第443話 青い小鳥(2)
竜災から戻って三日目には、僕らは再びダンジョンへと潜った。
火山神殿エリアには、先行させた偵察分身がすでに拠点を確保している。ボス部屋、というにはあまりにも開けたフィールドだが、ともかくボスの居座る縄張り付近で、スリープ状態の妖精広場を確保。
これまでの冒険者達による攻略情報から、機能を失った妖精広場がある、というのは調べがついてた。現地でちゃんと本物が確認できて一安心だ。
そして僕には、スリープ状態の妖精広場を再起動させる方法を知っている。やっぱダンジョン攻略の要は如何に遺跡の機能を使えるかだよね。
そうして確保した妖精広場に、まずは先遣隊がやって来る。
構成は本体の僕、リザ、ジェラルド、そして山田とルカちゃんのコンビ。本来はこの五人だけだったけど、飛び入りで『象牙の塔』のミレーネが参加することとなった。
魔道具の開発依頼を通して、ミレーネが非常に優秀で多才な魔術師であることをすぐに思い知らされた。そんな彼女が先遣隊に参加して、前線拠点の構築に力を貸してくれるのは、非常にありがたい。
これでボスに挑む中核メンバーは全員揃ったこととなる。
先遣隊として先入りしているのは、冷却結界をはじめとした対策装備の試運転と慣れ。それからボスの縄張りにちょっかいかけて、フィールドの下見に練習なんかもこなす。
ボス攻略本番は、『黒髪教会』を中心とした結構な人数を投入する総力戦となる。地上では僕の分身がそっちの準備に奔走しつつ、こっちはこっちで現地での準備を整えている、そんな忙しい時であった。
「若様、近くに冒険者パーティがウロついとるが、どうする?」
「こっちの監視に来てるんだったら放っておいていいよ」
どうせ僕のやってることを見ていたとしても、古代語は解読できないし、ルインヒルデ流呪術が使えるようになるワケでもない。所詮、僕はルインヒルデ様の加護に徹頭徹尾、頼った力による攻略法なので、誰もが真似できる汎用性はないからね。
「いや、ありゃあただの小僧共じゃな」
「なるほど、モンスターの減った好機に、神殿エリアまで冒険しに来た感じかぁ」
いいねぇ、若いねぇ、などと爺臭いことは言わないが、この世界において真っ当な冒険者活動をしている姿が、ちょっと羨ましく感じることもある。
クソ女神エルシオンなんて奴がいなけりゃ、僕らはもっとお気楽にダンジョン攻略したりしなかったりの、ノンビリ異世界スローライフを満喫できていたってのに。
「ゴーマの罠に誘い込まれておるが、放っておくか」
「それ、自分達だけで対処できるやつ?」
「あの数に囲まれたら無理じゃろ。ゴーヴ戦士率いる精鋭部隊もいるしのう」
「全滅確定か。やれやれ、世話の焼ける坊や達だ」
別に現地の冒険者が、自分の冒険で死んだとしても構いはしない。だって僕『呪術師』だし。滅私奉公で人の命を救う使命など背負ってない。
けれど、今ここには高潔な『守護戦士』がいるもんで……僕が放っておこうと言っても、危険な奴らがいると知れば、黙って飛び出して行くだろう。
「儂が行って片づけて来るか?」
「いや、この機に奴らの巣も探そう。それに、僕もここ数日籠り切りだったし、少しは体を動かさないと」
「坊ちゃま、危険です。私にお任せくだされば」
「ゴーヴ部隊の相手くらいがちょうどいいのさ。でもいざって時は、みんなで僕のこと守ってよね」
というワケで、僕のワガママによって他のメンバーをサポートに回し、今回は僕がメインを張るという超絶舐めプで行くことに。でも全員出したら、一瞬で殲滅しちゃうし。
僕らがここに陣取るにあたって、やっぱりゴーマは邪魔だった。掃除がいるかと巣を探ってみたものの、近場で何か所か潰しただけで、どうにも本拠地は見当たらない。狩りに出る成人ゴーマ共ばかりで、女子供がいなかったからね。巣というより、ただの拠点に過ぎない。
この火山神殿エリアでは、僕が妖精広場を再起動させられたように、しっかりと遺跡の機能は生きている。遺跡はちょっとした町くらいの大きさで、山間部に渡って広がっており、各所に通じる転移魔法陣なんかも結構あるのだ。この場所に住んでいる奴らは、ランダム系を除いた固定の転移を利用して遺跡中を移動しており、流石に僕も片手間で奴らの集落を探るまでは出来なかった。鳥や虫の使い魔は便利だけど、それ単体で転移を飛ばせないんだよね……
