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呪術師は勇者になれない  作者: 菱影代理
第3章:勇星十字団
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第457話 新団員達(2)

「全員まとめて、相手になってやる。さぁ、どこからでもかかってこい」


 俺の挑発に乗った奴らが、勢い込んで殺到して来る。ちょっと様子見しようか、なんて思っていたような奴らも、流石にここまで言われて黙ってはいられないようだ。

 一人……いや、二人を除いて、俺のいるグループ全員はその目を血走らせて襲い掛かって来た。


「なんだか、龍一と黒高相手に乱闘したのを思い出すな」


 同年代を相手に大乱闘、といえばやはり学園時代の喧嘩を連想してしまう。

 多対一の乱戦はゴーマを筆頭に、群れるタイプのモンスターとも発生するのだが、やはり本物の人間相手は少々勝手が異なる。というか本来、蒼真流は対人の技なので、俺にとっても人間相手が一番やりやすい。


 繰り出される攻撃は人体の構造という制約からは逃れられず、扱う術理が読めればどういう攻撃が飛んでくるかの予測も容易い。

 天職の鍛錬を積んできた、ということは順当に剣術などを修めたということ。彼らの攻撃は、どれもしっかり基礎を学んできたことが分かるほどには、強い力が込められている。素人との差は歴然。ただの振り下ろし一つとっても、その力強さと鋭さは雲泥の差があるだろう。


 けれど、それだけだ。彼らのほとんどは俺と同い年か、それよりも年下。剣術として十分な威力こそ出せるようになっているが、基本の習得止まりだ。

 だからその素直な太刀筋は、あまりにも読みやすい。今の俺なら目を瞑っていても避けられるほどに。


「クソッ、当たらねぇ!」

「おい、危っぶねぇだろ!」

「うるせぇ、退けぇ!」

「勇者は俺が殺る!」


 案の定、ただ回避をしているだけで、彼らは勝手に同士討ちをして倒れていく。

 そもそもこれはデスマッチであり、徒党を組んでいるワケではない。中にはすでに密約を結んでいるようで、明らかに連携して俺を襲ってくる動きを見せる者もいるが、


「ちいっ!」

「コイツ、後ろに目でもついてんのかよ……」

「なんでこれが避けられんだ」


 即席の連携じゃあ、俺は捕らえられない。

 そこそこ息の合ったタイミング。互いに邪魔にならない立ち位置。それぞれ異なった狙いの攻撃。お手本のような連携攻撃だが、それもやはりお手本止まり。すなわち読みやすい基礎の動きでしかない。


 これなら後先考えずに突っ込んでくるゴーマの方が、まだ恐ろしい。アレは兵の命を全く考えない、全方位から物量で圧殺するような突撃をしてくるからな。


「どうした、俺に剣を抜かせるほどの相手はいないのか」

「ぐっ……」

「くっそぉ……」

「強い……これが『勇者』なのか……」


 そうこうしている内に、同士討ちの誘導と誘発だけで粗方、新団員は倒した。

 正面からバッサリと斬られて負けたワケではなく、仲間とぶつかり合っての事故みたいな負け方をして、納得いなかい顔の者もいるが、ほとんどは理解してくれたようだ。

 自分達の力では、俺に剣を抜かせるどころか、拳を振るわせるにも届かないと。


「ふん、情けない奴らめ。この『赤騎士』が相手になってやろう」

「退けよ雑魚共、俺ぁ『炎剣士』だぞ!」

「そして俺は『熱戦士』! 勇者は俺達、灼熱の三炎星がぶちのめしてやるぜぇ!」


 ここでレア天職の奴らがご登場のようだ。

 彼らの名乗りを聞く限り、『赤騎士』、『炎剣士』、『熱戦士』、という初めて見る天職を持っているらしい。見るからに炎属性といった連中だが……


「ふっ、俺達の必殺合体技に耐えられるかな。まずは――――『腕力強化フォルス・ブースト』」


『赤騎士』の男が自分と仲間の二人に、筋力を上げる強化魔法を発動させる。


「そしてぇ――――『火炎付与イグニス・エンチャント』」


 すかさず『炎剣士』が火属性を付与する魔法を、三人の武器にかける。それぞれが手にした槍、剣、斧、の刃には激しい炎が渦巻く。


「そのスカした面ぁ、黒焦げにしてやるぜぇ――――喰らいやがれっ、『赤熱破断イグニス・ブレイクバスター』ぁあああああああああああああああ!」


 そうして、ようやく必殺合体技とやらが放たれた。

 二人分の強化を載せてから、三人合わせて派手に炎を噴き出す武技を繰り出している。実際、なかなかの威力と攻撃範囲。これを瞬時に繰り出せれば強力だが、これだけ長々と発動準備できたのは、俺が待っていたからだと気づいているのだろうか。


