第401話 守護戦士
「待て、山田君!」
「お前を倒せば、全て終わるんだ! ここでっ、叩き潰してやるっ!!」
体が動く、と気づいた瞬間に山田は後先考えずに飛び出していた。
小太郎の珍しく本気で焦ったような制止の声も聞こえてはいる。それでも止まる気は無かった。
「はぁ、ウッザ。山田如きがしゃしゃり出てくんなよ、身の程を弁えろってのブサイク芋男が————『聖天結界』」
「ぐおおおおおっ!?」
眩い光と灼熱が体を襲う。強烈な電撃でも喰らっているかのような感覚。『重戦士』の防御力をもってしても、苦痛の声を上げてしまうほどの威力が全身を駆け抜けている。
それでも山田は退かない。更なる力を構えた大斧に加え、ジリジリと少しでも、一歩でも前へ進み続ける。
「やめるんだ、山田君! 戻れ!」
「そいつは聞けねぇな、桃川。今ここで、コイツを何とかしなきゃ、俺ら全員————」
全員が死ぬ。
頭の良い小太郎と違って、詳しい状況は察せないが、黒幕である小鳥遊が途轍もない力を手にしてしまったことは理解できている。
その力が襲い掛かるより前に、今ここで何としても仕留めなければ。そして、そのために犠牲になるのが自分であれば、最上の結果だろう。
「邪魔、とりあえず消えろ————『天罰刑法4条・追放刑』」
しかし山田の覚悟と力も及ばず、あえなく転移の光に包まれ、
「……クソッ」
目が覚めると、全く見知らぬ場所であった。
小高い丘の上だろうか。青々とした草地と疎らに生える木々。
そして自分が寝転んでいるのは、転移魔法陣の刻まれた大きな石板の上だった。
見たことのない作りの遺跡。神殿とも言えない、ストーンヘンジのように不揃いの大きな岩が円形になって立ち並ぶだけの、簡素な造り。
二重の円環状となって並ぶ大岩と、その周囲には僅かに残った崩れた壁や建物の跡のようなものが見受けられる。この大岩の並びも何かしらの魔法的な意味があるのかもしれないが、山田にはとんと見当もつかない。少なくとも、再びこの転移魔法陣を起動させて、元のダンジョンへと戻れるようになるとは思えなかった。
「やっぱダメか……ウンともスンとも言わねぇ……」
案の定、転移の光が灯ることはなく、無為な時間を過ごす羽目になった。
小鳥遊は『追放刑』と魔法の名を叫んでいたことを覚えている。その名の通り、相手をどこかへ飛ばして排除する魔法なのだろう。
「俺なんか、どうなったっていい……だから、みんなは無事でいてくれよ……」
何もできずに無様にやられた自分に、そんなこと言う資格すらないと思いながらも、そう祈らずにはいられない。自分にできることなど、体を張って戦うことだけ。
こんな状況になってしまっては、もう自分がクラスメイトのために出来ることは何もなかった。
「チクショウ……何が『守護戦士』だよ……今更、新しい力なんか寄越しやがって!」
ここで目覚める前、山田は確かに神の声を聞いた。最初に『重戦士』となった時と同じだ、と何故だか分かった。
そして、ただ一言、自分の天職が新たに『守護戦士』へと変わったことだけがはっきり脳裏へと刻みつけられていた。
『剛体』:鋼鉄の肉体は己を守るために非ず。その身を盾として、守るためにある。
『不退転の誓約』:一歩も退くな。戦場に立ち続けろ。心折れぬ限り、守護の力は湧き続ける。
『重剛突進』:恐れず進め、疾く進め。踏み込む一歩は巌の如く、されど速さは風の如く。突き進み、突破せよ。
新たに授かった『守護戦士』の三つの初期スキルが浮かび上がる。
いずれも強い力を秘めているのだろう。だが、それを素直に喜ぶことなどとてもできはしない。
「ふざけんじゃねぇ……誰一人、守れなかった俺がよぉ……」
仲間を守る。もうそうすることでしか、自分の生きる意味を失った山田にとって、この結末は堪えた。戦士の神は、何も成せない自分を嘲笑うために、わざわざ力を与えたのではないかとすら思えて来る。
「この力で、一体何を守れってんだよ……」
