボコっ! と音を立てて、盛り上がっていく。そうして、下からシャッターでもせり上がってくるかのように、四角い土の壁が現れる。
たっぷり十秒ほど時間をかけて、高さ二メートル、幅一メートル、厚さ三十センチ、といったサイズの土の壁が完成していた。
「石じゃないっ!?」
「それは言うなし」
魔法名は『石盾』なのに、出てくるのは、どう見ても土の壁。触ってみても、やはり土の感触だ。
「でも、結構しっかり固まってるし、それなりに防御力はあるんじゃない?」
「さぁ」
他人事のような蘭堂さん。こんな立派な防御魔法があるというのに、どうして使ったことがないのだろう。
「桃川さぁ、こんなゆっくり出てくる壁があったら、ゴーマだって避けるって」
「なるほど、それもそうか」
一瞬の油断が命取りになる戦闘。雑魚と名高いゴーマだって、人間並みに動きはする。十秒かけて二メートル、つまり、秒速二十センチでせり上がってくる壁なんて、無視するに決まってる。
目の前に迫られた時に発動したのでは、遅い。
「あっ、もしかして、二つ目の土魔法も……」
「――『岩長槍』」
今度は名前の通りに、灰色の石で形成された、大きな槍が現れる。槍といっても、穂先と柄に別れた形ではなく、粗削りの円錐形といった感じ。人の胴体ほどもありそうな、硬く鋭い岩の槍が……やはり、地面から秒速二十センチほどの速度で、ズズズと隆起していく。
十数秒後、そこには三メートルほどの高さの円錐柱が、立派に突き立った。
「ねぇ、これって真っ直ぐにしか立たないの?」
「斜めくらいにはできるけど」
それは良かった。ただの柱にしかならなかったら、さらに使い道が限られる。
「やっぱり、致命的なのは、この発動速度か」
どうして蘭堂さんが、早々に戦いを諦めお荷物化したのか、納得である。もしかしたら、僕の初期スキルよりも外れだったり――いや、この『岩盾』と『岩長槍』があれば、攻撃は難しくても、逃げる時に通路を塞いだりできる。最悪、妖精広場に駆け込んで、コレで入り口を塞いでしまえば、籠城作戦だって可能だ。
「蘭堂さん、魔力は大丈夫?」
「なにそれ?」
「魔法を使うために必要な力。魔法を使いすぎると、普通に疲れてくるんだよ。最悪、倒れて気絶する」
「ええっ、マジでっ!? なにそれ、ヤバくない!?」
「無茶な規模で魔法を使わなければ、いきなり気絶はないから」
でも、一度くらいは魔力切れで気絶する経験はしておいてもいいかも。自分の限界を知っておくって、大事だよね。特に、魔力の概念すら知らなかった、蘭堂さんのような魔法初心者は。
「それで、どう? 疲れた感じする?」
「んー、全然」
「どれくらい魔法が使えるか、試したことはある?」
「えー、最初の頃、ちょっとだけ練習してぇー、でも全然速くなんないから、それきりかなー」
「あの時は、結構使ってたよね。この壁、百枚くらい出してなかった?」
「あー、出してた出してた。めっちゃ出して迷路みたくなったよねー」
「え、その時は、疲れたりしなかったの?」
「別に、何も感じなかったけど」
もしかして、蘭堂さんかなりの魔力量だったりする? それとも、石になりきれてない土壁が、よほどコスパがいいのか。
「ねぇ、桃川、やっぱ三つ目も使った方がいいの?」
「うん、お願い。今出した、コレにかけてくれればいいよ」
「ほい、そんじゃあ行くよ――『永続』」
蒼真桜が使う『光の守り手』のように、白い光が、作り出したばかりの土壁と岩槍を包み込む。けれど、それも一瞬のこと。発光が治まった後は、何の変化も起こらない。
そう、この変化を起こさないことこそが、『永続』という魔法の効果なのだ。
本来、魔法で発生させたモノは、ある程度の時間経過で消滅する。それは、委員長の氷魔法もそうだし、僕の黒髪縛りもそうだ。魔法だから、現象や物質はあくまで魔力で形成された疑似的なモノなのだろう。魔法が形を成したその瞬間から、魔力が霧散して、その内に構成を維持するだけの魔力がなくなり、最終的に消滅。まぁ、だいたいそんなところだろう。
しかし、この『永続』という魔法は、魔力で作った物質を、完全に本物の物質として変化させることができる。
だから、何もせずにこのまま放っておけば、固い土壁も、立派な岩槍も、すぐにガラガラと崩れて、最終的には跡形もなく消滅する。でも、『永続』をかければ、コレらはずっとこのまま。誰かがわざと壊すか、それとも長い時間の果てに風化するまで、変化は起こらない。なぜなら、これはすでに、本物の土で固めた壁と、本物の岩を削ってできた槍になっているのだから。
考えれば考えるほど、摩訶不思議で、凄い魔法の効果だと思う。けれど、これが即座に戦闘で役立つかと言われると……
「うーん、即戦力というと厳しいけど、使い道は色々とありそうなんだけどなぁ」
