第485話 裸の再会(2)
「それじゃあ、まずは君の方から事情を話してもらおうかな」
「いやちょっと待て、なんだこの体勢は!?」
複数人でのマルチプレイにも対応する広々とした浴槽に、僕と蒼真悠斗とレイナーレ、三人仲良く混浴となっている。
ただ、僕は片側に背を預けて足を延ばすくつろぎポーズ。一方、蒼真悠斗はもう片側に背を預けるのは同じだが、その胸板にはレイナーレの小さな体が恋人のようにピッタリと寄り添っている。
「何故そうなっているのか、本当に分からない?」
「レイナとよく似た顔で色仕掛けなんて、本気で通じると思ってるのか」
「バスタオル被せた時点で、通じてるじゃん。このまま君らは存分にイチャイチャして、仲を深めてよ。レイナーレは高級娼婦だけあって、大体どんなプレイにも対応してくれるからさ」
「ふざけるな、俺にそんな気は無い」
「その気になるかどうかは君の自由だけどさ、殺す気になった時、レイナーレが抱き着いていてくれてる方が僕は安心だから」
「どうせ分身だろう」
「まぁね」
蒼真悠斗にレイナーレをくっつかせているのは、より情を湧かせるためのサービスであり、拘束具でもある。まぁ、この僕は分身だから斬られてもいいけど、合った方がちょっとくらい話が拗れても剣は抜きにくくなるだろうさ。
どうせ似ているだけの他人だと割り切って、レイナーレごと僕を斬る……そんな真似、君には出来ないからね。
「さぁ、ユート様、私のことはお気になさらず、存分に語ってくださいませ」
「そんなこと言われても、気にするなってのは無理だろこれは……」
「裸の女の子にくっつかれたくらいで、何を今更。どうせレイナと混浴したことくらいあるでしょ」
「そんなの子供の頃の話だって」
「あんのかよ」
いくら幼馴染だからって、そうそう混浴イベントなんか無いっての。何で子供の頃ならセーフみたいに言ってんだ。
全く、これだからガキの頃から女に不自由してない奴は……どうしよう、話を聞く前からもう呪いたくなってきた。
「もう何でもいいから、のぼせる前にさっさと話してよね」
「誰のせいで……まぁいい、とりあえず、こちらの事情を聞いてくれ。モモコとしてクランハウスに出入りしているお前なら、もう知っていると思うが……委員長と夏川さんは無事で、俺と一緒にいる。双葉さんはお前も知っての通り。他のクラスメイトの消息は、まだ俺も掴んでいない」
そりゃ一緒に飛ばされたんだから、一緒にシグルーンに出て来るに決まってる。
三人限定の脱出転送は、確かに嘘偽りなく、三人の人間をシグルーン大聖堂へと飛ばした。だが、そこへ脱出したからといって、安全だとは言っていない。
「そこで俺達は、表向きは歓迎されながらも、サリス達『女神派』によって記憶の改竄を受けた。俺には記憶だけじゃなく、強めの洗脳なんかもかけていたようだが……」
「なるほど、それでまんまと奴らの勇者様になったワケか。お前いっつも洗脳されてんな」
「……されてない、と言ったところで、どうすればお前は信じる」
「君が真っ直ぐ僕を殺しに向かって来てないのが証拠かな」
洗脳と言っても、本人の性格を好き勝手に捻じ曲げることができるワケではない。なにせ僕らは、最後に立ちはだかった時の蒼真悠斗の様子を間近で見ている。
あの時の蒼真悠斗は、認知こそ歪んでいるものの、本人の正義感や判断力なんかは本物だった。あれは小鳥遊の趣味ではなく、そうするのが最も操った上で、本人の力を最大限引き出せる状態なのだ。
なんでもハイハイ言うだけのイエスマンにすることも出来るのだろうが、そうなると本人性能は半減といったところか。少なくとも、追い詰められても覚醒することは無いだろう。
つまり、今の蒼真悠斗の受け答えが自然な時点で、洗脳されても、されていなくても、本来の性格のままであることは確か。
