第450話 フルヘルガー攻略戦(4)
「よしよし、いい感じだな」
前衛三人組は順調にフルヘルガーを削っている。完全にこちらのステータスが勝っている、というワケではないにも関わらず、非常に安定した立ち回り。見ていて安心感を覚えるほどだ。
ジェラルドはそもそも傭兵経験豊富な大ベテランだし、リザも戦士としての経験に過酷な奴隷生活を無表情で耐えきれる強靭なメンタルもある。そして僕らのクラスでは随一の守備力と粘り強さを持つ山田だ。変に熱くなったり油断したりしない、非常に堅実なメンバーが揃っているからこその安定感なのだろう。
彼らの戦いぶりは、やり込んだ狩りゲーで新たに実装されたモンスターを初見で挑んでいるような感じだ。完全にモンスターの動きを見切っているワケではないが、直撃を避けて攻撃を着実に当て続ける、堅実な立ち回り。
大きな一撃は、よほどの隙が無い限りは狙わない。その代わりに、当てやすい攻撃を正確に当て続け、少しずつ、けれど確実に消耗をさせてゆく、
「あっ、部位破壊」
度重なる攻撃を受け続け鎧の一部が砕けて欠けた。
肩、手足、胴回り、当てやすい部位かつ比較的装甲の薄い箇所にダメージを蓄積させ、破砕した箇所はすでに何か所もある。装甲を失った場所は新たな弱点となり、更なる出血を強いる。
壮麗な白銀の鎧を纏ったフルヘルガーだが、すでにして満身創痍といった出で立ちとなりつつある。
「けど、まだ元気だな」
所詮、鎧を剥いだところで本体にダメージはない。なによりタフなボスモンスターだ。ここから少々の手傷を負ったところで、手負いの獣状態でしばらく暴れ回るだろう。
「それくらいの状態には、さっさと追い込まないとね――――よーっし、雑魚は片付いた! 黒騎士団も加勢するぞ!」
こっちもこっちで、頑張って戦っていたのだ。ようやく取り巻き共を殲滅完了。やっぱエリートなヘルガーだったから、ちょっとデカいし頭も回るようで、最後は小癪にも時間稼ぎするかのように逃げに徹するような奴らだった。
でも『呪術師』相手に逃げは、存分に嫌がらせをしてくれ、と言っているも同然。逃げ足を絡めとることに定評のある『黒髪縛り』を始め、僕も存分に呪術を飛ばして追い込んでやった。
そうして多少の時間はかかったものの、これといった損害もなく雑魚掃除を終えたことで、完全にこちら側へ戦力優位に傾いた。
「ふぉおおおーっ、ハピナも行くのです!」
「お前は行くな」
「ぴぎぃっ!?」
まったく、ちょっと騎乗戦闘で上手くヘルガーを倒せたからって、調子に乗ってボスまで殴りに行こうとするな。『ガイアパワー』は脳筋になる効果もついてんのか?