でも、分身なら転移できる。真っ直ぐ本拠地へ戻るゴーマさえ補足できれば、分身で後をつければいい。
「ほらね、ちゃんと全員生け捕りにしてるでしょ?」
「凄ぇな桃川、やっぱゴーマのことなら何でも知ってるな」
「そりゃあ僕、ゴーマの王様とはマブだしね!」
僕らが現場へ到着した時には、すでに戦いは終わっていた。
パっと見で如何にも新人らしい、中古の定番装備で固めた中高生の集団みたいなパーティだ。ゴーマ部隊の包囲を受け、成すすべなく生け捕りにされている真っ最中である。
そんな状況を見て今すぐ飛び出して助けに、と行きそうだった山田を僕が止めた。
まぁ、見てなよ。アイツら生け捕りにした人間を絶対にボスのところに連れて行くから、と。
そう思ったのは、ゴーヴ戦士の装備がある程度統一されているから。
第三階層のモンスター素材を利用した甲殻の鎧兜は、如何にもゴーマ装備らしいが……統一された装備品は、生産体制が整っていることの証。そして装備の生産体制を整えるだけの統治能力を持つのは、小さな村一つを治める程度の器じゃない。
それなりのボスになると、獲物や収穫の献上制度も強固なものとなる。末端のゴーマが運良く人間を仕留められれば我慢できずにその場で食い散らかすだろうけど、戦士階級のゴーヴが率いるならば、必ず生け捕りでボスへの献上を優先する。
それに最初から、一人くらい食ってもええやろ、バレへんバレへん、の精神であれば、僕らが到着した時点では手遅れだったワケで。
「だから、このまま奴らが獲物を運ぶのを追跡すれば――――」
「おい、まずいぞ桃川。一人暴れ出した」
あちゃー、余計な真似をしてくれる。
拘束が緩かったか、それとも死力を振り絞った結果か。パーティリーダーらしき剣士の少女が、腕の縄を振り切って暴れ出してしまった。
直後に、ゴーヴ戦士の角付き隊長に腕を食われてあっけなく鎮圧されたけど。
そのまま黙っていれば、傷一つなく奴らの本拠地まで無事に運ばれるだけだったのに。全く以て、後先考えない、典型的な無駄な抵抗である。
「しょうがない、もう行くよ」
「おい桃川、なんか目が怖いぞ」
「久しぶりに見たからね、ゴーマが人喰うとこ」
ゴーマ死すべき、慈悲はない。僕が初めてゴーマとエンカウントした時、奴らはクラスメイトの女子を貪り喰っていた。嫌な光景だ。まだダンジョンに慣れていない初心な頃で、今でも鮮烈に脳裏に焼き付いている。
嫌なことを思い出させやがって。今更、初心なんか思い返さなくたって、僕のゴーマに対する殺意に微塵も揺らぎなどないというのに。
そんな実に嫌な気分だったせいか。最初は、自分の目が怒りで曇っているのかと思ってしまった。
だって、ゴーマに捕まってる奴らの内の一人、ヒーラーと思しき少女が……どうにも小鳥遊に似ているように見えたのだ。
「うわっ、近くで見ると、ホントに似てるなぁ」
最初は何かの間違い、勘違い、と自分に言い聞かせていたのだが、接近してはっきり肉眼で捉えてしまうと、もう自分を騙すのは無理だった。
その幼く可愛らしい顔立ちに、絵に描いたような可哀想な泣き顔。
この手で完膚なきまで呪い殺してやったと言うのに、そのよく似た面を見た瞬間に吐き気を催してしまいそうだった。
「青い小鳥遊かよ。2Pカラーかぁ?」
きっと他の奴なら、言うほど似ているか? と思う程度には違いが多くある。
まず髪の色も目の色も、彼女は青い。髪は海のような深い藍色で、瞳は澄んだ空色。ラプターの上から見下ろせば、顔だって小鳥遊そのものというより、西洋人ハーフみたいな感じだ。
そして決定的なのが、体つき。小鳥遊最大の強みであったロリ巨乳は、大多数の男は誘惑されるだろう、ほどよいサイズ感。けれど僕には通じない。
僕を誘惑する気なら、バストサイズ二倍にして来いよ、なんて思ったこともあったが――――ほんとにバスト二倍にしてくる奴があるかっ!
