第489話 呪物奪還作戦(1)
その日、自由解放党に激震が走った。
「レイナーレ様が、身請けされただとぉ!?」
高級娼館『エスメラルダ』の人気嬢、元御子と有名だったディアナ人少女レイナーレが、即金で身請けされた、との噂は瞬く間にシグルーン中に広まった。
基本的に娼婦の身請けはプライバシー配慮で隠れて行われているし、エスメラルダも高級娼館として、誰が買い取ったか情報は漏れないように取り計らっていた。
それでも情報が拡散されるのは、何者かが意図的にリークしたか、あるいは本人が公言するか――――そして、今回は後者であった。
「なるほどぉ、噂の新勇者がコロっと娼婦にそそのかされた、というワケですね」
「グレゴリウス、詳しく知っているなら教えてくれ。一体どうなっている」
したり顔で本部へやって来れば、ホーダン筆頭にディアナ人警備兵達が情報通の僕の元へと殺到してくる。
グレゴリウスは『エグゾゴグマ』の件もあって、ホーダン達とは懇意にしており、すっかり顔なじみの関係だ。シグルーンの噂話からダンジョン情報にも詳しい僕は、彼らの話し相手としては重宝されている。
やっぱディアナ人相手には、皆色々と隠し事するみたいだし? 差別意識はそう簡単には無くならないよね。
「なんでも、『勇星十字団』のクランハウスは大騒ぎだったそうですよ。今朝方、いきなりレイナーレ様を新勇者が連れて戻って、自分の恋人だと高らかに宣言したのだとか」
僕の説明に、彼らは喧々早々として、大いに困惑している。
まぁ、この状況は彼らとしても想定外だ。どこぞの貴族や大商人が、レイナーレを気に入ってお買い上げ、というのは予想の範囲だが、流石にポっと出の勇者が攫って行くとは思っていなかったようだ。
「しかし、よりによって勇者か……まさか、こんな厄介なことになるとは……」
そこらの色ボケ野郎なら、武力に訴えての奪還も可能だろう。ホーダン達も、先んじて身請けされた場合、その作戦を実行する気満々でこれまでやってきたのだ。
だが相手が本物の『勇者』となれば、勇敢なディアナ戦士でも二の足を踏むのは仕方がない。なにせ彼らはパルデラで、勇者の仲間である剣聖一人に壊滅させられたのだから。
その剣聖よりも強い、最強の勇者の名は伊達ではない。
「まぁまぁ、皆さん、落ち着いて。事態はそう悲観することも無いと、私は思いますけどねぇ?」
「どういうことだ、何か考えがあるのか」
ひとしきり議論が盛り上がったところで、僕は胡散臭い笑顔全開で、彼らの間に割って入る。
ホーダン達も、僕に何か腹案のありそうな気配に興味を向けていた。
「件の新勇者は、異邦人だそうです。生粋のアストリア人ではなく、随分と平和な世界からやって来たようで……だからこそ、レイナーレ様にも何の偏見もなく、その境遇を憐れんで、と思われます」
蒼真君が異邦人であることも、周知の事実である。
そもそもアストリアには僕らのような異邦人のことは、歴史や昔話の中で登場しているので、存在は割と知られている。だから異邦人の新たな勇者がやって来た、と聖教が大々的に発表すれば、大多数は「そうなんだ」と納得できる。
実際、天職『勇者』を授かっているのは、紛れもない事実だし。
だがその新勇者たる蒼真悠斗という男が、どれだけ甘っちょろい奴かということを知る者は、まだ彼と近しい者しか知り得ないことだろう。
「ここはまず、平和的にお願いをしてみるのはどうでしょう」
「お願い、だと……?」
「ええ、我々にとってレイナーレ様が、如何に大切な存在であるか、と新勇者に訴えかけるのです」
「そんなことをして、何の意味が」
「大いにありますとも! なにせ彼は異邦人、すなわち、アストリアのこともディアナのことも、まだ何も分かっていない――――つまり、真っ当に訴えれば、それだけで『こちら側』に傾いてくれる可能性があるということです」
「なるほど……確かに、そうかもしれん……」
今までは、ディアナ人風情が何を訴えようと、アストリア人は聞く耳など持たなかっただろう。所詮は奴隷、聞く価値など無いどころか、対等な口を叩くなど言語道断といったところである。
