表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
呪術師は勇者になれない  作者: 菱影代理
外伝:白嶺学園文化祭
432/523

少年Aの末路

 仮に、彼の名前をAとしよう。

 少年A君は地方の小さな町村出身で、中学は一生懸命、勉学に励んだお陰で、名門私立白嶺学園に見事合格。


 そうしてやって来た都会の学園も、十月にもなればすっかりと慣れたもの。残念ながら女っ気はないが、気の合う友人も出来て平穏な学園生活を送り、学園祭も素直に楽しむことが出来ただろう――――彼が一枚のビラを手にするまでは。


「なぁなぁ、この二年七組って、すっげー美少女多いって有名なクラスだよな?」

「ああ、蒼真桜先輩とか」

「なんかパツキンの外人もいるんだろ」


 最初に『逆転メイド&執事喫茶』のビラを受け取ったのは友人の一人だった。デカデカと見目麗しいキャストの写真が載っており、すぐ飛びつくにふさわしい話題となる。


 学園のイケメン美少女勢ぞろい、と謳われる二年七組の雷名は一年生にも轟いている。部活などで接点がなくとも、誰もが一度は聞いたことがあるだろう。

 そんな噂はA君とて百も承知。ただ二年の先輩へ何の接点もない彼には、自分に関わりのない話とさほど興味も抱かなかったが、


「この桃子っていう女子、可愛いな……」


 ヒマワリのような明るく天真爛漫な笑顔で写る、メイド長桃子と書かれた写真に目を奪われてしまった。


「でもコレ絶対、画像加工してるだろ」

「だとしても本物の美少女なことに変わりはないじゃん」

「こういう機会じゃないと、実物を見に行けねーし」

「じゃあ、この店行ってみる?」


 と、言い出したA君の言葉に、友人たちは満場一致の賛成可決。

 彼女どころか女友達すらいない悲しき男子グループは、せめて学園祭でくらい目の保養しようぜ、とばかりに面白半分で『逆転メイド&執事喫茶』へ向かうことを決めた。


 そう、彼らは二年七組の美少女の噂とその場のノリだけで決めたので、肝心な部分を見落としていた。『逆転』の単語が何を意味しているのか、彼らは全く認識せずに、当日の朝一で来てしまったのだ。


「――――お帰りなさいませ、ご主人様」


 そう言ってお出迎えをするのは、小さなメイド少女。

 眩しいほどの笑顔。けれど発する言葉は静かに落ち着いている。

 幼げな少女らしいあどけない愛らしさと、どこか大人びた淑やかさを同時に併せ持つ。メイド長桃子とは、そんな少女であった。


 こんな美少女を初めて見た。すでに写真で見ていたはずなのに、A君は心からそう思った。

 彼とて、これまでに「可愛いな」と思う女子を見かけたことくらいはある。田舎とはいえクラスに一人くらいはそれなりの子はいるし、たまに街へと出かけた時には、つい目で追ってしまうような美人だっている。

 勿論、テレビにネットと世界クラスの美女やらアイドルやらだってお目にかかれるのだ。ただ可愛いだけの女の子を目にしたところで、そこまで衝撃を感じるようなことはない――――というのは、本物を生で目の当たりにしたことがないからだ、とA君は今この瞬間に思い知らされた。


 本当に美しいモノは、まず存在感が違う。

 当たり前で平凡でごく普通だと思っている自分とその日常。そんな中で、突如として天使が降臨したかのようなインパクトだ。

 画面越しに見るのとは違う。桃子という『本物』が今まさに目の前にいて、自分のことを認識している。言葉を交わすことさえできる。

 そのリアルな距離感に置かれた美しさに、A君は呆然としてしまう。


「本日はこの桃子が担当させていただきます。よろしくお願いしますね、ご主人様」

「えっ、あ、どうも……」


 下から覗き込むような上目遣いでそう言われると、キョドった反応しか出来ない非モテの友人の反応を誰も笑えない。むしろ、よく一言でも返事が出来たものだと讃えてもいいだろう。