と、僕はため息交じりに、ハピマルを全速前進させようとしたハピナを、黒髪縛りをカウボーイが如き投げ縄で止めた。
「自分の仕事を忘れるなよ『祈祷師』。そして、前衛の邪魔をするのは論外だぞ」
「ううぅ……すみませぇん……」
僕に止められて頭が冷えたのか、涙目で杖を握り直して、すごすごと僕の方へと戻って来た。
そうそう、後衛は大人しくみんなの後ろでどっしり構えていればいいんだ。僕らのカスみたいな火力が加わったところで、本職の前衛組には邪魔にしかならないんだから。
「ここは神々が愛した国なれば。いざ大地へ満ちよ、大いなる地母神のお恵みを!」
戻って来たハピナが発動するのは、『豊穣祈願』だ。
『母なる祈り』に比べれば、即効性の回復効果がないし、随分と劣るように思えるが、そもそもコレは戦闘用でも回復用でもない。名前の通りに、その土地の豊穣を願う祈祷であり、つまり人間ではなく畑に向けて使うのが正しい使用法なのである。
パンドラ聖教の祈祷師は、主にこういった祈祷を使って人々の生活を豊かにする活動をしているそうだ。そういう点で見れば『豊穣祈願』は十分優秀な効果があるらしい。何ならコレ一本でハピナは教会で一生食っていけるレベルだと、すでに意識は回復した剣士の姉貴から聞いている。
じゃあダンジョン探索なんか危ないことすんなよ、と思うがそれはまた別な話であり……ともかく、重要なのは『豊穣祈願』がどこまで戦闘に役立つか、である。
結果的に言えば、戦闘においても十分な効果があると認められる。
まず自然治癒力が上がる。グーンと上がる。貧弱な僕ですら、ちょっとした切り傷がすぐに塞がってくれるくらい。こんだけ回復力が上がるなら、前衛組ならカスダメなんざ無視できる立ち回りが可能となるだろう。
アクションゲームで言えば、体力を少しずつ自動回復してくれるパッシブスキルみたいな使用感かな。大ダメージ受けた時は役に立たないけど、逆にデカい一撃さえ貰わなければずっと体力全開で戦える、快適スキルだ。
他にも活力が湧くので、元気になる。『母なる祈り』で体力も魔力も強化されるが、『豊穣祈願』はそこからさらに活力という別な要素によって、ステータスの底上げをしてくれる。元気になれば、集中力も維持できるし、体の調子も良くなる。
だからハピナがいれば、『母なる祈り』と『豊穣祈願』で、全能力強化とベストコンディションで常に戦えるという、素人を育てるには最悪の甘やかし環境となってしまうのだ。ホントに恐ろしい女だよ、お前は。
けれどウチのエース級に対して使うなら、単純に強力なバフ効果として機能する。
『母なる祈り』は使っていないが、この『豊穣祈願』は開幕から発動させている。お陰様で、三人共ほとんど消耗は見られないし、自前でポーション使うような状況にも陥らなかった。
「もうちょっとで『豊穣祈願』の効果が切れるところだったじゃないか。ヒーラーとバッフアーは、効果時間の把握は基礎中の基礎! 一度かけたバフは、途切れさせるな!」
「はっ、はひぃ……」
僕のゲーム知識と実戦経験を元にした忠告をハピナに叩きつけてから、僕は意識を黒騎士団へと向ける。総員、突撃準備完了だ。
「黒騎士の損耗は気にせず、攻めて行こう。ここで少しでもボスの体力を削るんだ」
「承知!」
「かしこまりました」
「しゃあ、ガンガン行くぜぇ!」
元気な返事の三人組に応えて、16体もの黒騎士団がフルヘルガーへと突撃を開始。
配下が一匹残らず倒され、自分に向かって大勢やって来るのはボスも当然、分かっている。ここで繰り出すのは、
グルルゥ、シャァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!
甲高い雄たけびと共に、フルヘルガーの全身から真っ赤な高熱ガスが猛烈に噴射される。やはり、範囲攻撃だ。
濛々と煙幕のように広く煙っているが、その全てが高熱かつ毒性の火山ガスである。
開幕から、この全方位ガス噴射は一度も使わなかった。恐らく、ここでの戦いが始まった時点から、前衛三人に加えて更なる人数が自分に群がった時に、一網打尽にすべく隠していたのだろう。
