第467話 黒髪教会、拡大中(1)
それはフルヘルガー討伐に向けて、準備をしている最中のことであった。
「くっくっく、山田君も人が悪いなぁ……まさか、優秀な『薬師』のお友達がいるってこと、僕に黙っているなんてさぁ?」
「なっ、おい桃川! リカルドには手を出すなよ!?」
本気で焦った表情を浮かべる山田に、小太郎は実ににこやかな顔ですり寄って来る。
「いやぁ、ちょうど『薬師』を探していたんだよね」
「頼むから、お前の悪だくみにリカルドを巻き込むのだけはやめてくれ!」
「ええぇー、いいじゃんいいじゃん」
「くっ、やめろぉーっ!」
完全に人質をとられていいように弄ばれる苦境に立たされたような山田を存分に弄ってから、話を進めることにした。
「危ないことなんて何もないよ。僕はただ、この素晴らしい『リポーション』を売りに出したいだけなんだ。いいかい、僕は心の底からコレが良いモノだと思っている。より良いモノを広めることは純粋な善意であって、善い行いは自分にも帰って来るものさ。だから全てはアナタのためであり、みんなのためであり、引いては世の中のためになる。誰もが幸せになれる、たった一つの冴えたやり方! これは最早、単なる商売なんかじゃない、慈善事業と言っても過言ではないね。稼ぐついでに徳も積めるだなんて、こんなこと普通は出来ないよ。出来ないけれど、今だけ、アナタにだけ――――」
「完全に詐欺師の口上じゃねぇか。目ぇキラキラさせんな。札束もチラチラさせんな」
「でも効果が本物なのは知ってるでしょ?」
「リポーションって、下川が作ったアレだろ。まぁ、お世話にはなったが……」
「そうそう、劣化ポーション。アレを参考にして、今はウチで量産体制に入ってるんだ」
「それって効果は同等なのかよ」
「流石に下川君謹製のモノには劣る。でも多少の傷はコレ一本で十分」
「なるほど、普段使いするには上等だな」
山田とて、伊達に三ヶ月もヴァンハイトで冒険者をやっていない。命を賭けてモンスターと戦う冒険者の必需品である回復薬、すなわちポーションの効能と相場について、山田はすでに一通り知っている。
その上で、これまで自分がどれだけ恵まれていたかを実感することにもなった。
まず最高の効能を誇るのは、やはりダンジョン産の、いわゆる本物のポーションだ。ほぼ瀕死の重傷からでも、一本で復活できる凄まじい治癒能力を誇る。
それに次ぐ高級品のポーションは、『本物』には及ばないものの、大怪我を即座に塞ぐに足る、高い治癒能力を持つ。より即効性に優れた回復系特化、自然治癒の促進に優れた治癒系特化、といった種類もある。
山田が知る下川製リポーションの効能は、この高級品に迫る品質であると実感している。
それに次いで、中級品と言うべき品質になると、ある程度の傷を塞ぐ程度の効果に留まる。多少の手傷を癒すには十分だが、強敵から致命的な一撃を貰った時には、即座に復帰など望めないだろう。
小太郎の話によれば、姫野代わりのディアナ人を酷使して、ニューホープ農園で生産している量産型リポーションは、ちょうどこの中級品質となるらしい。
「失礼だなぁ、酷使なんてしてないよ。ウチは真っ当な労働環境で、安全、衛生、そして福利厚生もバッチリ揃った、エルシオンが霞むほど輝く聖なるホワイト職場だよ」
「賃金は?」
「みんな満足して働いてくれてるよ」
俺は本当にコイツを信じて良いのだろうか……良心の呵責といった感情など一切現れない清々しい笑顔で語る小太郎に、山田は自問してしまった。
「けどよぉ、それくらいの回復薬なら、幾らでも売ってるだろ。大手の製薬会社に勝てるようなウリがあんのか?」
「勿論、僕だってすでに相場は知ってるさ。その上で言わせてもらうけど、ウチのリポーションは平均価格の半値で売れるね」
「マジかよ……お前、もしかしてダンピングでもするつもりじゃあ」
「場合によってはそういう手段も取るかもね」
量産型リポーションのウリは、高水準の品質と、平均価格より半分以下でも利益が得られる安価な生産体制だ。
