第469話 迷宮演習(1)
俺達が『勇星十字団』に入団してから、早いもので2ヶ月が過ぎようとしていた。
天職『勇者』の俺ではあるが、それでも基本的には新団員と同じ扱いを受けている。新団員は各天職の強化を目指すダンジョンでの実戦訓練を除けば、その生活は学校に通っているようなものだった。
というのも、団員は貴族や騎士の出身者が半数以上を占めている。神が授ける天職の力は平等だが、天職を得る機会はその限りではない。
まず天職を得るには、パンドラ聖教で儀式を行わなければならない。俺達は転移の際に教わった、ノートに手書きの魔法陣による天職授与は、普通ではまず成功することはない略式の略式のさらにまた省略しまくった、ほんの極一部の術式だけによるモノらしい。
それでクラスのほぼ全員が成功しているのは、クラス転移という特殊な現象が影響している。俺達が違う世界の人間だから、というより、違う世界からこの世界へ渡って来た、という部分が重要で――――と、この辺の説明は、恐らく半分くらいは真実なのだろうが、もう半分は勇者召喚のためにクラス全員巻き添えにした、という事実の隠蔽も含まれているだろう。
世界を渡ることの特殊性について滔々と語るサリスに対して、「なるほど、そうなのか」と平静を装うのは苦労したものだ。
ともかく、俺達のような特別なケースを除き、この世界の本来の住人が天職を得るには、きちんとした儀式が必要ということだ。
「シグルーンでは15歳の成人式で、天職の適性検査が行われるのが通例となっている。平民が受ける機会は、ここくらいだろう」
と、テスト範囲の内容を教えてくれるように語ってくれるのは、天職『聖騎士』の少女、フレイアである。
彼女とは最初に決闘をして以来、仲良くさせてもらっている。まるで明日那と出会った頃の焼き直しのように。
先に訓練ノルマを終わらせた俺とフレイアは、屋外訓練場の一角にある木陰で駄弁っていた。
「けれど、天職ほどの力を得られるなら、何度でも挑み続けそうなものだが」
「成人式以外で受けると、それなりの費用がかかる。合同検査もあるが、年に一度あれば良い方だ」
「なるほど、資格試験みたいだな」
「ただの試験なら、純粋に己の実力のみを測るが……天職は自分にも分からぬ才能と、そして神々の御心次第だからな。挑み続ければいつかは、何てことはまず無い」
成人式の時にダメだったなら、もう見込みはないと諦めをつける、というのが普通らしい。粘ったところで、念願叶う者は本当にごく少数。夢と希望をかけて儀式をやっても、大体はなにも起こらないという。
それに天職を授かるのも、歳をとるほど授かる可能性は下がって行く傾向にあるのも、統計的に明らかなのだ。老齢になって目覚める可能性もゼロではないが、例外みたいなモノらしい。
「それじゃあ、フレイアは成人の時に『聖騎士』を授かったのか?」
「いや、私は……幸いにも、神の寵愛を賜った。私が『聖騎士』となったのは、7歳の誕生日だった」
幼少の頃に自然に目覚める、というのが普通の人々の間でも代表例となるそうだ。アストリアで『御子』と言えば、そういう子のことを差すという。
神童と呼ばれるようなものだろう。だが二十歳になって凡人、となることはまず無い。
幼い頃に天職を得た者は、実際に優れた才能があるからこその結果である。事実、そうした子は強力な天職の能力を引き出すという――――フレイアはその典型例と言える。
「騎士の家に生まれ、騎士の天職を授かったなら、他にやるべき事などないからな。なるべくしてなった、と言ったところだ」
「武の道は険しい。ただ流れに身を任せるだけで、腕は磨かれない。フレイアと剣を交えたから、俺にはよく分かるよ。今までどれだけひたむきに鍛錬へ打ち込んできたか、そして、剣が好きなのかって」
自身の才能よりも、ただ環境に恵まれただけだとフレイアは謙遜しているが、どれほど環境に恵まれていても、本人にその気がなければ意味はない。
俺だって爺ちゃんに散々文句を言いながらも、結局は蒼真流が好きだから、技を磨き続けて来られたのだ。