 隣にいたA君は、彼女に自分が見つめられなくて良かったと思ってしまった。その男を誘うような眼差しと、細く白い首筋から露わとなった鎖骨のラインに目を奪われ、声を出せなかったに違いない――――と、自己分析できたのは、「お席へご案内いたします」と桃子の小さな背中を追い始めた時になってからだった。


「……」


 しかし今度は、そのただ後ろを追うだけのことで、またしても目が奪われてしまう。

 短い。スカートがやたら短いことに、今更になって気づかされる。


 フワリと揺れるフリルの裾から伸びる、ほっそりとした足を包むのは、エプロンと同じく純白のニーソックス。絶対領域、なんて言葉は今や一昔前の用語だと思っていたが、こうも実物を目の当たりにすると、恥ずかしげもなく視線が吸い寄せられてしまう。

 ミニスカートのフリルの裾と、白いニーソの間にだけ存在する僅か十数センチの隙間にだけ覗く真っ白い太ももが、どうしようもなく蠱惑的。


 けれど魅惑の時間もすぐに終わりを迎える。元より広くもない教室内の店舗スペース。案内などされるまでもなく、すぐに席へと到着し、腰を下ろすこととなる。


「それでは、ご注文がお決まりになりましたら、桃子とお呼びください」


 机の上に広げられているメニュー表を手で示しながら、一礼して去ろうとする桃子へ、A君は咄嗟に声を上げた。


「あのっ、オススメとか……あります……?」


 何でもいいから、彼女と言葉を交わしてみたい、という欲求に抗えずに言ったにしては、妥当なセリフだったと自画自賛。

 だがしかし、オススメを聞いた瞬間に、「その言葉を待っていた」とばかりに薄っすらと弧を描く桃子の目が向けられて、思考が飛ぶ。


 初めて彼女から見つめられたA君は思った。俺はネズミだ。

 微笑む桃子の表情は、さながら気品溢れるペルシャ猫。気まぐれで残酷な捕食者ネコに笑って見下ろされる自分は、弄ばれるだけのネズミなのだと。


「はい、ご主人様。桃子のオススメはコレ、料理長こだわりの一品、オムライスでございます」

「おおっ、王道のオムライス」

「うわ、流石に高くね?」

「いやでも美味そうだぞ、ハヤシかかってるし」


 メニュー表にはキッチリと料理の写真も張られており、オムライスの出来栄えから期待感は十分。キレイすぎて、かえってサンプル写真だろ、という疑念の方が強く湧くが、流石にそれを口に出すほどのバカはいなかった。


「今オムライスをご注文のご主人様には、特別に、あーん、のサービスもいたします」

「オムライスお願いします」


 即決のA君。桃子のあーん、はプライスレスだと、彼は瞬時に真理へと至ったのだ。


「いやぁ、どうすっかなぁ」

「おいおい、こういう時にケチんなよ」

「今月結構ピンチでさぁ」


 などと値段で言い合う友人たちを、遥か高みから見下ろす気分のA君であったが、その話を聞いていたのは桃子も同じであった。


「お料理はお一つで、人数分で分け合ってもよろしいですよ」

「えっ、そういうのいいんですか?」

「いいんですよ」


 鷹揚に頷く桃子も愛らしい。


「当店のお料理は、どれも料理長の真心が籠った自慢の一品でございます。一人でも多くのご主人様、お嬢様に味わっていただきたいのです」

「よし、じゃあ俺らは分けようぜ!」

「あっ、お前はどうする? 俺と分けるか?」

「いや、俺は自分で一つ食べるよ。ちょっとお腹も空いてたし」


 桃子のオムライスを分け合うなどとんでもない。誰がやるか、という気持ちをおくびにも出さず、A君は友人の言葉をやんわり断った。

 はて、自分はこんなに咄嗟の嘘が上手かっただろうか。異性が絡むと、人は変わるものなのだ。


「お飲み物はいかがなさいますか?」


 そうして、その場で注文が決まったことで、オーダーをとった桃子は去って行った。


「いやぁ、なんかスゲーな、メイド喫茶」

「これはかなり本格的じゃね」


 キャストの接客に好評なのは他の客も同じようで、時には女子の黄色い悲鳴なんかも上がってくる。すでにして賑やかな店内の雰囲気に、浮ついた様子で友人達も話し始めた。


 しかしA君は違和感なく適度な相槌を打ちながら、その目は去って行った桃子を追い続けている。

 店の作りは教室という限られたスペースを少しでも広く見せるために、キッチン含むバックヤード側を壁で覆うことはせずに、カウンターで区切っただけの作りとなっている。なのでキャストがオーダーを伝えに引っ込んでも、見渡せばその姿が確認できる。