 ともかく、自分の力を見せつけたい時は、相手に全力を出させてから、という爺ちゃんの教えに従ってはみたが……まぁ、必殺技を打たせてやれば彼らも満足だろう。


「じゃあ、もういいな」

「えっ」

「なにぃ!?」

「後ろに――――」


 ドンドンドン、と彼らの背中を強く押し出す。その先には、気合を入れてぶっ放した自分達の必殺技がいまだ燃え盛る炎の絨毯が広がっており、彼らは頭からそこへダイブしていった。


「ぎゃひぃいいいいいいいいいいいいいいいいい――――」


 という断末魔の悲鳴は、シールドが割れる三重奏でかき消された。

 彼らに一つ教訓を送るなら、派手な火炎放射は自分の視界も塞ぐから、しっかり相手を捉えてから打つべし、と言ったところか。


 ド派手な炎技が飛んでくることは目に見えていたから、大きく火炎が噴き出した瞬間に、それをブラインドとして利用して彼らの背後に回り込んだのだ。少々、脚力を強化できれば、これくらいの高速移動は簡単だ。


「いやぁ、お見事。流石は聖女様も認める本物の『勇者』様だ」


 炎の三人組を火に沈めてから、ようやく俺の前にソイツはやって来た。

 サリスのように美しいプラチナブロンドの髪に、バッチリ決まった白い制服姿は、まるで絵本に描かれる王子様のようだ。

 顔もそれに相応しい美しさなのだが、血のように赤い瞳が輝く様に、俺はどことなく薄気味悪さを感じてしまった。

 コイツ……本当に人間なのか?


「君は?」

「えっ、オレのこと知らないの?」

「ああ、何せ俺は異邦人だからな。アストリアにも、来たばかりなんだ」

「あっはっは! そうかぁ、聞いたかよ、勇者様は俺達のことなんざ知らないってさ!」

「つい先日、こちらに招かれたばかりの異邦人であれば、致し方ないこと。ですが、これからはアレン様の名を忘れるようなことは無いでしょう」


 どうやら金髪王子の優男はアレンと言うらしい。

 隣に立つ騎士の装いをした女性は、従者か何かだろうか。雰囲気的に、明らかにアレンを上に立てているようだ。

 

 この二人は開始からずっと、挑発にも何の反応も示さず、ただ俺を観察するように遠巻きに眺め続けていた。

 気になるのは、その立ち回りよりも、この二人には全く隙が見当たらないこと。特にアレンの方は、間違いなく、強い。少なくとも、剣も抜かずに相手できるような格下ではない。


「じゃあ、改めて自己紹介。オレはアレン。ノア三公国エルドライヒの王子様ってやつ」

「如何にも、こちらにおわすは公国を継ぐ正統後継者、アレン・ルル・シルト・エルドライヒ王子殿下にございます」


 気軽な自己紹介といったノリのアレンに、補足するように仰々しい肩書を女騎士が述べている。要するに、外国の王子様ってことか。


 まだ全く頭に定着していないが、それでもおおよその世界情勢はサリスから教えてもらっている。

 アストリア王国があるのは、ノア大陸という二百年ほど前に発見された新大陸だ。つまり、アメリカのように大勢の移民によって開拓されて建てられた国なのだ。

 そしてノア大陸には、他にも同様に拓かれた国があり、それがノア三公国と呼ばれる、アストリアの北に位置して並ぶ三つの国だ。

 その内の一つがアレンの『エルドライヒ』である。


「他所の王子様が、どうしてアストリアのクランに」

「アンタみたいな異邦人だってここにいるんだ。王子様の一人や二人、在籍しててもおかしなことじゃあないだろう?」


 素直に答える気はない、か。まぁ、何かしら込み入った事情、あるいは外交関係といったところか。

 気にはなるが、今の俺には関係ないと言えばその通りだ。気に知るべきは彼らの肩書ではなく、


「それで、王子様も勇者に腕試しをしてみるか?」

「ああ、折角の機会だ。本物の『勇者』に胸を借りてみようか」


 アレンは悠々と俺の前へと歩み出る。

 武器は、見る限りでは腰に下げたサーベル一本きり。他には何もない。

 もっとも、俺だって『ソードストレージ』という武器を収める空間魔法を習得しているので、どんな装備を隠し持っていてもおかしくはない。ましてアレンは、そこらの天職持ちとは違い、明らかな実力者だ。

