第89話 天道龍一(1)
「――ったく、妙なことになったもんだぜ」
天道龍一は冷たい石の台座の上に大の字に寝転びながら、つぶやく。
見上げた灰色の天井、そして、周囲を囲む岩壁。およそ現代の日本ではお目にかかれない、石造りの倉庫のような室内で目覚めたことに、これが現実であると認識せざるをえない。
「とんだ厄日だな……いや、それを言うならウチの奴ら全員同じか」
白嶺学園二年七組の生徒達は全員、地球とは別の異世界に飛ばされた――ということになっているらしい。
校内放送で聞いた男の説明、魔法の存在、崩壊する教室、そして、今の目覚め。常識的に考えてありえないことが起こった。だが、どこまで本当のことなのか、確かめようはない。
しかし、龍一の中には不思議と納得の感情が湧きあがる。普通なら「胡散臭ぇ」と一顧だにしないだろうが、何故か、分かるのだ。まるで、この異世界の存在を最初から知っていたかのように。
「ふぅ……あっ、ヤベぇな、異世界ってコトは、もう煙草も手に入らねぇかもしれねーのか」
のっそりと起き上がっては、台座の上に座り込んだまま、龍一は手馴れた動作で煙草を吸う。吸ってから気づいた、もう、あまり残りがないことに。
「くそっ、涼子に一箱とられたのが痛かったな」
口うるさい委員長から没収された、まだ封を切ってもいない新品の一箱に思いを馳せても、もう遅い。手持ちの煙草は、隠し持っていたこの一つで最後だ。
「そんじゃあ、そろそろ行くとするか」
特に何も考えず、ボーっと煙草をふかし終えた龍一は、落ち着いたように、いや、目覚めてから特に慌てることもなかったが、ともかく、ようやく行動を始める気になった。
「っと、その前に、魔法陣だったか……胡散臭ぇな」
ノートを広げて改めてみると、実に怪しい。こんなモノに縋ろうとする自分が情けなくなってくる。
しかし、ここは魔法の存在する異世界であるに違いない。そして、危険な魔物が闊歩するダンジョンであるとも言われている。龍一は腕っぷしには多少の自信はあるものの、普通の人間である。どんなに鍛えた人間であっても、体一つでは野生動物にすら太刀打ちできはしない。非常に怪しいが、まずはこの魔法陣を使って、例の魔法の力とやらを授かるしか選択肢はない。
「天上の神々よ――」
びっくりするほどヤル気の棒読みで、龍一は呪文を唱える。神頼みのような一文は、自分の性に会わない。もっといえば、手書きの魔法陣に手を置いて大真面目に堅苦しい呪文を朗読するなんて、オカルトをこじらせたアホしかやらないような真似を、自他ともに認める不良の自分がやることになるとは。一体、どんな罰ゲームだろうか。
すでにして、龍一の心は重い。
「――ここに天命を果たすことを誓う」
いざやってしまえば、短い一文を読み上げるなどすぐに終わる。説明の通り、滞りなく儀式を終えたのだが……
「おい、なんだよ、やっぱ何も起こらねーじゃねーか」
何の変化も起こらない。あの黒板で見たような、如何にも魔法が発動していますと示すように、光ったりもしない。
「ちっ、何が魔法だよ、こんなもんに一瞬でも頼った俺が馬鹿だったか――ぐうっ!?」
その時、龍一の全身に途轍もない衝撃が走る。
十人の不良を相手に大立ち回りをしても、ナイフを持ち出した不良に腹を刺されても、バイクに轢かれても、決して膝を屈さずに戦い続けられるタフさを持つ龍一であったが、苦しみに呻いて倒れるしかないほどの、激痛であった。
「ぐあっ!」
ドクン、と一際大きく心臓が脈打つのを感じた。痛い、苦しい。体中に駆け巡る血液の量が二倍にも三倍にも膨れ上がったかのように、全身が破裂しそうな感覚。
「ぐ、おっ、あぁああああ……」
死ぬ。それほどの苦痛。
心臓のある胸元を抑えながら、もがき苦しむ龍一はしかし、死ぬとは思わなかった。
今までに経験したことがない、正に死んでもおかしくない激痛と症状であるが……違うのだ。苦しいのは、病気でも毒でもない。
