第453話 妖精さんを崇めよ
「おっほっほ、私、パンドラ聖教にて主教を務めさせておりますぅ――――」
と、僕をペットショップで買う子犬か子猫でも吟味するような目で見下ろしながら挨拶しているのは、第四階層入口の妖精広場を奪うために、パンドラ聖教からやって来た女神派の手先である。
かつてのメイちゃんを彷彿とさせるデブ、もとい豊かなグラマラスを誇る体型の中年女だ。イイモノ食ってるんだろうなって体つきに、若作りもしてるんだろうなって思える化粧と肌の質感。
うーん、何て言うか、昔は美人だったんですかねぇって感じ? 若い頃は巨乳が売りのグラドルやってたけど引退して激太り、みたいな風情だ。
身に纏った白い法衣のパツパツ具合はハピナ以上で、やっぱり主教ともなると威厳が溢れているねと感じる。
けれど一番目を引くのは、その身に薄っすら纏っている淡い白光のオーラ。
『神威万別』が示す、エルシオンの信徒の証だ。
僕にだけ見える忌まわしい輝きを纏った女主教は、ゾロゾロと大勢の制圧人員である司祭以下の下っ端共を引きつれてやって来たのである。
「それでは早速ぅ、案内していただけますか、『黒髪教会』のモモカさん?」
「はい、どうぞこちらへ」
僕は恭しく頭を下げてから、先頭に立ってダンジョン入口広場へと向かう。
ここはヴァンハイト迷宮管理局本部。普段、ジェラルドや山田が利用している所だが、本部なのでお偉いさんを迎えるにも相応しい場所だ。
先日のパーティで僕の前にやって来たのは、ヴァンハイトの領主と大主教。
領主はアストリア貴族の侯爵。大主教はヴァンハイトという大都市を管轄する、パンドラ聖教でも四聖卿に次ぐ高位である。
あの二人はあくまで、第四階層解放のお祝いを述べる挨拶と、僕らへの労い。
そして大主教の方は、第四階層もしっかりと聖教が管理するから安心して欲しい、とそれとなく妖精広場の所有権を主張して、去って行った。
僕もヴァンハイトで活動し始めて、それなりに経つ。その間に、迷宮管理局とパンドラ聖教の関係性も理解できている。
要するに、アストリアの大迷宮を始めとした全てのダンジョン、その管理権限を握っているのはパンドラ聖教なのだ。
小鳥遊と同じように、古代遺跡へのアクセスを自分達だけで独占している。恐らくはアストリア建国の時から、天職『賢者』達がそういう風にしてきたのだ。
古代遺跡を弄るには、最低限でも『古代語解読』が必要。そこからさらに、実際に操作するのは別な技術となる。英語が読めるからといって、すぐにプログラミングが出来るワケじゃないからね。結局、現代人に古代遺跡を直感的に操作できるような者は、『賢者』のようにソレに特化したスキルでも持ち合わせていないと不可能なのだ。
そして『賢者』は当然、その古代語の翻訳や操作方法などは、決して他者へは教えない。門外不出の最高機密情報扱いだ。
そりゃ自分達でダンジョンの管理権限を独占しようと思えば、それが一番確実だ。他に操作できるような奴が出てきたら、面倒では済まされない事態となる。
そういうワケで、ダンジョンの機能を操ることができるのはパンドラ聖教だけであり、実際にその権限を握っているのが、クソ女神エルシオンを信仰する『女神派』なのだ。
なのでアストリアではどんな偉大な冒険者でも、ダンジョンマンスターには決してなれない。そういうのに成れる、ということすら一切知らされていない。
ダンジョンを操る力は、神が授けた権限。だからパンドラ聖教にしか許されない。とまぁ、大体そんな感じで、悪い宗教お得意の「神が決めたことに文句はねぇよなぁ?」理論である。
その理屈に乗っ取れば、僕は女神ルインヒルデ様から認められているから、ダンジョンは幾ら弄ってもOKだよね。僕の神が決めたんだ、文句は言わせねぇ。
「お忙しい中、お手間を取らせてしまって、すみませんねぇ」
けれど、そんな事など微塵も知らない女主教は、余裕たっぷりの微笑みを浮かべて僕にそんなことを言う。
この女にとって、ダンジョンの管理権限を行使するのは当たり前のこと。そして自分達のような選ばれた者以外が、それを行使することは不可能だと信じ切っている。
だから当然、僕らが苦労して解放した妖精広場を、後から乗り込んできて平気な顔で、ここはパンドラ聖教が管理しますよと言えるのだ。
「いえいえ、とんでもない。新しい階層の入口は、すぐに管理してもらわなければ、探索もままなりませんから。冒険者としては、最優先にすべきことでしょう」
「そう言っていただければ、助かりますわぁ。しかし、流石はあのフルヘルガーを討伐されたクランリーダー。まだ随分とお若いのに、物の道理をよくお分かりのようで」