そして奴らに都合がいいよう洗脳されているならば、蒼真悠斗は邪悪な『呪術師』桃川小太郎がシグルーンにいると分かれば、血眼になって殺しに来るはずだ。天送門の時と同じか、いや、それ以上の憎悪を持って。小鳥遊の仇と。
「こうして、面と向かって僕と話せている時点で、君は正気だよ」
「分かっているなら、煽るようなことを一々言わないでくれ」
「正気を取り戻したくらいで、許されると本気で思ってんの?」
「それは……その通りだが、話は真面目に聞いて欲しい」
「ちゃんと聞くさ。そのために、僕だって恨みを抑えて、こうしているんだから」
お前がしっかりしていれば、少なくとも学園塔に集まっていたクラスメイト達は全員、生き残る可能性が十分にあった。なのにこの勇者様ときたら、小鳥遊にいいようにされて、ことごとく悪手ばかりを打ち続け、最後の最後はラスボスが如く僕らの前に立ちはだかった。
お前のせいで何人死んだと思ってる。直接的には、キナコもその手にかけているのだ。
レイナを殺した僕をお前は一生許さないだろうが、葉山君もキナコを殺したお前を一生許さない。無論、僕だって許した覚えはないが――――僕も望んで交渉テーブルをわざわざ美少女の接待まで含めて用意しているのだ。
学園塔の時と同じように、今この場ではお互いに罪は棚上げ。対等に話し合いをしようじゃないか。
僕の個人的感情としては認めたくないが、それでもお前がモモコにメモをくれた時点で、可能性は見えてしまった。
『勇者』蒼真悠斗と、協力する。その可能性を、僕は見て見ぬフリはできなかったんだから。
「まず、俺は委員長と夏川さんの記憶を取り戻したい」
「けど記憶改竄が解けたら、身の危険があるんじゃないの?」
「だからお前に話を持ちかけた――――俺が目覚めた時、最初に顔を合わせたのはサリスだった。俺が寝かされていたベッドは、洗脳と記憶改竄を行う専用の儀式祭壇だ。以前の俺なら、そんなことにも気づかず、竜災からアストリアを救って欲しい、と懇願するサリスの言葉を疑うことなく真に受けていただろう」
「そうじゃない、って言うんだ」
「ああ、小鳥遊さんのお陰でな。俺にはすでに、その手の耐性が出来ていた。恐らく、そのことをサリス達は知らない。洗脳は成功していると思っているはずだ」
「どうだろうね、君、嘘が下手だし」
「ボロが出ないよう演技はしてきたつもりだ……それに、洗脳が通じないとハナから分かっているなら、俺を信用させるために別な手段を用いたはずだろう」
「いい所に気づいたね。やっぱり、洗脳されてなけば鋭いじゃん」
エルシオン、引いては女神派の目的の一つとして、『勇者』蒼真悠斗の利用がある。その自由意志は別としても、『勇者』の力は奴らが求めるものに違いはない。
勇者を利用できれば、洗脳でも愛情でも、方法は何でも良い。最も自分達に都合がいい方法が洗脳だから、それを採用しただけ。
だがその洗脳が通じないならば、蒼真悠斗の意志としては洗脳を施そうとバレた時点で敵対は確実。初対面で最低最悪のバッドコミュニケーション、関係修復不可能、攻略フラグ木端微塵、というワケだ。
だから蒼真悠斗が脱出時点で洗脳耐性を獲得していると判明していれば、情を利用する次善策に切り替えるだろう。聖女のお姫様サリスでもいいし、他の美少女でもいい。頼れる男の仲間達や、勇者を支える沢山の人々――――そんな縁で雁字搦めにしてやれば、蒼真悠斗という男は、自分が騙されたと知っても、そう簡単に絆を深めた人を斬ることはできない。
そういう甘い男だ。
なので僕も、レイナーレをくっつけてるってワケ。
悪いな女神派のみんな、勇者を情で絆す作戦は先に僕がやらせてもらってるよ。裸でくっつきあってる二人の姿を画像で送りつけてやりたいね。イエーイ、サリス見てるー?
