第460話 偉大な王(1)
2025年8月15日
ちょうど長い連休が貰えたので、今週の呪術師は2話連続更新にします!
こちらは1話目ですので、ここからお読みください。
「いやぁ、まさかこの髑髏が役立つ時が来るとは。いい買い物したな」
『伝道師の髑髏』:天職『伝道師』の頭蓋骨。神の教えを広く伝え、人々を導くための力を、己の欲望のためだけに使った男がいた。真なる神の教えも届かぬ僻地で、偽の教えを広め、自ら現人神を僭称し、小さな国を作ったが、加護無き国が栄えることはない。今はその地に、男の名も教えも何も残ってはいない。
ヴァンハイトほどの大都市になれば、本当に様々な物品が売買されている。中には法に触れるギリギリの、グレーゾーンな品々もあり、そうした商品はいわゆる闇オークションと呼ばれるイベントで捌かれる。
何か呪術に役立ついいモノがないかと、興味本位で覗いたことがあったのだけれど、そこで買ったのがこの『伝道師の髑髏』である。
持ち主である天職『伝道師』の男は、要するにカルト教団を設立して好き勝手やってたら、案の定パンドラ聖教にもアストリア軍にも目をつけられ、あえなく壊滅。徹底的にぶっ潰されて、その後は聖教が本腰入れて教化活動を行い、今では信心深い土地になっているそうだ。
で、神を騙るほど調子に乗ってやらかした『伝道師』は、聖教と軍の両方から激しい拷問の後、処刑。遺体は埋葬されることすら許されず、魔物素材扱いで利用されたようで……頭蓋骨が最終的に流れ着いたのが、闇オークションだったというワケ。
僕もアストリアに負けたら、彼と同じような末路を辿りそうだ。破滅的な未来を身をもって示してくれた先輩に敬意を払って、コレで『愚者の杖』を作ったら、発動したスキルがこれだった。
『威圧』:威光をもって相手に畏れを抱かせる。その言葉、立ち振る舞いによって、より威光は増し、やがて本物の威圧感を纏う。
『拡声』:大きく広く、己の言葉を届けさせる。強い思いを込めた大声は、耳には正確に届き、心には深く刻まれる。
『熱血指導』:熱い教え、必ず心に届く。逃げないこと、諦めないこと、大切なこと全部、教えてやる。気合だ、根性だ、立ち上がれ。さぁ、あの夕日に向かって、もう一本!
もう一本ってなんだよ。『熱血指導』だけ神のクセが強すぎるのかフレーバーテキストと化しているが、まぁ、『伝道師』の初期スキルとしてはオーソドックスな構成らしい。
『威圧』でまず自分を偉そうに見せ、『拡声』で多くの人々に演説を訴えかけ、『熱血指導』で自分の教えの説得力に補正がかかる。
なるほど、政治家や宗教家が持ってれば非常に強力なスキルである。犯罪に使おうと思えば、確かにちょっとしたカルトくらい簡単に結成できそうだ。
戦闘能力こそ一切ないものの、自分で組織を作る際には有用なものばかりだが……すでに農園の反乱は成功したし、黒髪教会も勝手にどんどん成長している。今更、僕がこのスキルを頼るような状況ではなくなった。
それに『伝道師』の末路を思えば、一部の信者だけ熱狂させても仕方がない。組織は末端の構成員まで、割を食うことなく自分の仕事・役割に納得して尽くしてくれるのが最善だ。お偉いさんがふんぞり返って上前だけ跳ねるような状況になれば、もうその組織は腐っているってことだしね。
そういうワケで、使える効果は認めるけど、今は使いどころ無いんだよな……と思って、フルヘルガー攻略準備の頃にはすっかり存在を忘れていたのだけれど、
「ああ、オーマ様……」
「オーマ様!」
「オーマ様、万歳!」
いやぁ、ゴーマみたいな低能&脳筋の種族を統べるには、これほど効果抜群だとは。