「そ、そんな急に褒めても、何も出ないからなっ!」
「おだててるワケじゃない。ただの素直な感想だよ」
「全く、ソーマはすぐ平気な顔でそういう事を口に……ともかく、この『勇星十字団』に入団する者の多くは、私と同じように御子などと呼ばれてきた者達だ。ここでは決して、自分だけが特別なワケではない」
フレイアの言う通り、『勇星十字団』はアストリアでは憧れのスーパーエリートクランだ。凄まじい倍率を潜り抜けて選抜された団員で、平民の出ならまず間違いなく御子、幼い頃から天職の力を磨いてきたタイプである。単純に天職を授かってからの期間は、俺なんかよりもよっぽど長い大先輩だ。
「まして王侯貴族の方々ともなれば、ただ己の才を試すのみの平民とは、背負っているモノが違う」
「貴族の義務とか、政治的な理由とか?」
「全て含めて、だな」
純粋に『勇星十字団』が実力主義であったとしても、平民の方が多数派となることは無い。
御子となった場合を除けば、成人式くらいしか天職を授かる機会が無い平民。一方、貴族のように豊かな上流階級や騎士のように戦う力を求められる層は、成人など待たずに、幼少のころから天職を授かるための修行を行うのが一般的だという。大金をかけて、幾度も儀式を行う家も少なくない。
富裕層の子供が、小さい頃から色んな稽古ごとに私立の小学校だか中学だかのお受験に向けての勉強と、息が詰まるような生活を送るのと同じようなものだ。
ウチの道場はなまじ高級住宅街のような立地だったから、稽古事の一つとして習いに来る子供も結構いた。子供ながらに大変だな、なんて呑気な感想を教えながら抱いたものだが……どうやら世界が変わっても、子供は親の立場や地位によって色々背負わされることに変わりはないようだった。
ともかく、そうした天職獲得のための教育も盛んなことから、結果的に貴族や騎士の中から天職持ちが多く出て来るワケだ。
そしてその中でも、幼い頃から加護を授かった御子や、過酷な鍛錬を通して才能を磨いてきた者が、エリート中のエリートとして『勇星十字団』へ入団してくる。
こういった天職や団員の出身などの話は、あらかじめサリスから聞かされている。それを俺はフレイアから、初めて聞いたような態度で話しているのは、彼女の語った情報の裏取りだ。
サリスはどこまで俺に真実を語り、嘘を吐いているのか。それを確かめるために、出来るだけ他の人物からも、同じ内容についての聞き取りをするようにしている。
なんて言えば大袈裟だが、普段の会話の流れに合わせて、話題の一つとして差し込むような感じにすればいい。あからさまに情報を嗅ぎまわっている、なんて態度に見られたら困るしな。
最も重要なのは、あくまで俺は、異邦人だからこの世界のことをまだよく知らない、という無知な姿勢を見せること。異邦人を言い訳にすれば、当たり前の常識を聞いても、そう不審に思われないからな。
「私も『聖騎士』でなければ、早々にどこぞへ嫁に出されていたことだろう」
「自分より弱い軟弱者に嫁ぐくらいなら、と言って冒険者になって出て行く可能性の方が高かったんじゃないか?」
「なんだとぉ! そんなこと――――」
「天職が無くたって、フレイアはきっと剣の道を志したさ」
「無い、とは言い切れんな……だが勘違いするな、私はただ嫁入りが嫌で出奔するような、無責任な真似などしないとな!」
「はは、分かってるって」
「絶対、分かってない!」
本当に分かってるさ。だって明日那は天職なんて無い頃から、ずっとあの感じだったのだから。
「ふん、お前はどうなんだ、ソーマ」
「俺は別に、ただの道場の跡取りってくらいで――――」
「おっ、なんだよ、勇者ソーマの秘密がついに明らかになるのか?」
「そんな面白そうなコト、二人だけの内緒話にしないでよねー」
「おい、俺にも聞かせろよ!」
「つっても、どうせ生まれてすぐ『勇者』になったんだろ?」
「バァーカ、異邦人の世界は天職ないって前に言ってたじゃん」
「こっちの世界に来て一年くらいだろ、それでこの強さだってんだから……」