 油断はできない。ここは同格以上の相手と見て、全力で相手を――――


「はい、そこまでー」


 と、互いに剣の柄に手が伸びるかという寸前で、教官の終了合図が響き渡った。




 ◇◇◇


 タイムアップとなったことで、あっさりとアレンは退いた。少々、拍子抜けではあるが、何が何でもここで剣を交えねばならないほどの因縁はお互いにない。

 俺も大人しく引き下がることにした。


 さて、俺達の模擬戦は終わったが、他のグループはまだ継続しているようだ。天職によって戦い方のペースに違いはあるが……恐らく、明確な制限時間を最初から設定しているというより、戦況を見て教官が終わりのタイミングを決めるのだろう。

 俺とアレンの一騎討ちが始まる寸前、なんていいところで終わったのは偶然ではない。もしかすれば、今はまだ俺達に刃を交えて欲しくない、という思惑もあるのもしれないな。


「やっぱり、みんなの方も圧勝だな」


 まずは委員長の魔術師グループ。

 勇者という特別な肩書こそないものの、俺と一緒にいるというだけで敵視、あるいは実力を知りたいと思うには十分な相手だ。

 大多数の新団員が結託して委員長を狙っているのが見えるけど、


「ねぇ、これもう無理じゃない?」

「うーん、硬い。抜けないわ」

「時間をかけるほど、防御が固くなっていくわね」

「おい、もうすぐ塔も完成するぞ」

「どうすんだコレ……」


 委員長は初手でアイスゴーレムを召喚し、自分の周りを防御魔法で囲って防御を固めることにしたようだ。委員長らしい堅実な手である。

 さらには『氷霧アイズミスト』で目くらましもばら撒いている。相手が多勢で攻めてくる状況かつ自分が陣地から動かないなら、目くらましは有効だ。これだけで相手も同士討ちを警戒しなくてはならないから。


 そこまでしなくても、単純に新団員の魔術師達では、上級精霊のアイスゴーレムの相手だけで手いっぱいのようだ。氷の巨躯をすぐに倒せるほどの攻撃力は出せず、今は攻撃を加えて注意を引くことで、何とか上手く誘導しながらダメージを蓄積させているといったところ。

 その一方で委員長を狙う集団が攻撃を仕掛けるが、アイスゴーレムよりも硬い氷の防御魔法が次々と展開されてゆき、氷壁一枚を何とか砕くころには、さらに三枚立っているような状況だ。

 その氷の防御魔法は塔と化して拡大の一途を辿り、流石にそろそろ防御は十分と思ったか、塔の上に陣取った委員長が反撃を開始した。


「おおおっ、なんて冷気だ!」

「俺の『火矢イグニス・サギタ』無いなった」

「まずい、これホントに氷漬けになるわよ!?」

「あっ、ダメだこれ詰んだわ」


 シールドがあるとはいえ、氷の槍みたいな殺傷力のありそうな攻撃をあえて避けたのだろう。ただ凍り付かせる冷気を轟々と塔から放出して、周囲一帯を薙ぎ払ってゆく。

 一薙ぎで下級程度の火属性魔法は吹き消え、他の者もあまりの冷気に自分の守りに切り替えざるを得ない。だが続けて冷気が過ぎ去って行けば、半端な防御では防ぎきれないことも悟る。

 ただの壁一枚で冷風は防げない。火属性の熱で抗うか、風属性の防御魔法で冷気を弾くのが最も効率的な防御手段のようだが、それなら負けじとそういった防御を展開する地点に、冷気が竜巻のような渦を成して集中攻撃に晒された。