アストリア南東部の状況を見て回ったことで、僕は一つの作戦を試してみることに決めた。それがゴーマゲリラ化計画である。
要するに僕がオーマを名乗ってゴーマのリーダーとなり、組織化。完全に独立した遊撃戦力として活用しよう、というものだ。
野生のゴーマに取り入るのは、そう難しいことではないと思った。すでに奴らと意思疎通は出来る。そしてゴーマの変装技術は、今はちょっとしたものだと自信もある。
外観はオーマをソックリそのまま真似する。オーマ自体がゴーマの中でも飛びぬけて老齢の個体だから、むしろ違和感あっても通常個体と違うってことで多少の誤魔化しは効く。まぁ『虚ろ写し』もあるし、生前のオーマの姿も目に焼き付いてるし、仕上げは完璧なはずだ。
そうしてオーマをリーダーとした群れを形成できれば、後はゴーマのキモい繁殖速度を活かして、どんどん勢力を拡大できるだろう。なにせオーマは僕の分身。錬成も使えるから、拠点化も武器製造も、それなりに出来る。人間から奪うしか、金属製の武器を調達する手段のない、野生ゴーマなど競合相手としてさしたる驚異にはならないしね。
そうして上手くゴーマを戦力化できれば、きっと使い勝手のいい便利な駒になるはずだ。
ジェラルドに話した通り、南聖卿が東にちょっかいをかけるなら、恐らくこの南東部の戦力を利用するし、進軍もここを通るはずだ。俗物の南聖卿なら、アストリア軍を買収するだけでなく、目ぼしいギャングとも通じているだろう。
直接的な手出しをするなら、まずは幾らでも使い捨てられるギャングを使う。で、そういう半端な勢力を抑止するなら、ゴーマ軍団でもいいんじゃないかなと。
そんな感じでダメ元で試してみたんだけど、
「こ、これが……力……」
「そうだ。これが余の授かった、神の力よ」
それにしても、こんなに上手くいくとは。まさか一発で巨大化の術に成功するなんて、自分でも驚き。流石に本物のゴーマを相手にするなら、『亡王錫「業魔逢魔」』がないと無理かと思ったけれど、意外と何とかなった。
これもリザを筆頭に、ディアナ人達に精霊戦士契約を練習した成果かな。ほぼ同じ要領で出来たし。
けど一番の要因は、やっぱこのリーダーっぽいゴーヴ戦士の適性が高いことだろう。見たところ、かなり若い個体だ。ゴーヴに進化したのも、ここ数年以内といった感じ。君は将来性抜群だね。
とは言え、そこは『精霊戦士』として鍛錬を積んだリザには遠く及ばない。巨大化が発動しても、ザガンとは比べるべくもない。精々がゴグマ程度のサイズ。実際の強さもそんなもんだろう。
でも野生のゴーマじゃゴグマでさえ滅多に現れない、大ボス扱いだ。巨大化でゴグマ並みの力を得られるなら、それだけでこの辺の群れを相手に無双できるだろう。
「オーマ様ぁ……この力があれば、俺はニンゲン共を皆殺しにぃ……」
「いいや、ならぬ。授けた力は神のほんの一部。小さな一欠けら、力の一滴に過ぎぬ」
人間でもいきなり強くなったらイキっちゃうからね。初めてスーパーパワーを得たヒーローが調子に乗ってやらかした結果、大切な人を失ってようやく大いなる力の責任を自覚する、なんてのは王道展開だ。
まして低能で野蛮なゴーマなら、すぐに強くなった力で突撃したくなるだろう。
だが、それを許さぬ『威圧』と『拡声』、そして『熱血指導』だ。
「いまだ小さな力とはいえ、神の力を宿したその器、見事。汝を戦士の長、余の大戦士に任じよう。よって、名を与える」
「なっ、名前を……俺に!?」
僕は知っている。ゴーマ文化にとって、名づけ、とは特別なものだ。あの巨大なゴーマ王国においても、いわゆるネームド個体として許されていたのは、大戦士達と正統後継者の王子だけだった。
