第409話 女勇者(2)
「リリス・ゴッドランド・アストリアが誓う。狂戦士と正々堂々の決闘を――――『黒の聖櫃』」
刹那、巨大な光の柱が降り注ぎ、メイちゃんとリリスの二人を飲み込んだ。
それは上級を超えた光属性の攻撃魔法みたいだが、大爆発が巻き起こることもなく、不思議と殺人的な熱波も感じない。
この感覚はどちらかというと、『聖天結界』に近い。つまり、これは攻撃ではなく、空間を隔離するための結界か。
「なんだこれ、どうなってんだ……?」
とりあえず新たな分身とスケルトンを出して、突撃させる。
煌々と輝いている巨大な光の柱へ入れば、すぐに反対側へと突き抜けてしまった。分身の僕もスケルトンも、何度やっても同じ。
勿論、光の中にはメイちゃんもリリスも存在していない。
どうやら光に包まれた二人だけ、別な場所へ転移してしまった、と考えた方が良さそうだ。
「逃げるべきか」
いや、これだけ仰々しく光の柱が残っていることから、すぐにでも戻って来るだろう。
正々堂々の決闘、と言っていた。メイちゃんとサシでやり合って、すぐに片づける自信があるに違いない。
恐らく、メイちゃんは勝てない。けれど、僕を逃がすために死に物狂いで時間稼ぎをしているに違いない。
「くそっ、やるだけやるしかないね……」
ここで一目散に逃げられるほど、まだ僕は自分の感情を割り切れない。半端な決断かもしれないが、この時間で出来る限りの対策を打つ。
まずは再巨人化の準備。
それから、また瞬殺されるかもしれないが、召喚獣を出して頭数は増やしておく。
あの「光よ在れ」を少しでも相殺できるかもしれないから、煙幕もありったけ投げ込めるようにしておくか。
そうして経過した時間は、30秒か1分か。
長く、けれど短い、時は過ぎ去る。
「お待たせいたしました」
溶けるように光の柱が消え去って行くと、そこには再び静かに佇むリリスと、
「メイちゃん……」
白く輝く帯に全身が巻きつかれて拘束された、メイちゃんが転がっていた。
縛られて倒れた地面には、ドクドクと鮮血が流れ、相当な出血を強いられていることが分かる。更なる強化に強化を重ねた制服だってボロボロだ。
けれど、生きてはいる。
荒い呼吸をしながら、それでもかすかに身じろぎをして、拘束を脱しようともがいている……でも、それだけ。今の彼女に出来ることは、もうそんなことしか残されていなかった。
「小太郎様、貴方まで余計に傷つく必要はありません。さぁ、大人しく、私に捕まってくれませんか」
「僕を見てきたんだろ。なら、ここで大人しく諦めると思う?」
「うふふ、それではこのリリス、『勇者』としてお相手いたしましょう」
虚勢を張る僕を、子猫が威嚇するのを見るかのような笑みを浮かべて、リリスは聖剣を向けた。
メイちゃんを倒しておきながら、この女、傷どころか汚れ一つもついちゃいない。ご自慢の勇者スキルで完封したって感じだな。
流石に『狂戦士』を生け捕りするなんて舐めプをするだけある。
ならば尚のこと、貧弱な『呪術師』一人を相手にするなら、舐め腐った片手間でやるような気分だろう。
だが、それでいい。リリスは僕を生け捕りにするつもりで、殺す気はない、と分かっていれば僕も思い切って仕掛けられるというものだ。
ズタボロになって転がるメイちゃんは今すぐ治療してあげたいが、手出しはできない。傷だらけではあるものの、致命傷と言えるほどの深手は追っていない。あのくらいの傷なら、狂戦士としての自然治癒だけで一晩眠れば綺麗さっぱり消え去るくらいだ。
どの道、僕の力じゃあの拘束を解くことも出来なさそうだけど。
彼女を拘束している光の帯は、一度だけ見たことがある。
勇者の第三固有スキル『白の秘石』だ。
あれを覚醒させた蒼真悠斗は、荒れ狂うダークリライトを一発で封じていた。リリスはこの固有スキルを使いこなしている。
正直、僕もこの『白の秘石』をけしかけられたら、対処できそうもない。
最強の道連れ呪術である『痛み返し』でも、拘束技が相手では全くの無力だしね。
対抗策が無い攻撃手段を相手が持っている時は、どうすればいいか。
そんなの、打たせない、に決まってる。
「攻めあるのみ! 僕の呪術の、全てをぶつけるっ!」
「はい、全てお受けいたしますよ」
気合の掛け声にマジレスすんなよ、舐めやがって!