「言うな、悲しくなる。相手が『勇者』じゃしょうがねぇ」
俄かに騒がしくなるのは、訓練を切り上げてこちらへ新団員達がゾロゾロと戻って来たからだ。
なんだかんだで、最初に『勇者』として力を見せたのは功を奏した。彼らとしても、明確に格上の実力者である、と認めてくれたようだ。
その上で、こちらが傲慢な態度を取らずに、同じ新団員として日々の訓練やダンジョンでの実戦を真面目に過ごして行けば……今は大体の者が友好的に接してくれるようになった。
きっと何も知らずに自分が皆を救う『勇者』なのだと信じていても、俺はこういう関係を彼らと築くことが出来ただろう。純粋に、共に戦う戦友として。
けれど、今の俺はそんな純粋な気持ちは持ちえない。俺は意識的に、彼らと友好的になるよう振る舞ってきたのだ。
現状では、委員長達の記憶改竄を解く方法も見つかっていない。知れば知るほど、アストリアは大国で、パンドラ聖教は広く信仰され、俺達への陰謀を仕掛けたと思われるエルシオンを信奉する『女神派』だけでも、勇者リリスや聖女にしてお姫様のサリスを筆頭に、凄まじい権力を誇っている。
とても俺の覚悟一つだけで、奴らと敵対して無事に済むとは思えない。
今はまだ、サリスが望む通りの『勇者』を演じなければ。
まるでスパイにでもなったような気分のまま、俺はにこやかに、面白おかしく召喚前の日本で過ごした平和な生活を語った。
『勇星十字団』にいる者は、その全てが『女神派』の手先ではない。彼らの大半は自分の家や夢のために、更なる高みを目指して入団して来ている。
そんな彼らだからこそ、サリスと接するよりは、よほど気楽に会話ができる。
そうして、和やかに談笑をしていると、
「みんなー、お昼出来たよぉー」
のんびりした双葉さんの掛け声に、全員がワァーっと駆け出してゆく。俺達だけじゃなく、訓練場の遥か向こうで剣を振っていたような奴らも、我先にと走りだした。
「今じゃ双葉さんが一番人望あるな」
「全く、どいつもこいつも、胃袋を掴まれおって」
昼食の用意は団員の仕事ではない。『勇星十字団』は国内最高のクランとして、設備から福利厚生まで充実している。貴族階級の者でも満足できるような食事が提供できるだけの食堂もあるのだ。
しかし、気が付いたら新団員の昼食は双葉さんがメインで用意するようになっていた。
記憶を失ったことで、彼女の戦いを好まない生来の気質と、戦う意味そのものを失った双葉さんは、当然のことながら訓練に乗り気ではない。最初にフレイアが激高したように、双葉さんはヤル気を見せず、とりあえず言われた通りのことだけはやる、といった態度のままだった。
だからこそ、だろうか。俺でなくとも団員の誰もが向上心を持って訓練や実戦に打ち込んでいる傍ら、昼前から早々に訓練を切り上げ、双葉さんは食堂の調理場へ入るようになった。最初は、栄養バランスを考えた食事も強くなるためには必要だから、とか何とか言い分を立てていたようだが……一週間も経つ頃には、もう彼女は新団員全員の昼食を取り仕切る、料理長と化していた。
「美味い……アイツはもう、料理人一本でやった方がいいだろ」
「俺もそう思うよ」
今日の料理も美味かった。限られた食材で切り盛りしていた、学園塔の頃でも美味かったのだ。豊富な食材を存分に仕入れられるクラン食堂なら、旬の食材を選ぶことだってできるのだから、双葉さんはほとんど自由に料理を作れる環境になっている。その日その日で、最善のメニューを提供してくれるに決まっていた。
その味は瞬く間に新団員達を魅了し、フレイアでもそこは認めるところである。
本当に、今の双葉さんは料理人に専業した方が幸せなんだろうが……この先きっと、『狂戦士』の力が必要になる時が来るだろう。
果たして、記憶を取り戻すのが先か。それとも、桃川が彼女を取り戻しに来るのが先か。俺も、いつその時が来てもいいよう、準備と覚悟をしておこう。
◇◇◇
「――――それでは、迷宮演習についての打ち合わせを始めるわ」
実に堂に入った様子で、座学用の教室で教壇に立っているのは、我らが委員長、如月涼子である。
