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呪術師は勇者になれない  作者: 菱影代理
エピローグ
411/519

第405話 旅立ちの日に

 抜けるような青空に、早朝の爽やかな風が吹き抜けて行く。

 遥か遠くに聳える巨大な山影に、青々とした森の木々に囲まれた、崩れかけの妖精広場なのだが……ここは、ダンジョンの外である。

 天気も場所も、旅立つにはうってつけだ。

「————それじゃあ桃川、俺らはもう行くぜ」

「うん、天道君も気を付けてね」

 このダンジョン『アルビオン』を制して早一ヶ月。諸々の準備も順調に進み、ついに旅立ちの日がやって来た。

「世話になったのう、呪術師よ」

「いいってことよ、リベルタちゃん」

「随分とこき使われたがのう」

「またよろしくね!」

 世話したよりも働かされた恨みマシマシの視線を天道君の肩の上から送るリベルタに、僕は笑顔で応える。君の戦闘力と空輸能力は最高だよ。いなくなってしまって、本当に寂しい。リベルタほどの性能は望めないけれど、早いところ新しい空中ユニットを揃えなければ。

「うわぁあああああん! 料理長ぉおー」

「私が教えられることもなくなっちゃったね。桃子ちゃんは、もう立派な料理人だよ」

 あちらの方では、桃子が敬愛する料理長メイちゃんと涙のお別れをしている。

 ここ一ヶ月は、もうガチ戦闘をする必要もない平和な期間だったので、桃子も本格的な料理修業をしていたようだ。そしてそれにメイちゃんは喜んで応え、その卓越した技術を惜しみなく伝授したのであった。

「これからは、桃子ちゃんが思うように作って行けばいいよ。天道君に沢山、美味しいもの食べさせてあげてね」

「はいぃ! ありがとうごじゃいましゅぅ、料理長ぉーっ!」

 師匠メイちゃんの温かい言葉に、わんわん泣いて抱き着く桃子である。いいだろう、今ばかりはメイちゃんの大きな胸を貸そう。女神の谷間で存分に泣くがいい。

「なんかめっちゃお別れムード出てるけど、どうせまたここに戻って来ることになるんでしょ?」

「おい、空気読めよ姫野。そーいうこと言うなし」

「私、空気読んだから天道君と一緒に行くことにしたんですけどー?」

「そりゃね、どの面下げてここに残るんだってウチも思ったわ」

「蘭堂さん、もうちょっと私の配慮に感謝してくれてもいいんじゃないのぉ!?」

 料理人子弟涙の別れ、を冷めた目で見つめる姫野に、杏子が何か言っていた。

 あれでここまで苦楽を共にしてきた間柄。あの二人も意外と仲良くなっているんだよね。

 そんな姫野も天道君と一緒に旅立つ組になるので、なんだかんだで僕も少し寂しいよ。ああ、貴重な正社員が……またいつでも戻っておいで。いっぱい用意して待ってるから。

「……桃川」

「やぁ、桜ちゃん。もう準備はいいのかい?」

 そして今日ここを旅立つ最後の一人が、桜ちゃんである。

 大守護天使の一撃を喰らってズタボロになった制服も、今はすっかり元通り。小鳥遊の工房から拝借した材料で更なる強化を施し、絶縁仕様アサシンスーツも着込み、外の世界へと挑むに相応しい、実に凛々しい姿である。