「今も俺は、表向きはサリスの言う通り、アストリアを救う勇者になるため活動している姿を見せている」
「まぁ、やってることは君に向いた仕事だから、言うほど演技に不安はなさそうだね」
「『勇星十字団』には女神派の他にも、色んな人達がいるからな。全員が敵じゃない、というだけで気持ちは多少楽だよ」
「コイツは信用できると思い込んで、騙されてないといいね。もう素で仲良くなった女の子とかいない? 剣崎に似た剣術バカの女騎士とかさぁ?」
「フレイアのことも、もう知っているのか」
「いんのかよ!」
クッソ、慎重を期してモモコ以外にクランハウス内の探りを入れてないことが仇となったか。まさかそんな、あからさまに怪しい女がもう接近しているとは。
僕には分かる。たとえそのフレイア某が女神派と無関係の高潔な騎士だったとしても、絶対に僕の足を引っ張るクソ女だろうと。そのくせ、自分が正義、僕のことは絶対悪だと断じて……見える、見えるぞ、僕に剣を突きつけて「お前がソーマを操っている悪の『呪術師』だな!」と啖呵を切っている姿が。
「その女騎士とはもう寝たの?」
「お前、俺の状況を聞いてなかったのか。そんなことしている余裕なんて、あるわけないだろう」
「こんな状況だからこそ、手当たり次第に手を出すかもしれないじゃん。勇者様のネームバリューがあれば入れ食いでしょ。でも、ただのお友達程度なら、まぁいいや。やったねレイナーレ、付け入る隙ガバガバだよ」
「はい、勇者様に気に入っていただけるよう、精一杯ご奉仕させていただきます」
「あっ、ちょっ、撫でないでくれ!」
レイナーレのちょっとした悪戯にあたふたしている傍ら、僕は考える。
モモコとしてメイちゃんにもチラっと聞いてはみたけど、現状で蒼真悠斗が公にアストリアの女と付き合っている、という話はない。あのサリスも、今のところは親身になってくれるパーティメンバーくらいの扱いだという。
ならば、最初に勇者の寵愛を受ける女として、レイナーレは最も相応しい。
「とりあえず、そっちの事情は大体分かった。自分一人では、委員長と夏川さんを助けるにも難儀している状況だと」
「ああ、助けが必要だ。委員長と夏川さんだけじゃない、他のクラスメイトも、女神派に見つかれば、どう扱うか分かったものじゃない」
「それには同意だよ。幸い、指名手配して草の根分けてでも見つけて殺す、ってほど大々的に捜索はされていない。僕らが捜すにしても、時間的な猶予はある、と思いたい」
「なぁ、桃川、お前の下には誰が残っているんだ。桜は無事なのか」
「その話をする前に、改めて確認しておきたい」
そこをハッキリさせておかないと、また話が拗れるからね。僕とお前は正反対だから。それも、天道君のように噛み合うことがない方向性で。
今の蒼真悠斗は僕の力が必要だと、諸々の因縁を抑えてでも、そう言っている。良くも悪くも、『呪術師』の力を認めている。
けど、きっとお前は僕のやり方に、心から賛同してくれることはないだろう。もっと犠牲が出ない方法だとか、もっと大勢を救えるだとか、都合のいい正義感を口にする姿が嫌でも浮かび上がって来る。
でも、それもいいさ。正義感のお小言くらい、幾らでも聞いてやろう。
それで『勇者』の力が、手に入るのなら。
僕もまた、蒼真悠斗への因縁を抑えよう。
「蒼真君、僕に協力してくれるかい」
「ああ、協力する。お前が、クラスメイト達を助けてくれる限り」
「小鳥遊みたいな裏切者には容赦しないけど」
「……分かっている、あんな事はもう、二度とないようにしなければならない」
「なら誓ってくれ、君の剣を僕に――――いいや、呪いの女神ルインヒルデ様に捧げると」
「呪いの女神、か……いいだろう、俺は女神エルシオンの下僕になんかならない。それで皆を救えるならば、俺の剣を血で汚したって構わない」
「今度こそ、君の力が僕らの助けになることを期待しているよ」
これで『勇者』蒼真悠斗との協力関係は結ぶことが出来た。