土壁百枚を連続で作っても、全く疲労を感じない蘭堂さんなら、そのまま並べて大きな防壁だって、時間さえかければ作れるだろう。岩槍と組み合わせ、最後に『永続』をかければ、それなりに立派な防御陣地とかできそうだ。
まぁ、ダンジョン攻略という性質上、相手を迎え撃つ戦い方をする機会は滅多になさそうだけど。
「とりあえず、後は実戦あるのみだから、行こう」
さて、このゆっくり土魔法をどう活用するか。蘭堂さんをがっかりさせないよう、頑張って考えよう。
沼地を散策すること五分、ターゲットはすぐに見つかった。
「あ、ゾンビいるじゃん」
「ねぇ、やっぱやめない? ゾンビとかキモすぎて無理なんだけど」
「臭いしキモいけど、すぐ慣れるから」
「うぇー」
どこまでも女子高生らしい駄々をこねる蘭堂さんに、騎士として成長した野々宮さんが平然と諭す。確かに、僕も腐りかけの体に、生々しい傷跡が目立つゾンビは気持ち悪いと思うけど、いつかのエリアで必死こいて戦い続けたお蔭で、そのキモさにしり込みしないほどには慣れた。
「数は四……野々宮さん、他に潜んでいそうな気配はする?」
「んー、大丈夫じゃない?」
盗賊の樋口や夏川さんには気配察知や索敵能力は及ばないけど、純粋な戦闘天職である騎士の彼女が、この中では最も敵を感知するのに優れているだろう。ここは、沼から少し離れた林になっているから、いきなり水の中からジーラが強襲、なんてこともない。
「どうすんの? あれくらい、アタシ一人でも余裕だけど」
「蘭堂さんがゾンビ倒さないと、意味ないでしょ」
「あ、そうだっけ」
おいおい、大丈夫かよ野々宮さん。もしかして、敵を前にすると槍で刺し殺したくてウズズズしているとか、そういう性格になってたりする?
「ねぇ、桃川ぁー、ウチどうすればいいのさー」
急かす蘭堂さんの声を無視して、僕はゾンビの立ち位置、周囲の地形、その他諸々を含めて、落ちついて考える。
「よし、蘭堂さん、ここから、あそこの木の間に、等間隔で槍を斜めに生やして」
「えー、どこぉ」
「この辺から、これくらいの角度で」
僕が直接、欲しいポイントを鉄の槍で刺して教える。
「槍の長さって、変えられる?」
「知らなーい」
「じゃあ、やってみて。長さは一メートルくらい。えーと、伸びてる途中で、魔法を止めるようなイメージで」
「……おー、できたわ」
蘭堂さんは、見事に『岩槍』を短く生やすことに成功。委員長と蒼真桜の魔法を見る限り、魔法はある程度、術者の意思でサイズや威力をコントロールできていた。僕だって、当たり前のように呪術を色々と調節して使ってるし。
だから、蘭堂さんも壁と槍のサイズ変更くらいはできると思った。大きくするのは難しいだろうけど、標準サイズよりも小さくするくらいなら、簡単なようだ。
「できたら、永続かけといて」
「ほい」
次々と突き立ってゆく岩の穂先に、『永続』の効果を示す白い光が灯る。
「これもお願い」
「なにこれ」
「僕の呪術、『黒髪縛り』だよ」
木と木の間に、高さ三十センチくらいで、黒髪のロープを張る。多分、『永続』は他の人の魔法にも付与できるはずだ。
「どう? これちゃんとかかってんの?」
「光ったから、大丈夫だと思う」
永続の発光を確認して、準備完了。
「これから、ゾンビをこのトラップまで誘導して、倒す」
仕掛けは単純明快。説明するまでもないだろう。
僕らを追いかけて、ゾンビがここまでやって来ると、間抜けな奴らは必ず、この黒髪ロープに足をひっかけて、倒れる。そして、倒れた先に待ち構えているのが、蘭堂さんの岩槍というワケだ。
「ゾンビは目の前の相手を追いかけるだけの馬鹿だから、こんな見え見えの罠でも、必ず引っかかるはずだよ」
「えー、マジ? ダメだったらどうすんのさぁー」
「その時は、野々宮さんとレムで始末すればいいでしょ」
そのための、護衛役でもある。上手くいかなった時に備えて、普通に強い人が片付けてくれれば、安全に試行錯誤できるというワケだ。
「僕と野々宮さんで、ゾンビを引きつけてくる。蘭堂さんは、ここで待ってて。万一に備えて、レムを護衛に残すから」
「は、早く戻ってきてよねー」
ちょっとでも離れることが心配なのか、若干、震え声の蘭堂さん。
「よし、行こう」
「オッケー」
僕は鉄の槍を、野々宮さんは鋼の槍を手に、ゾンビを呼ぶべく駆け出した。
トラップ地点から五十メートルほど進めば、ゾンビどもが群れている。最初に見つけた時は四体だったけど、今は六体に増えている。まぁいい、許容範囲内だろう。
「へいへい、ゾンビ、ビビってるーっ!」
「やっほー」
石を投げつけ、適当な声を出して、奴らの注意を引く。
「グッ、オオオ……」
「ウォオアアアアっ!」
生きた人間という獲物を見つけ、ゾンビ共は一斉に駆け出す――って、思ったより速い!