「ありがとうございました。桃川小太郎、貴方のお陰で私はこの日を迎えることが出来ました。心から、感謝を申し上げます」

 折り目正しく頭を下げ、純粋な感謝の言葉が飛んで来る。

 まったく、桜ちゃんは変なとこで生真面目なんだから。

「こちらこそ。みんなの捜索、頼んだよ桜ちゃん」

「はい、お任せください」

 小鳥遊によって追放されたクラスメイト達。その捜索と救出が目的だ。

 一ヶ月もあったのだ、すでにこのアルビオン周辺の地理はざっと調査を終えている。葉山君と出会い、サラマンダーの飛び交う山脈を超えた、あのダンジョンの外である。

 広大な大森林と険しい山脈が立ちはだかる外であるが、リベルタを飛ばし、レム鳥を飛ばし、空中からの調査だけに限定すればおおよその地形は把握できる。

 その結果判明したことは、ここが巨大な島であるということ。そして人里は見当たらない無人島である可能性が高い。

 まぁ、空からざっと見ただけなので、広大な森のどこかに、謎の部族が暮らしていても見落とすだろうから、あくまで無人の可能性。どっちにしろ、そんな未開の蛮族がいたところで、僕らには関係のないことだけど。

 このダンジョンがある島、ひとまず暫定的にアルビオン島と呼ぶことにするが、少なくともここから地続きで例のアストリア王国へは辿り着けない。見つけるためには、海を渡らなければならないのだ。

 流石に島を出て、海まで渡るとなれば、長い旅路となる。

 レム鳥を東西南北に真っ直ぐ飛ばし続けた結果、すでに海の先にある大陸と思われる陸地は発見している。今回、天道君達が乗り込むのはその大陸だ。

 まずはそこでアストリア王国、ないしは別な人間の国と接触する。人探しをするならそこからだし、それ以前にこの異世界の常識やらなにやら、様々な情報を収集するところから始めることになるだろう。

 まぁ、悪の王侯貴族が圧政を敷くようなテンプレ中世ファンタジー社会であったとしても、とりあえず天道君がいれば何とかなる。姫野でさえ、それなりの戦力になるし。

 折角、外の世界に出られるのだから、いよいよ姫野も本格的な淫魔デビューを果たし、異世界男子を喰いまくって、更なる成長をして欲しいものだ。

 桜ちゃんは勝手にキレて暴走しないでね。

「まったく、最後までロクなこと考えていませんね、貴方は」

「まだ何も言ってないじゃん」

「言わなくても分かりますよ。その野良猫みたいな目つきで、ね」

 ツンとおでこを弾かれて、そんなことを言う桜ちゃんである。ちっ、ビンタじゃないから避けられなかったよ。

「おいお前ら、さっさとリベルタに乗れ。もう行くぞ」

 リベルタが本来の姿である大きな黒竜となり、レムによって各種装備の取り付けも完了したようだ。

 複数人が乗り込むための鞍に、大量の物資を持ち運べるように、空間魔法付きの鞄とコンテナを、惜しみなく持たせている。

「それじゃあね、双葉ちゃん」

「うん、気を付けて行って来てね、姫ちゃん」

 姫野が親友たるメイちゃんと抱き合って、しっかりお別れを言ってからリベルタへと乗り込むと、残ったのは桜ちゃんだけとなった。

「はぁ……やっぱり、桃川の分身なんかよりも、レムを連れて行きたいです」

「ワガママ言わない」

 当然、今回の旅路には僕の分身『双影』も同行する。何の連絡をしなくても、自動的に外の様子が分かるのだから、連れて行かない理由がない。

 レムだって幼女形態じゃないだけで、ちゃんと偵察用の鳥とか虫の状態でいるんだから。

「ほら、みんな待ってるんだから、早く行くよ桜ちゃん」

「うぅ……レム、体に気を付けるのですよ。あまり桃川の言う事ばかり聞かないように」

「桜、ばいばい」

 最後の最後まで幼女レムに抱き着いて未練たらたらな桜ちゃんを何とか引き剥がして、分身の僕と一緒に天道航空リベルタ国際便に、搭乗が完了。

 さぁ、いよいよ出発だ。

「じゃあな、桃川。そっちは任せたぜ」

「うん、行ってらっしゃい」

 そうして、天道龍一、蒼真桜、姫野愛莉、三人のクラスメイト達は、ついにこの因縁のダンジョンから飛び立っていった。




 天道君御一行が旅立ってから、一ヶ月が過ぎようとしていた。

「ま、まずい……」

 僕はガラーンとした工房を眺めて、呆然と呟く。

 ここは小鳥遊が最後に利用していた場所で、設備も蓄えられた素材も、隠し砦を上回る充実ぶり。捜索組の遠征装備をはじめ、新たな旅立ちへ向けて様々なモノを怒涛の勢いで作り続けてきたこの新工房なのだが……ここは天道君達が旅立っていったあの日から、ほとんど何も変わっていない。