「ダンジョンの管理は、神に選ばれし者にしか許されませんからね。それを無視した者達がどうなったか……ヴァンハイトの黎明期には、そういう不心得者が多くいたと聞いていますよ」
「おぉーっほっほっほ、昔の話ですわねぇ」
ダンジョン利権は莫大だ。階層入口の妖精広場を占領して、独占しようと目論む輩も出て来るに決まっている。
そして、そういう連中を合法・非合法問わず、徹底的に排除し続けてきたのがパンドラ聖教だ。
それ自体を悪いとは言わない。それで聖教だけがダンジョン利権を独占しているワケでもなく、むしろ誰にでも広く解放されているのだから、公正明大な運営と言える。
パンドラ聖教という巨大宗教が一元管理し、冒険者の活動を円滑に促すために迷宮管理局という実務組織に一任している。非常に効率的で、公平なシステムだ。
これで僕もただの一冒険者としてやっていくだけなら、この制度に文句の一つもないのだけれど……アストリアに喧嘩売ろうと思えば、そういうワケにもいかないんでね。
「あらぁ、この牛車、とっても快適ですわねぇ」
「第三階層の荒地を走らせるために、色々と改造していますから」
第一、第二階層は転移で飛べる。けれど攻略が停滞していた第三階層は一部の転移ルートしか解放されていない。フルヘルガーの縄張りまで一番近い転移でも、結構な距離がある。
まぁ、本当は僕が復旧させたボス部屋直近の妖精広場に飛べるんだけどね。今のところは、僕がダンジョン機能を弄れるって情報は伏せておいた方がいいし。
そういうワケで、公に解放されている転移から、牛車に乗ってガタゴト走っているのだ。これは一号車。御者は勿論、信頼と実績のルカちゃんである。
そして二号車以降には、女主教の手下共を満載している。運賃は勿論タダ。
この後にお前らが見せてくれる吠え面で、お代は十分だからね。
「こんなに揺れが無く、涼しい牛車があれば、第三階層の往来も快適になるでしょうねぇ」
「主教様が妖精広場を治めれば、その必要もなくなるのではありませんか。きっと多くの転移が解放されるでしょうから」
「おっほっほ、それもそうでしたわねぇ」
そんな和やかな会話をしている内に、いよいよ目的地に到着した。
階層主であるフルヘルガーがリポップする気配はまだなく、ボス部屋と言うべき溶岩湖の中央には、第四階層へと通じる転移魔法陣が光る、塔がそのまま立ち続けている。
「まぁ、ここが……」
そうして、第四階層入口となる妖精広場に飛んできた。
他所とそれほど代り映えのない外観だと言うのに、わざとらしいほど感嘆の声を女主教は上げていた。
「素晴らしい、ここは完全に機能しているようですわねぇ」
そしてもうこの場所の主は自分であると信じて疑わないように、僕の許しもなく勝手に噴水の妖精さん像へと歩いてゆく女主教。
それに合わせて、手下の司祭共も部屋中に散っては、勝手に検分を始めていた。
僕はニコニコ笑顔で狼藉を働く連中と、女主教のデカい尻を眺める。
さぁて、まずは見せてもらおうかな、お前らの管理権限がどのレベルにあるのかを。
「それではぁ、これより神前承認の儀に移ります。皆さん、どうかお静かに」
如何にもそれらしい儀式セットを設置して、わざとらしいほどに厳かな雰囲気を演出してから、女主教はアクセスを始めた。
噴水の縁、妖精さん像の真正面に立った女主教が、ごにょごにょと小声の詠唱をしながら手をかざすと、ブゥンとホロモグラムのモニターが浮かび上がる。
この光景を初めて見たらしい新人も手下の中にいるのだろう。それだけのことで、感嘆の声がそこかしこで上がっていた。
それから、わざとなのか、本当に分かっていないのか、やけに回りくどい操作をしながら、女主教は妖精広場の管理機能に関するページまで進んでいく。傍から見ていれば、PC初心者の老人がつたない操作でググっているのを見ているような気分だ。
確かこの女主教は、第一と第二階層の入口を操作したこともある、大ベテランらしい。ヴァンハイトは大都市だし、歴史的偉業である新階層解放の時に、一番の実力者を派遣するのは当たり前だろう。
彼女はヴァンハイトの聖教を預かる大主教の信任も厚い、『女神派』でも選び抜かれた人材だ――――それがこの程度の操作力で、ちょっと安心した。
そうしてたっぷり時間をかけてから、いよいよ女主教は妖精広場の管理権限を自分に設定する操作を行った。
「おおぉ、偉大なる光の女神エルシオンよ……どうか我ら人の子に、天上の恩恵を与え給えぇ……」
両手を振り上げ、無駄にいっぱい投影させたホロモニターを輝かせ、しっかりと神々しさを演出して、エンターキーを押すが如く操作を実行すると。
