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呪術師は勇者になれない  作者: 菱影代理
第5章:最悪のハーレムパーティ
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第50話 亀裂

「質問に答えろ、桃川! お前は、何をしていた!」

「ちょ、ちょっと……待って、待ってよ、刀、降ろして……」

 ギラつく刃を向けられて、気が気じゃない。剣崎さんは憤怒という言葉さえ生ぬるいほど怒り狂っているようで、どんな正論も、些細な一言でも、逆鱗に触れてそのまま刺してきそうなヤバい気配しかしない。いや、このまま黙っていても、怒りのあまりに無意識に手が動いて、そのまま刃が僕の喉を貫きそう。

 唐突に訪れる理不尽な命の危機を前に、僕の頭はとてもじゃないけど冷静ではいられない。

「や、やめて……僕を殺したら、剣崎さんの、命だって……」

「貴様っ! この期に及んで、私を脅そうと言うのか!」

「うわっ、ごめんなさい! で、でも、誤って僕を刺したら、剣崎さんも同じ傷を負うのはホントだから、剣は引いて、お願いだから――」

 刺されてからでは、遅いのだ。『痛み返し』の効果は前にもまして、きちんと説明したってのに、ちくしょうめ、人間、怒れば我を忘れて平気で危険を冒せるってことか。いや、単純に『痛み返し』が目に見える物質的な凶器ではないから、直感的に手出しを躊躇させる効果が望めないんだ。

「ふざけるな、あまり、私を舐めるなよ、桃川――ふんっ!」

「ぐうっ!?」

 剣崎さんは刀を引いた代わりとばかりに、僕の腹へ拳を叩き込んできた。とても女の細腕とは思えない、鉄球でも喰らったみたいに重く、痛烈な打撃。

 無論、屈強な腹筋なんかもたない僕に、その衝撃を耐えられるはずもない。膝から力が抜けたように、その場でガックリと体が崩れ落ちる。

「う、うぐぅ……い、痛い……ひっ、く……痛いぃ……」

 情けない声を漏らしながら、僕は泣いた。腹を突き抜けてくるような鈍痛は、今すぐ死んだ方がマシなんじゃないかってほど苦しい。痛みに堪えるのに必死で、恥も外聞もあったもんじゃない。

 この苦痛と屈辱は、ゴーマにリンチされた時と全く同じだ。二度目だけど、こんなの慣れるはずないだろう。

「ちっ……これが、呪いの力か。まったく、忌々しいものだ」

 ひーふーと苦痛の吐息を漏らしながら、どうにか上体を起こす。見上げると、言葉以上に忌々しげに表情を歪ませる剣崎さんの顔がある。

 間違いなく僕と同じだけの痛みが伝わっているはずなのに、このリアクションの差はなんだ。どうしてこの女は、あんなに思いっきり腹をぶん殴られても平気な顔をしていられる……いや、これもまた、天職の差なのかもしれない。戦闘に優れた『双剣士』の剣崎さんは、恐らく、痛みに対する耐性も高いんだろう。あるいは、幼少の頃から積んできた過酷な剣術修行の成果なのかもしれない。

「はっ、はぁ……はぁ……け、剣崎さん、どうして……こんな、ことを……」

 追撃を喰らっては堪らない。強烈な鈍痛が少しだけ引いたことで、僕はどうにか声を上げる。今の僕には、会話による平和的な解決を目指すより他はないのだ。どんな理不尽な奴が相手でも「よくもやりやがったな、このヤロウ!」と罵倒することは自殺行為に他ならない。

 ああ、本当に『弱い』ってのは、辛いよな。

「どうして、だと……お前こそ、自分が何をしているのか分かっているのか」

 何だよ、分かってるんだったら、最初から聞くなよ。

「ああ、汚らわしい。よくも、私達が寝ている横で、こんなことができたものだな、桃川!」

 ふざけんな、こっちはわざわざ気を遣ってやったから、こんな隅っこの方でしてやったんじゃないか。さも寝こみを襲ったみたいな風に言いやがって。

「蒼真はこんなこと一度もしなかったというのに……これだから、男というものは」

「はぁ……はぁ……剣崎さん、これは、誤解だよ……僕は、どうしても呪術に必要だったから、それで……」

「言い訳するな! 見苦しいぞっ!」

 胸倉を掴まれ、強引に立たせられる――どころか、メイちゃんに次ぐ身長を誇る剣崎さんに掴み上げられて、僕の小さな体は完全に浮く。必死で爪先を伸ばしてみても、地面にかすりもしない。