 そう、僕はこの一ヶ月、何もしていないのである!

「小太郎くーん、お昼ご飯できたよー」

「はーい」

 さっき起きたばっかりな気がするけど、もうランチタイムの時間か。

 メイちゃんの甘い声音と芳しいスパイスの香りに誘われて、僕はまんまと食虫植物の罠にかかるゴミ虫のようにフラフラと何も考えずに歩く。

「蘭堂さんとレムちゃんがコッコを獲って来てくれたから、フライドチキンにしてみました。あのお店の味を再現だよ」

 会心の出来栄えなのか、ニコニコしながらメイちゃんが言ってるけど、エプロン一枚から伸びる艶めかしい素手と素足に目を奪われる。すなわち、裸エプロン。

 まずい、一瞬でも彼女が背中を見せれば、その瞬間に僕の理性は死ぬ。

 だが勘違いしないように言っておくが、メイちゃんは料理人だ。厨房に立つ時はそれに相応しい装いをする。断じて裸エプロンなどというプレイのために、神聖な厨房を汚したりはしないのだ。

 つまり、料理が終わったから裸エプロンになった。この場で僕を殺すために。

「わぁ、美味しそう」

「早く食べてね」

 すでにしてIQが溶け始めている僕の間抜けな感想に、メイちゃんは微笑みながらどっちとも取れるような言い方。どっちから食べてもいいんですか? どっちとも食べていいんですか?

「おおぉー、めっちゃいい匂いするじゃん」

 理性が風前の灯火と化している中で、杏子も現れた。

 さっき狩りから戻ったばかりだからか、風呂上がりのようである。前開き全開で羽織っただけのブラウスに、ユキヒョウ柄の際どいビキニスタイルで、褐色ボディが惜しげもなく晒されている。