「ちょっ、何だよアイツら、普通に走ってる!?」
「ここのゾンビは元気だねー」
割とマジで焦ってる僕とは対照的に、野々宮さんは呑気なもんだ。
「ってか、桃川、足遅っ!」
「置いてかないでよ、野々宮さん!」
「アンタ、世話焼けるなぁ」
身体能力が強化されてる戦闘天職と違って、僕は貧弱なままなんだよ!
なんて、恨み言を叫ぶほどの余裕はない。
「ウガァアアア!」
「アア! ヘァアアア!」
涎をまき散らしながら、ゾンビ共が全力疾走で追いかけてくる。僅か五十メートルの距離が、長い。
「桃川、頑張れー、追いつかれるぞー」
「はっ、はぁ……ああっ、クソっ! 黒髪縛り!」
ゾンビ集団の先頭をひた走る奴が、本当に僕まで追いつきそうだったから、足だけ絡めて転ばせる。
「あーあ、ここで転ばせたら罠の意味ないじゃーん」
「僕が死ぬ方がもっと意味ないよ!」
こんなことなら、レムに行かせればよかった。安易な決断を後悔しつつ、僕は残りの距離をどうにか走り抜けた。
勿論、自分で仕掛けたロープに引っかかって、槍で串刺しなんて、間抜けなことはしない。
「ゴール」
「はぁ……はぁ……」
汗一つかいてない野々宮さんと、ぜぇぜぇと息切れしてる僕。でも、のんびり休んでいる暇はない。罠の効果を見届けなければ。
「さぁ、かかって来いよ、この腐れゾンビ共っ!」
「グガァアアアア――ブボォオっ!」
案の定、奴らは思いっきり突っ込んできた。眼の前に、明らかにヤバそうな岩の槍があるのに。足元に、こんなにはっきり黒いロープが張られているのに。
人間という生肉しか見えていないゾンビは、目の前にある殺意の仕掛けをまるで理解することもなく――そのまま、僕の意図通り、静かに突き立つ岩の穂先へ飛び込んでいった。
「うわっ!? キモい、キモい! ヤバいって、うわぁああああ!」
「おおー、入れ食いじゃん」
ゾンビの腐った体を、岩の槍が貫き通す。かなり太い岩槍だけれど、全力疾走の勢いもあってか、易々と胴体に大穴をあけて完全に貫通。
後続のゾンビも続々とトラップに飛び込んできては、見事に串刺しの憂き目に合う。
蘭堂さんも目の前の惨状に、さっきからキモい、ヤバい、と叫びっぱなしだ。
「オオッ、ガァアア……」
岩槍は適当な間隔で並べただけなので、中には、肩や脇腹が抉れたくらいで、完全に突き刺さるのを免れた、運のいい奴もいた。自分の体の欠損などまるで気にせず、ゾンビは這うように、尚も僕らへと近づこうともがいていた。
「黒髪縛り」
そんな奴らを、そのまま地面へ縫いとめる。
「蘭堂さん、岩槍を使って」
「え、えっ、でもぉ……」
「動かなければ、どんなにゆっくりでも、当たるでしょ」
「杏子、頑張れ!」
「う、うぅ……えーい、『岩長槍』!」
腹の下からズブズブとタケノコみたいに生えてくる岩槍に、僕の触手で拘束されたゾンビは成す術もなく、その身を貫かれて、完全に息の根を止められた。




