第414話 ノースレイブ・ノーライフ(1)
「それでは皆、仕事に戻りましょう」
リザが手を鳴らして解散を促すと、いまだ新参奴隷の呪い騒ぎによる困惑は見られるものの、それぞれ動き始めた。
奴隷に休みなどない。休憩という概念はなく、食事も与えらえれたモノをその場で済ませるだけ。とれる休息は睡眠だけだ。
黒髪の御子、モモカの手を引いてリザも彼らの後を追った。
眼前に広がるのは、雄大なエレメンタル山脈を背景にしたコーヒー畑。人の背丈を大きく超えたコーヒーノキが整然と列を成している。
その中を褐色肌のディアナ人奴隷が忙しなく行き来するのが、この農園での日常風景だ。
元々、コーヒーは熱帯の地方で生産される作物であり、アストリアの気候下では適していないと考えられ、持ち込まれることはなかった。
しかし、アストリア領がこのエレメンタル山脈の麓にまで届いた時、周辺一帯に広く自生しているコーヒーノキが発見された。
そしてこれにいち早く目をつけたのが、若き日のウィンストンなのであった。
エレメンタルマウンテン、と名づけられるこの地のコーヒーは、味や風味については愛飲家が評するものであり、奴隷達にとって関りがあるのは、その栽培法だけである。
ただでさえ広い農地を奴隷の人力だけで営んでいるのだ。朝から晩までやるべき仕事は尽きないが……ここで最も過酷な作業は、収穫だ。
「ぐわぁーっ!?」
「リザぁ! は、早く来てくれぇ!」
「もう抑えきれねぇぞ!?」
庭園迷宮のようにコーヒーノキの緑が壁となってそそり立つ畑の中から、切羽詰まった男達の声が響き渡る。
その悲鳴のような呼び声に、リザは小さく溜息を吐きながら、傍に控えていた二人の少年と少女の前にモモカを立たせた。
「この方は御子様ですが、ここでは同じ奴隷であることに変わりはありません。何事もなく過ごせるよう、同じ仕事をしていただきます。今日のところは、まず枝拾いからで」
「はい」
「分かったよ、リザ姉」
この中では一番モモカと歳が近い最年少の二人に任せて、リザは駆け出した。
「えっと……モモカちゃん?」
「御子とかよく分かんねぇけど、とりあえず行くぞ」
「あーい」
そうして二人に手を引かれて、モモカもコーヒー畑へと入った。
多くの者は赤く完熟した実を採取しているが、最年少三人組となった一行は怒号の響いてくる奥を目指して突き進む。
「おい、気ぃつけろよ」
「伏せてた方がいいよ」
いよいよ騒ぎが近づいてきた頃になると、少年少女の言い分を理解しているかどうかは分からないが、とりあえずモモカは一緒に頭を下げた中腰となる。
そのまま這うようにして進んでいけば、
「おおー」
リザの鋭い蹴足が、鞭のように振り回される蔦を、鉈で斬り払ったかのように切断する姿があった。
切り飛ばされた蔦はウネウネとワームのように激しくのたうち回るが、ほどなくすると力なく地面へと横たわり、ただの植物のように動かなくなった。
「リザ姉が切ってくれるから、俺らがソレを拾うんだ」
「実がついてるのが一番大事だけど、他のもちゃんと拾っておかないと、怒られるから」
「ふぅん」
この地に原生していたコーヒーノキは、ただの植物ではない。トレント系統の植物型モンスターであった。
幸いなのは、さほど積極的に人を襲う凶暴性は低いこと。しかし、手を出さないワケではない。
野太い幹のような本体を持つコーヒートレントは、周囲の人の数が増えたり、ある程度実を取ると、防衛本能が働くのか、無数の蔦を触手のように操って排除にかかる。
重い蔦の束のフルスイングが直撃すれば、最悪そのまま死ぬ程のダメージを負う。あるいは、首に絡まり窒息死することも。