 どうやら杏子は、風呂上りは下着姿でウロつくタイプのようだ。もう人目を気にする必要がない環境になったせいで、大体こういう格好で、大体僕が死ぬ。

 なんてはしたない、けしからん。杏子の隣でちゃんと制服を着込んでいる幼女レムを見習ってほしい。思いはするだけで、口にすることは一度もなかったし、今も言えない。

 当たり前だよね。裸エプロンのメイちゃんと下着姿の杏子に挟まれて、常識的なことを言える理性など残るはずがないのだから。

「いただきます」

 そして僕はめちゃくちゃフライドチキンを食べた。

 ああ懐かしの有名チェーン店の味。

「————これからちょっと、大事な話があります」

「え?」

「今からぁ?」

 急に何を言い出してんだ、って感じの眼差しを二人がくれる。

 そりゃあね、ここ一ヶ月のことを考えると、この後の流れは当然……なんだけど、今日の僕は奇跡的に理性の根性スキル発動で1だけ残った状態なんだ。

 懐かしのフライドチキンを食べて、かつての自分を思い出せたからかもしれない。そうして僕はなけなしの理性を振り絞って、苦渋の決断を宣言した。

「今日からエッチは夜だけにします」

「ええぇっ!?」

「はぁっ、マジかよ小太郎、どうしちまったんだよお前」

 僕の正気を疑うかのようなリアクションをくれる二人だけれど————よく考えて欲しい、今までがおかしかったんだよ。

「だってこの一ヶ月、僕なんにも出来てないからね。このまま天道君達が一回帰ってきたら、殺されちゃうよ」

 信じて留守を任せたら爛れた生活を送って堕落しているなんて。自分のことながら、僕だってここまで酷い有様になるとは想像していなかった。

 そう、きっと僕は甘く見ていたんだ。メイちゃんと杏子、二人に絶えず誘われ続ける日々が、一体どれだけ僕の正気を失わせるかということを。

「そ、そんなことないと思うけど」

「もうちょっとダラダラしててもいいだろー」

「良くないよ! このままじゃ僕、ホントにダメ人間になっちゃうからね!?」

 というか完全にダメ人間の見本みたいな生活してきたからね、この一ヶ月は。

 そもそも、僕はどっちかと言えばだらしない側の人間だ。姫野なんかは僕を指して24時間戦える企業戦士ワーカホリック、みたいに言うけど、働きたくないでござる、が本音である。

 命を懸けたダンジョンサバイバルに、小鳥遊の仕掛けた陰謀と、死に物狂いで動かなかければいけない極限の状況下だからこそ、あんなに必死になれていたのだ。

 平和な学生生活の頃だったら、僕は休日なんて朝起きたらエロ動画見てシコって、ゲームして、昼にエロ同人読んでシコって、ゲームして、夜にエロゲーやってシコって寝落ちする、みたいな過ごし方をしてきた怠惰な奴だぞ。自分と仲間の命がかかってなければ、こんなものだ。

 これにメイちゃんと杏子の二人からリアルで迫られるようになったならば、エロ同人でしか見たことない乱れに乱れた生活になるのは自明の理。これはもう淫魔の罠だよ。『呪術師』桃川小太郎を完全に封殺する罠だ。

 今ここで何としてでも抜け出さなければ、僕はもう二度と頑張れない気がする……

「というワケで、僕はやらなきゃならないことが山積みだから————レム!」

「はい、あるじ」

「行くぞ!」

 どこに行くのか、何から手を付けるべきなのか、まだ何も決まってないけど、とにかく僕は行く!

「あっ、小太郎くん!」

「逃げた」

 とりあえず逃げなきゃ、また囚われてしまうからね。ああ、ルインヒルデ様、どうか僕を淫魔の誘惑からお守りください!




「————ふぅ、この天送門もようやく形になってきたな」

 一念発起して、どうにか最低限に健全な生活に戻った僕は、それからさらに一ヶ月をかけて準備を続けていた。

 その中で最も力を入れたのが、天送門の復旧作業である。

「まったく小鳥遊の奴め、面倒臭いプロテクトなんぞかけやがって」

 そもそもこの天送門は生きている。つまり十全に機能を維持した上で残っているのだ。

 それでも三人脱出の制限は、確かに存在していた。

 だが本来、この天送門は大量のアルビオン市民の瞬間移動手段として活躍していた、最大の公共交通機関である。人数制限という制約が存在していることがそもそもおかしい。

 つまり三人制限は、勇者育成計画のために課されたモノに過ぎないのだ。

 ならば当然、解除することも可能のはず。

「あるいは小鳥遊、お前にも解除させないよう設定されていたのかも……おい、どうなんだよ、なんとか言えこのアバズレ」

「ぴぎぃ……」

 手にした小鳥箱はプルプル震えるだけで、僕には何も答えない。

 まぁ、本当に小鳥遊の怨念が恨みをつらつら喋り出されても困るんだけど。コイツはお前の持つ『賢者』の力と資格を発揮するだけのユニークアイテムであればいい。

「やっぱり、このダンジョンを僕らのバトルロイヤルの舞台として用意したのは、例のアストリア王国だろう」

 小鳥遊の始末は完了し、アルビオンの管理権も手に入れたが、本当にこれで安全かどうかは分からない。アストリア王国がクソ女神エルシオンの使命を何よりも優先して行動する、絵に描いたような邪悪な宗教国家だったならば、こうしてエルシオンの思惑をぶち破った僕らを見逃すだろうか。

