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呪術師は勇者になれない  作者: 菱影代理
第5章:最悪のハーレムパーティ
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第56話 反旗

 前回の話で説明不足だった点があるので、先に捕捉させていただきます。


 メイちゃんと剣崎の決闘は、二人だけで、妖精広場とは別の場所で行いました。

 鎧熊と戦った場所、とありましたが、矛盾になるので訂正しました。

 蒼真桜と委員長の二人は、妖精広場で待機しています。決闘の場にはいません。

 小太郎、夏川美波、小鳥遊小鳥、の三人は同じく妖精広場にいて、熟睡していて決闘のことも知りません。


 以上の状況を踏まえて、どうぞお読みください。

「キャァアアアアアアアアアアアっ!?」

 という、いつもの小鳥遊さんの悲鳴が耳をつんざいて、僕は慌てて飛び起きた。

「うわぁ!? なんだっ、敵襲かっ!?」

 キョロキョロと辺りを見渡すが、魔物の姿は見えない。いつもの見慣れた妖精広場に、まだちょっと見慣れないメンバー達の姿が。どうやら、僕が仮眠していた噴水とは反対側の女子エリアで、女子連中で集まって何やら騒いでいる。三人集まれば姦しい、なんて聞くけれど、今の悲鳴は流石にちょっと緊急事態を思わせる響きだった。叫んだのは小鳥遊さんだけど、委員長や夏川さんも似たような反応だ。

 うん、アレは間違いなく、何かあったようだ。

「あのー、ちょっと、何かあった? 大丈夫――」

 何て呑気に問いかけた僕の言葉は、それを目にした瞬間に凍りついた。

「あ、小太郎くん。やったよ、私、剣崎さんとの決闘に勝ったんだよ!」

 これで剣崎さんは、小太郎くんの言うことを何でも聞いてくれるよ、という朗らかな奴隷宣言は、僕の耳を右から左に通り抜けていく。

 にこやかな笑顔のメイちゃんが、ごみ袋でも引きずっているかのように、無造作に掴んでいるのが剣崎明日那であった。

 後ろの襟首を掴まれて、ぐったりと力なく手足を投げ出している。ピクリとも動かないのは、まるで死体のようだ。それも、凄惨な暴行事件の被害者にでもなったかのように、酷い有様の。

 顔が、酷く腫れていた。ありていにいえば、ボコボコだ。痣で青くなる、なんてレベルを遥かに超えて、赤黒く変色したように顔面全体が腫れ上がっている。剣崎明日那の、凛々しい美少女の面影は、どこにも見えなかった。

「あ、う、嘘……明日那……」

「そんな、なんてこと……」

 剣崎さんの変わり果てた姿に息をのむのは、僕だけでなく、蒼真さんと委員長も同じ。夏川さんと小鳥遊さんなど、もう声も出ないほどに震えあがり、小動物のように身を寄せ合って固まっているだけだった。

「どうしたの皆、大丈夫? あ、もしかして剣崎さんのことを心配しているの? あはは、それなら大丈夫だよ、ちょっと気絶してるだけだから――」

 えい、と可愛らしい掛け声と共に、空き缶でも放り投げるような気軽さでもって、メイちゃんが剣崎さんの体をぶん投げた。とても人に対する態度ではない、物扱いである。

 ゴロゴロと粗大ごみのように転がった彼女の体は、ちょうど蒼真さんの足元で止まった。

「はい、蒼真さん、早く治してあげた方がいいよ」

 蒼真さんは、呆然とした表情で剣崎さんを見下ろすだけで、治癒魔法を使う様子はない。現状を理解できていないのか。それとも、この残酷なまでに無様な姿の少女を、友人であると信じたくないのか。

「――剣崎さん!」

 ボーっとしている場合じゃない。剣崎さんは、かなりの重傷だ。下手したら、外傷だけじゃなくて、頭に致命的なダメージが入っているかもしれない。

 恐らく、顔面を執拗に殴られ続けたのだろう。それも、ただの人間ではなく、恐るべき狂戦士のパワーを持つ、メイちゃんに。僕だったら一発だけでも耐えられるかどうか分からないのに。

 ポケットの中から携帯用に小分けにしておいた傷薬Aの入った袋を取り出しながら、僕は地面に力なく身を横たえる剣崎さんの元へ駆け寄った。

 うわっ、近くで見ると、本当に酷い。目を背けたくなるほど。それでも、呼吸はしているし、手首の脈もある。死んでるようにしか見えないけど、どうやらメイちゃんの自己申告の通り、気絶状態にあるとみえる。