初見だったらヤバかった。僕の分身による威力偵察じゃあ、この技を引き出すほど追い込むことも出来ない。これがダンジョンサバイバルだったら、事前に知り得ない危険な大技だったが……やはり、先人の知恵というのは偉大である。
管理局の記録に、しっかり残っていたよ。このガス攻撃にやられて撤退した、高位冒険者パーティの記録がね。
「だから、そのための冷却結界なんだよ」
次の瞬間に聞こえてきたのは、フルヘルガーが痛みに悶える叫びであった。
吹き荒ぶ高熱ガスをものともせず、前衛三人は一挙に攻めへと出ていた。
「ハッハァ! コイツぁイイ!」
最初に赤いガスから飛び出してきたのは、高速回転する斬撃を繰り出すジェラルド。自身の回転に合わせて冷気も激しく放出され、直径3メートルほどの範囲から高熱ガスを吹き飛ばしている。
『象牙の塔』謹製の冷却結界は、僕の要望通りに外側へ冷気を放出するようになっている。単純な風の巡りだが、コレによって周囲に満ちるガスを弾き飛ばすことができるのだ。
フルヘルガーが高熱毒ガス攻撃を使うことは分かっていたし、さらに火山ガスを噴出させる地形ギミックなんかも使って来る、と知っていたからこその対策装備だ。
辛い灼熱の環境に対する冷房と、ガスに対する風の結界。これを複合させたフルヘルガー攻略専用装備が冷却結界なのだ。ただ冷やすだけじゃないんだよ。
「坊ちゃまのお守り、ありがたく」
「いい仕事してるぜ桃川ぁ!」
ガス大放出中で無防備なフルヘルガーへ、クーラーの恩恵を存分に生かしてリザと山田も続いて襲い掛かる。
大きな隙を晒す形となったフルヘルガーは、痛烈な一撃を叩き込まれて、さらに大きく鎧を割られた。
その衝撃は放出していたガスが止まるほどで、狼の巨躯も大きくよろめいた。
そこで殺到してくるのが黒騎士団。
コイツらにクーラーは無いけれど……そもそもアンデッドなんで。熱も毒も気にせず動く奴らだ。焼き尽くすほどの炎か骨を溶かす酸じゃなければ、意味はない。
グラァアアアガァアアアアアアアアアアアアアアッ!
隠し玉の一つだったガス攻撃が全く通じず、手痛い反撃を喰らったフルヘルガーは、怒りの声を上げて暴れる。その暴れぶりも、これまでとは異なる。
「なるほど、これがブースト機動か」
奴にとってこの高熱ガスは、ただの範囲攻撃の手段ではない。その本当の使い方は、鎧に開いた各部からガスを放出することで、更なる推進力を得ること。
これが本当の、奴にとっての全速力だ。
最初からこれを使わなかったのは、やはりボスにとっても消耗が激しいからだろう。勿論、僕のショボい威力偵察ではブーストダッシュを引き出すことは出来なかったし。
群れを率いても倒し切れず、自分で戦ってもすぐに仕留め切れなかった時、解禁する本気モード。
もし『無道一式』と『亡王錫「業魔逢魔」』があれば、気合を入れて準備した巨人レム率いるキメラ特攻隊で本気まで引き出し、消耗させた上で本命をぶつけるって手段もできそうだけど、無いものねだりをしても仕方がない。
そうして、フルヘルガーはついに己の全力を解き放つ。
ボォオオオオ――――と激しい音を立てて、両肩や腰回りから炎のように赤いガスを噴き上げ、猛烈な直進。まずは高速の突進によって、袋叩き状態の包囲から脱する。
そうして飛んだ先で、ガリガリと四脚で地を削りながら勢いを殺して素早く方向転換したフルヘルガーが次に狙うのは、
「逃げるなっ、来い!!」
上手い、流石は山田。完璧なタイミングの『アーマードクライ』だ。
フルヘルガーは一瞬、リーダーである僕をこのまま先に始末しようか、と思ったようにこちらへ振り向きそうな素振りを見せていた。この距離、この位置、で一足飛びにブーストダッシュで突っ込まれたら、僕も結構困る。隣でハピナもウロウロしてるし。
けれど、その決断を下すよりも前に『アーマードクライ』で再びヘイトを引き付けた。
「ジェット噴射で速さ自慢か。かかって来いよ、真正面から叩き潰してやる」
言葉など通じずとも、大きく斧と槌を振り上げて構えた山田の挑発は、何よりも雄弁にフルヘルガーへと伝わっただろう。殺意の籠った目で山田を睨みつけ、その頭にはリーダーを先に仕留める、という戦術的な思考は消えたようだ。