そう、彼女は新団員の中にあっても、すでにして委員長の地位となっていた。
クランは学校ではないので、クラス委員という肩書は存在しないのだが、少なくとも一年目は、新団員だけで集団行動することになる。ならば当然、全員を取りまとめるリーダー役が必要となってくる。
当初はサリスの後押しもあって、俺を名実ともにリーダーに、という動きもあったが……とんでもない、如月さんを差し置いて、一体誰がリーダーをやるものか。あの桃川だって、自分の独裁よりも、委員長をトップに立てた方が良いと思っていたからな。
そういうワケで、案の定と言うか自然の流れと言うか運命と言うか、委員長は委員長となった。
彼女も最初の模擬戦の際には、圧倒的な氷魔法の力で実力を示した。一目置かれた状態となれば、あれよあれよと委員長が新団員をまとめる中心人物へと祭り上げられていくのは、当然の結果である。
フレイアをはじめ、いいとこの出である面子も多いので、異邦人であり優れた実力を示した委員長をトップにする方が、色々と波風が立たない、なんて風潮も後押ししただろう。
まぁ、そんな思惑など無くとも、委員長を超える管理能力を持つ者はいない以上、代わりなど誰も務められないのだが。勿論、俺は御免だ。リーダーの器じゃないなんて、すでに嫌と言うほど思い知ったからな。
「今回の目標は『外郭庭園』の第三階層『ネレイス湖畔』の完全攻略。すなわち、階層主である『大騎士像』の撃破よ」
委員長の発表に、集まった団員達がざわめく。それは驚きというより、ある程度予想通りといった反応である。
そもそも迷宮演習とは言うものの、実質ただのダンジョン攻略だ。
普段の実戦訓練でもダンジョンに潜っているが、それは目当てのモンスターを狙った戦闘訓練が主な目的である。階層を攻略し、ボスを倒し、次に進む、ということはしない。
一方、迷宮演習となると、本番同様に入口からスタートし、妖精広場で休息を取りつつ、目標の階層まで向かい、ボスを倒しての完全攻略を目指す。
これまでの期間で、新団員は己の力を磨くのみならず、クランメンバーとの連携も取れるよう訓練をしてきている。その成果を、この本番同様の迷宮演習で示す、といった感じである。
そんな演習に用いられるダンジョンの階層は、凡そ有名なものだ。
猛毒の沼地、極寒の雪山、灼熱の火山、そんな過酷な環境のエリアではなく、ダンジョンの基礎ともいえる緑の山野や古代の市街地、あるいは石造りの巨大迷宮といった場所が選ばれる。まして俺達は新団員なので、いきなり厳しいエリアに挑ませるはずもない。
その上で、新人とは言えすでにエリートである彼らの訓練にちょうどいい強さの敵がいる場所、となるとさらに限られてくるようだ。
「その『ネレイス湖畔』ってところも、有名なのか?」
「ああ、この国の騎士なら一度は世話になる場所だな」
当たり前のように隣に座っているフレイアに、俺はコソっと聞いてみる。ちなみに、反対側の隣は夏川さんだ。
こういう時、俺の監視としてサリスが隣に陣取って来るのだが……今はどうやら、お姫様として彼女は忙しいらしい。クランハウスに顔を出す機会が、ここ最近は随分と減っている。
俺の監視役を他の誰かに引き継がせたか、それとも本当に忙しいだけなのか。
団員の全員が女神派ではないとはいえ、サリスと繋がる仲間は確実にいる。そして、それが誰なのかは、簡単な自己紹介程度の情報では分からない……だが、今回の演習で何か分かるかもしれない。
「ダンジョンでなければ、貴族の避暑地にでもなりそうな、美しい湖だ。出現するモンスターは石像型のゴーレムと、狼やら熊やら、よくある動物型ばかりで、基礎的な訓練をするにはちょうどいい階層だな」
「フレイアは行ったことあるのか?」
「私は『外郭庭園』は第二階層までしか無い。だが、今の私なら、問題なく攻略できるはずだ」
なるほど、恐らく難易度としては、ヤマタノオロチのいる学園塔に辿り着く前のエリアにあった、吸血鬼のボスがいた暗黒街と同じか、そのちょっと下くらいといったところだろう。