だから彼らも、アストリアに何かしら影響を与えるには、武力しかないと考えている。まぁ、間違いではない。武力は対等な交渉テーブルにつくための、最低限の条件だからね。
自分達が劣る立場に貶められていたからこそ、彼らは基本的な訴えである『話し合い』という存在を忘れているのだ。
「だが『勇星十字団』のクランハウスには、流石に近づくのは危険だぞ」
「ええ、あそこには直接行かない方が良いでしょう。あのクランは名実ともにアストリア最強にして、高貴な方々も数多く在籍されていますからね。些細なトラブルで、どんな大事に発展するか」
「新勇者がクランハウスにレイナーレ様を匿い続けるようなら、手の出しようが……」
「ふぅむ、でしたら、動くならば急いだ方がよろしいでしょうねぇ――――実は明日、新勇者がレイナーレ様を連れて、大聖堂へやって来る、との噂を聞きつけまして」
噂と言うが、これはどこにも流れていない情報だ。
だってレイナーレを大聖堂へ連れて行け、って僕が出した指示だからね。蒼真君がアホみたいに口を滑らさない限りは、現段階では誰にもバレようがない情報である。
「なにっ、それは本当か!」
「ええ、かなり確度の高い情報です。しかし、あまり事前に言いふらせば、新勇者が気を変える、なんてこともありますから……準備だけ進めて、行く先は当日まで伏せておく方がよろしいでしょう」
「分かった、その方向で動くとしよう」
「人数は出来るだけ多く集めた方がいいでしょうね。これだけ多くの人々が、レイナーレ様を求めているのだと、分かりやすく伝えなければいけませんから」
「任せろ。各所にいる同胞にも、明日は本部へ集まるよう伝えておく」
警備隊や冒険者組は勿論、実質的な労働奴隷として使われている者達も含まれるだろう。彼らは公には保護されている解放奴隷なので、名目上の自由はある。なので、当日いきなりストライキ同然に職場放棄しても、ブラスターで背中を撃たれるようなことはない。
企業はそれなりの損失を食らうだろうが、ディアナの未来がかかっているから、仕方ないね。
「では、党首様には私の方から口添えしておきましょう」
「すまん、そうして貰えると助かる」
「いえいえ、私も解放派の一員として、尽力するのは当然のことです」
党首は当然、ホーダンが勝手にこんな大規模な動きを起こすのを止めるだろうが……ここは新勇者を解放派に迎える大チャンス、いざって時は安全装置もあるし、暴走とか無いから、絶対大丈夫だから! と説得するのが、僕の役割である。
あの党首も、何だかんだで野心家だからね。勢力を急拡大するまたとないチャンスと言えば、必ず乗って来る。
僕の提案は瞬く間に賛成の声が上がり、ディアナ人達はついにレイナーレ様が我らの下にお戻りになる、とすでに祝勝気分で大騒ぎだ。
「ふふふ、みんな盛り上がってきたな。明日が楽しみだよ」
そうして最後の仕込みを終えて、僕はいよいよレムと装備奪還の作戦実行の日を迎える。
◇◇◇
桃川と密談し、レイナーレを連れて戻って、色々と大騒ぎになった翌日。
俺は更なる騒動を起こすべく、クランハウスの自室を出ようとしていた。
「そろそろ行こうか」
「はい、勇者様とのデート、楽しみです」
レイナにソックリだが、絶対に彼女がしない艶やかな笑みを浮かべて、レイナーレは俺を見上げた。
「デート、か……アイツがどんな騒ぎを起こすのか、今から不安で仕方がないんだが」
「良いではないですか、サプライズ、と言うのでしょう?」
突発的に嬉しいコトが起こるのがサプライズであって、事故やらテロやら発生するのは違うと思う。
すでに桃川と協力することを決めているため、俺にはもう止められない。止めるつもりもない。ただ、無用な犠牲が出ないことを祈るばかりである。
「あら、悠斗君とレイナ、お出かけかしら」
「えへへ、今日はユーくんとぉ、デートなのっ!」
完璧に無邪気な仮面を被ったレイナーレが、廊下で出会った委員長に子供のように喜色満面で言う。