 だからといって、安心などできる状態ではない。僕は袋に手を突っ込んでどっぷりと薬をとると、緊張と動揺に震える指先で彼女の顔にそっと塗り始める。

「蒼真さん! 早く治癒魔法をかけて!」

「えっ、あ……」

「手遅れになるかもしれないから! 顔に一生傷痕が残ってもいいの!?」

 僕の必死の呼びかけにようやく我を取り戻したのか、蒼真さんは祈るように手を重ねて、僕には聞き取れない魔法の詠唱を始めた。

「お願い、明日那を癒して――『癒しの輝きヒーリングライト』っ!」

 ぼんやりとした優しい輝きが、剣崎さんの頭を包み込む。すると、流石は聖女の治癒魔法。見る見るうちに腫れは引いていき、ひとまずは、顔を直視できる程度には回復した。

 けれど、『癒しの輝きヒーリングライト』は魔法の力で一時的に元通りにするだけだから、こうして薬もちゃんと塗っておかないと、効果が切れるとまたすぐに腫れ上がってくるだろう。完治するには少しばかりかかりそうだけど、僕の傷薬Aなら、とりあえず動くに問題ないくらいには。一日もかからず治してくれるだろう。

「はぁ……」

 ひとまず治療も終えたところで、僕は重苦しく息を吐きながら、恐る恐る、顔を上げてメイちゃんを見た。

「あれ、こ、小太郎くん……?」

 酷く、困惑した表情をメイちゃんは浮かべている。正直、困惑しているのは僕の方なんだけど。

 少なくとも、剣崎さんがボコられた姿を見て、「あははっ、暴力女ザマァ!」とは、とてもじゃないけど喜べない。たとえ嘘でも、こんな酷い姿を見せられては、笑顔なんて浮かべられないよ。自分でも、今の顔が眉をしかめて険しい表情に強張っているのが分かる。

「どうして、こんなことしたんだよ」

 まずは、これを聞かないことには始まらない。僕の聞き間違いでなければ、何やら、剣崎さんと決闘したとか、それで勝った、とか言っていたような気がするんだけど。何がどうなって、そんな決闘騒ぎになったのか、僕には皆目見当がつかない。

「え、あれ、何で……喜んで、くれないの?」

「喜ぶわけないだろっ!」

「あ、あの、私……ごめんなさい……小太郎くんのためだと、思って……ごめん、なさい……」

 しまった、焦りのあまりに、声を荒げてしまった。

 メイちゃんの解答は要領を得ない。そんなに、僕のリアクションが予想外だったのだろうか。あるいは、少しばかり恨みはあるけれど、それでこんなに女の子がボコボコにされて喜ぶような外道だとでも思われていたのか。

 ああ、ダメだ。何が何だか分からな過ぎて、ロクに頭が回らない。メイちゃんは今にも泣き出しそうな、というかもうすでに薄らと涙を円らな目の端に浮かべて、とても冷静ではない。

 ぶっちゃけ、僕だって今すぐ泣き出したい。メイちゃんが剣崎さんを一方的にボコった。この状況は、確実に今後のパーティ関係に修復不能なほどの亀裂を生むことになるだろう。

「分かった、いい、もういいよ、メイちゃん。大丈夫だから。落ち着いて、無理に話そうとしなくていいから」

「で、でも、でもぉ……私は、ただ……うぅ……」

 こうしていると、ダンジョンで出会ったばかりの頃を思い出すなぁ、なんて、現実逃避的に浸っているわけにはいかない。ともかく、状況確認ができないと、対処のしようがない。

「あの、委員長は、何があったのか、分かる?」

「……ええ、説明するわ、桃川君」

「待って! 違うの、私は本当に、小太郎くんのために――」

「大丈夫、分かってるよ、分かってるから、メイちゃん。ありがとう、僕のために、やってくれたことなんだよね」

 今にも震える両腕で委員長に掴みかかりそうな雰囲気だったから、僕は慌てて、メイちゃんの手を掴んだ。とても鎧熊を殴り殺したとは思えない、白くて細い、綺麗な手を、握る。温かい。こんな状況下でも、ちょっとドキドキと異性を意識してしまう自分に嫌悪感が募った。