『だめー』
『不明なアクセスが接続されました』
幼い声音と機械的なアナウンスが、同時に響き渡った。
その瞬間、女主教の顔が引きつったのを、僕は見逃さなかった。
「主教様、どうかされましたか?」
「おっ、お静かに! まだ儀式は完了しておりませんのよ!」
僕が言うまでもなく、明らかにダメっぽいアナウンスが聞こえたことで、側近みたいな奴が問いかけるが、女主教は早くも余裕の態度は剥がれ落ち、冷や汗を浮かばせながらホロモニターを慌てて操作し直す。
「こ、これで認証は通るはず――――」
『だめー』
『不明なアクセスが接続されました』
色々と弄っていたようだけれど、後ろから見ていた僕には何をしていたかは一目瞭然だ。そして、女主教がやっていた再試行やアカウント変更染みた操作では、絶対に認証が通らないことを僕は知っている。
良かった、お前らが普段使っているアクセス権限よりも、僕の方が上で。
なにしろ今の僕は、アルビオン総督代理だからね。『小鳥箱』を利用して正規に取得した、いわば古代のお偉いさんのアカウントである。
そんじょそこらの一般アカウントとは、扱いが段違い。ここの妖精広場は、僕の管理権限を持って、他のアクセスの一切を拒否している。
そこにのこのこ、いつもの通りセキュリティノーガードだと思ってアクセスしに来たら、そらこうなるよ。
恐らく、ダンジョンマスターである僕と同等以上の権限を持つのは、シグルーン大迷宮を攻略した、女勇者リリスと紫藤だけだろう。だって他にアストリアの大迷宮は攻略されていないからね。
悔しかったら、お前らも自分でダンジョン攻略しなよ。アドバイスくらいはしてあげる。
ちなみに、幼い妖精さんボイスは勝手に喋る。僕が煽り目的で設定したワケではない。というか、そもそも設定できてない。どうやらガチで妖精の神の加護が宿っている模様。
だから僕も、あんまり下手なことは出来ないんだよね。
『セキュリティ・クリアランスが確認できません。アクセス遮断』
『もうだめー』
「嘘ぉ、ありえない!? そんな、どうして……」
もう一切お前の操作は受け付けないよ、と見た目にも分かりやすく浮かばせていた全てのホロモニターが赤い警告画面に反転する。ついでにダンジョンとしては不正アクセスを検知した、という扱いで警戒態勢に入り、妖精広場も非常灯に切り替わり赤く照らし出された。
どんな素人の目にも異常が発生したことは明らかだ。
真っ赤になった広場と画面の前で、女主教の顔は蒼褪めていた。
「主教様、これは一体……」
「落ち着きなさい。ここは、騒いでどうにかなる問題ではありません」
ほう、流石は主教まで登り詰めてきた、経験豊富なベテランだけある。もうこの際、失敗したことは誤魔化せないから受け入れて、次に出直すことを考え始めた顔をしているな。
表情は青いし冷や汗垂れ流しだが、それでも取り乱すことなく、部下の統制に務めている。
実際、ここで大人しく引き下がれば大事にはならないだろう。
ならないけれど、それじゃ僕が困るんだよね。だからここからは、僕のターンだ。
「ああああっ!? 大変だぁ!」
「っ!?」
折角、堂々とした態度で慌てた部下達を治められそうだったのに、僕が素っ頓狂な叫びを上げたことで、女主教が鋭い目で睨みつけてくる。このタイミングで余計な騒ぎを起こすんじゃねぇガキが、と視線で物語っていた。
ふふん、僕は間違ったこと、何も言ってないよ。本当に大変なことが、これから起こるんだから。
「妖精の神を怒らせた! みんな殺されるぞぉ!!」
「なっ、なにを!?」
と、絶句したのは女主教だけではない。僕の迫真の演技で、彼ら全員、唐突に命の危機に晒されていることを突きつけられたのだ。一体どういうことなんだ、と誰もが気になるだろう。
「適当なことを言って、混乱させるのはお止めなさい!」
「主教なのに知らないのか!? 本物の妖精広場は、古代の防衛機能が生きているんだ!」
「まさか貴方、どうしてそんなことまで知って……」
「全員、動くな! 妖精像に撃ち殺されるぞ!」
女主教の反応に、どうやらちゃんと妖精広場の防衛機能も知っていると確信する。
リベルタが言った通り、真の妖精広場は、正しく妖精の神の加護によって機能している。僕は今でも、あの脅威の殺人光線をぶっ放してくる妖精さん像を超える手段は思いつかない。
僕らが本当にダンジョンから外敵であると認識されれば、ここにいる全員が一瞬でバラバラにされてしまう。
そしてそうなる可能性を、妖精レーザーを知っている女主教は、ありえると信じた。信じざるを得ないよなぁ?