今や農園の一角は薬草畑と、薬草ベースのトレントも育成されている。
危険な採取作業も、新たなディアナ人奴隷を買い込む度に、それなりの確率で召喚適性者がいること、そして最初に召喚を授かった者のレベルアップにより、ベテランも増えてきたこと。これらによって、凶暴なトレント相手でも、使い捨てスケルトン部隊をぶつけることで、ノーリスクでの収穫を可能としている。
そして何より、農園の中で生活しているディアナ人にかかる人件費は、ほぼ自給自足のため限りなくゼロに近いこと。
人件費はそこらの奴隷と変わらず、それでいて労働者のスキルとモチベーションは比べるべくもなく、更には錬成工房の設備もあるとくれば……
「確かに、そんだけ揃えりゃあ、大企業にも真っ向から太刀打ちできるってワケか」
「でも僕は、別にポーション市場を独占しようとは思ってないよ。ほんの少し、シェアを分けて貰えれば十分なのさ」
「欲しいのは儲けより、流通体制ってことか」
「うん、流石の僕も、まだアストリア全土にツテは無いからね」
今はまだ東の迷宮都市ヴァンハイトでの活動に留まっているが、散り散りとなったクラスメイト探しをするにしても、勇者リリスの女神派を相手にするにしても、アストリア全土を股に掛けた活動をする必要に迫られるだろうことは、容易に想像できる。
もしかすれば、この『無限煉獄』に続き、他の四大迷宮も全て攻略に挑む必要性にも迫られるかもしれない。
「全国に桃川薬局でも作るのかよ」
「いいね、ドラッグストアを全国展開してみようかな」
餅は餅屋、ではないが、アストリアでは基本的に小売店で扱う商品は、同種のモノである。武器と防具は別々の店だし、ダンジョン探索に必要な道具も別店舗となる。食料品にしたって、肉、魚、野菜、とそれぞれ独立している店ばかりだ。
故にアストリアでは、市場や商店街といった形が当たり前で、ヴァンハイトのような大都市ならば、デパートのような大型複合施設がある、といった状態だった。
「ポーション以外にも、ウチは色々作ってるから。冒険に必要な全てのモノが揃うお店ができるよ」
「で、いざって時は物資が備蓄された拠点にもなるってか」
「そういう備えをするためにも、まずは目玉商品のリポーションから売り出したいのさ」
聞く限り、そう悪い話ではない。
ないのだが、山田は「うーむ」としばし唸りながら考え込んでしまう。
桃川の言うことだ、実は何か穴があるのではないか。これを了承してしまったが最後、リカルドが姫野の如く酷使されてしまうのではないだろうかと、不安ばかりが過る。
自らサボることに余念のない姫野と違い、何せリカルドはお人よしだし、責任感も強い。潰れるほどの仕事量と重責を負わせるようなことだけは避けねばならない。
「リポーションの品質は山田君も認めるところでしょ。『薬師』の人には、共同開発者としての名義と、販売認可をとって欲しいんだよ」
この辺、アストリアは結構ちゃんとした医薬品の販売制度があったりする。ただでさえ人体に影響のある薬が、適当な成分で流通したら一大事。まして本物の魔法のあるこの世界では、より強く大きな影響を発揮できる。
なので一般的に販売されるような医薬品は、専門の機関で認可されたモノでなければ、店頭に並ぶことは無い。
しかし『薬師』やそれに準じる医薬品の製造と取り扱いに長けた天職持ちが、きちんとパンドラ聖教による認定と国家資格を取得していれば、新薬を発売するのに必要な諸々を、大きく短縮することができる。
どこの誰とも知れない怪しい『呪術師』のガキでは、そりゃあもう厳しい検査と長い試験期間を取られそうだが、すでに信頼と実績を築いた天職『薬師』であれば、随分と簡略化される。
「けど、それじゃあリポーションの開発はリカルドの手柄ってことになっちまうぞ。お前はそれでいいのかよ」
「全然いいよ。別にこれで大儲けするのが目的じゃないし。今は最短で流通できるようにする、ってのが一番大事だから」
そして、この条件に最も相応しい人物が、山田の恩人であるリカルド氏なのである。