「こ、小太郎くぅん……」

 とうとう、さめざめと涙を流して泣きじゃくり始めるメイちゃんを、大丈夫大丈夫、と慰めながら、僕は貴重な真実の証言者たる委員長へと、視線を向けて話を求める。

「ごめんなさい。こんなことになるのなら、無理をしてでも止めるべきだったわ……桃川君、決闘を言い出したのは、明日那の方なの――」

 そうして、委員長は教えてくれた。

 彼女達も、明確にリーダーを決めようと相談していたこと。そこに、メイちゃんが割って入って、僕こそがリーダーに相応しいと熱弁を振るったこと。

 彼女の意見に一理はある、と認めようとした時に、剣崎さんが強く反発した。自分より弱い奴には従えない、と。どんな誇り高い戦士キャラだよ、とツッコミたくもなるが、あの剣崎明日那ならそういうことを言い出してもおかしくはない。

 そして、売り言葉に買い言葉、というべきなのだろうか。ならば、お前より強ければ言うこと聞くんだな、とメイちゃんが決闘で白黒つけようと言った。そして、それを剣崎さんは自信満々で受けて立ち――今に至ると。

「そ、そんな……なんてこった、本気でそんなことするなんて……」

 もう溜息しか出てこない。あまりに荒唐無稽な話の流れだ。お前らは週刊少年誌で連載している格闘マンガの登場キャラかよってくらい、血の気の多すぎる展開。しかも、それをやってのけたのが、女の子同士というのがもう意味が分からない。

 女の喧嘩って、もっとこう、靴に画びょうを仕込むとか、トイレ入ってる時に上からバケツで水ぶっかけるとか、援助交際しているとデマを流すとか、そういう物理ダメージ一割、精神ダメージ九割、みたいな精神攻撃が中心になるんじゃないのかよ。なんだこれ、100%物理攻撃じゃないか!

「本当にごめんなさい。よくない結果になることは、分かり切っていたけれど……何としてでも、止めきるべきだったわ」

「いや、委員長だけの責任じゃないよ」

 因果応報、といえば蒼真さんあたりが文句を言いそうだけど、正直、僕はそう思う。決闘を言い出したのはメイちゃんだけど、それは相手がこの剣崎明日那だからこそ。実質、剣崎さんが言い出したも同然だ。

 覚悟はあっただろう。怪我の一つや二つ。勝負が甘いものではないということも、彼女なら知っていたはず。そして、メイちゃんの狂戦士としての力を多少なりとも見ていれば、決して楽勝できる相手でないということも、理解していた。

 それでも、彼女は決闘を承諾した。その結果、手酷い傷を負って敗北しても、結末としてはありえるものの一つに過ぎない。勝つか負けるか、二つに一つ。まさか剣崎さんだって、絶対に自分が勝てると確信できる、格下にしか決闘を挑まないクズではないだろう。格ゲーの初心者狩りでもあるまいに。

 その覚悟を背負って負けたのなら、甘んじてこの負傷も受け入れるべき。そして、約束の通り、剣崎さんはメイちゃんの言うことに従う。奴隷のように。それだけのことを、彼女は賭けたのだから。

 と、そんな結果をみんなが納得できるはずもない。この酷い有様を見れば、僕だって感情的に思ってしまう。やり過ぎだと。

「うっ、うぅ……ごめんなさい、小太郎くん……私、こんなことに、なるなんて……」

「いいんだ、僕のことを、いや、これからのみんなのことを思って、メイちゃんは言ってくれたんだから」

 それから、ややしばらく、メイちゃんがすすり泣く声だけが、虚しく妖精広場に木霊した。

「――リーダーは委員長にしよう」

 そもそもの発端となった、リーダー議論を決着させるべく、僕は沈黙を破って言い放った。

「えっ、でも、私は……桃川君は、それでいいの?」

 あからさまに困惑の表情の委員長。蒼真桜は、てっきり僕がリーダーと言い放つのかと思っていたのか、やけに驚いた顔をしていた。

 夏川さんと小鳥遊さんは、すでに話についていけないよーとばかりに、いまだに身を寄せ合って震えている。

「みんなとしては、蒼真さんか委員長、リーダーになるのは正直、どっちでも構わないといったところでしょ?」

「それは、まぁ……」

「ええ、その通りです。どちらがリーダーになっても、特に遺恨はありません」

「なら、僕は委員長の方を支持する」

 立候補者を除き、剣崎さん、夏川さん、小鳥遊さん、三名が「どちらでもよい」と投票を辞退しているなら、決定権は僕とメイちゃんに委ねられる。メイちゃんがこの期に及んで僕の反対意見を言い出すとは思えないから、実質、これで委員長に二票の賛成票が投じられることとなる。これで、決議を出す過半数意見の成立だ。

