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学園塔の夜 男子会だウェーイ!

 2024年3月8日


 8月まで更新停止と言ったな。アレは嘘だ。


 感想欄にて、更新停止表示が気になるなら、短編とか投稿しておけばいいじゃん、とのご意見をいただき、何故その発想に至らなかったのか、自分で自分が恥ずかしくなったので投稿します。


 正直、思いの外に長引いてしまった学園祭編を書き上げたことでちょっと燃え尽きたとこありましたんで……幕間をする発想が完全に抜け落ちていました。長い章の間にこういうのを挟むのは、長期連載の常套手段だというのに。

 ひとまず、毒にも薬にもならないような短編を、一ヶ月間隔くらいで投稿して最低限の連載を維持しようかなと思っております。

 それでは、少しでもお楽しみいただければ幸いです。

「まぁまぁ、とりあえず座ってよ、二人とも」


 学園塔の密会部屋にて、すでに仄かな赤みが差す顔で、桃川小太郎はここへやって来た二人へと席を進めた。


「……一体、何を企んでいるんだ、桃川」

「いいじゃねぇか、タダ酒くれるってんだからよ」


 警戒感を露わにするのは、蒼真悠斗。

 一方、予約済みの居酒屋の席へと座るような気軽さで席についたのは、天道龍一である。


「たまには息抜きしたっていいでしょ。そのために造ったお酒なんだから」

「大丈夫なんだろうな?」

「委員長には内緒だよ」

「涼子がいなきゃ大丈夫だろ」


 にこやかに言う小太郎と、すでに飲む気満々の龍一に推されて、悠斗も渋々ながら席へとついたのだった。


 ただのアルコールだけならば、『蟲毒の器』によってほろ酔い程度までしか感じない小太郎だが、ものは試しと自分でも酔える酒が作れないかと試作してみれば、何故か上手くいってしまった。

 その結果、先にこの場で試飲していた小太郎はすでに出来上がっていた。


「天道君はブランデー?」

「いや、まずはワインで」

「何でもう龍一の好みを抑えてるんだよ」

「試飲会の時にちょっとねー」


 ちょっと顔が良いくらいの女子では、龍一との距離はとても詰められないというのに、何だか小太郎は年単位で付き合った彼女のような気安さと理解度である。

 同じ男子相手にその例えはどうなんだ、と悠斗は自分で怪しんだが、何故か仲の良い友人というより、そっちの方がしっくりくる表現だと思ってしまった。

 それはきっと、小太郎が龍一の力を高く評価して、強い彼氏の威を借る女のように取り入ろうとしているからだろう……と、一応の理屈をつけてから、悠斗は大人しくワイングラスを受け取った。