名前とは、神から授かるか、神に次ぐ絶対的な指導者、支配者より賜るモノという認識が、何故かゴーマに共通認識として広まっている。アルビオン大迷宮ではない、この完全に野生のゴーマでも、名前の特殊性を理解して、大いに驚いている。
名前を与えるのは、ただの村の長や戦士の長ではダメだ。誰もが認めるような、よほど大きな群れのリーダーでもなければ、名づけ自体が許されないらしい。
けれど今、僕が名を与えることに、この戦士は全く拒否感を示さない。
認めているのだ。ポっと出で、ただの一匹も従えていない謎のジジイを、名づけをするに相応しい者だと。強い力を授けたことで、ゴーマ神の加護を得た神聖な存在であると信じ込んだのが決め手だろう。
なので戦士君は、俺に名前なんて畏れ多い、的なリアクションをしながらも、その目は期待にキラキラ輝いている。まぁ、ゴーマの目だから黄色く濁って薄汚いだけなんだけど。
「ダン。これより汝は、ダン、と名乗れ」
「はっ、ははぁーっ! これより、俺の名はダン、でございますっ!!」
名づけの儀式に、戦士君改めダンも、その後ろにつき従う群れの連中も、揃って平伏した。
いいね、オーマが場を支配している。ダンの群れは、もう完全に僕のモノと言ってもいいだろう。
「ダンよ、戦士長の役目とは何だ」
「最も強きこと、にございまする!」
「なるほど、最強か。だが、それだけでは足りぬ」
「ほ、他には……」
「戦に勝つこと。そして、勝てる戦をすること。この二つの違いが分かるか?」
「えっ……その……わ、分かりません……」
そりゃそうだ。いきなりネームドになったからといっても、知能が上がるワケじゃない。
しかし、オーマの威圧感に震えてひれ伏しているだけの連中と違って、ダンはしっかりと自分で考えて話している。
それだけでゴーマの中では、最上級の知能があると見ていい。マジでコイツはザガンを目指せる才能がありそうだ。
「戦に勝つこと。これは、戦士長の最も強き力を奮うことで、成し遂げる」
「はっ、その通りです!」
これは分かりやすい。戦場で頑張って戦ってねというだけの話だから。
「勝てる戦をする。これは相手を選び、知り、必ず勝てるよう算段を立てることだ――――いわば、狩りで大物を相手に、罠を張るようなものと心得よ」
「おお、なるほど……」
「ダンよ、汝らは今まさに、ニンゲンの大群を相手に、罠の一つもなく、そのまま挑むつもりであったであろう?」
「はい、それが戦士に相応しい最後と心得て」
「ならぬ。それが、勝てる戦をすることを放棄した、下策の中の下策よ。ニンゲン共は、すでに待っておる。散り散りに逃げ去った汝らが、復讐心を燃やし、再び襲い掛かって来るのをな」
「ぐっ、しかし、それでは……」
「汝も分かっておろう。今すぐあのニンゲン共には勝てぬと。挑んだところで、全員返り討ちに遭うだけであるとな」
「……はい」
うんうん、分かってくれればいいんだよ。ここでお前らが全員死んだら、また新しい群れを取り込みに行かなきゃいけないから面倒くさいじゃん。ゴーマ如きに手間取らせんな。
ちょうど討伐隊に駆除されたばかりのお前らみたいに、取り入るのにちょうどいい群れがあるとも限らないし。
「怨敵を前に退かねばならぬ無念は理解しておる。だが、今は勝てずとも、いずれ勝つための方法を、余は知っておる」
「いずれ、ニンゲンに勝てる……本当にございますか」
「余の教えを授け、力を磨けば、必ずや。ダンよ、それまでに戦士長として、大戦士として、あらゆる苦難を乗り越える覚悟は、汝にあるか?」