「頼むぞ、みんな。ここからが正念場だ――――」
◇◇◇
一進一退の激しい攻防が続いた。
今、どれだけの時間が経っただろうか。それほどではない気もするが、何時間もこうしていたかのような、一瞬も油断できない濃密な戦闘時間が経過している。
「ちっ、これで打ち止めだよ」
そうして、最後の黒騎士が倒れた。
貧弱スケルトンから強化して育て上げ、騎士の装備を作り上げ、さらにはハピナによる『母なる祈り』という全能力強化まで費やした、総勢16体の黒騎士団が全滅。
ああ無情。かけた手間もお金も、返って来ることはないのだな。
「けど、十分な成果だ。お前たち、よくやったよ」
そう心の底から言えるほど、フルヘルガーは満身創痍となっていた。
自慢の鎧は半ば以上が剥がれ落ち、自前の甲殻も砕けている。毛皮は全身血濡れとなるほど大小様々な傷が刻まれた。
獰猛な唸り声には、疲労を感じさせる荒い吐息が入り混じり、噴き出す高圧ガスの勢いも落ち始めている。
流石のフルヘルガーも、ここで明確な消耗を見せていた。
だが、それでも第三階層の主は倒れない。このまま戦い続けても、まだ粘り続けるだろう。
一方、こちらは目立った負傷こそないものの、体力も魔力も消耗している。黒騎士の援護が無くなったので、ここからは大したフォローも出来ずに、痛い一撃を貰う危険性も上がるだろう。
着実に追い込んではいるものの、まだ決して油断はできない状況。
だから欲しいのは、フルヘルガーを更に追い込むための一手だ。
「よし、今が頃合いだな。ハピナ、『母なる祈り』を使うぞ」
「はい!」
ついに自分の出番が来た、と勇んでハピナは杖を振り上げて詠唱を始めた。
「我らが大いなる母よ、天上より見守り給え」
ボスがガスブーストを隠していたように、こっちだって切り札の一つくらいは隠していた。この局面で相手が全能力強化されるのは厳しいだろう。
逆に初手から『母なる祈り』で強化しておくと、頭の良い奴は後衛を襲う優先度を上げる。強化された前衛を丸っと無視して、全力でハピナを叩いて来るだろう。前衛と後衛、どっちがやられても戦線は崩壊してしまう。
だからここまで使わなかった。まず先に前衛との戦いに集中させ、使用は黒騎士団までに留める。『母なる祈り』の強化を受けた敵がボスへと襲い掛かって来る時は、もうすでに戦いは中盤。強引に後衛を叩きに行くには難しい状況だ。群れは一匹もついて来ず、自分も相応に消耗した上に、敵に囲まれたのだから。
そして戦いも終盤、ここで『母なる祈り』を切るのがベスト。
ここで強化を果たした前衛組に全て任せてもいいけれど、折角の仕込みもあるから使わせてもらおう。
「されど我ら、弱き子のまま世に溢れる悪意に挑まんとす。故に祈り、願う、打ち勝つ力を――――今こそ我が手に、母なる大地、大いなる地母神のご加護を!」
長い祝詞を謳い終えて、ついに万能強化の力が三人へと行き渡る。
過酷な激戦を続けて消耗した体に、一気に戦う力が戻って来ただろう。そして同時に、ここから一気に決める、という僕の意図も伝わってくれたと思う。
よし、今だ。
「うわぁああああああ! もうダメだぁああああああああああ!」
僕は渾身の情けない叫び声を上げる。
ボスから見れば、強化が発動したというよりも、黒騎士団が全滅したタイミングだと思わせるのがコツだ。
「僕の黒騎士団が全滅だ! お前らがさっさと倒さないからこうなったんだろうが! この役立たず共めぇ!!」
僕が突如として発狂したことで、すぐ隣にいたハピナは唖然とした表情を浮かべている。かける言葉も見つからない、とばかりに口を金魚みたいにパクパクしてる。
いいね、その自然な驚きの表情。小鳥遊には無理な、純粋なリアクションである。
「僕は逃げるからな! お前らは死ぬ気で足止めしろぉ!」
「あっ、ちょっと、コタローッ!?」
正気を取り戻したように慌てて僕を制止する声を上げるハピナだが、今更もう遅い。僕は手綱を握りしめラプターを全力で発進。
土壇場で仲間を見捨てて自分だけ逃げるクズ指揮官ムーブ、ちゃんとお前には伝わっているよなぁ?