『悪い子、いるー?』
ギラリ、と威嚇するように妖精さん像の両目が赤く光る。
「ヒイッ!?」
やはり、その意味を女主教はちゃんと知っているようだ。次の瞬間には殺人光線が、不正アクセスをした自分に向けて放たれるかもしれない、と大いにその太そうな肝を冷やしているだろう。
「ああ、妖精の神よ! どうかお許しください!」
女主教が死の恐怖で硬直したところに、僕は彼女を庇うように前へ出るなり、妖精さん像へと土下座を敢行。
気分は正に、怒りに荒ぶる神を鎮める巫女さんだ。
見よ、この我が身を犠牲にしてでも荒神を鎮めてみせるという意気込みを示す、尊い土下座の姿を!
「おい、お前も早く謝れ! 誠心誠意謝れば、許してくれるかもしれない!」
「い、いや、しかし私は……女神様の他に跪くわけには……」
「馬鹿野郎、死にたいのか! 妖精の神は気まぐれだぞ、早くしろ!」
「なりません! このようなこと、女神様はお許しに――――」
チッ、無駄にプライドだけ高いババアがよ。
そんなに謝りたくねぇって言うなら、今すぐ謝りたくさせてやんよ。
『悪い子、いたー』
はい、妖精レーザー発射。
ビカビカッ! と派手に目を輝かせて、妖精さん像の愛らしい円らな瞳から、凶悪な殺人光線が放れた。
「いぎぃぁああああああっ!? あっ、あづぅううぃいいいいいいいいいいいいっ!!」
口から出たのが「きゃっ、熱ぅい!」なんて可愛い台詞だけで済んで良かったな。ちゃんと非殺傷の威嚇射撃モードで撃ってやったんだぞ。
レーザーが直撃した女主教は、やはり高位に相応しい高度な防御用マジックアイテムを装備していたらしく、二重、三重となって結界が瞬時に展開されていたが――――現代の魔法防御が通じるはずがない。妖精神の加護によって放たれるレーザーは、如何なる守りも貫き、敵を撃ち抜く。
というワケで、哀れ女主教の防御は1秒ももたずに貫通し、その肥えた体がアチアチのレーザーで炙られた。
その純白の法衣、耐熱性にも優れているようで良かったね。焦げ跡がつく程度でレーザーの高熱を抑え、お肌への直火は回避したようだ。だからこそ、熱い熱いと泣き叫ぶだけの元気があるワケで。
「主教様!?」
「主教様が撃たれた!」
「な、なんということだ……」
「今すぐお助けを――――」
「お前ら全員動くな! 撃たれるぞっ!!」
『悪い子、まだいるのー?』
ギラリと目が輝くと、立ち並ぶ下っ端共の足元をレーザーが薙ぎ払ってゆく。
綺麗な芝生に黒々とした焦げ跡を刻み、灼熱の蒸気が微かに立ち上ってゆく様を前に、僕が叫ぶまでもなく、全員が一歩も動くまいと心に誓ったことだろう。
「主教、早く謝るんだ。これ以上、妖精の神を怒らせてしまえば、ここにいる全員が死ぬ」
「うっ、うぅ……はひぃ……」
最早、苦痛と恐怖で主教としての威厳を取り繕う余裕も失った、必死の泣き顔で、僕の隣に並んで土下座の体勢へと移行する。太い体でノロノロと蠢く様は、まるで怠惰な豚のようだ。
「よ、妖精の神よ……どうか、お許しを……」
「全然気持ち籠ってない! もっとちゃんと謝って!」
「私がとんだ無礼を働き、誠に、申し訳ございません……何卒、命だけは……」
無様に大泣きの土下座姿を晒す女主教を、配下達が固唾を飲んで見守っている。
この謝罪が通るかどうかで、この場の全員の命がかかっているのだと思えば、その緊張感も一入。
これで無事に切り抜けることが出来たなら、この無様な姿も全員を守るために行った、尊い行動ということになるだろう。