「これはもう勝負アリだな。そこまでだ」


 委員長が防御を固めきる前に攻め落とせなかった時点で、彼らに勝利の道は無くなった。ここから先は全員氷像になるだけのワンサイドゲームと見て、教官も終了の合図を出した。


「夏川さんの方は随分と盛り上がってるな」


 一方でワイワイと大賑わいを見せているのが、夏川さんの所属するグループ。全員が『盗賊』ではなく、『射手』など魔法以外の遠距離攻撃を使う者や、速度に優れた近接戦闘職なども、そちらに割り振られている。


「もぉーっ、なんで私ばっかりぃーっ!」

「ヒャッハァ、逃がさねぇぜぇ!」

「チッ、なんでこんなに当たらないのよ……」


 夏川さんは大勢に追われて、逃げに徹しているようだ。

 中でもナイフをペロペロしている目がイってる男は、なかなかの速度で夏川さんに追従している。

 さらにもう一人、射手の少女が逃げ場を潰すように次々と矢を射掛けてプレッシャーをかけていた。

 薬をキメてる黒高生みたいなナイフ男に、夏川さんよりも盗賊らしいワイルドなファッションをした少女。二人はグループでも図抜けた力量を持っているのが、すぐに分かった。

 そんな実力者に加えて、その他の新団員も大半が夏川さんを狙っている。


 それでも、夏川さんがキャーキャー騒いでいる内は余裕だな。

 本気になると、彼女は黙って消える。最後の最後に背中から刺された俺が言うのだから、間違いない。


「んもぉ、しつこいって、ばぁ!」

「うおっ、ちょっ、待っ――――」

「ヒョォオーッ!」


 甲高い声を上げて、鋭いダガ―二刀流を振るうナイフ男の前に、夏川さんに押し出された新団員が代わりに切り裂かれた。高速スピンの連続斬撃は瞬く間にシールドを削り切ったが、その頃には夏川さんは悠々と間合いを逃れ、ついでに射手少女から飛んできた矢の連射をブリッジからのバク転&宙がえり三回転半捻りで避けていた。惚れ惚れするような身軽さだ。


「へへっ、こんなに活きのいい獲物は初めてだぜぇ……」

「あ、やっとナイフ舐めてくれたぁ」


 ベロリ、とまたしてもナイフ男が刃を舐めたのを目にした夏川さんが、どこか桃川を彷彿とさせる意地悪い笑みを浮かべて指さした。


「あっ? あ、んあっ……あばばばばばっ!?」

「にはは、毒塗っておいたの、気づかなかったんだ」


 アレは恐らく、俺も喰らった麻痺毒だ。『勇者』として色々と耐性がある俺でもきつかったのだ。ナイフ男は白目を剥いて泡を吹いて痙攣しながら海老ぞりになっているのだが……あれ本当に大丈夫か? オーバーキルじゃない?


「それじゃ、次は『射手』の子にいっちゃおうかにゃー」

「くっ……な、舐めんじゃないよ!」


 そろそろ逃げ飽きたから反撃しよう、みたいな雰囲気を出す夏川さんに、射手の少女も気圧されていた。

 唯一、夏川さんの逃げ足についていけていたナイフ男が、こんなにあっけなくやられたのだ。本気で自分が狙われればどうなるか、嫌でも想像してしまう。傍らに壮絶な麻痺毒で悶絶している姿が転がっていれば尚更だ。


「夏川さんのところも、時間の問題だな」


 もうあのグループに彼女を捕らえられる手段も人手も残っていない。まして夏川さんが反撃に転じれば、すぐに終わるだろう。


「あとは双葉さんの方なんだが……」


 戦闘能力で言えば、最も不安がない。何せ彼女は、勇者の力を暴走させていた俺と互角に戦える『狂戦士』だ。あの時の俺を倒し、さらに小鳥遊さんとの最後の戦いをも乗り越えた今の彼女に、素の俺で勝つ自信はない。

 しかし、双葉さんは決定的にメンタルが不安定だ。何事もなく、順当に勝ち残ればいいのだけれど――――


「貴様っ、いい加減にしろ! この私を、どこまで愚弄するつもりだっ!」


 耳をつんざく鋭い怒声がグラウンドに響き渡る。

 目を向ければ、武器も構えず棒立ちのままでいる双葉さんと、相対する鎧兜の少女がいた。

 何故だろう。俺はその少女を見て、明日那に似ている、と思ってしまった……

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