だがその意気や良し、どうかそのまま舐めプでお願いしまぁす!!
「愛を燃やして創り出す。東へ西へ、心を砕き、身を削り。紅き純血、蒼い情愛、白い嫉妬。全て暗黒の炉に沈めて――――『黒魔女の煉獄炉』」
発動させるのは、進化を遂げた魔女窯こと、『黒魔女の煉獄炉』。
小鳥にトドメを刺し、『小鳥箱』へと変えてみせた、呪いの錬成能力を持つ。
攻略後に爛れた生活を振り切って改心した後は、コイツも使いこなせるよう色々と試したものだ。それでも、まだこの呪術の全てを扱いきれているとは言えないが、
「こっちの方が『腐り沼』より溶かすの早いんだよね」
恐るべきは、その分解能力。
『腐り沼』は強力な酸で溶かすのだが、『黒魔女の煉獄炉』は溶けるように『消える』のだ。
試しに生きたゴーマを放り込めば、瞬時に分解されて黒々とした混沌の水面に消え去る。肉片一つ、骨の一欠片さえ残らず、綺麗さっぱり。
それほどの分解能力を誇る漆黒の炉の口は、リリスが立つ場所を中心として、妖精像の噴水を全て囲う範囲で開かれた。
結構、練習したからね。『黒魔女の煉獄炉』を発動させるための円形魔法陣は、もう素早く描くことができる。
文字通りの走り書きで、半径5メートルほどの円形に連なる魔法陣を描き切り、しっかり『黒の血脈』で生き血も捧げている。
僕が詠唱を終えれば、派手な演出はなく、ただ描いた魔法陣の内側が黒々とした湖面のように映るだけ。
そしてリリスは、確かに『黒魔女の煉獄炉』の中に立っている。
まずは超高速で回避しなかったことに一安心。
しかし、ただ「避けられませんように!」とお祈りするには、まだ人事は尽くしていない。
僕が詠唱を始めた「愛を」の時点で、四方から同時攻撃も敢行している。
「桃川飛刀流奥義『白面の舞・九尾』 」
僕から見て右方から現れるのは、改造分身である白太郎。
オリハルコンワイヤーの編み込まれた『白銀神楽』の鞭を、獅子舞のように頭を振るって繰り出す。
実に九本もの鞭は、リリスの前後と頭上から、巻きつくような軌道で迫る。
小鳥遊とやり合った時は、『フォースエッジ』という古代の剣で斬り捨てられたから、今回は鞭のリーチを伸ばし、かなりの間合いをとっている。
無論、こんな小技如きが狂戦士を生け捕った勇者に通じるワケもないが、多少なりとも障害となればそれでいい。この際『聖天結界』でノーダメとかでも構わない。
一秒でも長く、この場に足止めできる効果があればそれで十分。
「『完全変態系』解放、『猛毒竜砲』」
攻撃として期待できるのは、こっちの方だ。
『無道一式』を持たせた改造分身・赤太郎は、バジリスクの頭から黒紫の猛毒ブレスをぶっ放した。
なにせ、今の僕はアルビオンのダンジョンマスターだからね。大体のエリアにはアクセスできる。当然、あのバジリスクをソロ討伐した独沼エリアにも。
何かと火力主義になりがちだった終盤だけど、毒は呪術師の基本的な攻撃手段だ。その中でも、僕のダンジョン経験において最強の猛毒だと思うのは、やっぱりバジリスクの吐き出す毒のブレスである。是非とも抑えておきたい一品。
当時とは比べ物にならないほど充実した対毒装備を身に纏い、僕は分身とレムだけでソロ討伐リベンジに挑み、見事に全身丸ごとバジリスク素材をゲットしてきた。