残念ながら、農園にも教会にも、天職『薬師』はいない。なので、山田に断られたら、マジで小太郎は一切関係のない人に、美味しい儲け話として持ちかけることになる。
下手に第三者を取り込むよりは、多少なりとも為人を知っている者の方が良い。ましてそれが、山田が信頼するという人物ならば、尚更だ。
コネ採用は、決して悪い面ばかりではないと、小太郎は思っている。
「だから僕はさっさとリポーションを売れて嬉しい。リカルド氏はタダで儲けられてお得。絵に描いたようなウィンウィンの関係じゃあないか」
「……そんな美味い話を、お前が?」
「いやちょっと、僕どんだけ信用ないの」
「そんだけ詐欺師ムーブしといて」
「ちょっとした冗談じゃあないか。それもクラスメイトの山田君にしか言えない類の」
「御子様だもんな、お前……まぁ、信じていないワケではないんだが、分かった。ひとまず紹介だけはしてやる」
「おお、ありがとね!」
「だが、お前に協力するかどうかは、リカルドが決めることだ。俺は紹介するだけで、説得したりはしないぞ」
「それだけで十分だよ」
実に満足気な笑みを浮かべる小太郎に、やはり早まったか、と言いたげな表情の山田であった。
「大丈夫、絶対に後悔させないよ。君の恩人にガッポリ儲けさせてあげるから!」
◇◇◇
「おい、話が違うぞ桃川っ!」
「おやおや、どうしたんだい山田君。そんなに血相を変えて」
「一週間くらいで、もうリカルドがやつれてるじゃねぇか! どうなってんだよ!?」
と、山田が黒髪教会に怒鳴り込んでくる気持ちは、分からないでもない。
だって本当にリカルド氏、やつれちゃったからね。
「まぁまぁ、落ち着いてよ。ほら、お茶でも飲みながらさぁ」
「この野郎ぉ!」
「ごめんって、ちゃんと説明するから」
事の発端は、山田が僕の口車に乗ってほいほい恩人を紹介してしてしまった日のこと。
僕は誠実に薬師リカルドへ、このリポーションが如何に素晴らしい商品であるかを力説した。
最初は、彼にとっても恩人である山田の紹介だから、表向きは当たり障りなく話だけは聞きますよ、といった態度だったのだが――――
「流石は本職だよね。ポーション作りへの意気込みが違う。所詮、僕なんてニワカのポーションエンジョイ勢だけど、彼は天職『薬師』のガチ勢なんだ」
「お前が無理を押し付けているワケじゃあないんだな……?」
「ああ、全て彼が好きでやっていることさ」
元よりリカルド氏は、危険を承知で希少な薬草や素材を求めて遠出するような、実に向上心と探求心の溢れる人物だった。山田との出会いも、そんな彼の行動の結果である。
そんな彼の興味を惹いたのは、まず僕のリポーションの完成度だ。いや、正確には下川の作り上げたレシピというべきか。
「リカルド氏が言うには、ウチのリポーションは『本物』にかなり近い成分らしいよ」
「他のポーションは違うのか?」
「薬液を触媒として、治癒魔法を封じる造りの方が多いんだって」
「……?」
「飲むだけで治癒魔法が発動する効果ってこと」
イメージとしては、たまーにRPGで登場する、使用すると魔法使いと同じ魔法が使えるアイテムそのものだ。
魔法職じゃなくても場合に応じて魔法も使える、と一見便利そうなアイテムに思えるが、大抵の場合は魔法職じゃないので魔法系ステータスが一切乗らない素のダメージや回復量しか出ないので、カスみたいな効果になるだけのゴミである。
だがこれが現実世界にあるとなれば、かなり有用となってくる。
仕組みとしては単純で、その魔法を相性のいい物質に組み込むというモノだ。
魔法を封じるための器と魔術師が揃えば簡単に作れる。器の開発と大量生産、そして魔法を込める魔術師が揃えば、量産体制は整う。
「ただし、封じた本人の魔法以上の効果になることは無い」
「あくまで保管しておくだけ、ってことか」
「そういうこと。だからこのやり方は『保管式』とか呼ばれてる」
より強い効果の魔法を発揮するなら、器じゃなくて術者本人に作用しなければならない。
