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呪術師は勇者になれない  作者: 菱影代理
第5章:最悪のハーレムパーティ
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第51話 虫の洞窟

「キャァーっ!? な、なにコレ! なんでモンスターが広場にいるのぉーっ!?」

 朝、夏川さんの絹を裂いたような悲鳴で、僕は目を覚ました。

「なに、魔物が現れただと!」

「え、ちょっと、何よこの、棘の生えた黒いスケルトンは」

「何て禍々しい姿……恐ろしい魔物に違いありません。みんな、下がって。ここは私の光魔法で――」

「うわぁっ! ちょ、ちょっと待って蒼真さん!」

 というワケで、僕は間一髪のところで新生レムを倒されずに済んだのだった。

「――なるほど、これが桃川君の作ったゴーレムなのね」

 みんなの前で、改めてレムを紹介する。

 見た目は漆黒のスケルトン。だが、鎧熊の素材を使ったせいか、体の一部には鎧のような甲殻が形成され、頭の天辺からは鬼のような一本角が生えている。肩と手足には鎧熊とよく似た、棘のついた黒い甲殻が腕の骨と一体化していた。サイズも、前よりも頭一つ分くらい大きい。今はちょうど僕の胸元くらいまで、身長がある。

「レムちゃん、成長したんだね、おめでとう!」

「ガガっ!」

 メイちゃんが温かい言葉を送ると、心なしかレムも嬉しそうにうなずいた。昨晩、『汚濁の泥人形』を行使して何となく察したが、レムの記憶とか経験、みたいなモノは全て引き継がれているようなのだ。レムを自立行動させるAIみたいな部分、仮にこれを『魂』と呼ぶが、新しいレムを作ると、転生のように魂が引き継がれるわけではなさそうだ。魂そのものがレムを創り出す『混沌』の中にあって、黒いスケルトンの肉体はあくまで器に過ぎない、といった感じだ。

 最初のレムは短い間だったけれど、それでもゾンビとの戦いを何度も経験することで、明らかに動きがよくなっていた。その成長が変わらず引き継がれているのなら、こんなに良いことはない。ついに僕の呪術にも、チートじみた便利機能の片鱗が見えた気がする。

「ねぇねぇ、桃川君、コレ、本当に大丈夫なの? いきなり襲って来たりしない、よね?」

「大丈夫だよ、自我はほとんどないし、命令通りに動くロボットみたいなものだから」

 うへぇ、とあからさまに訝しげな顔でレムをジロジロ見る夏川さんに教えるけど、あんまり信じてない模様。まぁ、見た目は完全に魔物でしかないから、しょうがないかもしれないけど。

「呪術なんていうくらいだから、いつ人を襲うか分かったものじゃないぞ」

「いざという時は、すぐに『光矢ルクス・サギタ』を撃ちます」

「ま、まぁ、天職の能力が暴走した、なんてことは一度もないから、大丈夫じゃないかしら。多分、私の『氷精霊召喚』と同じようなものよ」

 不審の目でレムを睨む蒼真さんと剣崎さんは、警戒心全開だ。レムを疑うというより、きっと、僕自身を疑っているのだろう。二人にとって昨晩のオナニー事件は、僕を汚らわしい変態男と認定するには十分すぎるものだったに違いない。

 委員長、マジで二人のことを抑えてください、お願いします。

「とにかく、そろそろ出発しましょうか。明日那、小鳥を起こしてもらえる?」

 それにしても、昨晩も今も、こんなにみんなが大騒ぎしているのに、全然目覚めない小鳥遊さんって……いつか眠っている間に悪戯でもされるんじゃないかと、他人事ながら、僕は心配になった。




 天職『盗賊』の恩恵か、目と耳と勘の良い夏川さんを先頭に、僕らはダンジョンの奥地へと向かう。偵察役の夏川さんの後ろには、前衛戦士たるメイちゃんと剣崎さんが続く。それから、委員長、間に小鳥遊さんを挟んで、蒼真さんが続く。僕は最後尾だ。勿論、僕の背中を守るために、『鉄の槍』と『鉄の短剣』という本格的な装備に身を包んだ新生レムを配置している。

 この陣形は前衛後衛を基準として、後衛組みは小鳥遊さんを最も安全な場所に配置するという並び方だ。最後尾の僕が一番安全というワケでは断じてない。背後から奇襲された場合、最前線に立たされるのは僕だからね。レムがいなければ、モンスターパニック映画であっさり犠牲になるモブキャラみたいに瞬殺されそうだ。実際、こういう一列に並んで進む時って、真ん中が一番安全だというし。戦闘なんてなくても、最後尾の人は置いてけぼりにされても、気づかれにくくて放置、みたいな危険性もある。今の蒼真さんなら、わざと僕を放置してもおかしくない気がする。要注意だ。