ルルァアアアアアアアアアアアアアアッ!
敵の連携が綻びた、とフルヘルガーは即座に判断。
残り少ないだろうブースト全開で、前衛三人を飛び越えるように大きく跳躍。真っ直ぐに一人で離脱し始めた僕へと狙いを定める。
「うわぁあああああああっ!? くっ、来るな! 来るなぁああああ!!」
って叫んできた奴らを、お前は散々見てきただろう?
殺意の籠った視線に、歓喜が入り混じっているのが僕には分かる。
そうさ、お前をここまで追い込んだ憎い連中を率いるボスは、僕みたいな貧弱なお坊ちゃんだ。自分の絶対的な力だけで群れのボスに君臨しているお前からすると、こんな情けないチビが、これだけ強い奴らをこき使っている様を見て、とてもいい気分はしなかっただろう。そう思う、そう思えるだけの知能が、お前にあることを僕は知っている。
長らく、第三階層は完全攻略されなかった。その長い時間だけ、フルヘルガーに挑戦した者もそれなりにいた。中には本物の金持ちボンクラ野郎が、雇った連中を大勢率いて挑んだこともあったという。
このフルヘルガーは、そういう奴らも返り討ちにしてきたのだ。指示だけ飛ばして、自分は攻撃魔法の一つも撃たない、安全圏で楽な仕事だけしている僕の姿は、奴にはそういうタイプのリーダーだと確信させるには十分だろう。
知能の高いフルヘルガーは、複数の敵と戦う際にはまず、相手のボスを見極めようとする。これは威力偵察でも確認できた。
僕が口頭で命令を出してスケルトンを動かす姿を見せれば、まず僕を狙ってきた。何度か編成や攻め方を変えても、奴は鋭い観察眼で必ず指示を飛ばすリーダー個体を見抜いてきたものだ。ちょっとした誤魔化しなんかは通用しなかった。
フルヘルガーは人間の言語こそ理解していないが、優れた視覚と聴覚で、相手の動きや関係性を推測できる。その上、「突撃」とか「攻撃」とか単純な発音で、分かりやすく動きに反映される言葉などは、理解しているっぽい。
そうやって奴は目と耳で相手を観察しながら戦っているのだ。
だからこそ、「僕が無能なボンクラリーダーでーっす!」とアピールするように、ここまで立ち回って来た。こんなステージ衣装みたいな派手な格好までしてさ。お前も知ってるでしょ、立場だけのボンクラ野郎ほど派手な格好を好むってさ。
そうして、奴は装甲牛車で攻めてきた時から、すぐに目立って分かりやすい僕へと目をつけて、ずっと観察し続けていた。大したことはしていない。自分で攻撃もしてこない。そのくせ口だけは一丁前に出している、そんな僕の姿を。
前衛三人と戦い、黒騎士団も加わっての激闘となっても、奴は僕への注意を欠かさなかった。リーダーだと分かっているから。
そしてついにこの局面で、僕が泣き言を叫んで逃げ出した。
君なら思ってくれただろう。ついに崩れた、と。
実際、そうだと思っていたからこそ、こうして食いついてくれたワケだ。
見上げれば、僕の頭上から大口を開けて襲い来るフルヘルガーの巨躯が降って来る。こんなの牙で喰らいつかれなくたって、そのまま潰されて死ねそうだ。
そんな必殺の空中攻撃を、僕は満面の笑みを浮かべて歓迎した。
「所詮は獣だね。まんまと引っかかったな、馬鹿め!」
高らかに叫ぶと同時に、僕はギラギラ衣装を開いて見せつける。
昭和のヤクザが腹にダイナマイト括りつけているかの如く、体中に巻きつけておいたコア爆弾が、臨界寸前で真紅の輝きを放つ様を。
ガァアアアッ!?
自分が罠にかかったことを悟り、慌ててガスブースターを逆噴射させて逃げようとするが、もう遅い。
「さぁ、一緒に弾けようぜ――――ブラスト」