「かんぱーい」


 どこまでも呑気な小太郎の掛け声で、三人の飲み会は始まった。


「……最近、どうなんだ」

「なんだよソレ」

「邦画にありがちな、不器用な父親が娘に食卓で無理して会話を振る真似」

「くそっ、なんかちょっと分かってしまう……」


 急に俯き加減で、明らかに無理した低い声音で謎の問いかけを発する小太郎に、龍一は心底くだらなそうな目つきを、悠斗は説明を聞いてちょっと笑ってしまった。


「どうなんだ、って聞かれるのはお前の方だろうが」

「確かに、ヤマタノオロチ攻略戦の計画は、桃川が中心だからな。色々とやっているんだろう?」

「別にそんな、大した秘密はないよ。拘束用の装備とか、考えれば考えるほど欲しいモノが沢山出て来るから、取捨選択するのが大変。あと姫野のサボり防止とか」

「姫野さんには、もう少し優しくしてやってもいいんじゃないのか」

「ダメダメ、あの手の輩は甘やかすと、すぐにつけあがるから」

「クソ上司みたいなこと言いやがる」

「常に結果を出し続けるバリバリのエリート上司と言って欲しいねぇ」


 基本的に装備やアイテムの生産は小太郎が管理しており、これといって有用な生産系スキルを持たない悠斗には、あまり詳しい事情が把握できない分野である。

 しかし龍一の方は、純粋な戦闘系以外のスキルもちらほら習得しているようなので、たまに小太郎にお願いされて、協力していることは知っていた。


「逆に蒼真君はどうなのさ? 根性論全開の昭和式スパルタ修行で皆に無駄なことさせてない?」

「お前なぁ……俺はこれでも、道場で多少は指導の心得があるんだぞ」

「気合だ気合だぁ! 死んでも勝てぇ!! みたいに言うヤツ?」

「蒼真流を何だと思ってるんだ」

「キツいのは事実だろ。あのジジイが本気出したら死人が出るレベルじゃねぇかよ」

「今は子供向けの、優しいコースもあるから……」


 露骨に視線を逸らす悠斗の返答に、伊達に実戦流派を謳ってないようである、と小太郎は確信する。


「天道君は蒼真君の道場に通ったことあるの?」

「たまに顔出すだけだ」

「龍一が来た時は、いい練習になるよ」

「人のこと、都合のいいサンドバックにしやがって。お陰で蒼真流の相手にはすっかり慣れちまったぜ」

「何がサンドバックだよ。ほとんど全員ぶっ飛ばす癖に」

「ジジイ相手じゃ今でもボコられるっての」

「確かに、天職の力を抜きにしたら、今でも爺ちゃんに勝てる気はしないな」

「ふーん、達人のお爺さんなんだ」

「ああ、絵に描いたような達人ジジイだぜ」

「ふふっ、あれで爺ちゃん、達人らしく見えるように見た目には気を付けてるんだ」

「おいおいマジか、キャラ作りなんかしてたのかよ」


 そうして、蒼真道場にまつわる思い出話に花を咲かせている内に、三人とも酔いが回ってきた。


 今夜、わざわざ息抜きと称して二人を招くにあたって、しっかりと美味しいお酒を厳選してきている。おまけに、芽衣子の手料理であるツマミも結構な品数が用意されており、味は勿論、お酒との相性もバッチリだ。


 そうして、すっかりいい気分になっていた小太郎は、普段なら聞けないこともズバっと口に出してしまった。


「蒼真君ってさ、いつシコってんの?」

「んぶっふ!?」


 奇襲同然に飛んできた下ネタの急降下爆撃に、悠斗はむせた。


「それともシコってもらってんの?」

「げっほ、げほ!」


 気管に入って盛大に咳き込む悠斗の姿に、龍一が声を上げて笑った。

 そんな実に友達甲斐のない様子に一睨みしてから、そのまま鋭い視線を元凶たる小太郎へと向けた。


「桃川、いきなりお前なんてこと……」

「ええぇー、いいじゃんいいじゃん、聞かせてよ」

「酒の席だぜ、冷めたこと言うんじゃねぇぞ、悠斗」


 止めるどころか煽って来る龍一に恨めし気な目を向ける悠斗。

 一方の小太郎は、むしろ真面目腐った表情で言葉を続けた。


「実際、このテの話はこんな閉鎖環境じゃあ、馬鹿にできない問題だからね。僕やトリオなんかは、こういうのは素直だから溜め込まないようにしてるけれど――――蒼真君みたいなのは、余計な我慢とかしちゃってないかと心配でさ」

「余計なお世話も極まるな……全員ちゃんと個室があるんだから、そういうプライベートに関わる心配なんてしなくていいだろう」

「良かった、蒼真君も一人でベッドにいたらシコるんだね」

「勝手に変な想像するな!」

「ごめん、床でする派だった?」

「するかっ!!」


 こういうストレートに下品な話には慣れてないのか、あからさまに照れが見える悠斗のリアクションを、小太郎が獲物をいたぶる野良猫の笑みで弄った。


「じゃあホントにしないの? まさか夢精待ちしてないよね」

「ぐっ……俺も男だ。普通にする時はする」

「床で?」

「しない!」

「あはは、でも蒼真君みたいなハーレム野郎なら、自分でシコることないのかなって思ってたからさ」

「ハーレム野郎って……」

「いや、誰がどう見てもハーレム野郎だろ」

「そ、そうかぁ……?」

「いっつもクラスの女を4,5人侍らせてる野郎がいたらどう思うよ」

「それはハーレム野郎だな」

「オメーだよ」

「いや、でも桜とか妹だし……」

「実はとっくに全員と関係を持っていたとしても、僕は驚かないけどね」

「馬鹿野郎っ、そんな不純な真似、するはずないだろ!」

「えっ、じゃあ誰ともないの?」

「あるワケないだろう」

「じゃあ童貞なの?」

「……そうだが」

「僕と一緒じゃーん!」

「触るな」


 気安く肩をポンポンしてくる小太郎を、冷めた目で睨みながら押し返す。

 話の流れで、何故か童貞カミングアウトさせられたのも、やけに腹立たしかった。


「でも良かったよ。すでにエロ有ハーレムだったら、この学園塔もガチで崩壊してたかもしれないし」

「本当に余計な心配だな」

「実は本番じゃなければOKみたいな話じゃないよね?」

「だから余計な心配!」


 誰もデリバリーとソープの違いみたいな部分を気にしてなどいない。とにかく異性と性的な接触は一切ない、と悠斗は力説する。


「そんなに言うなら、龍一にだって聞くべきだろ」

「えっ、藪蛇になったら怖いし」

「どういう意味だよ」

「天道君がルール違反してるの知っちゃったら、皆の手前、注意しなきゃいけないじゃん。バレないようにコッソリやってるのを無理に暴いたところで、お互いに良いことないからね」