しかしながら、いきなり「女神派ぶっ潰す!」と反旗を翻させればいいという、単純な話ではない。女神派に比べれば、僕らなど小勢でしかないからね。
蒼真君が続けてきた、従っているフリ、は現状において最善手と言えるだろう。多少、怪しまれたところで、向こうだってそう簡単に勇者という存在は切り捨てられない。良くも悪くも、本物の『勇者』なのだから。
「それじゃあ話も決まったところで、そろそろ上がろうか」
ザブーンと僕が湯舟から出れば、蒼真君もレイナーレを抱えて上がって来る。すでに割り切っているのか、その動きに迷いはない。というか女の子抱えている姿が手慣れ過ぎててムカつくね。いや、妬んでなんかいないよ、僕は断然、女の子に抱えられたい派だからね。
「じゃあ、後は若い二人にお任せして」
「おい!」
「必要なことは、全てレイナーレに話してある。だから僕のこと、これからのこと、それは全て彼女に聞くといい」
「……分かった。だが、お前は本当にそれでいいんだな」
「僕だってまだ、君と面と向かって冷静に話し続けられる自信が無いんだ」
どの道、こっちのことを馬鹿正直に全て蒼真君に打ち明けるつもりは毛頭ない。信用していないワケではない、彼が再び僕らの仲間となったと認めはするが、警戒は必要だ。
蒼真君にその気がなくても、どこから情報が漏れるか分かったもんじゃない。サリスティアーネだって、まさか本当に勇者を完全自由行動になんてさせてないだろうし。
余計な情報は与えないに限る。
「僕は君を仲間として、もう一度信じることにした。だから君も、僕を信じて指示に従って欲しい」
「そうか……そうだな、俺も小鳥遊さんも、まとめて倒したお前を、信じることにする」
「安心してよ、昔も今も、僕はクラスのみんなを助けるために力を尽くしているんだから」
そして蒼真君が最もクラスに貢献する方法は、僕の駒になることだ。
その強い正義感と情の脆さ、そして大抵のことは自分の力で解決できてしまう万能の戦闘力。その力は多くの仲間を率いて最前線で戦う兵士としては一級品だが、権謀術数渦巻く政治の舞台では無力どころか、いいように使われるだけだ。
僕が抜けた後の学園塔だって、すぐにガタが来ただろう。たったあれだけの人数さえも、まとめ切ることが出来ず、裏切者の言いなりになって破滅への道を進んだだけ。
蒼真悠斗は先陣を切って走る英雄足りえるが、人々を導く指導者には決してなり得ない。将や王にしてはいけない人物だ。彼の力は戦場でこそ輝くものなのだから。
「ちゃんとレイナーレと仲良くね――――と言っても、君のことだから勘違いするだろう。ハッキリ言っておくよ、レイナーレを抱いてくれ」
「なっ、何でだよ……いきなりそんな事を言われても……」
「童貞でも無いのに、何そんな狼狽えてんの」
「童貞じゃないとか、どうして断言できる……俺は学園の頃も、アストリアに来た今も、誰かと恋仲になったことは無いんだぞ」
「一応、確認しておくんだけどさぁ……セントラルタワーの奥で洗脳されてた時の記憶って、残ってる?」
「ああ、断片的にだが、覚えていることはある」
「実は、残ってるんだよね」
「な、何が……?」
「君と小鳥遊のハメ撮り」
「おいっ、嘘だろ!?」
「こっちの台詞だよ! あのデータ見つけた時の僕の気持ち、お前に分かるかっ!」
あの女、恋愛観ドブカスのくせに、意中の男と初めて結ばれたメモリアルをきっちり記録なんかしやがって……確かに、要素だけ見れば蒼真悠斗と小鳥遊小鳥は、お互いに初めての体験だった。学生だしね、順当。
だがこのカップルが僕にとってはこの世で最も祝福できない最悪の組み合わせであることは知っての通り。
総督代理に就任しアルビオンの管理権限を手にした後、小鳥遊のデータストレージを漁っていた時に、コイツが出てきた時はたまげたよ。コレのせいで、その日の夜は苦労したんだから。お前らの盛ってる姿がチラついてなぁ!