 ちょっと、首も締まってる。苦しい。

「ごめ……待って、やめて……殴らないで……」

 命乞い同然の台詞を吐きながらも、もう一発くらいは殴られる覚悟を決めた。

「こんなことをして、ただで済むと思って――」

「ちょっと、明日那、どうしたの? 何を騒いでいるのよ」

 その時、噴水の方から声が、この声音と口調は、委員長か。

 名指しでお声がかかったせいか、剣崎さんは僕を一旦、離した。痛い。そのまま落ちて尻もちをついた。

 これで助かった――と、素直に喜ぶべきか、否か。もしかしたら、仲裁に入るどころか、集団リンチにグレードアップかもしれない。

「涼子か、起こして悪かった」

「明日那、私も目が覚めてしまいましたよ」

「うーん、なにー、みんなどうしたの?」

 委員長に続き、蒼真さんと夏川さんも声をあげた。

「問題が起こった。みんな、ちょっと来てくれ――」

「……小太郎くん?」

 メイちゃんも、起きた。あれだけ騒げば、目が覚めない方がおかしい。

 けれど、噴水の向こうから、寝ぼけ眼をこするメイちゃんが、僕の方を見るなり、眼つきが変わった。それは、魔物を屠る、狂戦士の目だ。

「小太郎くん!」

 一瞬の内に、メイちゃんは僕の前に現れた。どんな超スピードだろう、ほとんど走っている最中の姿が、見えなかった。

「あっ、メイちゃん……」

 でも、彼女の大きな体が、僕を庇うように立つのを見て、ああ、ちくしょう、情けないけど、涙が止まらない。やった、これで、命だけは助かった。心の底から、安堵する。

「ちょ、ちょっと、一体どうしたっていうのよ、これは」

 僕と剣崎さんと、そして超高速で助けに来てくれたメイちゃん。何とも剣呑な気配のする空間へ、流石に異常を察知して、委員長達は足早にこちらへ駆け寄ってきた。小鳥遊さんの姿が見えないのは、彼女だけぐっすり寝ているのか。

「桃川、今度こそ自分で説明しろ。あんなおぞましい行為を、女の私に語らせるな」

 オナニーしてました、って男でも堂々と言うには憚られるに決まってるだろ。それも、揃いも揃って二年七組を代表する美少女達を前に、そんなことをカムアウトしろってのかよ。いや、別に美少女じゃなくても、クラスメイトの女の子相手に言うなんて、精神的な拷問に等しい。

「……僕は、ここでオナニーした」

 でも、言った。言わないと、この場はどうにもならないから。

「え、ええっ!? ちょっと、それって……」

「嘘、ですよね……」

「に、にはは……」

 羞恥心だけで死ねるかも。本気で驚いた、といった表情の委員長。吐き気がするほど汚らわしいモノを見たような蒼真さんの顔。夏川さんの完全に引きつった苦笑い。メイちゃんの表情だけは、僕は恐ろしくて確認できなかった。

「で、でも、僕は決して、やましい気持ちでしたわけじゃないんだ。どうしても、呪術の発動に必要なことだったから……けど、人には絶対に見せられないから、バレないように、するつもりで……」

「桃川、お前はまたそんな言い逃れを――」

「やめてよ、剣崎さん。小太郎くん、怖がってるでしょ」

 今にも拳を繰り出してきそうな剣崎さんの前に、メイちゃんが堂々と立ち塞がる。僕を庇う彼女の背中は、あまりに大きく、逞しい。

「それじゃあ、そういうことだから、みんなはもう戻って」

 もう何も問題はない、とでも言うように、メイちゃんがこともなげに言い放つ。勿論、それで「なるほど、そういうことだったのかー」とみんな納得して解散、となるはずもない。