なんなんだコイツ、胸だけじゃなく全体的に小鳥遊の倍くらいでムチムチしやがって。僕の部屋に残してきたPCに眠る厳選されたエロ同人を参考にして、小鳥遊がキャラメイクし直して転生してきた、みたいな出来栄え。次こそお前を誘惑してやるぞ、という強い意志を勝手に錯覚してしまうが、
「なっ、何してるですかっ!? 早く逃げるのですぅーっ!!」
青い小鳥遊から放たれた、決死の叫び声で僕は半分飛びかけていた意識が戻って来る。
コイツは今、逃げろと言ったのか? 僕に向かって、逃げろと。
ありえない。それは、決して小鳥遊小鳥という女から、出て来る台詞じゃない。
こういう時にお前が言う言葉は、「助けて」意外ありえないだろうが。
「早くぅーっ! ラプターに乗ってるなら、まだ逃げ切れるですからぁ!」
健気な台詞でこちらの良心を煽る気か、とも思うが……いいや、小鳥遊は狡猾な猫かぶりクソ女だが、その手は使わない。
本当に自分がピンチに陥った時、目の前に助けてくれそうな相手が現れたなら、奴が選ぶ行動は自分を最大限に可愛く哀れに見せること。
だってアイツは自分の美貌を信じているから。相手の良心に訴える効果よりも、自分の可愛らしさによって、助けたい、助けなければ、と思わせる効果を絶対に選ぶ。
だからお前は言うはずだ。精一杯に泣き叫んで、「助けてぇ!」と。
「ああ、馬鹿だな……小鳥遊は死んだ。もういない」
僕がこの手で呪い殺した。奴の魂は輪廻転生すら許さず、『小鳥箱』に封じてある。今はそれもリリスに没収されちゃったけど――――僕の前に再び、あの女が現れることはない。
だから、気にするなよ。ただちょっと似てるだけの他人が現れたことで、動揺なんてする必要はない。
この少女は、ただの現地の冒険者で、そしてきっと、お人よしだ。
その小鳥遊に似たカワイイ面と、僕の性癖にも届きうる肉増しした体があれば、大概の男など誑かせるはずなのに、彼女は「助けて」ではなく「逃げて」と言った。
ならば、恨むのは筋違いだ。正しき恨みにこそ、呪いは宿る。
僕は恨む相手を間違えない。
「我が名は桃川小太郎。偉大なる真の女神ルインヒルデ様に仕える敬虔な信者。悪しきゴーマ共よ、女神より授かりし我が呪術によって、消え去るがいい――――」
結局、僕のやることに変わりはない。
落ち着きを取り戻した僕は、適当な口上を上げながら、新しい獲物がのこのこ飛び込んで来やがったぜ、とニヤニヤしているゴーマ共に向かって、如何にもこれから魔法を撃ちますよ、という雰囲気とポージングを決めてやる。
出しなっ、テメーの詠唱潰しをよぉ……
「アアァーブラカタブラァー」
僕が高らかに呪文を叫べば、「うっひょーっ、今やっ!」なんて声が聞こえてきそうなウキウキ顔で、ゴーヴ戦士共が薄汚い小袋をぶん投げ来た。
チャバゴーマの戦士は、強い刺激で催涙効果のある粉末を、詠唱途中の魔術師に向かって投げつけ妨害する『詠唱潰し』という武器を使うと聞いていた。粉末はこの第三階層で採取できる植物由来のもので、アルビオンには無かったモノだ。だからゴーマ王国では使われていない。
チャバゴーマの固有武器とも言えるモノなので、一度は見て見たかった。そして、コイツを上手く防げるかどうかも試しておきたかったのだ。
「今、何かしたか?」
濛々と黄色く煙る視界の向こうから、僕のドヤ顔が奴らには見えていることだろう。
ゴーマ共は、まるで通じていない詠唱潰しに、チャバチャバと何やら騒いでいる様子。
全く、お前らの中には魔術師の一匹もいないのか?