「別に隠し事なんざ無ぇっての」

「うわっ、お前はそんなことまで考えていたのか」

「逆にこんなことにも思い至らない風紀委員の蒼真君には心配になるね。悪事は全て暴いて裁かれるべき、とか思ってるでしょ」

「そんなの当たり前だ――――と、今は即答できないな……」

「いやぁ、剣崎明日那添い寝事件は衝撃的でしたね」


 中嶋の告発によって、夜中に明日那が悠斗の部屋を訪れて精神療法という名の添い寝を堂々と敢行していたことが明らかとなり、学級会が開催されたのはついこの間の話。

 それを小太郎が個別に買収することで騒ぎを収めて、見事に波風立てずに両者とも不起訴処分で決着させることが出来たのだ。

 流石に自分のやらかしでもあり、穏便に事を収めた小太郎への借りもある以上、些細な罪も断罪すべき、とは声高に叫ぶことはできなかった。


「だから天道君が実は委員長と添い寝してるってカムアウトしても、ここだけの話ってことで黙っておいてあげる」

「ねーよ」

「イテっ」


 調子に乗って問いただしてくる小太郎にデコピンをお見舞いし、龍一はブランデーの満たされたグラスをあおった。


「しょうがない、これ以上は追及しないどいてあげる。その代わり、天道君の女性遍歴とか聞きたいなー?」

「ふん、お前に語って聞かせてやることなんかねぇよ」

「僕は蒼真君に聞いてるんでーす。で、どうなの、天道君って彼女何人くらいいたの? 実はまだ童貞とか?」

「あー、龍一は中学の時、結構荒れてたから、派手に女子と遊ぶような真似もしていたぞ」

「おい、悠斗っ!」

「酒の席なんだ、龍一。冷めるようなこと言うなよ?」


 さっき自分が小太郎に童貞煽りされた時に笑っていたお返しだ、と言いたげに悠斗は笑みを深める。

 あっ、蒼真君こんな顔できたんだ、と男の親友にしか見せない一面を、小太郎は珍獣を見たような気分で眺めていた。


「へぇー、それって女子孕ませて揉めたりしたとか?」

「いや流石にそこまでは……ない……よな?」

「不安な顔で聞くな」

「でもお前と付き合った娘、みんな泣いてたじゃないか」

「女は自分がフラれたと思ったら、必ず泣くもんなんだよ」


 たとえもう愛想の尽きた男であっても。

 などと龍一は言い張るが、小太郎はあっさり捨てられてギャン泣きする女子の姿を幻視した。


「絶対、女の子の方だけ本気だったパターンでしょ」

「ただの遊びだって、俺は言ったぞ」

「自分だけは特別だ、ってみんな思っちゃったんだろうねぇ」


 たとえ本人は気まぐれのお遊びであっても、こんな男に言い寄られれば、多感な女子中学生が落ちないワケがない。

 クラスのトップに立つ一軍女子から、普段は目立たない隠れ美人まで、ガチハイスペックの最強系孤高の俺様ヤンキー男に迫られたら一瞬で胸キュンだ。自分が少女漫画のヒロインと勘違いしちゃってもおかしくないな、と小太郎は何人もの犠牲者を追悼した。


「ふん、ホントに好きな女に逃げられたら、俺もアイツらと同じ、ただの勘違いバカなんだよ」

「蒼真君、天道君の本命ってどんな人だったの?」

「いや、それが実は俺も全く知らなくて……」

「ちっ、使えないなぁ」

「酷くないか」

「もう写真も残っちゃいねぇ。詮索するだけ無駄だぜ」


 龍一が本気で恋した女性のことは、もう彼の記憶の中だけにしかないのだろう。

 これ以上の追及は無駄だと嘲笑うように、豪快にツマミの干し肉を齧った。


「でも天道君を本気にさせたのが、どんな人か気になるよね」

「案外、桃川に似たタイプかもしれないな。お前くらい遠慮のない奴じゃないと、龍一は相手にもしなさそうだし」

「なるほどー、僕レベルの気遣いと機転の利くような娘だったらいいのか」

「自己評価甘すぎだろ」

「あっ、そうだ、ちょっと見ててよ――――『黒髪縛り』」


 と、小太郎は最も操作に慣れた得意の呪術で、黒髪を自分の頭から生やす。見る見るうちに艶やかなロングヘアと化した小太郎は、ポケットを漁って取り出したヘアゴムで、頭の左右を素早く括った。

 ボーカロイドのようなデカいツインテールとなった小太郎は、自信気な顔で言い放った。


「どう? 憧れのあの娘に似てる?」

「全然似てねーよ、バーカ」

「イテテテテテッ! ツインテール引っ張るのは禁じ手だろぉーっ!?」


 あまりにも下らないやり取り。けれど酒の勢いもあってか、悠斗は心から笑い声を上げてしまった。


 そうして、思いの外盛り上がった飲み会だったが、何を話していたのか、翌朝になると小太郎も悠斗も、不思議とすっかり忘れてしまっていた。

 あの日の夜の馬鹿話を覚えているのは、天道龍一だけだった。

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― 新着の感想 ―
あ、れ・・・?これもしや天道くんの初恋(本命?)桃川ママでは・・・?
[良い点] ちょっと所用でなろうから離れて戻ってきたら、呪術師更新嬉しすぎる! [気になる点] 本編を読んでる時、ふとこの三人で男同士のくっだらない馬鹿話してる場面を思いついて読んでみたいと思ってまし…
[一言] こんな馬鹿話が楽しくてしょうがない
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