『外郭庭園』というダンジョンは、元々、シグルーン大迷宮の一部であったらしい。
しかしアルビオンと同じように、数多くの広大なエリアが発生し、シグルーン大迷宮から分離独立したような場所も幾つも発生している。
そういったエリアは新たに独立したダンジョンとして定着するようで、『外郭庭園』もその内の一つといったところ。
このシグルーンには、こうした大迷宮から独立した小中規模のダンジョンも多数存在しており、大迷宮の中枢部が勇者パーティに占有されていても、首都の冒険者には活動する場に困ることはないという。
「すでにみんなもダンジョンは潜っているけれど、今回はいわゆる中層域まで攻略することになる。ボスは勿論、フィールドを徘徊しているモンスターも、これまでより一段階は強力になるし、多様なスキルや魔法も使うようになるわ。決して油断せず、準備を怠らないように」
「キサラギさんの言う通り、準備の段階から演習は始まっている。久しぶりの野営になるからといって、忘れ物なんてするんじゃないぞ?」
委員長の隣に立って、そう注意を口にしているのは、男子クラス委員とでも言うべき立場にある、ジュリアスという青年だ。
金髪碧眼の絵に描いたような爽やかな好青年である。俺もよくイケメンだなんだとおだてられるが、やはりああいうタイプの方が正統派な美形だと思う。
そんな海外の人気俳優みたいなビジュアルの彼と並んでも、見劣りしないどころか、むしろ風格が漂う委員長は凄い。
「今回の迷宮演習は例年通りに、三回に分けて行われるわ」
新団員だけでも100人いるからな。一度に100人も一気に潜らせて、同じ目標に向かわせても渋滞するだけだ。ある程度、人数を分けるのは当然だ。
そして、今この教室に集っている30人が、最初に潜る前半組ということである。
「班員の構成はすでに決められているから、これから発表します。ジュリアス君、お願いね」
「イエス、マム」
爽やか笑顔で答えたジュリアスは、委員長の発表と共に黒板に名前を書き込んでいく。
そうして発表された班員構成に、新団員達は悲喜こもごもといった反応で、俄かに教室は騒々しくなった。こういうところで、本当に学生に戻ったような気持ちになる。
「よし、同じ班として、頑張るぞ、ソーマ!」
「ああ、よろしくな」
俺と同じ班になって、素直に喜ぶフレイアに笑顔で答えながら、考えてしまう。
今回の演習にサリスは参加しないようだ。班員の発表が終わったが、サリスティアーネの名前は出ていない。
ならば、今回の班員の誰かは、俺の監視役として配置されているはず。班の人数は10人。1パーティとしては、少々多めだが、そこまで妙な人数でもない。
俺を除いた9人の内、誰が監視役なのか。一人なのか、二人なのか、あるいは全員か。
フレイアを含めて、俺は彼らを常に疑いの目を向けなくてはならないだろう。
はぁ、ホントに疲れるな、こういうの……
「蒼真君はすぐ無茶するから、フレイアちゃん、よろしくねー」
「ああ、私に任せておけ!」
明日那を彷彿とさせる、というのは夏川さんも同じようで、すでにフレイアとは気安く話せる間柄になっている。
それでも、俺と班が別になったことは、それはそれとして少し不満な様子だったが。
班員を疑わねばならない俺としては、クラスメイトが面子にいてくれた方が精神的には楽なのだが……残念ながら、あるいは必然というべきか、この班には俺しかいない。
委員長と夏川さんはセットとなっており、双葉さんはまた別な班となっていた。
「君と同じ班になれて嬉しいよ、メイ」
「うん、よろしくね」
教室の一角、やたら親し気に双葉さんへと声をかけていたジュリアスを、俺は少々、複雑な視線を向けていた。
あの男、果たして純粋に双葉さんにアプローチをかけているのか。それとも、彼女に対する監視役なのか……現状では、俺に判断はつかなかった。
「この演習で、何も起こらなければいいんだが……」
班として俺達が分断されてしまった状況に、どうしても一抹の不安が拭え切れないのだった。