そんな努力と思い出の結晶が、この『猛毒竜砲』だ。
そのまんまバジリスクの猛毒ブレスをぶっ放すだけ。多少は呪印を刻んだり、他の毒を混ぜたりしているが、それによる強化度合いなど微々たるものだろう。
やはりバジリスクの毒そのものが、毒物として強すぎる。
そんな猛毒ブレスをリリスは濛々と浴びせかけられているワケだ。
濃い黒紫の毒煙に、その美しい白い姿が飲み込まれていくと――――そこでようやく、本命の一撃が「飛んで」来た。
「ぎーっ、ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
地上数十メートルの高さにて、再び姿を現す巨人。
漆黒の装甲を纏った巨躯は、小鳥遊をボディプレスで押し潰すことで、奴の切り札でもある『大守護天使』を使わせるに至った。
でも、本当はあそこで即死させられれば楽だったよね、とレムと反省会をした結果、上空での変身からの落下攻撃は、更なる進化を遂げた。
それは、蹴り。
巨人の全体重を、突き出した踵の一点へと集中させる、真下への垂直落下飛び蹴り。
ボディプレスと比べれば、著しく当たり判定は小さくなるが……その分、破壊力は凝縮される。
「行けぇっ! メガトンキィーック!!」
勇者ロボを応援する少年のような僕の声が響くと共に、超質量の巨人の飛び蹴りが、毒煙に包まれたリリスの頭上から炸裂する。
直撃。
間違いなく当たった。リリスは避けた形跡もなければ、ド派手な結界を張って守りもしていない。
やったか、とは言わないぞ。
これで殺せれば文句ナシだが、勇者の固有スキルは盾である『天の星盾』に鎧の『煌の霊装』と防御も万全。
それをどこまで破れるか、によって戦いの方針は変わるのだが、
「この身は清らかなれば」
立ち込める毒ブレスに、隕石が落ちてきたかのような巨人の蹴り。
途轍もない破壊力が荒れ狂う中でも、不思議とリリスの祈るような言葉が聞こえ、
「……は?」
リリスは、祈っていた。
盾を構えるでもなく、鎧で身を守るでもない。
その場で跪き、両手を握る、あまりにも無防備な祈りの姿を晒していた。
ただ、それだけのはずなのに――――
「やはり、貴方の呪いでも、まだ私に届くことはないのですね」
どこか残念そうに言いながら、リリスはゆっくりと立ち上がる。
そんな動作がハッキリと見えるということは、すでに視界が晴れているってことだ。
ふざけんなよ。どうなってんだコレ。
倒すどころか一切のダメージが入ってない。さらにはこれといった勇者スキルさえ、引き出せなかった。
最悪の状況を前に、僕はクソチート性能の理不尽さに叫びそうになるが、ただ震えて目の前の光景を、現実を受け入れるより他はない。
気が付けば黒紫の猛毒ブレスは無毒化したかのように、真っ白い蒸気へと変わって散って行く。
そんな朝靄の中を散歩でもするみたいな軽やかさで、リリスは一歩を踏み出した。
そして最大級の威力を誇るはずのメガトンキックもまた、今まさに虚しく消え去る最中にあった。
レムは狙い違わず、リリスを捉えていた。しかし漆黒の巨躯は、奴の頭上ですでに膝まで消し飛ばされている。
宙に固定されるように微動だにせず浮いている巨人の体は、全て元の魔力へと還されるように光の粒子と化し続けていた。ほどなく、巨大な肉体も分解され尽くして、綺麗さっぱり消え去るだろう。
