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呪術師は勇者になれない  作者: 菱影代理
第8章:王の力
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第93話 厳選素材

「す、凄い……宝の山だぞコレは」

 満足そうにタバコをくゆらせている天道君を背景に、僕は大量のモンスター素材の山から発掘作業を行っている。これがまた、凄い。

 スケルトン、赤犬、蟻、などといった、これまで見慣れた雑魚モンスの素材に加えて、猿やイノシシやトカゲみたいな、見たことのない種類もある。でも、何より凄いのは、それらの雑魚素材に混じって、当たり前のように鎧熊やナイトマンティスの素材まであることだ。雑魚以上、ボス未満の強敵系の素材は、僕にとっては貴重である。

「っていうか、コレ……も、もしかして、ドラゴンの鱗じゃないのか!?」

 最大の衝撃が、この赤いドラゴンの鱗があったことである。デカい。鱗一枚だけで、僕の掌くらいある。

「火竜の鱗を薬に用いるには、並みでは足りない技術と経験を要するが、高い効果が期待できる……って、マジでこれ、ドラゴンの鱗だよ」

 働いた直感薬学の説明によって、さりげなく本物の竜鱗であることが証明されてしまった。まず間違いなく、今の僕にはコイツを何かの薬として精製できる実力はないけれど、これがかの有名なドラゴン素材であると判明したのは大きい。

 血眼になって漁っても、この『火竜の鱗』は三枚しか見つからなかった。でも、ドラゴンの素材なら、何か効果があるような気がする。いや、たとえなかったとしても、ワンポイントアクセサリーとして、満足できる。

「でも、いよいよ天道君は『スキルイーター』も『錬成』も持ってるっぽいなぁ」

 ドラゴンの鱗があるということは、つまり、その持ち主を倒したからである。偶然拾ったとは思えない。

 この鱗の色艶は、天道君の赤い大剣と同じ輝きを放っている。火竜素材によって、あの赤い刃が形成されているに違いない。

 そして火竜というくらいだから、当然、火を噴くのだろう。もしかしたら、口から吐き出すブレス以外にも、魔法陣を描いて火球を乱発してくる、なんて火属性魔法みたいな真似もしたかもしれない。竜の咆哮は自然に魔法と化している、とかそういう設定の作品もあるし、この異世界のドラゴンが魔法使いのように多様な炎の使い方をしないとも限らない。

 そんな火を操る能力があるドラゴンを『喰った』からこそ、天道君が炎の攻撃を繰り出せるようになったと考えられる。

 横道とは大違いだな。アイツはカエルの麻痺毒を取り込んで喜んでたけど、天道君はドラゴンのブレスを持っているんだから。

「うーん、レムも火属性魔法とか使えるようになってくれればいいんだけど、流石に高望みしすぎかな。せめて、火耐性が高くなるとかあればいいんだけど……」

「ねぇー桃川ぁー、なにしてんのー」

 いい加減、暇になったのか、蘭堂さんが声をかけてきた。

「僕の呪術に使う素材を見繕ってる」

「さっきからずっとやってなーい?」

「そうかな」

「そうだよー」

 そうかもしれない。宝の山を前に、つい興奮して素材吟味に熱中してしまったし。

「何か手伝おっか?」

 うーん、特にこれといって人手が欲しい作業ではないし、ゆっくり一人で見ていたい気分だけれど……

「じゃあ、この素材の中から、蘭堂さんが『良い』って思えるものがあったら、教えてくれる?」

「良いって、何がどういい感じなの?」

「別に基準はないよ。土魔術士の蘭堂さんが見て、何か感じるモノがあったりするなら、僕が気づかない何かが秘められている可能性とか、あるかもしれないと思って」

「ふぅーん、ウチのセンスが問われてるってこと?」

「まぁ、大体そんな感じ」

「オッケー、こういうの自信あんだよねー」

 めちゃくちゃ適当な理由で、適当な仕事をでっちあげたと思うかもしれないけど、僕は割とマジで言っている。僕には直感薬学があるから、火竜の鱗みたいに、反応したモノは何かしらの説明が得られる。でも、コイツは天道君の鑑定スキルと比べれば天地の差がある性能だし、説明文は妙に投げやりなパターンは多いし、何も教えてくれないのも多い。

 蘭堂さんが都合よく鑑定スキルを持っているとは思わないけれど、でも、魔術士の天職として、素材に含まれる魔力とか、そういうモノを自然に感じ取れる能力があったりするかもしれない。他の天職の人で、素材を見る目が増えるというのは、何も分からない今の段階では、無意味ってほどでもないだろう。

「んー、コレは色はいいけどぉ、ガラはイマイチかなぁー」

 僕の思惑をよそに、蘭堂さんは意外にも真剣に素材の吟味に取り組んでいた。山を半分ほど切り崩して散らばった素材を、しゃがみこんでは手に取って――って、やば、パンツ見えそう!?