即死は免れたとしても、奴隷は負傷するだけでも死活問題だ。購入金額と治療額を天秤にかけられ、割に合わなければ放置されるだけ。生きていようが死んでいようが、誰に省みられることもない。
一日中、重い重労働を課せられるだけでも心と体を擦り減らされるが、その上さらにコーヒートレント相手に命がけの収穫作業も強制される。
このニューホープ農園が他の農園よりも数多くの奴隷を要するのは、奴隷の消費そのものも多いからだった。
折角買った奴隷を使い潰してでも、コーヒートレントからの直接採取を続けるには、そうするに足るだけの利益があるから。
本体から離れた末端部は、畑として管理できるほどコントロールが利くし、繁殖力も強く年に複数回収穫できるほど作物として優れている。味もコーヒーとして申し分ない品質だが……危険なトレント本体付近から採取できる実は、その味わい深さは段違いの最高級品となる。
その味は、今やアストリア王宮やシグルーン大聖堂でも、嗜まれるに至っていた。農場主にして、エレメンタルマウンテン・ブランドのオーナーでもあるウィンストンにとっては、トレント直詰み豆は最大の目玉商品なのである。
よってリザ達が命がけで落としたトレントの蔦からとれる実は、一粒たりとも無駄には出来ない。
これを全て拾い集めるのが、まだ子供と呼ぶ年齢の小さな奴隷達の一番の仕事であった。
「まっ、こんなもんだろ」
「モモカちゃん、取れた?」
「もぉーん」
両手いっぱいに収穫物を抱えたモモカを見て、十分な働きだと二人は思う。
自分達が初めてここで仕事した時は、荒れ狂うトレントを前に、あまりの恐怖に涙したほど。震えて動かなくなるのが、ここでの子供奴隷の通過儀礼のようなものであった。
だがしかし、モモカに恐れの色は全く無い。河原でお気に入りの石ころでも探し集めるかのように、好き勝手に歩き回っては蔦を拾っていた。その頭上で、一発で頭が吹き飛びそうな勢いで薙いでゆく蔦の鞭が飛び交っていても。
無論、それが類まれな度胸によるものではなく、モモカの認識能力の低さにあるとは、子供心でも理解できて、二人の胸中は驚きと憐れみが入り混じる複雑なものになってしまった。
「そろそろ飯にしようぜ」
「そうだね」
枝拾い、を終えればもう夕食が始まる時間となっていた。
蔦を抱えて畑を行ったり来たりしている内に、そこかしこで木椀をすする奴隷達の姿が見かけられる。
その大多数が立ったままズルズルとかき込むと、配給係の奴隷に椀を返して、すぐに作業を再開する。
中にはコーヒーノキの緑に隠れるように座り込んでは、虚ろな目で空になった器を覗き込んでいる者も見かける。そういった者が鞭を片手にウロつく監督役に見つかれば、罵倒と共に容赦なく叩かれていた。
「うぇー」
「おい、不味くてもちゃんと食えよ。コレしかねーんだからな」
「えっと、お水はあるから……」
炊事場の近くで配給を受け取り、夕食を始めれば、モモカは一口目であからさまに渋い顔を浮かべていた。
家畜用の安い穀物を粥にしたものが、奴隷に許された食事の全てである。栄養学の欠片もない、無味乾燥な腹を膨らませるためだけの食事。
元々、貧しい生活をしていた奴隷達だって、もう少しマシなものを食べていたのだ。まして身なりの良いモモカが、この畜生扱いの粥が口に合うはずもない。
それでも食わねば、そもそも明日すら生きられないのだ。
そのことは分かっているのか、モモカは粥を口に含んでは、少女がくれた水で流し込むようにして食べ終えていた。
「今日は水浴び出来んだっけ?」
「私達はまだだけど……モモカはリザ姉が連れて行くんじゃないかな」
豊かな水源を誇るエレメンタル山脈の恵みによって、水だけは奴隷でも好きに飲めるのは唯一、恵まれていると言える点である。