「頼む桃川、消してくれ! 頼み事できる立場じゃないのは承知だが、それでもコレはあんまりだろう!?」
「お前の弱みを簡単に手放して堪るか。けどアレは僕にとっても呪物に等しいから、絶対誰にもアクセスできないよう、厳重にデータロックはかけている……頼むから、二度とあのおぞましい動画が再生されることが無いようにね、蒼真君」
「クソっ、最悪だ……」
こういうの、リベンジポルノっていうのかデジタルタトゥーっていうのか、よく分からんけど、精神ダメージが多大なのはその通り。でもうっかりコレを見せつけられた僕もダメージ負ったからイーブンでしょ。
「とにかく、あんな痴態を散々晒しておいてさぁ、今更、女の一人や二人抱くことに躊躇すんなよこのヘタレ!」
「うるさい! 俺は……俺だって……ちゃんと好きな相手と結ばれたかっただけなのに……」
その好きな相手、がいつまでたっても定まらなかったから、こんなコトになったんじゃねーか。優柔不断が許されるのはエロゲー主人公だけだっての。ラブコメでも叩かれるわそんなん。
「残念だけど、もう君に恋愛の自由なんて無いと思ってよ。でも僕に感謝して欲しいね、君には惜しいほど、このレイナーレは良い子なんだからね」
「不束者ですが、よろしくお願いいたします」
「いや待て、俺はお前の色仕掛けにかかってなどいないぞ!」
「いいや、君は初めて訪れた娼館で、レイナーレという少女の色仕掛けに引っかかってしまう――――それが君に求める、僕の作戦の第一段階なんだ」
だから今夜この後、蒼真悠斗とレイナーレ・エーハルト・アーセは結ばれなくてはならない。
「蒼真君、レイナーレを本物のレイナだと思って愛してくれ」
◇◇◇
表から堂々と、僕は一人でエスメラルダを出る。
それから所定の場所で衣服を脱いでから、分身を解除。今日、着用していた服は黒髪教会とは無関係の協力者が回収する手筈となっている。これで今日の蒼真君に尾行や監視がついていて、僕がマークされていても何も掴ませることはない。
さて、そうして僕は意識を黒髪教会シグルーン支部の寝室にいる本体に集中する。
ここは僕こと御子様の寝所として、日中からして厳重に封鎖されている。掃除なんかもリザに任せているほど、人の出入りが絶対無いよう徹底していた。
何故なら、ここには見られたくないモノがあるからだ。
「やぁ、そろそろ一回戦は終わったところかな」
「――――流石は勇者様、ただの男とは比べ物にならない精力でした。これほどの力を感じたのは、剣聖以来ですよ」
ベッドの上で、そう赤裸々に語るのは、ピンクブロンドに褐色肌の美少女――――すなわち、レイナーレその人だ。
その口ぶりから、どうやら蒼真君はちゃんとレイナーレを抱いてくれた模様。なんだよ、いざ本番すると激しいプレイングとか、エロゲー主人公か。
純愛ストーリーモノのくせに本番シーンになると急にAVみたいな魅せプを始めること、あるよね。君ら、あんだけ切ない純愛を経て結ばれたくせに、初体験で色んな体位こなし過ぎだろ。ストーリーパートとエロパートのライターが違うのか、それとも一回しかないHシーンにエロ要素を全部乗せしたのか。
でもそんなミスマッチな構成が、僕は嫌いじゃない。
「けれど、とても優しく……今までの誰より、優しく愛してくれましたよ」
「惚れたかい?」
「恋人にするには最高の男でしょう――――ですが、甘く優しいだけの男より、結婚するなら貴方のような強かな男を望みます」
「蒼真君が今度こそみんなを救える男になれたなら、きっと君の目に叶うくらい成長してくれるはずさ」
「その時は、果たして何人の女性を彼は侍らせているのでしょうね」