だから、これで許すワケないよね。
『悪い子は、お尻ペンペンだよ』
呑気な声が響き渡る。
それだけで、全員が息を呑んで静まり返ってしまった。
おいおい、どうしたんだ、妖精神が直々に判決を下したんだぞ。
「やったぞ、お尻ペンペンで許してくれるってさ」
「はっ……はぁっ!? な、何を言って――――」
折角、寛大な処置を賜ったんだぞ? 謝罪をして罪を認めたのなら、罰を受け入れるのは当然のことだろう。ここで罰を拒んだら、謝罪そのものも嘘だったということになっちゃうでしょ。
「ケツ叩きだけでいいって言ってるんだ! 早くしろ、次の瞬間には気が変わって命まで取られるかもしれないんだぞ!」
「そんなっ、お尻を……む、無理です、できない……そんなこと、できなぁい!?」
ババアのくせにケツ叩きくらい何を恥ずかしがってんだ。拷問を受けろと言うんじゃないのだ、これで命が助かるなら楽勝だろう。
まぁ、僕としてもここで主教を殺したいワケではない。こういうのは、代わりなど幾らでもいるってヤツだ。重要なのは、次に来る奴を止めるような状況にしておくこと。
だからまぁ、悪いけれど、二度とここにリベンジなんてする気がなくなるほどの、無様極まる辱めを受けて貰おう。
「何ワガママ言ってんだ! おい、早くケツ出せよ!」
「い、イヤァ!? やめてぇええ!!」
僕が焦りと怒りに任せたような演技で女主教に掴みかかれば、乙女のような悲鳴を上げた。へへっ、なかなかいい声で鳴くじゃないか。
しかし流石は昔のメイちゃんに迫る重量級ボディ。抱き着いても全身包まれるような肉感に埋もれるだけで、ビクともしない。貧弱な僕の力では、動かすことは出来ないだろう。
「おい、お前らも手伝え! 早くケツ叩いて謝罪を示さないとどうなるか、分かってんだろうなぁ!!」
「うっ、そんなぁ……」
「や、やるしかない! やるしかないんだ!」
「そうだ、みんな助かるには、やるしかないんだよぉ!」
「ああ、主教様、どうかお許しを!」
「ひっ、あ、貴方たち、何を……いっ、イィイヤァアアアアアアアアアアアアアッ!?」
僕の呼びかけに速攻で正当化を完了させた下っ端共が、正に暴漢の如く女主教へと襲い掛かる。
「よし、お前らしっかり抑えてろよ」
「主教様、申し訳ございません!」
「申し訳ございません! 今ばかりは、どうかご辛抱を!」
「暴れんなよ……暴れんなよ……」
「キャアアアアアッ! 助けてぇ、誰かぁああああああああああああ!」
絵面は完全に婦女暴行現行犯。だが許せ、命がかかっているんだ。
そう僕は真剣に人の命を案ずる正義の気持ちで、女主教の法衣をめくった。
おお、凄いケツのボリュームだ。サイズだけならメイちゃん級だけど、このたるんだだらしのねぇ尻肉は歳のせいか。
そのくせ派手な下着をつけやがって、このメス豚が。こんなスケスケレースのやつ、エロ同人でしか見たことねぇよ。これが聖教シスターのスタンダードなのか、それともとんでもねぇ淫乱ババアなのか。
どちらにせよ、僕の前には実に叩き甲斐のある、白い巨尻が晒された。
うん、叩きたくなるお尻の持ち主で良かったよ。これでやって来たのが生臭坊主だったら、その薄汚ねぇケツにニューホープ農園御用達の鞭を叩きつけてやったところだ。ブルウィップでフルスイングだぞ。
でもこのお尻なら、僕も心置きなく素手で叩けるよ。ふふん、腕が鳴るね。
「よぉし、行くぞぉ――――」
パァン! と高らかに肉を打つ音が、妖精広場いっぱいに響き渡る。それが祭りの始まる合図であった。