「うわっ、これ血ぃついてんじゃん! ちょっと、やだもぉー、桃川ぁー、水ぅー!」

「あっ、うん、どうぞ」

 ヤバい、ヤバいぞコレは。素材はテーブルの上に並んでいるワケじゃなくて、地面に直接ぶちまけられているから、自然、しゃがみ込んだり屈んだりする動作が多い。ズボンの僕はいい。でも、スカートの女子はどうだ。それも、クラスで一、二を争うミニの蘭堂さんがすれば、どうなるよ。

 そりゃあ、見えそうになるに決まってる。女子の基本スキルである、足を閉じるしゃがみパンチラガードの構えは発動しているものの、パンツが見えなくても、もう太ももだけでかなりヤバい。蘭堂さんのムチムチした褐色の太ももが、ただでさえ短いスカートから惜しげもなく晒されていることにより、僕の注意力は散漫ってレベルじゃない。

 き、気になる……気になって仕方がない。

「あっ、コレ! コレいいかもぉー、桃川、どう?」

「気になったのは、そっちの方に避けて置いといてもらえるかな」

「かしこまりー」

 表向きは平静を装いつつも、僕は視線を蘭堂さんの下半身から完全に逸らすことができないでいた。これ、バレてるだろ。チラチラ見てること、絶対バレてるだろ。女子はそういう視線に敏感なんだゾ的な情報、聞いたことあるし。

 だとしたら、これは試練なのか。僕は今、蘭堂さんに男としての紳士力を試されているのだろうか。

 ちょっと、そういうの、マジで勘弁してくださいよ。僕が女の子に免疫ないの、分かってるでしょ。分かっててやってるでしょ。なるほど、小悪魔とはよく言ったもんだ。僕には見える、蘭堂さんの大きなお尻から悪魔尻尾が生えて、ユラユラ揺れているのが。

 くっ、負けない……僕は絶対に、こんな悪魔の誘惑になんて、負けないんだから!(キッ)

「――ふぃー、まっ、こんなもんでしょ。どうよ桃川?」

「ありがとう、蘭堂さん」

 全ての素材確認を、ようやく終える。結構な量があったけれど、選ぶだけで楽しいし、蘭堂さんとダラダラ喋りながらやってると、作業は遅れるけど、精神的にも楽だった。

 僕が厳選した素材と、蘭堂さんのセンスで選ばれた素材は、『汚濁の泥人形』を発動させるには、ほどよい量になっていた。

 これから魔法陣『六芒星の眼』を描いて、それっぽく素材を配置していく作業が残っているけれど、その前に……

「ちょっとトイレ行ってくる」

 結論から言おう。見えたか、見えてないかといえば、見えた。蘭堂さん、意外とガードが甘い。割とチラチラ見えてしまった。

 豹柄だった。

「――おかえりー、ちょっと長くなかった?」

「すみません」

 平謝りである。でも、大の方だと、ちょっとばかり長くなってもしょうがないし、いくら妖精広場の外とはいえ、多少は後始末もね。

 さて、これで使うかどうか迷っていた、僕由来の例の素材も確保できたし、気分もスッキリしたしで、集中してレムの再生に取り掛かるとしよう。

 今回、贅沢に選び抜かれた素材は、以下のとおりである。


『上質なスケルトンの骨』:スケルトン小隊の隊長級の奴よりも、白く、艶やかで、硬い、上質な骨。こんな骨を持つスケルトンの上位種を、僕はまだ見たことない。


『謎の魔物の骨』:元が何のモンスターなのか分からない、骨の数々。何となく良さそう、と蘭堂さんが選んだモノである。僕は何も感じないし、直感薬学も反応しないけど、多少の魔力が宿っているのかも、と思い、使うことにした。


『バジリスクの骨』:僕とレムが苦労の末に倒したバジリスクの、溶け残った骨の一部。ボスの素材なので、持てる分だけは持ってきていた。


『ゴライアスの焦げ肉』:天道君は瞬殺だったけど、コイツは樋口も恐れる強ボスだ。焼け残った焦げ肉だけでも、何かしらの力が秘められているかもと思い、こっそり布にくるんで持ってきた。


『火竜の鱗』:これまで見てきた中で、間違いなく最強の魔物であり、最高品質の素材である、ドラゴンの鱗。コイツを使わない理由はない。どうか、火耐性ください!


『鎧熊の甲殻』:何かと因縁のある鎧熊。正直、もう会いたくもない強敵だけれど、コイツの甲殻の頑強さは、防具にするには最適だ。


『ナイトマンティスの鎌』:バジリスクを追い込んだ、レムのメイン武器となるカマキリブレード。折角あるんだから、また装備してもらおう。


『ゴアの甲殻』:メイちゃんが倒したことあるけど、その時はコアだけ採取して、剥ぎ取りが難しい甲殻は放置だった。でも、鎧熊には及ばずとも、コイツの甲殻もなかなかの強度。少なくとも、蟻よりは頑丈そうなので、こっちを採用してみた。


『ビショップ・ビーの毒針』:虫の洞窟では出会わなかった、チェスのビショップの名前を冠する蜂の魔物だ。カマキリの鎌ほどじゃないけれど、毒針はサブウエポンとして使えそうだ。