「大丈夫だよ、役目を果たすまでは、君がナンバーワンだ」
蒼真君は何も、僕が用意した偽物とヤったワケじゃない。そこはちゃんと本物、間違いなくレイナーレ本人に相違ない。
では、僕のベッドの上に寝ているレイナーレは何者か。
「それにしても、まだ本体は蒼真君のお相手をしているだろうに、これだけお喋りできるなんて……流石はアーセ一の御子様だ。もう『双影』をここまで使いこなすなんて」
「いえ、モモカ様に比べれば、私など。こうして、分身一体で会話するだけでやっとでございますから」
そう、このレイナーレは分身だ。僕が最も熟練度高いだろう神スキル『双影』による分身である。
正直、ダメ元で試してみたのだ。レイナーレの分身を作れるかどうかは。
僕が初めて彼女と出会った時、風呂から上がってベッドルームへ移ってから、一晩かけて出来るだけの試行錯誤をした。ウチのディアナ人なら誰でもやってる呪印適性検査から、彼女の『精霊術士』としての能力測定、スキル検証などなど。あの場でできることは大体やったものだ。
そしてレイナーレの才能と、何より本人の強い意志によるものだろう。現状、彼女だけが扱える、『双影』の呪印が誕生した。
とは言え、レイナーレが単独で『双影』を発動できるようになったワケではない。分身の素体は僕が作り上げ、そこからガワをレイナーレに似せるところから、彼女の出番だ。
そうしてレムが変身したかのように、本人ソックリの分身が完成。そして双影呪印によって、レイナーレの意志での操作が可能となった。
「僕だって最初は一体操作が限界だったよ。練習すれば、すぐに動かせるようになるさ」
「モモカ様の足手まといにはならぬよう、精進いたします」
「ゆっくり練習していいよ。ディアナに通じる道を開くには、まだもう少し時間がかかるからね」
エレメンタル山脈を超えるために、山頂の主は倒したが、今度は安全な下山ルートも確保しなければならない。山を下りたなら、お次は穏便に接触できる集落も探さなければいけないし、イーストホープからのディアナ領進出には、今少し時間はかかってしまう。
だからこそ、その間に万端の準備を整えておくのさ。この分身レイナーレは、ディアナへ向かうにあたって、最も重要な存在だから。
アーセ氏族の御子は、最有力だったレイナーレがあえなく虜囚の身となったことで、その地位を大いに向上させたことだろう。わざわざ彼女を危険な戦場へ送った、その陰謀の見返りを存分に享受した奴らがいる。
そしてソイツらが、アストリアのディアナ侵攻を止める気は無い。親アストリア派として、こっちの文化、嗜好品を輸入してこの世の春を謳歌していることだろう。
まぁ、自ら手を汚して掴んだ栄華だ。その行動を、僕はそこまで非難する気はない。人間、誰だってそうする。僕も同じ立場で、同じように逆立ちしても天才御子様には敵わないクソザコだったら、似たような真似をして甘い汁を吸ったり、自尊心を満たしたりしようとするかもしれない。
大いに共感はできる。
だが、今の僕にとって、親アストリアのアーセ氏族は邪魔者以外の何者でもない。
「ディアナには再び、アストリアの脅威になってもらわなければいけない」
レイナーレには、『勇者』蒼真悠斗の篭絡とは別に、もう一つの重要な仕事がある。
御子レイナーレ、奇跡の生還。すなわち、ディアナのアーセ氏族へ、彼女が帰還するのだ。
無論、ただ故郷に帰ってハッピーエンドではない。ここから始めるのだ。アストリアをひっくり返すより前に、まずディアナをひっくり返してやる。
「安全な領地でふんぞり返ってる奴らを蹴散らして、君がアーセ氏族を支配するんだ」