「わわっ、ねぇ、本当にこっちであってるの!? っていうか、ここに入っていいの!?」

 先頭の夏川さんが立ち止まる。当然、列も止まる。

「魔法陣は……間違いなく、この先を指しているわ」

 委員長が改めて断言する。疑うわけじゃないけど、僕もこっそり自分の魔法陣を確認したら、うん、やっぱりこのルートを指している。

「これは、嫌な予感がするな」

「ええ、しかし……進むしかないでしょう、この洞窟を」

 そう、僕らの前に開かれているのは、見慣れた石造りの通路などではなく、壁面を無理矢理にぶち抜いたような、巨大な洞窟だった。ダンジョンのトンネルタイプの大通りとそん色ない大きさ。片側二車線道路並みの幅と、大型トラックも余裕をもって通過できるほどの高さがある。

 無論、この遺跡風のダンジョンとは違い、路面は土でボコボコとしていて歩きにくそうだし、何よりも照明となる発光パネルがない。

「ひぇえ……真っ暗だよ、ここぉ……」

「進むには、灯りが必要ね」

「大丈夫です、ここは私が――『光精霊ルクス・エレメンタル召喚』」

 蒼真さんが呪文を唱えると、白い光を発する妖精みたいな輝く光球が、一つ、二つ、合わせて四つ、フンワリと飛び交う。

「桜、四体も使役して大丈夫なの?」

「戦闘用ではありませんから、それほど魔力は消費しません。それに、周囲を漂わせるだけですから、制御に集中しなくても問題ないですから」

 なんて便利なランプだろう。この光の精霊とやらは、勝手に周りを飛ぶし、勝手にこっちについてくる。当然、フリーハンドだ。僕の呪術にも、これくらいの利便性が欲しい。

「では、行きましょう」

 蒼真さんの力強い言葉と共に、僕らは怪しい洞窟へと足を踏み入れた。

「ねぇねぇ、これ、どこに続いてるのかなぁ……」

「魔法陣が示している以上は、またダンジョンの内部に繋がるのだと思いますけど」

「この洞窟は、明らかにダンジョンの建物とは別物よ。抜けるまで、妖精広場はないわね」

「ええぇー、困るぅーっ!」

「早く抜けられることを、祈りましょう」

 怪しい洞窟を進み始めて十五分ほど。僕は最後尾で、後衛組みのお喋りをラジオ代わりに聞きながら、黙々と歩き続けている。幸い、まだ置いてけぼりにされてはいない。メンバーに小鳥遊さんがいるから、体力に優れる前衛組みも気を遣って、ゆっくりと進んでくれる。これで僕一人だけだったら、みんなガンガン進んでいたことだろう。こういうところで、その人物の魅力や地位ってのが、試されるよね。

 僕がそんなクラス内カーストについて思いをはせていると、異常アリ、と夏川さんが声を上げた。

「みんな、気を付けて! 周りに何かいるよ!」

「桜、もっと広く周囲を照らしてくれ。脇道の方で、魔物が動いているようだ!」

 この洞窟を本道として、いくつも岐路のように小さな穴が合流している造りになっているということは、これまで歩いてきてすぐに明らかになったことだ。この構造を見て、もしかして、とは思っていたが……やはり、魔物が出てくるんだ。恐らく、ソイツがこの洞窟を掘った張本人だろう。

「来るぞっ!」

 現れたのは、巨大な蟻だった。高さはレムと同じくらい、一メートルちょっとというところ。光精霊の白い灯りに照らされて、漆黒の甲殻が不気味に輝く。全身の姿が露わになると、昆虫の蟻との違いが、よりハッキリと見えた。

 足は昆虫と同じく六本。だが、地に足を付けているのは四本で、前足は腕のように掲げられている。その骨格はカマキリと似ている。けれど、ギチギチと唸りをあげる横開きの大顎を備えた頭部は、蟻とそっくりだ。だから、やっぱり全体的に蟻に似ている。

 そして、巨大蟻はどこまでも蟻らしく、群れを成して現れた。ゾロゾロと列になって、横穴から次々に飛び出てくる。

 僕らの前には、あっという間に美味しい獲物を見つけたと喜ぶように、ギーギーと甲高い耳障りな鳴き声をあげる、蟻の山ができていた。どう見ても、戦闘は避けられそうもない。

「コイツら、酸を吐くかもしれないから、気を付けてっ!」

 僕がそう前衛に注意を叫んだと同時に、戦いは始まった。

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