すでに手を繋いで歩いている俺達を、委員長は非常に理解のある眼差しで眺めている。
「そう、楽しんできて。でも、すぐそこにサリスが来ているから、面倒なら裏口から出て行くことをオススメするわ」
「いや、大丈夫だよ。俺達がコソコソする必要なんて、どこにも無いからな」
「口論にならなければいいけれど」
「サリスだって、その内に分かってくれるさ。俺達が真剣に愛し合っているってことをな」
スラスラと馬鹿みたいな甘い台詞が出て来る自分に、ちょっと嫌悪感が湧く。
こんなことを続けていたら、将来、本当に愛する人が出来た時に愛を囁いても、自分で自分の言葉が全て噓くさく感じてしまいそうだ。なんて、レイナーレとの恋人演技を始めてたったの二日目で思ってしまう俺は、メンタルが弱いのだろうか。
蒼真流の精神修練も、こんな場合での対処法は含まれちゃいないからな……
「ユート様、どちらへお出かけでですか」
「おはよう、サリス。今日はレイナに大聖堂を案内しようと思ってな」
委員長の警告通り、サリスとはちょうどエントランスで出くわした。俺とレイナーレが仲睦まじく連れだって歩く姿を見た瞬間に、ちょっと表情が強張ったのを見逃さなかった。
まぁ、昨日あれだけ揉めた上に、結局、俺にレイナーレの身請け代金を渡す羽目になったからな。昨日の今日で平常心でいられるワケもないだろう。
「ディアナの御子を大聖堂に……」
「何か問題でもあるのか?」
「……いいえ、パンドラ聖教は全ての人へ開かれておりますから。それに私が止めたところで、聞く耳は持ってもらえないのでしょう」
「サリス、勘違いしないでくれ。俺はアストリアだとかディアナだとか、そういった事は全く関係無しに、ただレイナという一人の女性を愛しているだけなんだ。サリスも王女としての立場もあるだろうけど、俺達のことは素直に祝福して欲しい」
「えへへ、サリスちゃんは、ユーくんを取られて嫉妬しちゃってるんだよぉ。ごめんね、ユーくんはもうレイナに夢中だから」
「おいおいレイナ、そうからかってやるなよ。サリスはただクランの仲間というだけで、そういう感情なんか無いって」
レイナーレの煽りに、サリスの表情がさらに強張っていた。
こんなの俺に対して恋愛感情あっても無くてもキレるって。
「じゃあ、俺達は行ってくるよ」
「ええ、どうぞお気をつけて」
「あっ、そういえば、サリスの名前でツケたい時はどうしたらいい? 一々支払いで揉めるのは面倒だし、見せたら誰でも一発で分かる王家の紋章とかないのか?」
「そ、そのようなモノなどありませんが……必要ならば、後で用意させます」
「こういうのは先に用意しといてくれないと。気が利かないと、いい嫁さんになれないぞ」
俺様が遊ぶ金もお前らが払えよ、と釘を差しつつモラハラも組み合わせた恐ろしいコンボ口撃だ。流石に俺では瞬時にこんな酷い台詞は出てこないので、勿論、原案は桃川で、こんなのを沢山聞かされている。これからの俺に必要な言葉の刃ではあるが、聞いているだけで精神が荒んでいきそうだ。
そんなレベルの暴言を去り際に放ったのだが、サリスからの反応はない。恐らく、あまりの怒りと屈辱に震えていることだろう。ちょっと振り返って彼女の顔色を確認する勇気は、俺には無かった。
そうして俺はレイナーレと連れ立って、すれ違う団員達と爽やかな朝の挨拶を交わしながら堂々とクランハウスを出た。
まずは近場で馬車を借りる。良くも悪くも、『勇星十字団』の馬車は目立つ。行きはすんなり大聖堂へ入れないと困るから、乗っているのが俺達だと分からないよう、普通の馬車にする必要があるらしい。
厩舎へ行けば、すでに御者が待ち構えており、ただ乗るように言ってくる。こんなところまで、桃川は手配済みというワケか。
馬車は朝の賑わいの中を予定通りの時間をかけて、大聖堂へと向かう。
シグルーンで目覚めてからしばしの間は大聖堂暮らしだったので、その近辺と朝の様子なんかには見覚えがある。その記憶と照らし合わせても、今日は人の行き来が多い印象を持つ。