「ははぁ! このダン、名を授かった時より、この身命全てオーマ様に捧げております! どのようなことでも、やり遂げてみせまする。どうぞ、何なりとご命令を!!」
うーん、この全力投球な忠誠アピール。リザに迫る勢いだ。でもゴーマに忠義を尽くされてもねぇ。
でも、今はこれが最善だ。僕がオーマとして成果を出せば、奴らは喜んで担ぎ上げる。我らが王、ゴーマ神の加護を授かった神聖なるオーマ王と。
まぁ、僕にはオーマほどの王国を築く気はないけれど、一端の戦力を要する軍団になるくらいには育てるつもりだから。見守っててくれよな、オーマ。
「よろしい、ならば命ずる。ニンゲンを喰らえ」
「はっ! は、はぁ……?」
お前、今ニンゲンと戦うのやめとけ言うたやないかーい、って顔に書いてあるけど、僕はオーマの威厳を崩すことなく、堂々と言い放つ。
「強くなりたくば、喰らえ」
言いたいだけの台詞である。「力が欲しいか」、に続き偉そうに言ってみたい台詞ではあるけれど、本当に偉そうな立場から堂々と言い放てば、しっかり注目を集めて意味深に聞こえるのだ。
「ダン、汝が喰らうに相応しいニンゲン共を、余はすでに見繕っておるのだ」
「な、なんと!?」
「全員だ。全員、余について参れ」
杖をかざせば、困惑しつつも全員が立ち上がる。
そして大仰に杖を振りかざし、ホームラン宣言が如く遠くへ向ける。
「ニンゲンの群れを喰らいつくし、そこを我らが新天地とする」
◇◇◇
「ふぅー、この畑もようやく形になってきたなぁ」
男は、しがない農家の三男だった。大して稼げないくせに、重労働の農作業。おまけに農地は長男に全て譲られるので、このまま実家にいたところで自分は下働きも同然のまま。
だから成人してほどなくして家を飛び出したが……身一つでやって来た農家の倅など、町でもロクな働き口はない。まして治安の悪い南東部。
気が付けば、男はギャング組織の一員となっていた。
「よう、いよいよ収穫が近づいてきたな」
「おう、こんだけ立派に育ったんだ。コイツは間違いなく上物がとれるぞ!」
うだつの上がらないチンピラ生活を数年経て、男に大きな仕事が舞い込んだ。
それが新しい麻薬の主原料となる畑の開発。
マーラ草、と呼ばれる植物はアストリアで主流となる麻薬の原料だ。
血のように赤い花をつけ、その実も葉にも強い麻薬成分を持つ。アストリア王国では栽培は勿論、観賞用と言い張って所持することも固く禁じられている。
許可を得た極一部の『薬師』などが栽培し、麻酔薬などの材料にすることしか、アストリアでは許されていない。
だがしかし、この南東部においてはギャングの手により大々的に栽培されており、莫大な資金源となっている。麻薬は最も儲かるシノギ。命を張って男が戦うよりも、女が体を売るよりも、何倍も、何十倍も稼げる。これぞ正にアストリアンドリームだ。
男は喜んで畑の開発に打ち込んだ。あれほど嫌だった農作業も、この夢の作物であるマーラ草のためなら、喜んでやれた。まるで我が子を愛するかのように、この畑を手入れし続けた。
そして今、僻地の農村からさらにジャングルの深くに作られたマーラ畑は、広大な敷地に青々とした葉が生い茂った。ほどなく、血のように赤い花も咲き誇る。
男の熱意と技術が、見事に実を結んだ。
この成果にはギャングのボスも大喜び。収穫を終えて薬に加工し、それらが売りさばかれる頃には、男も組織で一躍、幹部候補となるほど出世するだろう。
「へへっ、これで俺達も幹部だぜ……」
「ああ、成り上がってやろうぜ、俺達で!」