散布された濃密な催涙粉末を防いだのは、何も特別なことはない。ただ風によって押し流されているだけ。
「よしよし、これなら火山ガスのブレスも防げるな」
バジリスクほどではないが、毒ガス系のブレスを放つモンスターは多い。火山神殿エリアでは、正しく火山ガスそのものを吐く奴らもいるし、純粋に地形として火山ガスが充満していたり、いきなり噴出してくることもある。
そんな時に効果を発揮するのが、『象牙の塔』謹製の冷却結界だ。
コイツは冷風で体を冷やす冷却効果と合わせて、冷風が体の周囲に渦巻き、外気を弾くような気流を形成している。つまり氷と風、二つの属性を組み合わせた、地味に高度な魔道具だ。
そして体を守る冷気の気流は、有毒な気体を全て弾いてくれる。少なくとも、ゴーヴがぶん投げた花粉袋くらいの勢いでは、突破できない風圧だ。
「ンジャバァ! ヂョッグンドギィッ!!」
「検証は済んだから、もうお前ら死んでいいよ」
それなら直接ぶっ殺してやらぁ! 的なニュアンスの台詞を叫びながら、角兜の隊長が勢い込んで剣を振り上げる。
でも今更攻撃に移っても遅い。仕込みはすでに済んでいる。
お前らの最善手は、僕の姿を見た瞬間に全員捨て身で特攻することだ。本当に僕が一人だけだったら、ラッキーヒットが届く可能性くらいは存在するだろうからね。
「桃川飛刀流奥義――――『乱舞・八岐大蛇』」
ゴーヴの首が八つ、一斉にポーンと飛んで行った。
固い鱗も甲殻もない、人間と同程度の柔らかさの肉体に過ぎないゴーマ共を切り裂くのに、神鉄なんて最上級素材は必要ない。ただの鋼線で十分だ。
僕がクーラーの風圧防御力の検証をしている最中に、すでに『銀髪断ち』を地面に這わせておいた。鋼の銀髪は蜘蛛の巣のように広がっており、ゴーマの群れは全員そこに捕らわれている。
奴らが少しでも想定外の動きを見せる、例えば捕らえた冒険者を人質にしようとしたりした瞬間、銀髪が首でも手足でも切り飛ばせるだけの構えを僕はしていた。
「やっぱり柔らかい相手にコレを使うと楽しいね」
「ブゥゲラァ……ズジャーバァアアアアアアッ!」
「お前に僕は喰えないよ。そうして叫んでいられるのも、僕が生かしているだけなんだから」
まずは人質になり得る囚われの冒険者の周囲にいる奴らの首を飛ばし、次いで中核戦力であるゴーヴ戦士を斬る。
けれど、角兜の隊長だけは、剣を握った右腕を斬り飛ばすだけに留めておいた。
流石は戦士階級と言ったところか。片腕を失っても、痛みに狂うことなく、激しい憎悪と憤怒に満ちた目で、僕を睨みつけて「食い殺してやる!」と叫んでいた。
「よくも僕の前で人を喰ってくれたな。少しは苦しんでから死んでよ」
左手を掲げながら、弦をかき鳴らすように指先から伸びる銀髪を撫でる。
微かな振動を感知して、怒りに叫ぶ隊長に絡みついていた銀髪がその瞬間に鋭利な切断力を発揮。
「チャバァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」
両方の足首と残った左手の手首が同時に飛んだ。
足首から支えを失った隊長はドっと仰向けに転がり、とうとう怒りよりも痛みが勝って、苦痛の絶叫が上げる。そうそう、その調子で苦しみもがいてくれ。
「よーし、お前らは逃げていいぞー」
隊長を手足の先から微塵切りにして苦しめつつ、無駄に数だけ揃っているゴーマ共を次々と間引いていく。すでにゴーヴ戦士は隊長を残して首が飛び、残っているのは有象無象の雑魚ゴーマだけ。
瞬く間に戦士を失った奴らは、それでも宿敵たる人間を前に闘争心を燃やす者と、どうしようもない劣勢に戦意が折れて一目散に逃げ出す者とに別れた。