なのでポーションの高級品は、それだけ強い術者が封じた、ということでもある。正に熟練のポーション職人が一滴ずつ丁寧に仕上げた、てな具合だ。金額が跳ね上がるのも当然だろう。
勿論、様々な薬効を持つ薬草などを原材料とした、純粋な薬としての『薬効式』ポーションも存在しているが、アストリアの現状では保管式の方が主流となりつつあるようだ。
「ダンジョン産の古代製ポーション、つまり『本物』は保管式ではなく、純粋な薬である薬効式で作られている、というコトは研究で判明してるんだって」
「じゃあ、リカルドは本物の再現をしたいと?」
「独自レシピで本物再現を目指すってのは、『薬師』なら誰でも、大手ならどこでも、挑戦するものらしいよ」
でも大抵は半端な効果再現しかできず、保管式やすでに完成されている現代の薬効式の方が、効果的だし安価という結果に終わるそうだ。
原因は古代にしか存在しない未知の原料がある、とされているけれど……
「リポーションは元々、劣化したポーションのリサイクルで始めたものだからね」
「それで自然と本物に近づいたってのか?」
「いいや、下川君の『水分錬成陣』が凄かったんだよ」
思うに、本物ポーション再現が上手くいかないのは、未知の原料が解明されていないことより、薬液の調整そのものが甘い可能性が高いんじゃないだろうか。
下川は『水魔術師』だからこそ、感覚的に水とソレに溶け混じった成分を微細に調整できる『水分錬成陣』を習得し、見事に使いこなした。
恐らく、これと同じ真似を『薬師』では出来ないのではないだろうか。保管式のポーション作成において、込める治癒魔法そのものを『薬師』では使えないのと同じように。
より高度で精密な加工・調整・精錬といった作業には、必ずしも一つの天職だけで得られるスキルだけでは、足りないということもあるのだろう。
僕がリポーションを作れているのは、下川のケツを叩いて研究開発させた結果に編み出した、汗と涙と努力の結晶たるレシピという『答え』を知っているからだ。
「だから、リカルド氏には『簡易錬成陣』を組み込んだ『魔女の釜』もセットで提供したんだ」
「おい、それって……」
「山田君に分かりやすく言うなら、貧乏でボールしか持ってなかった野球大好き少年に、バットとグローブを与えるようなモノ、ってところかな」
結果、リカルド氏は廃人ネットゲーマーが如く、自分の工房に引き籠った。
自分だけでなく、『薬師』全員の夢とも言うべき本物再現。その道を今まさに、彼は大きく前進しているのだ。リポーションという下川が作り上げた道標を頼りに、まだ見ぬ先を目指して、どこまでものめり込んで行く……山田がカンカンに怒るほど、自分の身を省みず。
「流石に奥さんとお子さんも心配してるから、何とかするなら僕じゃなくて本人に言ってよ」
「ぐうっ……そ、そうかぁ……」
「僕も安易に色々と一気に提供しすぎたかなって気もするし。申し訳なく思ってるよ」
なにせリカルド氏に提供できるのは、リポーションのレシピと錬成の出来る魔女釜セットだけではない。
工房ではリポーションに次いで、各種の状態異常に対応する解毒薬や、強化薬、それに古き良き傷薬Aを元にした軟膏なども開発している。要は僕がアルビオンダンジョン攻略の時に開発した薬の、量産化を目指しているのだ。決戦兵器の狂化薬『ベルセルク』シリーズも秘密裡に開発中である。
これらもリポーション同様に一般販売で流通させる予定なので、余すところなくレシピを提供できる。レシピを公開するということは、原材料も全て明らかになるということ。
その中には、どうやら長年リカルド氏が探し求めていたモノや、ごく少量しか入手できなかったモノ、あるいは全く未知のモノもあるそうで。
いやぁ、アルビオンの妖精広場で当たり前に生えていた花々が、アストリアではそんな貴重な素材だったなんて思いもよらなかった。道理で、最初期の僕の素人調合でも、それなり以上の効能を発揮するワケだよね。