 桃子はキッチン担当の女子と、営業スマイルとは異なる自然な笑みを浮かべて、何事かを談笑していた。その年相応の少女らしい姿も魅力的――――と思った矢先に、桃子の元に明らかに女装と分かる男子がやって来た。

 頭の軽い能天気な顔で桃子に絡んでは、馴れ馴れしく話している。女装メイドとかいうふざけた恰好の男だが、桃子もまた気安く答えて笑っていた。傍から見ても、仲が良さそうな様子に、A君の胸中にモヤっとしたものが煙るが、


「お待たせいたしました」


 と、早々にキッチンの女子から受け取った銀の丸盆を手に、桃子がドリンクを持ってきたことで、胸のモヤモヤも中断される。


「はい、こちらがご主人様のミルクティーでございます」


 四人もいれば、誰がどれを頼んだか確認しながら配るものだが、桃子は正確にオーダーを覚えているようで、迷いなく各人の前にドリンクを置く。

 自分の言った注文を覚えていてくれた。そんな些細なことだけで、やけに嬉しさが溢れてきてしまう。

 人生で一番美味しく感じるミルクティーを味わっていれば、ついに本命の料理がやって来た。


「おおぉーっ!」


 と分かりやすく声を上げる友人達。それも当然だろう、ほとんど写真通りに仕上がった見事なオムライスがそこあるのだから。

 学園祭クオリティということで、飲食物に過度な期待などしてはいない。いないのだが、いざ本格的なモノが出されると感心するものだ。


 紙皿やプラスチックトレーではなく、しっかりとした器に盛られているのも大きい。洗い物が出る、というデメリットを加味してでもこうしているのは、それだけでクラスの熱意を感じた。


「それでは、桃子が心を込めて美味しくなるおまじないをさせていただきます――――美味しくなぁーれ」


 そう囁きながらハートマークをケチャップで描く様は、ネットでしか見たことがなかった光景だ。画面で見るだけなら間抜けに思えるようなサービスだが、魅力的なメイドがいざ自分にやってくれると、得も言われぬ感動が湧き上がってくるようだ。

 だが、サービスはこれだけで終わりではない。


「ふぅー、ふぅー」


 スプーンで一匙すくったオムとハヤシへ、小さな口で吐息を吹きかける桃子。それだけでフローラルな香りが漂ってきそうな錯覚を覚えていると、ついにその時が来る。


「はい、ご主人様、あぁーん」


 美味しい。間違いなく美味しいはずなのに、味なんて分からないほどドキドキと胸が高鳴ってしょうがない。

 すぐ傍でスプーンを差し出す桃子と、それを食べる自分という、非日常的だが確かなリアルとして体験する衝撃に、この瞬間がやけに長く感じた。

 けれど実時間にすれば十秒にも満たない、僅かな間のこと。近づいた距離は、すぐにまた離れていく。


「うはっ、なんか恥ずかしいなオイ!」

「そう恥ずかしがらず、ほーらお口を開けて、ご主人様」

「んおおっ、美味ぇ!」


 流れるように桃子は同席する友人達へも同様のサービスをこなしていった。

 美少女メイドによるサービスに興奮する友人達の声が、どこか遠くに聞こえてくる。夢を見ているようなフワフワした感覚にA君がボンヤリしていると、


「ご主人様、もしかしてお口に合いませんでしたか?」

「えっ」


 魅惑の瞳に覗き込まれて、ドキリとしながら時間と心臓の鼓動が再び動き出す。


「スプーンが止まっているので」

「あっ、いや、これは……美味しくて、一口目を味わってました」


 咄嗟に取り繕う嘘が出てくるあたり、脳がクロックアップしているのだろう。


「それなら良かったです。自慢の一品ですので」


 むふん、と自信気な表情を浮かべる桃子も可愛い。だがいつまでも見惚れているワケにもいかず、A君はスプーンを動かし――――いや本当に美味いぞ、どうなってんだ、と冷静に食べた二口目でそう思い知らされた。