「一応、涼子をリーダーに推す理由を、聞いてもいいですか」

「蒼真さんとは、まだ誤解が解けてない、と言うべきなのかな……僕のことを、あまり信じてくれていないから」

 要するに「お前、俺のこと嫌いだろ」ということである。でも、あえて波風の立つ物言いはするべきじゃない。まして、僕みたいな弱者はね。

「確かに、私は桃川君のことを信用していません。ですが、私はそれで扱いをあからさまに差別するような、卑劣な人間ではありません。そう思われるのは心外です」

 まぁ、よほど察しの悪い奴じゃなければ、僕の本当の言い分に気づかないはずもないか。蒼真さんは、ちょっとムっとした表情である。

「別に蒼真さんの心根を疑ってるワケじゃないけど、でも、委員長にはこれまでも色々と庇ってもらったからね。リーダーとして彼女を選ぶのは当然だよ」

 蒼真さんと委員長、その信頼度など、比べるべくもない。

 ぶっちゃけ、僕はもう蒼真桜との関係修復は不可能だと思ってる。彼女は人間的には正しい。だが、潔癖だ。そして、感情的。一度でも嫌った相手には、容赦がない。土壇場になれば、彼女は何の躊躇もなく僕を切り捨てるだろう。あるいは、悪意もなく、無意識に死地へ差し向けるような命令を出しそうな気さえしてくる。

 その点、委員長はかなりの安パイだ。みんなを公平に見ている、それこそ、こんな僕の肩だって持つことも――なんて、素直に評価するほど僕はお人よしでもない。

 委員長が僕を庇ってくれるのは、他でもない、メイちゃんへの罪悪感があるからだ。剣崎明日那をここまでフルボッコにした以上、それに加えてかなりの恐怖心もあるだろう。一度見捨てた、罪がある。次は、自分がこうならない保証はない。

 だから、委員長はメイちゃんがいる限り、メイちゃんが信じる相棒である僕を、そうそう軽んじることはできない。

 恐怖心はシンプルであるが故に、絶対的。それに背くことはできない。委員長はよほどのピンチにでも陥らない限り、僕に無理をさせることはないだろう。だから、委員長のことは、信頼できる。彼女が、メイちゃんよりも弱い限り。

「分かったわ、私がリーダーになる。至らないところもあると思うけれど、みんな、よろしくね」

 パチパチと寂しい拍手で、委員長のリーダー就任を祝う。

 けど、これで終わりじゃない。どうせ、このパーティ全員が和解を果たすのは、もう不可能だ。だったら、僕は多少強引にでも、居場所は作らせてもらう。

 方針転換をする、覚悟は決まった。これを言い出したら、もう、後には引けなくなる。

 でも、言う。だからこそ、言うんだ。

「それと、もう一つ。メイちゃんが剣崎さんと決闘までして、僕をリーダーに推してくれたんだ。だから、それに応えたい――僕は、サブリーダーに立候補する」

「そっ、そんなの、認められるはずありません!」

「勿論、無理矢理になるつもりはないよ。公平に、多数決で決めればいい。蒼真さんが立候補しないなら、自動的に僕に決まるけど――」

「私はサブリーダーに立候補します。これで、私に決まりです」

「いいや、まだ決まらない。お互い、同数だよ」

 察しが悪いな、蒼真桜。お前の足元に転がってる奴が、誰だか忘れたのか。

「夏川さんと小鳥遊さんは、蒼真さんに賛成でしょ。でも、剣崎さんは――僕に賛成だってさ」

「なっ!?」

「そうだよね、メイちゃん?」

 ありがとう。これは、メイちゃんが勝ち取ってくれた、清く尊い、血塗れの一票だよ。

「あっ、小太郎くん……うん、うん、そうだよ! 私も剣崎さんも、小太郎くんに賛成するよ!」

 晴れやかに言い放つメイちゃん。良かった、ようやく、泣きやんでくれた。

「ふざけないでください! 桃川君、貴方は、人の意思を何だと思っているのですかっ!」

「意思も何も、これは剣崎さんの自由意思でしょ。負けたらメイちゃんの言う事を聞く。誇り高い剣崎流剣士の剣崎明日那さんが、そう誓ったんだよ。部外者の蒼真さんが、口を挟むことじゃあない」