さらに良くなかったのが、ディアナ人奴隷買い取り強化月間によって新たに加わった仲間。天職ではないが、部族で立派な薬師として長く働いていた老婆、通称、薬草オババだ。
彼女はディアナ精霊同盟の領域で取れる薬草に詳しく、治癒魔法も少々扱える。それにディアナ独自の調合法なども網羅しており……要するに、アストリアにいるだけでは、絶対に知りようのない薬学知識を治めているのだ。
僕も彼女の知識と技術は、新たな医薬品開発に重宝しているのだから、本職薬師のリカルド氏からすれば、その価値はさらに跳ね上がる。
その内、ニューホープ農園に招待することになるだろうけど……それはフルヘルガー討伐を終えて、もう少し落ち着いてからになる。
「そういうワケで、リカルド氏は物凄い乗り気になってくれてるし、非常にありがたい話ではあるんだけど……倒れられたら困るからね。山田君、よろしく頼むよ」
「ああ、分かった。けど桃川、お前もあんまりリカルドを煽るなよ」
へへっ、あんまりにも食いつきがいいモノだから、ちょっと調子に乗っちゃった。そこまで見抜くとは、流石はクラスメイトだよ。
◇◇◇
そしてフルヘルガー討伐を果たし、見事に『無限煉獄』第四階層の解放に成功した後。時期としては女主教のケツ叩き祭りをして妖精広場を実効支配して、すっかり妖精神社での参拝通行制が馴染んだ頃である。
「いよいよ今日は、ドラッグストア『ピクシーマート』の開店だ!」
リカルド氏の尽力と、薬草オババ率いるニューホープ工房製薬部門の働きによって、ついに全国展開を見据えたドラッグストアの一号店がオープンすることとなった。
店名の『ピクシーマート』は勿論、僕らの安息の地である妖精広場にあやかってつけた。カワイイ妖精さんのシルエットが入ったロゴマークで、薬局らしい爽やかなグリーンカラーの看板が掲げられている。
一号店の立地は黒髪教会の真正面。一等地からはほど遠いが、黒髪教会に来る人で結構な賑わいのある一角となっているため、黙っていても集客はそこそこ見込める。
無論、『ピクシーマート』の真の目的は各地への流通経路拡大と臨時拠点としての役割であり、ドラッグストアという小売店は表向きのモノ。でもそれでしっかり儲けが出ないと、維持費も足りなくなるので、自力で全国展開できるだけの売り上げを目指し、品揃えに一切の妥協は無い。
どれも我らがニューホープ農園で生産された、こだわりの一品。
目玉は何と言っても、フルヘルガー討伐でも使われた! という謳い文句の『リポーション』だ。
実際、僕は大勢のメンバー率いて挑んだので、彼らに支給した装備の中に、このリポーションも含まれるので、紛れも無い事実である。
妖精神社にて先行販売もしていたので、一部の冒険者には知られていたし、その後すぐに販売認可をとったリカルド氏の薬局にて、満を持して発売もした。
確かな効果と、大手の中級ポーションの価格帯より頭一つ抜けた安さ、そしてフルヘルガー討伐の偉業を宣伝材料とした広告戦略によって、冒険者から一般人まで、一度は試してみたい、と大勢殺到してきたのは、ついこの間の話である。
それからさして間を置かずして『ピクシーマート』のオープンとなり、まだ人々の興味も残っている頃だ。リポーションの在庫も十分あるので、千客万来でも捌けるだろう。
他にも各種の医薬品も揃えたし、ダンジョン攻略用の保存食を中心とした食料品なんかも取り揃えてある。別に冒険者じゃなくても、小腹が空いた時や、いざという時の非常食など、一般家庭でも買い置いてもらいたい。
この保存食も、農園で大勢のディアナ人の胃袋を支えている泥芋、泥豆を使ったモノがメインだ。他にも錬成で簡単お手軽にできるフリーズドライ製法のフルーツなんかもあって、まぁまぁの品揃えになったんじゃないかと自負している。
ただ、個人的には菓子類も充実させたいところだ。泥芋があるのでポテトチップスは出来るのだが……甘いモノが足りない。
いつか夏川さんが来店した時にガッカリされないよう、チョコレート類を揃えておこうと思う。