『ルーク・スパイダーの大爪』:元々はボス設定だったはずの、大蜘蛛だ。素材の強度は、鎧熊にも匹敵する。この巨大な爪先が、果たして武器になるのか、防具になるのか。やってみないと分からない。


『大猪の蹄』:分厚く、巨大な、黒光りした蹄。コイツを靴底にすれば、それだけで強力な鈍器になるだろう。


『フサフサした白毛皮』:蘭堂さんイチオシの一品。カシミヤのコートがどうこうと力説してたけど、どうやら、素晴らしい毛並みであるらしい。確かに、触るとフサフサしてる上に、スベスベで、めっちゃ手触りがいい。ちなみに、元がどんな魔物だったのかは不明。


『大きな巻角』:これも蘭堂さんが選んだ素材。ピカピカ輝く、大きくて立派な巻角は、部屋のインテリアにもできそうだ。これも、元の魔物は不明。


『尖った牙』:色んな魔物のモノが混ざっているけど、どれも鋭く質の良い牙。


『鋭い爪』:牙と同じく、色んな魔物から質の良いモノを集めた。


 魔物の素材は以上である。後は、基礎となる素材として、僕の血と精液、マンドラゴラとコアの欠片となる。

 それと、蘭堂さんが土魔術士だということで、今回は彼女が魔法で作りだした土をベースとして使ってみることにした。魔法で作った土なら、そこらの土よりも魔力が含まれてそうな気がする。

 さて、これで全ての準備は整った。いよいよ、レムを創り出そう。

「おおぉー、なんかスゲー呪いっぽい!」

 完成した六芒星の魔法陣を見て、感心してるのか引いているのか、微妙な反応を蘭堂さんがくれる。今回の魔法陣は素材の量も相まって、かなり大きなモノになっているから、堂々と妖精広場に広げたお蔭で、かなり目立つ。話しかけてはこないものの、ジュリマリコンビも天道君の傍らで、チラチラと様子を窺っている模様。

 ちなみに天道君は、タバコをもう一本吸うべきか、それともとっておくべきか、真剣に悩んでいるようで、難しい顔をしてタバコを箱から出したり戻したりを繰り返していた。

 さて、ギャラリーの反応は放っておいて、僕は呪術の発動に集中しよう。

「混沌より出で、忌まわしき血と結び、穢れし大地に立て――『汚濁の泥人形』」

 うっ、これまでにないほど、急激な魔力の消耗を感じる。これ、ちょっと前の僕だったら、そのまま魔力切れでぶっ倒れていたかも。やはり、かなりの量の素材をつぎ込んだせいで、求められる魔力も増大しているんだ。

 や、ヤバい、ちょっと意識が遠くなってきた……でも、もうすぐ、完成する……

「――や、やった、できた!」

 魔法陣全体が混沌の渦と化した中から、ついにレムの全身が現れた。

「よし、成功だ……良かった、おかえり、レム」

「ガっ! ギギ、グゲ、ゴォオオ!」

「おお、レム、ついに『ガ』以外の言葉も発音できるようになるなんて」

 混沌が消え去った魔法陣の上で、仁王立ちしながら復活の雄たけびをあげるレムの姿に、ちょっと感動。

 涙が出そうになりつつも、僕はしっかりとレムの新形態を見つめた。

 ベースになっているのは、やはり黒色のスケルトンであることに変わりはない。けれど、その身に纏う防具型の甲殻は、これまでよりもかなり洗練された形状になっていた。

 漆黒の髑髏面は剥き出しだが、その頭部は鎧熊の甲殻をベースにした鈍色の兜を被っている。そこには、あの立派な巻角がついていて、武将クラスの豪華さだ。

 立派なのは兜だけでなく、黒い骨格が見えないほど、隙間なく全身を覆う鎧も同様。全体的には鎧熊とゴアの甲殻をベースにした、鋼鉄のフルプレートメイルみたいな形。でも、胸元にはドラゴンの赤い鱗が輝き、首にはフサフサの白毛皮があしらわれ、何ともオシャレ。蘭堂さんのセンスが光ってるよ。

 勿論、見た目だけではない。右腕にはしっかりとカマキリブレードが装着されているし、左腕の掌の中に、蜂の毒針が仕込まれているようだ。背中には、もしかして、腕のように稼働するのだろうか。槍のように鋭い蜘蛛の爪が二本、くっついていた。足の先には鋭いスパイクがついていて、靴底は猪の蹄だ。

 うーん、やはり今回のレムは、これまでにない完成度となっている。まだ見ぬレム新形態の戦闘力には、期待せざるを得ない。

「うーん、桃川ぁ、コレさー」

 僕が満足げにレムを眺めていると、蘭堂さんが神妙な顔で言った。

「なんか、あんまり可愛くなーい」

 悲しいけど、これ、戦闘用なのよね。

 思いはするものの、僕は「ごめん」と謝ることにした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 不思議と、勇者のハーレムパーティーと居た時よりも、不快さを感じないことです。
[良い点] 蘭堂さんの色気
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