「双葉、お前まさか、桃川を庇うつもりか」

「庇うも何もないよ。小太郎くんが何か悪いことした?」

 メイちゃんの物言いは、僕の言い分を頭から信じ切ったようなものであった。悪意など一切ない、やって当たり前のことをしただけ。クラスメイトの女子が眠っている同じ部屋で、自慰行為をするという罪悪感さえも無視するような、言い方だ。

「桃川が何をしたのか、聞いただろう。コイツはずっと私達をいやらしい目で見ていたということだぞ。しかも、それを呪術のためとかなんとか、言い逃れまでする始末。許せるはずがないだろう」

 剣崎さんの言い分を、僕は全て認めることなどできないが……それでも、女性としては正しい反応だろうと、半分くらいは認められる。刀を突き付けて脅し、思い切り腹パン喰らわせるほど怒り狂うのは流石に理不尽が過ぎるとは思うが、それでも、野郎が同じ部屋でシコってましたと聞かされれば、不快感を覚えるのは当然だろう。生理的に無理ってやつだ。

「私は、その、いい気はしないけど……」

「に、にはは、私はそういうの、ちょっとよく分かんない、かも……」

 委員長と夏川さんは、「気持ち悪いんだよ、このオナニー野郎」とストレートに不快感を表しはしないものの、明らかに誤魔化すような曖昧な物言いである。二人が意識しているのは、僕に対する配慮じゃなくて、全てメイちゃんに対するものだ。二人には彼女に引け目がある。だから、強く言えないんだ。

「双葉さん、たとえ桃川君の言い分が本当だったとしても、私はよくないことをしたと思います。彼の行いは、男性として、明らかにデリカシーを欠いたものです」

 しかし蒼真さんは、二人と違って毅然と言い放った。女性にこう言われてしまったら、世の男は何を言っても言い訳にしかならない、伝家の宝刀だ。配慮がない、デリカシーがない。女性にとってそれは、男を非難するのに十分すぎるほどの理由となる。

「デリカシー? ねぇ、蒼真さん、本気でそんなくだらない理由で、小太郎くんを責めてるの?」

 今はつまんねー冗談を言ってる場合じゃねぇんだぞ分かってのかコラぁ! という心の声まで聞こえそうなほど、メイちゃんの言葉には静かな怒気が混じっている。

「とても大事な理由です。いいですか、今は貴女も含めて、私達女子が六人。そして、男子は桃川君一人だけです。たとえ一人だけでも男子がいる以上は、きちんと理性的な行動をしてもらわなければ、チームの不和を招きます」

「それって要するに、小太郎くん一人だけに我慢を強いるってことでしょ?」

「今は一人というだけで、この先、他の男子が仲間に加わっても、それは同じことです」

「同じでしょ、自分達は我慢したくないって、素直に言ったらどうなの」

「無茶を押し付けているとは思いません。少なくとも、兄さんは私達と何の問題もなくやってこれたのですから。そもそも、このような状況下で女子と男子、両者が行動を共にしなければいけない以上、明確な規律は必要でしょう」

「その規律を決めるのは、貴女ってわけ、蒼真さん」

「いいえ、私ではなく、私達です」

 多数決の原理。それは、僕ら日本人にとっては錦の御旗に等しい。

 僕の行動が罪であるか否か。そんなのは、わざわざ匿名投票で採決するまでもない。僕を庇おうとしてくれるのは、六人の女子の内、メイちゃんただ一人。過半数など、夢のまた夢である。

「双葉、どうしてそこまで、桃川を庇い立てする」

「そっちこそ、どうして……どうして小太郎くんの邪魔をするの」

「こんなことを平気で仕出かしたんだ。これまで一緒だった双葉こそ、コイツに何をされたか分かったものじゃないぞ」

 グサリ、と心に罪悪感の矢が刺さる。レムを創り出したあの日の夜、僕が見抜きした罪は重い。触ってないからセーフ、とか言い出したら、僕は今度こそ剣崎さんに刺されるだろう。