「詭弁です!」

「それは、剣崎さんが起きたら本人に聞いてよ。決闘で賭けた約束なんて、嘘なんだろって。どうせ、ただの女子高生が冗談半分で口にする、軽い口約束なんだろうって、ね」

 剣崎明日那は裏切れない。その誇り高さが故に。メイちゃんには、もう逆らえない。そして、メイちゃんは僕のことを信じてくれる。

 本当にありがとう。メイちゃんのお蔭で、僕は剣崎明日那という駒を手に入れられた。多少の無茶は、これで通せる。

「僕は、あの剣崎さんなら、ちゃんと自分で言い出した約束は守ってくれると思うな。だから、メイちゃんが賛成してね、と『お願い』すれば、剣崎さんも本意ではないだろうけど、賛成してくれるはずだよ」

「そ、そんなことが……許されない、そんなの、許してはいけません……」

「ともかく、これで獲得票はお互い二つ。決定権は、委員長に委ねられたワケだけど――」

「涼子っ!」

 懇願するように、蒼真桜は叫んだ。委員長も、流石に僕がこんな無茶を言い出した以上は、危険と考えて二つ返事で蒼真桜をサブリーダーにするだろう。

 だから、ここは売り込もう。僕をサブリーダーにすることのメリットを。

「委員長、答えを出す前に、先に聞いて欲しいんだけどいいかな?」

「……何よ、桃川君」

「僕がサブリーダーになったら、基本的には委員長の指揮に従うよ。カマキリの時みたいに、奇襲を受けたような非常時でもなければ、僕が戦いで口を挟むことはしない。アドバイスが欲しいなら、いくらでもするけどね。僕も大したことはできないけど、それでも、みんなと協力して、精一杯、頑張ることを約束するよ」

「そ、そう、それは、どうもありがとう……それだけ?」

「もし、万が一だけど、僕がサブリーダーになれないなら……僕はこのパーティを離れる。メイちゃんと、剣崎さんを連れてね」

「っ!?」

 剣崎明日那は人質だ。蒼真悠斗とはぐれた以上、剣崎さんは蒼真パーティに残された貴重な前衛だ。小鳥遊さんというお荷物を抱えた状態で、果たして夏川さん一人だけで、前衛を支えきれるのかな。見ろよ、あの蟻の数を。そして、メイちゃんをして強敵と言わしめたカマキリ。まだ続く虫の洞窟を、お前ら四人だけで、無事に抜けられると思うなよ。

「悪いけど、ここで僕が支持を受けられないようなら、もうこの面子でやっていく自信はないよ。だから、多少の不満はあるかもしれないけど、そこは、こういう緊急事態だから、ちょっと我慢して、受け入れて欲しいと思うんだ」

 言いたいことは、それだけ。僕は手札を切った。ターンエンド。

「さぁ、選んでよ、委員長」

「……」

 気まずい沈黙が、再び場を支配する。本気で悩んでいるのか、それとも単なる悪あがきか。聡明な委員長なら、もう答えなんて出ているはずなのに。

「残念だけど、桜、桃川君の言う通りよ」

「そんなっ、涼子!?」

「悠斗君がいない今、私達に余裕なんてない。誰一人欠けても、この先を進むことは、きっとできない。仲間割れすることだけは、絶対にダメよ……いいわ、桃川君、貴方がサブリーダーよ。よろしくね」

 悲壮な覚悟を決めたように、委員長は険しくも、どこか疲れた表情で、僕へ手を伸ばした。

「よろしく、委員長。もう、一人の犠牲者も出さないように、頑張ろう」

 固く握手を交わして、この決定的に亀裂の入った、最悪のハーレムパーティが続くことに決まった。

 第5章はこれで最終回です。

 次の章も、同じく月曜と金曜の週二回更新でやりますので、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公強いな。負けてばっかじゃないのがいい
[良い点] 主人公が嫌な奴ら相手に、自己主張を貫いたことに対して、成長を感じました。
[一言] 小太郎君強くなったなぁ
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