「届かない、か……確かに、そういう感じだね」
毒ブレスも巨人レムも無力化。そしてついでのように白太郎まで消え去っている。
ありとあらゆる攻撃を全て無効化され、心が折れて勝負を投げたくなるね。まるでバグで無敵状態と化したボスに挑んでいる気分だ。
けれど、まだ一つだけ残っている呪術がある。
『黒魔女の煉獄炉』。これだけはいまだに効力を発揮し続け、浄化されるような消滅を免れている。
無論、『黒魔女の煉獄炉』の効果範囲内に堂々と居座っているリリスには、本来期待された分解能力は働いていない。というか、そこはしっかり無効化されていることは、目に見えて明らか。
だってリリスが立つ足元だけ、黒い水面は消えて元の地面がそのまま覗いているのだから。
一歩歩けば、足先の黒面が自然と割れていく。
進めば進んだ分だけ消えて、通り過ぎれば元に戻る。
つまり無効化はできているが、呪術の消滅までには及んでいない。消える気配もない。
そして僕にとっては、残っているのが『黒魔女の煉獄炉』というのが、希望の持てる唯一の要素だ。
なぜならば、この呪術は攻撃用ではなく、解析用だから。
完全無欠に思える『勇者』リリス。
その力の秘密を、今この瞬間はその内に捉えている『黒魔女の煉獄炉』が解き明かす――――だが、それもまた今すぐに攻略法を見出すには至らない。
「僕の呪いが本当に届かないかどうか、試してみるか、『勇者』?」
「はい、小太郎様のお望み通りに――――『光の聖剣』」
僕が挑発的な台詞と共に樋口のナイフをこれ見よがしに構えてみせれば、リリスは神聖な決闘にでも望むかのように大仰な動作で、再び聖剣をその手に顕現させた。
ああ、ちくしょう。本当に、考え得る限り最悪の展開になってしまった。
よりによって、『痛み返し』の自爆戦法に賭けなくちゃいけないとはね。
これだけはするまい、と戒めて準備を重ねてきたというのに、こんな蒼真悠斗越えのチート勇者がいきなり現れるんだから。
だがメイちゃんも倒れ、僕の呪術もことごとくが通じない。結局、追い詰められた『呪術師』に残される最後の手段がコレなのだ。
覚悟良し。『生命の雫』の準備良し。
それじゃあ、即死級の一撃を頼むぞ、リリス!
「はぁああああああああああああああああああああっ!」
ただ一振りの刃を携え、聖剣を手にした勇者へと突撃。
黒い水面を駆け抜け、僕はリリスの胸元へ飛び込み――――気づいた時には、もう斬られていた。
聖剣が描く光の軌跡が、袈裟懸けに僕の体を通り抜けていくのが確かに見えた。
「っ……ぁ……」
声が出ない。そして、体も動かない。
えっ、もしかして、これマジで死んでない……?
そう思うほど、一瞬にして体の感覚さえも失われてしまった。
現状できるフルカスタムした学ランも、ただの布切れみたいに何の防御効果も発揮してないようだ。ただの斬撃じゃないのか、まるで体の内側から発せられた衝撃波に弾き飛ばされたかのように爆ぜた。
千切れ飛ぶ衣服に、自分が文字通りの丸裸にされたことを察する。けどそんなことを気にするよりも、ポケットに忍ばせていた『生命の雫』が砕けることなく、目の前を通り過ぎて行ったことに目が向く。
まさか、発動していないのか!?