 ある日突然、アストリアの暗殺者やら騎士団やら特殊部隊やらが転移で乗り込んでこないとも限らない。

「やっぱり自分の目で、外の世界へ確かめに行かないと」

 天道君に同行させている分身のお陰で、この場にいながらすでにしてある程度の範囲までは把握できているが……今のところ、アストリア王国にも辿り着けてはいない。調査するにしても、まだまだこれからである。

 もっとも、そんな目的がなかったとしても、純粋にこの異世界に興味はある。折角、『呪術師』の力を授かり、頼れる仲間達に、愛する人も出来たのだ。隅々まで探索して、たっぷり堪能させてもらおう。僕、オープンワールドのマップはちゃんと全部埋めるタイプなのだ。

「————それじゃあ、いよいよ出発だ」

 天送門の機能復旧から数日。分身とレムを用いた稼働実験を経て安全性を確認した後、いよいよ本物の体で転移する時が来た。

「ホントに大丈夫なんだよな?」

「もう、心配し過ぎだよ、杏子は」

「留守番させられる方の身にもなれよ」

「今回はすぐ帰ってくるから大丈夫だよ。それに、小太郎くんは私が必ず守るから」

 初の転移は、僕とメイちゃんの二人で飛ぶ。万が一に備えて杏子はこっちに残す。

 メイちゃんと杏子、二人とも僕の管理権限から一部を委任させて、それなりにアルビオンの機能を制御できるようにはしてある。最低限のコンソールの操作方法も教えたし。

 僕がいなくても、多少の不測の事態には対応できる。と言っても、分身もこっちに残すから、何かあれば自分で対応するだろうけど。

「一応、完全武装しているし。出先でいきなりサラマンダーに襲われても大丈夫だから」

 設定した転移先は、どこかの古代遺跡。現状、選べる中で最も距離のあるポイントだ。

 実験で分身を飛ばした際には、雪の降り積もった針葉樹林が広がる場所ということを確認している。遺跡はすっかり崩れて荒れ果てているが、刻み込まれた転移魔法陣だけはちゃんと生きているから、そこに飛べるようだ。

 とりあえず生身でも無事に往来できることを確認してから、転移先に仮拠点を設けて周辺探索を開始、という流れ。

 ざっと調べてあまりにも何もない大自然しかないようなら、別なポイントに切り替えればいい。他にも転移先の候補は、幾つもあるからね。

「おいで、レム」

「はい、あるじ」

 すっかり見慣れた転移の白い光を眩く発し、荘厳な天送門を開く。

 僕は右手でメイちゃんと、左手でレムと手を繋ぐ。

「行こう、小太郎くん」

「うん、行こうか————外の世界へ」

 こうして僕は、僕らは、ようやくこの長く続いた、ダンジョンの奥深くから抜け出す。

 その先に何があるのかは分からない。分からないから、確かめに行くのだ。

 だからどうか、呪神ルインヒルデ様、僕らに天職を授けてくれた神々よ。僕らの自由な旅路を見守っていてください。

 僕らはもう、単なる白嶺学園二年七組の生徒じゃない。平和な学生は卒業。自らの力で未知の世界を進んで行ける、冒険者なのだから————




 第一部:ダンジョンサバイバル編 完


 次回

 第二部:アストリア王国編


 2023年6月23日


 ここまで『呪術師は勇者になれない』にお付き合いいただき、ありがとうございました。今回で第一部完結、とさせていただきます。


 現在のプロットを決定した辺りから、呪術師をここで完全に終わらせるか、それとも第二部を続けて書くべきか、ずっと悩んできました。正直に言えば、今も悩んでいます。

 約七年前、呪術師の連載を開始したあの頃から、二部構成で行こうと考えてはいました。当時の自分なら、これで半分終わったんだから、もう半分も早く書けよ、と迷うことなく言うでしょう。