また過去に発生した疫病から、アストリアにはそれなりの衛生観念も広まっていた。お陰で、奴隷にも最低限の公衆衛生として、定期的な水浴びは許されている。
「二人とも、お疲れ様です。何事もなかったようで、安心しました」
「お帰り、リザ姉」
「リザ姉、コイツすげーよ、トレントに全然ビビらなかったし」
「そうですか。御子様、御無事でなによりでございます」
「うぃー」
トレントとの戦いを終えたリザは少々の土汚れだが、自分のことよりも傷一つなく無邪気に笑っているモモカの姿に、かすかに顔を綻ばせていた。
「では、水浴びは私が」
そこで少年少女と別れ、リザは再びモモカの手を引いて、水浴び場へと向かった。
そこは勿論、浴場などという上等な施設ではなく、ただ水路から汲んだ水を大きな桶に溜め込んであるだけの場所だ。
最低限、男女で場所を離しているだけで、壁や衝立で囲われているワケでもない。そこらでまばらに生えるだけの樹木が、視線を遮る唯一の物だった。
そんな水浴び場の木陰で、リザは恥ずかしげもなく衣服を脱ぎ去る。
かつてよりも筋肉が落ちて一回り以上は細くなってしまった体は、女性的な羞恥心は無いが、戦士としては恥ずべきものだと、今でも見る度に思ってしまう。
精霊戦士としての素質によって、徒手空拳でトレント相手に十分戦えるだけの力と肉体を維持できているが、それもいつまでもつか分かったものではない。この劣悪な環境では、如何に優れた戦士であっても、力の衰えは避けられないだろう。
「手を上げてください」
「ばんじゃーい」
けれど、今は少しだけ希望が持てそうんだ。
謎の掛け声をあげて両手をあげたモモカ。自分達よりも質の悪い麻袋のような服の裾を掴んで脱がせてみれば、露わになったのは、白く輝くような裸体。
最後に残った一枚である下着を脱がせると、滅多に表情を変えないリザは、目を見開いた。
「男の子、だったのですね……」
◇◇◇
「まさか、本当に呪われた忌み子だったとは」
現場からの報告によって、参ったとばかりに葉巻の煙をウィンストンは吐き出した。
「おいマルコム、お前はそれを見たのか?」
「ええ、監督達が集まっているところを、遠目からですが」
マルコムは線の細い、丸眼鏡をかけた、如何にも頼りなさそうな風貌の男だが、シグルーンの学院出のインテリである。
その明晰な頭脳は農場経営においても遺憾なく発揮されており、まだ三十代前半ながらも、ウィンストンの右腕と言っても良い立場だ。
そんな彼は、例の奴隷が入って早々、起こした騒動を報告しているのだった。
「んで、どうなんだ?」
「ええー、そのぉ、診断によれば背骨に大きくヒビが入っているようで、しばらくは起きることもできず、後遺症も」
「迂闊な馬鹿のことなどどうでもいいわ! モモカ、だったか? その呪われたガキはどういう仕事ぶりだった」
「あっ、はい……」
呪いによって負傷したのが、ただの下っ端で良かった。もしもこれで自分や家族、あるいは高い金を払って雇い入れている幹部や警備であれば、堪ったものではない。
ディアナ人を筆頭に、多数の奴隷を抱えるニューホープ農園では、反乱対策として玄人の警備を雇っている。実際に東部戦線でディアナ戦士と戦ったことのある、実戦経験豊富な元兵士達であり、隊長はなんと『天職』まで授かっている。
お陰様で、これまで幾度かあった暴動じみた騒ぎも、速やかに鎮圧されており、ウィンストンは農園の警備には自信を持っていた。彼らがいれば、たとえちょっとしたモンスターの群れや武装したギャングが襲い掛かって来ても返り討ちにできるだろう。
「枝拾いか。まぁ、妥当だな」
ひとまずマルコムからの報告を聞き、何とも言えない表情で考える。