「双葉さん、貴女と桃川君の関係について詳しく聞き出したりはしません。けれど、たとえ将来を誓い合った仲であったとしても、今の状況下で性的なことの一切を許すわけにはいきません」

「ふん、自分が蒼真君に手を出してもらえないからって、ひがんでいるの?」

「に、兄さんのことは関係ありませんっ!」

 突如として声を荒げる蒼真桜。す、凄い迫力だ。前々から、兄貴である蒼真君に対しては、そこらのバカップルでも太刀打ちできないほど甘い雰囲気を漂わせていたけど……まさか、これほどとは。冗談でも何でもなく、蒼真桜は実の兄を、愛しているんだろう。

「ちょっと、桜、落ち着いて……お願いだから、双葉さんも、あまり煽るようなことは言わないでもらえるかしら」

「そう、悪かったわね。貴女の気持ち、わからないでもないから。馬鹿にする気はないの」

 委員長の絶妙なアシスト。メイちゃんも、ここで引いてくれて助かった。

「いえ、私も……少し、取り乱してしまいました……」

 今のは少しってレベルじゃないだろう。蒼真桜ファンクラブ会員が見たら、卒倒するんじゃないかってくらいの迫力だった。

「ともかく、男女が共にいる以上、一定の秩序が必要だということは、双葉さんも反対はしないでしょう?」

「そうね」

「桃川君のことは、今回は、全員が明確なルールを周知していなかったということで、不問ということにしましょう。幸い、誰かに手を出されたというワケでもないもの」

 出すわけないだろ、この面子の女子に。命が幾つあっても足りない。でも、改めてそう言ってくれた委員長には、感謝する。

「たった一発で不問とは、寛大な処置に感謝するんだな、桃川」

「剣崎さん、一発って……もしかして、小太郎くんのこと、殴ったの?」

 ヤバい。僕はこの時、メイちゃんの震える両肩から、薄らと例の赤いオーラが滲み出るのを見た。

「呪うぞ、などと脅しをかけてきたからな。腹に一発くれてやった。軽く小突いてやっただけなのに、大袈裟に痛がっていたぞ。男のくせに、情けない奴だ」

「……殺す」

 メイちゃんの拳が握られ、オーラが渦巻き始めていた。思い出すのは、胸の装甲をぶち抜かれて即死した鎧熊の姿。そうだ、彼女は素手でも、人を殺せるだけの力を持つ。

「ダメだっ! メイちゃん!」

 僕はアメフト選手になりきったように、思い切りメイちゃんの腰にタックルを決める。だが、近所の神社にある樹齢ウン百年という大きな御神木にぶちかましたように、彼女の体は微動だにしない。でも、柔らかい。腰細い。マジで痩せてるよコレ――って、そんなことに感動してる場合じゃない。

「キャっ!? こ、小太郎くん!?」

 殺意にかられた狂戦士から、嘘みたいな可愛らしい声が上がる。必死なのは、慌てて止めた僕だけか。剣崎さんは、今、自分が生きるか死ぬかの岐路に立っていたことに、気づいているのだろうか。

「メイちゃん、庇ってくれてありがとう。でもやっぱり、今回のことは、僕の不注意が招いたことだから!」

 いつまでも抱き着いていると女子達から厳しい視線が突き刺さりそうだったので、僕は早々に彼女の腰から手を離し、そのまま、地にひれ伏す。いわゆる一つの、土下座である。

「ごめんなさい、僕が悪かったです。どうか、許してください」

 屈辱はある。でも、呪いたいほどではなかった。メイちゃんが、僕の代わりに怒ってくれたことが、こんな時に不謹慎かもしれないけど、嬉しかったのだ。こんな僕でも、味方がいるのだと。彼女の信頼が、今の僕にとっては何よりもありがたい。