これは、力だ。
とんでもない力が、心の奥底から湧き上がってくるようにあふれ出て、自分の肉体だけでは器が小さすぎるとでも言うように、体内で荒れ狂っているのだ。
「があっ……く、そが……何が、魔法の、力だ……」
魔法に対するイメージが甘かった。てっきり、おとぎ話に登場するような、呪文一つで不思議なことが起こるとか、技の名前を叫んだだけで火の球がぶっ放せるとか。そんな、安直なイメージ。
「こ、この、力は……」
もし、これがこの異世界における魔法の力だというのなら、それはきっと、夢と希望に溢れた奇跡の力などではなく……どこまでも純粋な『暴力』であった。
「う、ぐぁあああああああああああああああああっ!」
ついに体が爆発する。そんな痛みが最高潮に達した瞬間、龍一の目の前に、いや、頭の中に刻みつけられるように、強烈な情報のイメージが駆け巡った。
王位継承・天道龍一
天職・『王』
第一固有スキル『弱肉強食』――第二固有スキル『――』――
継承スキル・『覇道』・『王剣』・『宝物庫』
どれだけの時間、気絶していたのか。最初の目覚めよりもさらに重苦しく、体を起こした龍一は、まず、煙草を探してポケットを漁った。
ついさっき全部吸い終わってしまったことを思い出し、舌打ちを一つ。そして、さらにもう一つ、思い出す。
「……ははっ、まるでゲームの世界だな」
脳裏に焼きついた情報。天職、固有スキル、継承スキル、そんな言葉の数々。こんな単語、日本ではゲームの中でしかお目にかかれないだろう。
「ゲームなんざ、ガキの頃に悠斗とやった以来だが……」
小学生の辺りまでは、自分も普通にゲームで遊んでいた覚えがある。あんな子供だましの機械でも、純粋に楽しく遊んでいた時代もあったもんだ。
龍一にとっては遥か過去の懐かしい思い出の一ページでしかないが、今は、その記憶と経験だけで、事を理解するには十分だった。
「……とりあえず、これでやってみるか」
そうして、天職『王』天道龍一はダンジョン攻略を始めた。
目覚めの部屋と同じような、石造りの通路を歩くこと五分。ソイツはフラリと曲り角から現れた。
「おいおい、出てくる奴までゲームと同じじゃねぇかよ」
その魔物は、中学の理科室に置いてあった、人体模型の骨だけの方が、そのまま動き出したような奴であった。要するに、人間の全身骨格そのままの姿である。
「スケルトン、とか言う奴だろ、お前」
龍一の問いかけに答えるはずもなく、動く全身骨格、すなわち『スケルトン』は、ゆらりと接近してくる。カタカタと骨を鳴らしながら、その手に握った木の棍棒を振り上げた。
「へぇ、骨野郎でも、ちったぁヤル気ってのはあるんだな――オラぁ!」
スケルトンが振り上げた棍棒を叩きつけるよりも前に、龍一は急接近して一気に間合いを詰める。相手の獲物は棍棒。黒高の不良が振り回す金属バッドのようなものだと思えば、慣れたものである。
ただ、肉も皮もない骨だけの体、そして、一応は『魔物』と呼ばれる存在との、初めての戦いということで、龍一は手加減なしの全力で殴りつけた。
本気のパンチをぶちかますのは、思えば久しぶりであった。中学の頃からの相棒である、メリケンサックを装着したのは、もっと久しぶり。
けれど、体は鈍ることなく一連の攻撃動作を流れるように実行。ポケットに忍ばせていたメリケンは抜刀術のような素早さで引き抜き装着。握った拳を鋼鉄のリムで固めた、素手というより最早、鈍器に近い威力でもって、スケルトンの顎を撃ち抜く。
「うおっ、なんだよ、拍子抜けだな、おい」
覚悟していたよりも、遥かに脆い衝撃が拳に伝わった。アッパー気味に放った一撃は、綺麗にスケルトンの顎を捉え、その頭を吹き飛ばす。
ガシャリ、と音を立てて、鼻骨のあたりまで砕け散った髑髏が、石の通路に転がった。それと同時に、全ての動力を失ったように、スケルトンは棍棒を振り上げた間抜けな格好のまま、力なく倒れた。