呪い騒ぎさえ無ければ、ただ新しい子供奴隷が一人、増えたという程度。特にこれといっておかしな動きは見られなかった。
それを幸いととるか、不気味ととるか。
「なら、予定通り放っておけ。下手に鞭を打ったらどうなるか、確かめたくはあるまい?」
「勿論ですよ」
ちょっと蹴とばしただけで、後遺症が残るレベルで背中が粉砕されたのだ。激痛を与えることを目的とした鞭など振るえば、一体どれほどの苦痛となって我が身に跳ね返って来るか。現場を直接見ていただけに、マルコムは身震いする。
「勝手に野垂れ死んでくれれば安心だが」
「それは難しいかもしれませんよ。呪いの力を見たせいか、奴隷達はあの子供を御子だとか言って、ありがたがってるそうで」
「ちっ、余計な噂が広まったか……」
奴隷風情にいらぬ情報が拡散したのも癪だが、ロクに働きもせずに噂を広めるお喋りに興じていることが一番腹立たしい。
もっと厳しい引き締めが必要か、などと思いながら吸い殻を灰皿へと落とす。
「あの、御子ってのは何なんですか?」
「なんだ、知らんのか。そういえばお前は、この辺の出身じゃなかったな。いいか、奴らの言う御子ってのはなぁ――――」
「――――ウィンストン会長、御子がどうしたってんですかい?」
したり顔で講釈を垂れようとした矢先、ノックと共に入室してきた男が、そう口を挟んできた。
「おお、デイリック、帰ったか」
「ええ、大した成果はありませんでしたがね」
ウィンストンは男の登場に笑みを浮かべながら、ちょうど手にしていた葉巻を進めた。
男は礼を言いながら、ありがたく葉巻を受け取って、美味そうに紫煙をくゆらせる。
「お疲れ様です、デイリック隊長」
「おう。なぁーんか、妙に浮足立ってる感じがするんですが、御子に何か関係が?」
「うむ、ちょうどその話をしておったところなのよ」
金髪碧眼、上背もあり鍛えられた体格を誇る、男盛りの年齢。精悍な顔つきに、身に着けるのは革のベストとカウボーイハット、そして使い込まれた軽鎧だ。
長銃身のブラスターを肩に、腰にはリボルバーと大振りのサバイバルナイフをぶら下げている。
その出で立ちは典型的なアストリア辺境で活動する傭兵のものだった。
デイリックはディアナ人との小競り合いを繰り返していた南東部の前線から帰った後、その経歴からウィンストンに声をかけられ、農場警備を専属で請け負った。
共に前線で戦った部下を含めて、丸ごと好待遇で雇ってくれたウィンストンに、デイリックはしっかりと給料分の仕事を果たし、二人の関係は良好である。
そして何より、多くのディアナ戦士を撃ち殺し、奴隷を捕らえてきた実力はこの農場では何よりも評価され、奴隷達には恐れられていた。
「実はなデイリック、プリングルトの奴に厄介なのを掴まされてしまって――――」
そして今日の経緯を、隠すことなくデイリックへと打ち明けた。
いつも余裕ぶった笑みを浮かべる伊達男といったデイリックだが、件の呪いが発生したくだりを聞くと、視線を鋭くさせた。
「なるほどぉ、確かにソイツは少々、厄介かもしれませんねー」
じっくり味わうように葉巻を吸いながら、そんな感想をデイリックは漏らした。
「やはり、そう思うか?」
「喰らったダメージを倍増させて返すなんて、凶悪な呪いは聞いたことがないですよ。もしそんな能力をディッキー共が持ってやがったら、俺はとっくに死んでます」
ディッキーと、アストリア兵の間に伝わるディアナ人の蔑称を忌々し気に口にしながら、デイリックは下手に手出しができない嫌な能力に表情を歪ませる。
「だがあのガキは、明らかに頭のイカれとる障害児だ。自ら何かが出来るとは思えんが」