そして僕には、チョコ生産を実現するための腹案があるのだが……まぁ、それはまだもう少し先の話になりそうだ。焦らず行こう。
今日のところは、素直に多くの人々が興味本位で訪れて盛況なオープン記念日となっていることを、素直に喜ぼうじゃないか。
「いらっしゃいませー」
「『ピクシーマート』へようこそー」
「こちらのPポイントカードをお作りいただけると、お買い物ごとに最大5%のポイント還元が――――」
「ええ、勿論、妖精神社でもPポイントカードはご利用できますよ」
「リポーションの在庫は十分にありまぁす!」
「一般向けの疲労回復『リポーションD』はこちらになりまーす」
すでに多くの客が店内に入りごった返しているが、黒髪教会で僕が直々に指導した店員たちは、上手くやっているようだ。
マニュアルも作ったし、商品知識も叩き込んだし、ポイントカードのシステムも妖精神社での認証システムの流用なので簡単お手軽だ。
人数も十分に揃えている。ワンオペなんて真似はさせないから、安心して働いてよね。
なんだかんだで黒髪教会も、スラム暮らしもキツい困窮者や落伍者の受け皿という社会福祉的な役割も担っている。気づいたら昔のルカちゃんみたいな小汚いガキ共も結構いるし。
なので、ウチに身を寄せるような人を、奴隷ではないけれど、実質奴隷に近い条件で働かせている。どうせ黙っていても食費はかかるし、寝床だってタダで提供できるワケではない。人間、生きてるだけでお金がかかるのだ。
そういう人や孤児の中から、僕がバイトレベルの客商売はできそうかな、と思った面子をピックして、店員にしたワケだ。
尚、困窮者や落伍者の連中はかなりの確率で犯罪者同然のロクでもないヤツがいるので、そういう連中は怖ぁいベテラン冒険者のおじ様方が、直々に締めてくれる模様。このオジサン達、みんなフルヘルガー戦に参加した歴戦の猛者だからね。
なので黒髪教会の一部は、実質ヤクザみたいな集まりになっている部分もある。その辺はこれから、要改善だね。僕ら全員、清く正しいルインヒルデ様の下僕でーす。
「いやぁ、大盛況ですね、御子様」
「どうもリカルド氏。お陰様で」
「いえいえ、こちらこそ。御子様には、何とお礼を言っていいものか」
と、この『ピクシーマート』開店の立役者の一人であるリカルド氏も、オープン記念にやって来てくれた。
ちょっとヤマジュンに似ている実に人の好い微笑みを浮かべる、まだまだ青年と呼べる年頃の男だが……まだ目元の隈が隠せてないね。
「そちらの薬局から、客を奪ったようで申し訳ない」
「とんでもない、あんな人数に来られたら、ウチみたいな小さい所は対応しきれませんから」
リポーション新発売、の時の混雑ぶりを思い出し、苦笑を浮かべるリカルド氏。
モノ売るってレベルじゃねぇぞ!
「むしろ、リポーションが売れる毎に、何もしていない私にもロイヤリティが入るというのは……今でも心苦しくてなりません」
「そこは最初に話した通りだよ。協力してくれた正当な報酬だと思ってほしい」
リカルド氏も天職『薬師』なので、自分の作った薬を幾つも売り出している。その場合は権利100%ではあるが、リポーションは共同開発。なので権利は、開発責任者という建前のために最も多い割合の34%を保持している。残りの33%二つ分は僕と薬草オババで分散。
売れた時の特許料は三分の一となるが、リカルド氏もこれほど大々的に売り出した商品はない。結果、もう何もなしくても食っていけるだけの金額が勝手に振り込まれる状態となっている。
リポーションがそれなりに売れ続ける限り、彼の人生は安泰だ。
「それに君には、これからも協力して貰いたいことが沢山あるからね」
「願っても無い事です」
「今日も山田君は第四階層に潜ってるから、何か新しい素材を採って来てくれたら、すぐ回すから」
「はい、よろしくお願いいたします」
僕は信頼できる天職『薬師』の仲間を得られて、リカルド氏は自分の研究が捗る。
実に良い関係が築けて、山田君は本当にいい出会いをしてくれたなと。
やはり良縁というのは、何にも代えがたいものである。