「弱ぇ……いや、コイツが特別弱いのか?」
ゲームのような能力。ゲームのような敵。ならば、このダンジョンもゲームのように、レベル1からスタートして順当に成長できるよう、敵の強さもほどよく調整されているのかもしれない。あるいは、たまたま最弱の魔物と出会ったか。
別にどっちでもいいか、と深く考えても仕方がないことを打ちきる。
「まっ、こんなモンでも、無いよりはマシか」
そして、とりあえず初の戦利品である棍棒を手にした時、それは起こった。
『王剣』:王に相応しい剣を拵える。
コレを使え、と訴えかけるように、頭の中に刻み込まれたスキルの名前が強く反芻された。
「王剣って、この原始人しか使わねーような棍棒が――うおっ!?」
その時、黄金の輝きが、龍一の手にする薄汚れた棍棒から発する。眩しい。よく見れば、転がったスケルトンの死体も、同じような金色に光り輝き始めていた。
対象素材設定
『木の棍棒』
『スケルトンの骨』
王剣精製開始――完了
そんな言葉が脳裏を過ると共に、眩しい金の光も収まった。
そして、龍一の手には『王剣』として形成された武器が握られていた。
それは、荒い削りの木の代わりに、骸骨の背骨がそのままくっついたような、刺々しい太い骨が伸びる――
「いや、釘バットだろコレ」
どこらへんに剣の要素があるよ、と龍一は突っ込まざるを得ない。この形状、この長さ、そして、ほどよく生える骨の棘。どれをとっても、黒高四天王の一人『釘バットのマサ』が振り回していたモノと一致する。奴は愛用の釘バットを骨のようなペイントにして使っていたのだ。一目見て「うわ、ダセぇ!?」と思ったものだが、まさか似たようなモノを自分が手にするとは……正確には、スケルトンの骨で作った棍棒、というべき武器であるが、その形から釘バットであるとしか龍一には思えなかった。
「別に、何でもいいけどよ」
少なくとも、木の棍棒よりかはしっかりした造りで、武器としては上等になったと思えば、悪くはない。
龍一は剣とは名ばかりのスケルトン釘バットを携え、さらに通路を進んで行った。
「――骨、骨、骨ばっかじゃねーか」
進んだ先に出現するのは、ただひたすらにスケルトンであった。
スケルトンは手に棍棒や槍などの武器を持ってはいるものの、どこか動きは緩慢で、複数同時に現れても、さして脅威にはならなかった。
「もう飽きたっつーの!」
何十体目になるか分からないスケルトンを、釘バットのフルスイングで打ち砕く。
一応『王剣』が反応しているのか、定期的にスケルトンの体を金色の光で包んでは消していく。見た目は変わらないが、恐らく、補修しているのだと思われた。龍一のパワフルなスイングで、次々と硬い骨の体をぶっ叩いていては、ヒビの一つも入るし、骨の棘も欠けたりもする。
しかし、王剣が反応した後は、新品同様にツルツルピカピカの綺麗な骨になっている。
「それにしても……妙な感じだ。どうなってんだ、こんだけ動いてんのに、全然、疲れねぇ」
龍一として気になるのは、王の棍棒と化している王剣の能力よりも、自分自身の変化であった。
それなりの距離を歩き回っては、気まぐれに出現するスケルトンを潰している。体力にはそれなりに自信がある龍一だが、一度も休息することなく歩いて戦い続けても、息切れ一つしないのには流石に違和感を覚える。
「もしかして、レベルアップ、とかしてんのか?」
このゲームのような世界なら、ありえない話ではない。敵を倒せば倒すほど、体力やら攻撃力やらが段階的に引き上がっていく、ゲームならではのシステム。
「それとも、魔力ってヤツで強くなってんのか……」
すでに、魔法陣からのメール情報によって、基本的なことは知っている。だが、それだけでは自分の体の変化を説明できるものはなかった。
「これも、どっちでもいいか。どうせ、先に進むしかねーんだからな」
そうして、龍一のダンジョン攻略は進んだ。