 しかしながら、実際に第一部を完走し終わってみれば、迷いも生まれました。このまま第二部を始めていいものか。また何年もかけて真の完結を目指すのか。『黒の魔王』もまだ道半ばだぞ・・・

 覚悟の上で始めたこととはいえ、二作同時連載は決して楽ではありませんでした。常に両方のストックが尽きないよう続けるのは、好きでやっていることとはいえ、ストレスにもなります。幸いにも、これまでは何事もなく、ストック消滅の危機に直面するような事はなんとか避けられました。一度でもそんな状況になれば、流石の私も一時休載せざるを得ないでしょう。書き上げた直後に即投稿、なんて真似は、私はするつもりはありません。推敲は当然として、後にストーリー変更などにも対応できますし、実際に呪術師でも黒の魔王でも後で変えたことはありますので。


 悩みは、何も執筆の大変さ、についてだけではありません。ここで『黒の魔王』に集中させて、こちらの完結を最優先にさせる、という選択肢もあります。

 そして何より呪術師を終えたことで、ようやく完全新作を連載できるだけの余地も生まれました。正直、ここが一番の悩みどころと言っていいでしょう。

 やはり安定的に連載するには、どう頑張っても二作品が限界。これ以上増やすなら、仕事やめるしかないですね・・・


 以上、つらつらと弱音を吐いて来たワケですが、結果的に呪術師は第二部アストリア王国編を書くことに決めました。

 一番の理由は、やっぱり私が書きたいからです。色んな理由を跳ね除けるくらい、私は呪術師が大好きです。第一部完結で、思う通りの大長編を完成させた達成感だけで終わるには勿体ない作品だと思っています。

 二番目の理由は、多くの読者の方から沢山の応援をいただいたことです。これは完結を惜しむ声だけでなく、これまで毎週、感想覧を盛り上げていただいた全てのコメントのお陰です。作者である以上、読者の声が一番嬉しいものですし、連載を続ける最大の活力になっているのは、間違いありません。

 ついでに三番目の理由といえば、連載開始時点の構想とは違った結末を迎えたことで、第二部の大筋をどうするか悩んでいたところ、ようやくいい感じのプロットが固まって来たからです。

 呪術師は黒の魔王を好き放題に書き過ぎたせいで、あまりにも長くなりすぎている、という点を自分なりに反省して、特に学園塔あたりから展開を進めることを意識して書いて来ました。それでもかなり長くはなりましたが、自分で納得がいくストーリーを描き切った上で、こうして完結まで迎えられました。

 第二部をやるならば、もっと展開を早くしていけたらいいなと、一つ挑戦するような気持ちもあります。


 というワケで、第二部を続けることは決めましたが……流石にこんな機会は二度とないので、今年の内は一旦、完結扱いにして来年まで休載したいと思います。

 これは第二部のストックを少しでも溜めてから始めたい、というのは勿論ですが、黒の魔王もこの機会に少し連載速度を上げられる・・・といいな・・・との考えもあるからです。黒の魔王は完結こそまだですが、1000話という大きな節目が見えてきましたので、今はそこに向けて力を入れている状況でもあります。

 ですので、申し訳ありませんが、第二部が始まるまで今しばらくの間、お待ちいだたきたいです。


 それから、次回 第二部:アストリア王国編と言ったな。アレは嘘だ。

 次回は番外編を投稿します。ちゃんと来週、金曜日に投稿しますので、どうぞお楽しみに。

 それでは、これからも『呪術師は勇者になれない』をよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
また読み返してるんですが、ゆくゆくコトリバコが 小鳥遊の人格持つと面白いなあ
なんか、桜ちゃんが妙に優しくまるくなったような・・・?
Amberさんへ エピソード411で、止まってはなりません。止まってはなりませーん。 必ず、エピソード412『白嶺学園二年七組出席簿 終』まで読んでください。 2章のワクワク感が半減してしまいます。 …
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