「けど力は本物。自我を失っているなら、かえって奴らにとっちゃあ担ぎやすいかもしれませんぜ。なにせ御子ってのは、ディッキー共にとっての旗印ですからねぇ」
アストリアでも若くして強力な加護を授かった者を御子、と呼ぶ風習はあるが、ディアナにおいてはもっと特別な意味を持つ。
ディアナ精霊同盟において御子は、明らかな支配階級であり、戦場においては兵を率いる将となる。
中でも『精霊戦士』は非常に強力な精鋭兵で、アストリアが一息にディアナ領を制圧しきれない要因でもある。
その精霊戦士が絶大な力を振るえるのは、御子の働きがあってこそ、らしい。
逆に御子がいなくなれば、精霊戦士もただの戦士となり、戦力は半減以下だ。
「ソイツは、ディアナ人じゃあないんですよね?」
「ああ、それは間違いない。黒髪黒目の白い肌をしてる。異邦人のお坊ちゃんといった見た目だ」
「なるほど、そりゃあ……そこにいる奴みたいな感じで?」
「なっ!?」
デイリックが指さした先には、扉を半開きにこっそりと顔を半分覗かせている、噂の呪い子、モモカがそこにいた。
「なんでそのガキがここにいるぅ!?」
「ひいっ!?」
当たり前のことだが、農園主であるウィンストンの執務室に奴隷が入り込めるはずがない。
ありえない光景を前にウィンストンも驚愕し、マルコムなどは新たな呪いの再来かと恐れおののき悲鳴を上げてしまった。
「ぇえーい、みてぅー?」
そんな男たちの驚き振りが楽しいのか、野良猫のように生意気な目つきで、嘲笑うような顔で声をあげながら、モモカは逃げて行った。
「なっ、なにしてる、さっさと捕まえろ!」
「へいへい」
ちょっと自分が遠出している間に、屋敷の警備もザルになっているのかとデイリックは思いながら、命令通りに追いかけ始めた。
足の速さは大人と子供、さらに言えばデイリックの天職『盗賊』は速度に大きな恩恵がある。本気を出せば次の瞬間には捕らえることは出来るが、この御子と呼ばれる子供がどう動くのか、少し泳がせてみることにした。
「おーい、待て待てー」
「キャハハー」
チョロチョロと廊下を駆け抜けていくモモカの小さな背中を、そういえば昔ここで息子と追いかけっこしたな、なんて思い出を過らせながら追いかけた。
ほどなくすると、モモカは空き室の一つへと飛び込んでいった。バタン、とドアを閉めるが、ここに鍵はない。
ただ閉められただけのドアの前で、かくれんぼでもしてやる気持ちで少し待ってから、デイリックは踏み込んだ。
「へぇ、上手く隠れたじゃねぇか」
そこは小さな客室だ。一目で室内の全てが見渡せるが、モモカの姿はどこにもなく、荒れた様子もない。
ここで隠れられる場所といえば、いくら小さな子供とはいえ、ベッドの下とクローゼットの中だけ。
窓は完全にはめ込まれており、開閉は不可能。無論、ガラスを叩き割って外に出た形跡はない。
「ここかぁー?」
焦らすように、デイリックがベッドの下を覗き込めば、ただの隙間が広がるばかり。
外れ。
ならば正解は、もう一つ。追い詰められた子供が選びそうな場所だ。
「それなら、ここかぁ!」
バァン、と音を立ててクローゼットを開け放った中には――――ただの虚空があるだけだった。
「は……?」
いない。確かにこの目で見た。この部屋に駆け込んでいくところを。
見落としている。騙されている。いいや、ありえない。この『盗賊』の目を欺くことなど、ありえないのだ。
そう自分に言い聞かせるように、スキルの一つである『気配察知』を全開で行使した。
「い、いねぇ……どこにも、気配が……」
それから散々、屋敷中を探し回った後、デイリックがモモカを発見したのは、奴隷小屋でリザの胸に抱かれてスヤスヤ眠る姿であった。