その中で、僕は最初に逃げ出していった小さな集団を、わざと見逃した。コイツらは間違いなく、その足で本拠地まで逃げ帰ってくれる。尾行用に分身を用意しておいたから、ソイツらを分身に追わせれば、まぁ当初の目的は果たせるだろう。
「残った奴らは全員死ね」
全方位に張り巡らされた殺意の網にかかって、ただのゴーマ共は成す術なく切り刻まれた。
そうして自分の部隊が綺麗に全滅したのを見届けさせてから、隊長にトドメを刺す。
「ンジャッ、ジャアク……ニンゲン、ガァ……」
「安心してよ、他のお仲間もすぐ地獄へ送ってあげるから。女子供も、一匹残らずね」
キリキリと張り詰めた銀髪をピンと指で弾けば、醜いゴーヴの面が綺麗に四つに断たれた。
さて、これでお掃除完了。いよいよ、青い小鳥遊とご対面だ。
「ふわぁ……た、助かったのですぅ……」
ゴーマの死体が散乱する中で、深く息を吐いている。流石に職業冒険者やってる以上、モンスターの死体が転がることに嫌悪感はないようだ。
「あ、あの!」
「助けが必要かい?」
意を決したような顔で、ラプターに跨る僕へと声をかけてくる。対して、僕は努めて微笑みの仮面を被って応答。
「ゴーマを倒してくれて、ありがとございます……でも、仲間が酷い傷を負って……」
「君はヒーラーだろ? 自分で治せばいいじゃないか」
嫌味でも皮肉でもないよ。典型的な法衣を纏ったヒーラーの姿をしている以上、こう言われるのは当然のことだ。
見たところ、一番の重傷は腕を喰われた剣士の少女。他の仲間は欠損こそないものの、かなりボコられたようで、至る所に強い打撲と、創傷が刻まれている。穂先で突かれたような刺し傷もあるし、まだ生きてはいるが、放っておけばその内に死ぬだろうというほどには怪我を負っている。
けれど欠損や臓器への致命的な損傷は見受けられない以上、普通の治癒術士なら十分に一命を取り留めることが出来る範囲だ。何なら、こういう事態を見越した時のポーションを使ってもいいだろう。
つまり一般的な冒険者パーティならば、この状況下になればこれ以上の助けを求める必要性はないはずなのだが……
「う、うぅ……ハピナは、あんまり治癒が得意じゃないのですぅ……」
「はぁ? じゃあお前は何が出来るんだよ」
ヒーラーから治癒得意じゃない、とかとんでもない答えが返って来たせいで、思わず素でマジレスしちゃったじゃん。これも小鳥遊の陰謀か?
「ハピナは強化が凄いのです! だからみんなも、良いところを伸ばした方がいいって、言ってくれたのですぅ!」
「それで仲間全滅して回復できなくなってんじゃん」
「あぅ、う……ううぅ、わぁ……」
なに泣いとんねん。お前いつもソレだよな。やはりコイツも小鳥遊か……
いや落ち着け、出会って5秒で泣き芸を披露されたとしても、この少女は小鳥遊小鳥じゃない。あくまで別人、他人の空似の異世界人なんだ。
「で、どうすんの?」
「みんなを助けて欲しいですぅ」
「ポーションは?」
「ポーション……高くて、まだ買えないです」
「第三階層まで潜ろうってのに、最低限の命綱も用意しないってどういうことだよ!?」
「ぴゃぁあああああ……」
正論でぶん殴られて益々泣いちゃった。おいおい、どうすんだよコレ。
「はぁ……助けてやってもいいけどさ」
「ホントですかっ!?」
泣き顔から一転、パっと花が咲いたような笑顔を向ける。
やめろ、その純真な眼差しを。ぶん殴りたくなるだろうが。都合のいい時だけそういう面をしやがってよぉ。
「ポーションも買えない底辺冒険者の君に、どれだけの対価が払えるかな?」