すでに桃川の策が進行している、ということなのか。
俺には必要なことしか知らされていないので、計画の詳細は分からない。恐らく、レイナーレも全ては教わっていないだろう。
だが、それを信用がないと怒る気は無い。そもそも俺に信用が無いのは当然だし、そうでなくても実行犯が計画の詳細など知らない方が情報漏洩のリスクの観点から見ても正解だ。
実行犯は使い捨ての下っ端、なんて犯罪グループのようだが……今の俺は、そんな立場に甘んずることも仕方がないと覚悟の上だ。
そんなことを思っている間に、馬車は滞りなく大聖堂へと到着した
「――――ここがシグルーン大聖堂、ですか」
「来たのは初めてか?」
「ええ、ディアナ人でここまで足を踏み入れたのは、私が初めてでしょうね」
パンドラ聖教は、あらゆる神の存在を許容する懐の深い多神教である。サリスも決してただの皮肉ではなく、聖教は全ての人に開かれる、すなわちディアナ人であっても、と建前を口に出来るのだ。
だがしかし、俺は大聖堂で一度もディアナ人の姿を見たことは無いし、事実、ここにディアナ人がいたことは無いのだろう。
教えが寛容であっても、信者自身が寛容であるとは限らない。特にこのシグルーン大聖堂は、女神派の総本山。
ディアナ人を奴隷の劣等人種と見て、神聖な大聖堂に近づけるのも汚らわしい、と内心で思っている者は多いだろう。
「うふふ、早速注目の的ですね」
「やっぱり、ここはそういう場所なんだ」
馬車から降りて、俺がレイナーレをエスコートして歩き始めた時点で、信じられないモノを見た、とばかりに視線が殺到してくる。
朝の礼拝に訪れた信者たちは勿論、聖教の寛容と博愛を説く司祭たちも皆、ディアナ人のレイナーレがこの場にいることに明確な不快感を示す目をしていた。
「なんだか怖ぁい、ユーくん、レイナのことしっかり守ってねぇ?」
「ああ、勿論だ。誰にも文句は言わせないさ」
さて、恋人演技をスタートさせて、俺はひとまず桃川の指示通り、レイナーレと大聖堂観光デートをのんびりと始めることにした。
◇◇◇
「――――ええい、これは一体、何の騒ぎだ」
シグルーン大聖堂を預かるのは、倒れた聖皇に代わり、マクドガル大主教である。実質的な最高位にある彼はただでさえ多忙なのだが、今日は朝から予期せぬトラブルが起こったことで、その表情は苛立ちが募っていた。
「それが、正門前にディアナ人共が次々と押し寄せて……」
「解放派の連中も一緒です」
パンドラ聖教の総本山として、シグルーン大聖堂は全ての人に開かれているが、ディアナ人が表だって参ることは一度たりとも無かった。
そもそもアストリアにいるディアナ人など奴隷しかいない。奴隷如きが、参拝に訪れる自由もあるはずがなく……そうでなくとも、ディアナ人にとってパンドラ聖教は敵対宗教と見做されている。
襲撃こそありえるが、この神々の殿堂に自らの意志で拝みに来ることはありえなかった。
だが現実として、今は正門前に大勢のディアナ人が集まってきている。
中にはアストリア人の姿もそれなりに入り混じっており、どうやら彼らが巷で『解放派』と呼ばれる、奴隷解放の推進を支持する者達だと、すぐに分かった。
ああしたディアナ人の奴隷を解放せよ、と奴隷を多く抱える商会や農園などの前で、デモを行っていることもあると、マクドガル大主教もシグルーンの時事の一つとして知ってはいたが……そもそもディアナ人奴隷を使役していない大聖堂へやって来る理由は、全く見当がつかない。それ以前に、彼らの訴えを聞いても、理解できるものではなかった。
「皆、口々に御子レイナーレを解放しろ、と」
「何を言っている、このシグルーン大聖堂にディアナの御子などいるはずなかろう」
「勿論、我々もずっとそのような人物は大聖堂にはいない、と言い続けているのですが……」
「ともかく、奴らを決して中に入れるな。今はまだ集まっているだけのようだが、あの様子では次の瞬間に暴徒と化すやもしれん」