 濃厚なコクのあるハヤシに、奇跡的なふんわり具合の卵を被ったバターライス。口の中でそれら全てが渾然一体となって、美しい味のハーモニーを奏でている。

オムライスなんて子供が喜ぶメニューだと思うようになって久しいが、そんな既成概念を吹き飛ばすような味だ。二年七組にはイケメン美少女に加えて、三ツ星シェフまで抱えているのかと思うA君であった。


「ご主人様は一年生ですよね? クラスでは何をされてるんですか?」


 これもサービスの一環なのか、ほどほどに食べた辺りで桃子が話しかけてくる。


「三組のウチは屋台でたこ焼きっす」

「でもこんなの食べちゃったら、飲食で勝てそうにないですねー」

「ありがとうございます。たこ焼きもお祭りには定番ですから、絶対に必要な屋台ですよ。ウチもメニュー候補にたこ焼きありました」

「いやこの店のクオリティのたこ焼きも食べたかったなぁ―――」


 などと、学園祭に関わる共通の話題でトークを盛り上げる桃子。けれどA君は友人達のように気軽な返事が出来ず、つい気負って言葉を選びすぎてロクな会話を投げかけられなかった。

 まずい、このままでは折角のトークタイムも終わってしまう――――そんな焦りを覚えた瞬間である。


「んんっ、ご主人様、もしかしてソレ――――『エルペックス』のホルダーカードじゃないですかっ!?」

「え、あっ……」


 身を乗り出すように急に話を振られて驚くが、自分にとってあまりにも聞きなれた単語だったお陰ですぐに理解は追いついた。


「えっと、これは昔に貰ったもので」

「最初のイベントのやつじゃないですか! ご主人様、最古参勢だったのですね!」


 桃子のキラキラした尊敬の眼差しが眩しすぎて、つい顔を逸らしてしまう。逸らした視線の先にあるのは、桃子が目ざとく見つけたホルダーカード。


 これは今や世界的な人気のバトルロイヤルゲームである『エルペックス・レガシーズ』の、記念すべき第一回ワールドチャンピオンシップで獲得した、上位ランカーの証である。選ばれし上位500名にのみ、ゲームに登場する階級章を模したカードが記念グッズとして送られ、A君は自分の持つ数少ないトロフィーとして、鞄の定期入れと一緒に下げてアクセサリーとして愛用していた。


 もっとも、いくら人気ゲームとはいえ、分かりやすく大きくロゴが書いてあるワケでもないカードが何なのか、気づいた人も、その価値が理解できる人も、彼ら友人含めて今までいなかったのだが、


「もしかして、も、桃子、さんもプレイしているんですか」

「いやぁ、桃子は『タイタニックフォールン』の3を待ってる勢なので」


 まさかの原作プレイヤー。世界的に人気のエルペックスは触ったことがある、というライト勢は多いが、元々の原作ゲームとなるタイタニックフォールンをプレイしたことがあるというのは、それなりのゲーマーだと思われる。

 そもそもホルダーカードを一目見て分かるような子だ。これまで見てきた学校の女子で、そんな子は一人もいなかったが……こんな美少女がゲーマーだなどと、信じがたいが事実のようだ。