「明日那も、桜も、こうして桃川君が頭を下げたのだから、許してあげましょう」

「ええ、そうですね。これ以上は、彼を責めても不毛なことですから」

「次はないぞ、桃川」

 とりあえずお許しをいただいたことで、僕はようやく立ち上がる。あ、ちょっと足が震えてる。プライドを捨てたダメージだろうか。メイちゃんがあっけなく土下座して折れた僕のことを、今どんな顔で見ているのか、怖くて見れない。

 落ち着け、落ち着けよ、僕。正直、また泣きそうだけど、まだこの場で言っておかなければいけないことがあるだろう。

「……あの、悪いんだけど、僕がやろうといていた呪術を、使わせてもらっても、いいかな」

 ここで『汚濁の泥人形』ができなければ、こんな大騒ぎしてまで精液を手に入れた意味がない。

「桃川! お前はっ――」

「待って、明日那。桃川君、その呪術は、どうしても必要なのね?」

「『汚濁の泥人形』はゴーレムを創り出す呪術なんだ。コレがあれば、いざという時に身を守る盾になる。鎧熊と戦った時も、ゴーレムが庇ってくれたお蔭で、僕は死なずに済んだ」

「それを使うには、えっと、その……どうしても、必要なの?」

「コレがないと、性能が極端に落ちる。錬金術師が創るホムンクルスの材料って、聞いたことない?」

「……分かったわ、そういうことなら、仕方ないわね」

「おい、涼子、どういうことだ。ホムなんとかの材料って、どういう意味だ」

「後で説明してあげるから、今は黙ってて」

 流石は委員長、博識だ。おまけに察しもいい。本当に助かるよ。

「とりあえず、今回はその『泥人形』というのは作ってもいいわ……材料は、もうあるのよね?」

 ちょっと言いにくそうに聞いてくる委員長は、妙に可愛らしい。てっきり、そのテのことは天道君で慣れているのかと思ったけど……もしかして、まだ経験はないのか。報われないな、委員長。

「うん、あとは呪文を唱えるだけだから」

「そう、それならいいわ……次回については、また後で考えることにしましょう」

「おい涼子、コイツ全然懲りてないんじゃないのか。やはり制裁は必要――」

「明日那がこういうことに厳しいのは分かるけど、貴女も、もう少し抑えるべきよ。ルールを決めてなかった以上、罰則も存在しない」

「ウチの道場なら、袋叩きでも済まないぞ」

「桜の言う通り、ルールはこれから、私達がみんなで決めるの。あまり厳しくしすぎるのも、それはそれで軋轢が生まれるわ……とにかく、今日はみんなもう寝ましょう。明日の朝には、ここを出るのだから」

 渋々、といったようだが、これ以上の揉め事は御免でもあるのだろう、メイちゃんを除いた女性陣は黙って寝床へ戻り始めた。

「あの、委員長、ありがとう」

「……お礼なら、双葉さんに言って」

 どこか疲れた微笑みを浮かべて、委員長は足早に去った。

「メイちゃんも、本当に、ありがとう。助かったよ」

「どうして……止めたの」

「止めるよ、こんなくだらないことで、彼女達と揉め事は起こしちゃいけない」

「でも、小太郎くんは……だって、酷いよ、あんなの、土下座までして……」

 どうして、メイちゃんが泣きそうな顔をしてるんだろう。無様に頭を下げたのは、僕なのに。

「いいんだよ、僕が頭を下げるだけで丸く治まるなら、それで」

「でも、でもぉ……」

「大丈夫だから。メイちゃんが信じてくれたから、僕は全然、大丈夫だよ」

「……ごめんね、小太郎くん」

 彼女の両目から、とうとう涙の雫が、零れ落ちた。

 参ったな。こういう時、なんて女の子を慰めればいいのか、僕にはとんと見当がつかない……

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― 新着の感想 ―
[一言] この作品、面白いけど読んでてイライラする
[気になる点] 主人公含めて登場人物全員気持ち悪い。 行動原理があまりにも浅い。高校生という年齢を考えるともうちょっと思慮深い人物が多いはず。 極限状態だから&キャラ付けによる行動というのも分かるけど…
[一言] 1人でこっそり性欲発散してたのを暴露させる方が100倍デリカシーないと思うけどな。
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