半日ほどダンジョンを彷徨い、最初の妖精広場を発見した時に、龍一は第三のスキルの効果を知った。
『宝物庫』:王の財宝を収める蔵。
その、蔵に収めるべき、最初の王の財宝となったのは、妖精胡桃であった。
「何だコレ、四次元ポケットじゃねーか」
正確には、ポケットではなく、魔法陣であるのだが。
発動を意識すれば、手元に金色に輝く円形の魔法陣が描かれ、そこに物体を入れると、どこともしれない謎の空間に収納されていくのだ。
中に入っているモノは、何となく分かる。魔法陣さえ展開していれば、出し入れは自由自在。広さは、流石に四次元といえるほど無限の広大さはないが、少なくとも、人間が持って運べるよりも遥かに多い物量を収納できるだけのスペースがあると感じられた。
「こんな便利なモンがあるんなら、骨どもの武器も回収しとけば良かったか」
スケルトンは必ず武器を持っており、中には刃のついた剣などもあった。もっとも、錆びついていて、とても上等なモノではなかったが。
骨の体のスケルトン相手に、品質の悪い剣や槍などはあまり有効ではなさそうなこと、何より、手持ちの荷物が増えることを嫌って、龍一は最初の棍棒以降、一つも戦利品を回収しなかった。
「いや、どうせこの先もゾロゾロ出てくるだろうし、別にいいか」
もし質の良い武器を持ってる奴がいれば、いただけばいい。そんな風に割り切って、龍一はクルミと水の侘しい食事を終え、すぐにダンジョン攻略を再開した。
結局、道中に現れるスケルトンからは、欲しいと思えるほど良い武器は得られなかった。
「……ちょっと大きくなってる気がする」
数多のスケルトンを撲殺した果てに、『王剣』こと骨の釘バットは、どんどん大きくなっていた。
人の力で振るうなら、バットくらいのサイズがちょうどいい。しかし、今の骨釘バットは、一メートル以上もの長さを誇る。太さも二回りはサイズアップしていた。
これほど大きなサイズになると、ただ振るうだけでも力がいる。武器は大きければいいというものではない。下手に大きすぎるサイズだと、マトモに振るえず、スケルトンにさえ後れを取るかもしれないのだが……今の龍一には、この大きさ、この重さが、不思議と手に馴染んだ。
どうやら、戦い続けても疲労を感じないスタミナだけでなく、単純な腕力までもが強くなっているのだと、龍一ははっきりと実感したのだった。
「レベルアップも武器の強化も上々……それで、いよいよボスのお出ましってか」
これまでに見たことがない、大きな両開きの扉を潜った先に、ソレは現れた。
「にしても、ボスまで骸骨かよ」
他のスケルトンとは、比べ物にならない大きなスケルトンであった。ドーム球場のマウンドのような円形広場の中心に、全長3メートルほどのボススケルトン、としか言いようのない魔物が佇んでいた。
「けど、お前は楽しめそうだ」
ちょうど、愚鈍なスケルトンを片っ端から叩き潰す作業には、もう飽き飽きしていた頃だ。
ボススケルトンは、その巨体でありながらも、意外なほど機敏な動作で身を翻す。そして、入り口から堂々と入場してきた龍一を獲物と見定めたのだろう。傍らに突き刺していた、長大な大剣を引き抜いた。
「来いよ」
ドっと音を立てて、ボススケルトンが素早い踏込みで急接近。両刃の十字剣の形をした大剣を振り上げる動作も早い。およそ、普通の人間では反応できないほどの、速度、そして、恐ろしいほどのリーチでもって、龍一へと襲い掛かる。
「――っと、デカい割に、結構速いじゃねーか」
遥か頭上から振り下ろされた大剣の一撃を、一歩だけ横にずれて回避。凄まじいパワーで叩きつけられた巨大な刃が、地面から土埃を盛大に舞い上げる。
迸る風圧に金色の髪を揺らしながら、龍一は笑った。
「けど、悠斗ほどキレはねーな。お前、剣術は素人かよ」
そんな言葉を置き去りにするように、龍一はボススケルトンの懐へと飛び込む。すでに両手には、骨釘バット(大)が握られ、大きく振りかぶられていた。