「ご主人様の今のランクは? もしかしてエイリアン?」

「いや、そこまでは。ここしばらくはずっとマスターの真ん中くらいで」

「それでも十分トップレベルじゃないですか! ご主人様、凄ぉーい!」


 凄い、と安易な持ち上げなんかに揺らがない。けれど、真にその凄さを理解した上で言われれば、その言葉の価値は全く違ってくる。


「これからも頑張って下さいね!」

「はい、今期はエイリアン目指します」


 最近はほとんど惰性で続けていたゲームに対するモチベがブチ上がった瞬間であった。


「失礼します、空いたお皿をお下げいたします」


 料理の皿が全て空いた頃には、トークタイムも終了。自分たちがいる間にも、続々と客がやって来ているようで、とても長居できる雰囲気でもない。

 名残惜しくも、退店の時がやって来た。


 そう気づいてしまうと、急に焦りが生まれる。これで終わりでいいのか。何か残るモノが欲しい。桃子、という素敵なメイド少女が確かに自分と一緒に居たという証が。


「記念撮影サービスもございますが、一枚どうですか、ご主人様?」

「よろしくお願いします!」


 普段はおとなしいA君の食いつきに友人達はビビったが、今の彼にそんな外聞を気にしていられる余裕はない。ああ、桃子、彼女はどこまで自分の気持ちを汲んでくれるのか。


「はぁーい、もっと寄ってぇ……こう! 手をこうやってハートマークねーっ!」


 教室の外、講堂に繋がる廊下の端に設けられたグリーンバックの撮影スペースにて、絵に描いたような太いオタク風の男子が、やたら威勢よくデジカメを構えて声を張り上げる。

 ただの制服姿ではなく、何故かチェック柄のベストに頭にタオルを巻いたオタ臭全開の出で立ちの濃いカメラマンだが、A君はそんなことが気にならないほどに緊張感に身を固めていた。


「ほらご主人様、もっと笑って」


 近い。桃子が近い。

 肩が触れ合うというか、完全に密着している。女子特有のフローラルな香りがフワリと漂う。どうして女の子はこんなにいい匂いがするのだろうか。

 そして二人で片手ずつ寄せ合って作るハートマークのポーズ。触れ合う指先だけで、驚くほどにプニリと柔らかい感触に理性が溶けそう。


 最後の最後で、これまでの人生で一番女子と近づいた強烈な体験と、満開の花が開くような可憐な笑顔とぎこちない笑みを浮かべる自分のツーショット写真をプレゼントされ、


「いってらっしゃいませ、ご主人様」


 桃子に見送られながら、夢見心地でA君は二年七組を後にした。


「――――なぁ、二年七組のメイドって全員女装ってマジ?」

「そりゃ逆転、って書いてるからな」

「これ見ろよ、桃子、だってよ。桃川の女装がどんなもんか、俺ら文芸部の先輩が見に行ってやろうぜ!」


 はしゃぐ男子の声がA君の耳に届いた。


「女装……?」


 思わず呟いてしまった言葉に、友人が即座に反応した。


「あっ、そうか、『逆転メイド&執事喫茶』って、女装と男装してやってるってコトか!」

「え、今更気づいたのかよ。女装メイドと男装執事って、入ったらすぐ分かるだろ」

「まぁ、あの桃子はフツーに女子だと思ったけど」

「だよな、完成度パネぇって!」


 ハハハ! とどこまでも楽し気な友人の声が遠雷のように響きながら、A君は足元が揺らぎ、視界はグニャァ……と歪んでいく錯覚に囚われた。


「そ、それじゃあ、桃子さんは……」


 突きつけられた残酷な真実。

 けれどこの胸に感じたトキメキは本物で、


「う、うぅ……うぅわぁあああああああああああああああああああああああああ!」


 心の中で絶叫を上げるA君は、その日の学園祭をどうやって過ごしたのか覚えていなかった。

 ただ一つ確かなのは、彼のランクはその日のうちにマスターを超えてエイリアンまで上がっていた、ということだけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
君…本当は…男の子なんだってな 君のせいで……俺は…俺は普通だったのに…君のせいで今大変なんだから なんとかしてくれよ
[良い点] なんつーエグみ満点の、脳破壊ストーリー…www 文章が緻密過ぎる…w そして、最終的に、カ○ジ並みに「ぐにゃぁ」と理性溶けてるwww 桃子、お前様、数多の生徒・保護者から呪われるぞw…
[良い点] 完成度の高い話だなあ、素晴らしい
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