自分と似たような身の上の相棒とがっちり手を組んで、これからの明るい未来を語り始めた時だった。
「おい、ヤベーぞ、モンスターだ!」
「結構デカいぞ!」
俄かに畑が騒がしくなる。
ここは農村からも離れた奥地。野生のモンスターが寄って来ることなど日常茶飯事だ。
勿論、対策として高価な魔物除けを焚いたり、結界で畑を隠すようにしているが、それでも襲撃はゼロではない。
たまに魔物除けも効かず、結界を乗り越えて迷い込んでくるようなモンスターが、畑を襲うのだ。
「うわぁあああああっ! ダイノゲーターだっ!?」
「クソッ、こんな豆鉄砲じゃ鱗も抜けねぇぞ!」
「俺達じゃ手に負えねぇよぉ……」
「おい、早く傭兵を呼んで来い!」
戦闘員ではない男達は、大人しく小屋へ避難し、黙って成り行きを見守るより他はないのだが、随分と苦戦しているようだ。
「デカいダイノゲーターが出たってよ」
「ヤバいんじゃないのか」
「こういう時のために、高い金出して傭兵も雇ってんだ。何とかなるだろ」
ダイノゲーターはワニ型のモンスターだ。ただでさえ獰猛なワニなのだが、さらに凶悪な甲殻の装甲を纏い、爪と牙はより大きく鋭く、そして地上でも水魔法で滑りながら素早く移動する機動力まで持つ、非常に危険なモンスターだ。中でも大きく育った5メートル級のダイノゲーターともなれば、危険度ランク3に分類される。
「大丈夫、だよな……?」
「当たり前だ。こんなところで……俺らの夢が、終わってたまるかよ」
コンコン、とノックの音が不意に響いた。
「おい、開けてくれ。ヤバいことになってきた」
何だ、と思う間もなく、切羽詰まった声が聞こえてきた。
相棒が立ち上がり、どうしたんだ、と言いながら扉を開いた瞬間、
「えっ」
何となく眺めていた相棒の背中から、デカい剣の刃が生えた。
刺された、と認識出来たのは、相棒の死体がドっと音を立てて床に倒れ込んでからだった。
「フゥ……ブゥルガァ……」
「ンバ! ンバッ!」
「な、なんで……なんでゴーマがここにっ!?」
それも、ただのゴーマじゃない。筋骨隆々の肉体は、ゴーヴと呼ばれる上位個体の戦士階級だ。ゴーヴ戦士の恐ろしさは、どんな僻地の農村の子供でも知っている。
人食いの怪物の代名詞でもあるゴーマ。悪い子はゴーマに食われる、なんて脅しの躾文句はアストリア中で聞けるだろう。自分だってそう聞かされて育ってきた。
そして大人となり、ギャングとなった今、子供の頃よりもゴーヴ戦士の恐ろしさを男は理解している。
この距離、この位置。勝てない。一応ギャングとして、腰に下げている拳銃型ブラスターこそ持っているが、抜く前に切り捨てられると直感した。
死んだ。ゴーマは人食いの化物。交渉の余地などない。その諦めの境地に達した時、
「待て、その男は殺すな」
ピタ、と目の前まで振り下ろされていた刃が止まっていた。
自分の耳でも確かに聞き取れる、明確な人の言葉によって。
ありえない。今、人間がゴーマに命令したのか?
その疑問は直後に否定される。
「男を生け捕りにせよ」
「ウバァ! ゼングルダ、オーマァッ!」
それは白い髪に白い髭を蓄えた、仙人のような風貌をしたゴーマだった。
こんなゴーマがいるなど、聞いたことも無い。だが、この小さく痩せ細った老ゴーマが、逞しい戦士達を従えていると一目で理解できた。
「お前に、聞きたいことがある。素直に答えれば……ここから、生きて帰してやろう」
一言一句、正確に聞き取れる。流暢なアストリア語。
安心感を覚えるはずの人の言葉はしかし、ゴーマから発せられる。理解不能の想像を絶する恐怖、男はただ言葉に従うより他はなかった。