マクドガル大主教は、とりあえず内部への侵入は断固阻止と速やかに命を下した。
本来ならば参拝客で溢れる大聖堂だが、この解放派のデモ集団が押し寄せたことで、一時的に閉鎖措置を取ることとなった。致し方ない決定であるが、そのせいで普段通りに訪れていた参拝客や信者達も、分けも分からず締め出されることとなり、ディアナ人の集団と俄かに険悪な雰囲気を漂わせることとなった。
「まずいな、このままでは衝突しかねん……」
とっくに司祭達を動員して、事情の把握と沈静化に務めているが、全く状況は改善しない。むしろ時間を置くごとに、ディアナ人と解放派の者達が増援が如くやって来て、さらにはシグルーン大聖堂で騒動が起こっている、と野次馬やら信心深い信徒が何事だと、次々と人だけが増え始めた。
今は司祭達の必死の呼びかけと、聖堂騎士を動員して抑えに回っているが……解放派デモ集団と野次馬軍団が入り混じり、正門前の広場は混沌の様相を呈してきた。
「マクドガル大主教、報告いたします。例の御子レイナーレは、新勇者ソーマ様と共に、この大聖堂へ訪問中とのことです」
「なんだとぉ!? 私はそんなこと聞いておらんぞっ!!」
「そ、それが……お忍びのデートなのだと、身分を隠しておいでのようで……」
「ふざけるなっ! それでこの大騒ぎになっておるではないか!!」
マクドガル大主教も、当然のことながらアストリアの新たな『勇者』蒼真悠斗のことは知っているし、面識もある。第二次勇者召喚計画についても立案時点から関わっており、サリスティアーネ王女から定期的に報告も回って来る。
現段階では、『勇星十字団』で予定通りに活動中、経過順調、特に異常ナシという報告を受けていたが……まさかこの騒動の原因が、その新勇者にあるとは全く予想も出来なかった。
気分はまるで、自分が推薦していた優等生がド派手な喧嘩騒ぎを起こしたのを聞いた担任教師である。
「一体どういうことだ、何故勇者がこんな事に」
「どうやらつい先日、ソーマ様が娼館に務めるレイナーレをいたく気に入り、即日で身請けをしたとのことで……」
「そのレイナーレが、ディアナでは高名な御子であり、彼女の身柄を求めて解放派が押し寄せてきたという状況のようです」
「何という事だ……聞いておらんぞ、そんなこと……どうしてこうなった」
次々ともたらされる信じられない情報に、頭を抱えてしまう。
だが事前に情報が届かないのも致し方あるまい。噂が広まるか、あるいはサリスティアーネからの報告で、マクドガル大主教の元にこれらの情報は今日明日にでも届くはずだった。
だがそれよりも先に、蒼真悠斗がレイナーレを連れて現れ、騒動に繋がってしまったのだ。完全にお忍びデートだのと安易な行動を起こした勇者の責任である。
しかし、すでにコトが起こってからでは、今更その軽率な行いを咎めることに意味はない。重要なのは、今目の前で起きている騒動への対処だ。
「おい、さっさとその勇者とレイナーレを私の前へ連れてこい!」
「い、いえ、それが……デートの邪魔をするな、と」
「デートなんぞ言っとる場合かぁっ!!」
それを自分に言わないでくれ、と怒鳴られた司祭は半泣きになってしまう。
彼らとて騒動の元凶たる二人を、すぐにでもマクドガル大主教の元に連れて行こうと、行動はしていた。
だがしかし、すっかりディアナ女に入れ込んだ勇者は色ボケも極まっており、こちらが下手に出て訴えかけても、明確に不快感を露わにして断るばかり。これ以上、邪魔をするなら剣も抜きかねない、というほどの剣幕であった。
「分かった、私が自ら勇者の元へ向かう。急ぎ案内せよ」
「その、申し訳ありません……現在、二人を見失っておりまして……」
司祭がしつこく食い下がったせいで、勇者は隠密スキルまで駆使して、自分達の前から姿を隠してしまった、と伝えれば、マクドガル大主教は言葉を失った。
「おのれっ、異邦人のガキがぁ……急ぎ勇者を探し出せ!」
マクドガル大主教の怒声が轟く一方、大勢の人々でごったえがえす正門は、いよいよ限界を迎えようとしていた――――