「オラァっ!」
気合い一閃。全力で振り抜かれた骨の鈍器は、ボススケルトンの膝の関節にクリーンヒット。鈍い音と共に、膝の皿にビキビキとヒビが入った。
「流石に一発じゃあ、砕けねーか」
足を崩せば、二足歩行の人型である以上、倒れざるを得ない。
しかし、ボスの動きは明らかに鈍ったように見えた。痛みを感じている様子はないが、動作に支障が出るほどのダメージを負ってしまったということ。
「勝負はついたようなもんだが……ボス相手に油断するのは危ねーよな。悪ぃな、全力で潰させてもらう」
そこから先は、龍一の一方的な打撃の嵐が吹き荒れた。
まず、すでにヒビの入った膝を完全に破壊する。片足を失い倒れた後は、破壊すれば動きが止まる弱点らしき頭と、唯一の武器である剣を握る右手を中心に叩く。
倒れたボスにできたのは、二度ほど大剣を薙ぎ払うように振るう、苦し紛れの反撃のみ。龍一は無尽蔵のスタミナを生かして、素早くステップを刻み続けてボスの悪あがきに囚われることなく、殴打を加え続けた。
「おっ、先に右手の方が壊れたか、それなら――」
指の骨が砕かれ、ついに大剣を手離してしまったボス。龍一は地に落ちた大剣を、ボスの左手が伸びるより前に、抱え込むようにして拾い上げる。元より、身長3メートル級の大型スケルトンが使う剣。その柄は、とても人間が握り絞められるほどの細さはない。
だが、地に倒れて死に体の相手に振るうには、十分な凶器であった。
「――これで、終わりだっ!」
首に向かって、ボスの大剣を叩きつけた。さしもの大型スケルトンも、規格外の巨大な刃にかかれば、その太い頸椎も耐えられない。
大きな髑髏の首が転がり、戦いはその幕を下ろした。
「……転移って、本当にコレ、大丈夫なのか?」
ボスとボス部屋、そして転移魔法陣の使用については、魔法陣メールで確認済み。しかし、いざ広間の中央で大きな魔法陣が光り出すと、飛び込むにはちょっと尻込みしてしまった。
すでに、ボスからコアは回収している。分厚い頭蓋骨の中に、コアは転がっていた。
「飛ぶ前に、試しておくか」
ボスを倒せば自動的に転移魔法陣が展開されたが、ここには倒れたボスの死骸と、トドメとなった大剣がある。
「コイツを使えば、今度こそ剣になりそうだしな」
龍一の期待は、明確な意思となって、スキルの発動を導いた。
対象素材設定
『ラージスケルトンの骨』
『グレートソード』
王剣精製開始――完了
そして、金色の輝きが過ぎ去った時には、龍一の手には一振りの大剣が握られていた。
「おお、結構いい感じじゃねーか」
白い骨の柄に、ボスの大剣『グレートソード』の刃が生えたような、無骨な造り。綺麗でもなければ、精密でもない、荒い剣。しかし、今の龍一にとってちょうどいい重さとリーチを備え、なにより、ギラリと輝く巨大な刃が、棍棒とは比べものにならない絶大な破壊力を与えてくれる。
この武器ならば、もし次に同じボス、『ラージスケルトン』とやらが現れても、一刀のもとに切り伏せられる自信があった。
王剣の出来に満足した龍一は、いよいよ出発の覚悟を固めて、いざ魔法陣へ。最後に、王剣の精製で中途半端に骨が消え去った残骸となっているボスを、何ともなしに振り返り見た時に、気が付いてしまった。
『弱肉強食』:喰らえ。倒した敵を糧に、さらなる高みへ
「お、おい、もしかして……」
龍一は戦闘の時では一度も見せなかった、眉をひそめて硬く目を瞑り、深く思い悩むような渋い表情。実際、悩んだ。この固有スキルを試すかどうか。
龍一は結局、親指ほどの小さな骨の一かけらを、煙草の代わりとでも言うように、口にくわえたのだった。
捕食スキル
『ボーンクラッシャー』:骨に対する攻撃力を高める
『ニューボーン』:骨の再生力が上がる
2017年5月24日
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