「貴方の命には、傷一つつけてはいませんよ」
リリスの声を聞き届けるまでの間、死を予感した僕の脳がオーバークロックしてくれたか、時の流れが極限まで遅くなってゆく。
そこで得られた時間は、本来なら記憶の走馬灯を見る本能的な防衛反応に割かれるのだろうが、それを僕は拒絶する。
なぜなら相手は未知の力を誇る『勇者』。僕が見てきた蒼真悠斗の力の、遥か先を行く『勇者』の先達だ。
だからどれだけ過去を振り返っても意味はない。求める答えは未来にしかない。
そのためには今、この瞬間も必死に考え続ける。勝つためのヒントを、情報を、一つでも多く拾い集めるために。
緩やかな時の中、僕の動体視力など超えて視覚を捉えたせいなのか、視界から色が失われていく。
白黒となった世界の中では、目の前を飛んで行く『生命の雫』も止まったようにハッキリ見えるし、千切れ飛んだ学ランの布切れ一つ一つも数えられそうなほどだ。
そしてそれは、無造作な一閃を繰り出したリリスの姿も。
なんでコイツも脱げてんだ――――ノイズのような感想に思考を乱される。
聖剣を振るって僕を切り捨てたリリスもまた、その身に纏う修道服が弾け飛んでいた。被っていたウィンプルも弾けた拍子に、美しい白銀の長髪が後光のように広がって煌めいている。
眼前に晒される彼女の裸体は、残念ながらモノクロ視界のせいで、僕の目には美術の資料集に乗っている女神の彫像のようにしか見えない。
純白の修道服よりも尚、白く輝いて見える裸体には神々しさすら感じる。
だが注目すべき点は二つ。僕が斬られた胴体と同じ箇所に、薄っすらとラインが光って浮かび上がっていること。全裸になっていても、目隠しだけはそのまま残っていること。
胴体のラインは、『痛み返し』が届いた証。無効化されず、十全に効果は発揮されている。
だからこそ、威力はその身に反射され、僕と同じく衣服が弾け飛ぶに至ったのか。
小鳥遊は最後の最後でエルシオンの化身を降臨させ、完全な魔力支配によって『痛み返し』を無効化したが、リリスはそれをしなかった。出来なかったのか、する必要もないのか。
出来たとしても、アレをやるとこっちもルインヒルデ様降臨にまで繋がるほど、世界の理に違反するってことなのだろうか。
どちらにせよ、リリスにとって僕の『痛み返し』は大袈裟な能力を解放せずとも、自らの一太刀だけで征するに足る、つまらない呪いに過ぎないということ。
叩き込んだ威力は、防具を吹っ飛ばしつつ、僕の意識を刈り取るのに必要な衝撃波だけ。斬撃として体に叩き込まれてから爆ぜたことを思うに、『破断』のような効果だろう。
それでいて物理的に僕の肉体を傷つけないよう、光の刃で体に干渉するだけに留めている。
その配慮に配慮が重ねられた繊細な一撃の結果がコレだ。衣服も装備も全て吹っ飛び素っ裸にされた上に、僕の意識は脳を揺らす振動によって、もう間もなくシャットダウンさせられる。
一方、リリスは同様に衣服こそ弾け飛ぶが、多少の衝撃波などには揺るぎもしない、勇者としての強靭極まる肉体を誇っている。
『痛み返し』はどれだけ強力な体であっても、僕が斬られれば同じだけその身を断つが、体そのものに傷が残らないような威力に関しては、肉体強度の差がモロに出る。
肉は裂かれず、骨も折れず。ただ全身を震わせる程度の衝撃波を受けるだけならば、勇者リリスは揺るぎもしないだろう。
ちくしょう、侮っていたのは僕の方かもしれない。
自信満々に現れた『勇者』を前に、さぞやチートなスキルをぶっ放すのだろうと思っていた――――けれど、恐るべきはその技量。
今なら分かる。「光よ在れ」も「この身は清らかなれば」も、固有スキルじゃない。『勇者』として持つ光属性の力を、自ら高め上げた極地にある個人技だと。
天職の力はどれも極めれば、これほどの高みにまで到達できるのだと教えられた気分である。
レベルが違うとは、この事か……ようやくその絶対的な力の差を思い知ったところで、ついに僕の思考時間にも限界が訪れた。
モノクロの視界は端から白く、白く輝く光に浸食されるように、塗りつぶされてゆく。
「さぁ、私の胸でお眠りなさい」
聖剣を手放し、前のめりに倒れ込む僕に両腕を差し出し迎え入れるリリスの姿は、さながら聖母のようで――――