気づいた頃には、夜が明けていた。
「……行くしか、ねぇか」
守るべきクラスメイト達と一人はぐれてしまった、情けない自分。かといって、この場でただ死を待つことも出来そうにない。
彼らが無事かどうかも分からない。あのダンジョンへ戻る道も分からない。
どれだけ時間がかかろうとも、せめて確かめなければならないだろう。
「こんなんなっても、桃川には頼りっぱなしだな」
落ち込んだ精神と関係なく、腹は減るものだ。行動を起こすのに空腹なのは良くない。
背負い鞄に入れてある、非常食を一つ取り出し山田は食べることにした。こんなものまでいるのか、と思っていた緊急用サバイバルセット一式も詰め込まれている鞄だが、今は何よりも心強い命綱であった。
少なくともこれらがある限り、しばらくの間は食料と水が調達できずとも行動し続けることが出来る。
もっとも、見たところ緑豊かな丘陵地といったこの場所で、木の実の一つも手に入らないことはないだろう。
「ここはどっかのダンジョンの中なのか……それとも、本当に人が住んでる外の世界なのか」
山田が目覚めた円環石の遺跡には、明確にここへと続く道のようなものが形成されていた。舗装されているワケではない、草地の中でただ土がむき出しとなっているだけの道だ。
ダンジョン内であるならば、これもそういう作りになっているだけに過ぎないが、外の世界であればこれは明確に人によって作られたものということになる。
そして人が作った道があるならば、それを辿れば当然、人の住む場所がある。
「一応、ナントカ王国があるって話だ。魔物しか住んでねぇ、ってことはないだろ」
不安と希望を半々に抱き、山田は丘を下って行く道を歩き始めた。
朝靄が立ち込める、静かな丘を進む。
最初こそダンジョン探索と同様の警戒をしていたが、
「……全く魔物の気配がしねぇな」
ゴーマの一匹、赤犬の一頭も出て来る様子はない。
見かけるのは地を這う虫や、悠々と空を飛び去って行く鳥影だけ。ここがダンジョンの中だとしても、どうにも平和が過ぎる。
「まぁ、あの無人島エリアみてぇなとこもあったしな」
学園塔生活を送っていた頃、小さな牧場モドキと釣りをしていた、実に平和な南の島のような場所もあった。この長閑な景色が象徴するように、広範囲で魔物避けが機能しているエリアである可能性は捨てきれない。
だが、何となくの予感として、やはりここは外の世界ではないかと山田は思い始めていた。
そうして何事もなく、ただただ平和な緑の丘陵地帯を道なりに進んで行き、昼も過ぎてそろそろ野営場所の確保を検討し始めた頃だ。
ブンゲルァアアアアアアアアアアアアアッ!!
汚らしい大絶叫が目の前の丘の向こうから響き渡り、山田は一瞬で意識を戦闘へ切り替える。
「なんだよ、やっぱり魔物いるんじゃねぇか」
あの耳障りな鳴き声は、間違いなくゴーマのものだ。声の太さからしてゴーヴ戦士であろう。
今の自分と装備なら、ゴグマがゴーヴ小隊を率いているくらいの規模なら、問題なく対処できる。
かといって、それらを倒したところで収穫はない。錬成して装備やアイテムを作れる仲間はいないのだ。今後を考えれば、無駄な戦闘は避けるに限る。
だが同時に、ここに出現するモンスターの姿は確認しておきたい。どうやらゴーヴの雄叫びは、自分を獲物として発見したものではないようだ。
ということは、あの丘の向こうで奴らは別な獲物を見つけて、狩りをしているところ。
もっとも、ゴーヴ戦士の集団如きで狩れる獲物となれば、大した魔物ではないだろうが————と思いつつ丘の稜線を超えてその先を覗き込んだ瞬間、山田の思考は固まった。
「うわぁあああああああああああああっ!?」
「ゴーマだっ! どうしてこんなところに!」
「まずい、戦士クラスもかなりの数がいるぞっ!」
山田の耳に飛び込んでくるのは、間違いなく人の言葉。
そして目に映るのも、人間であった。
「おおぉ、人だ……」
ただ見たままの光景に、つい感嘆の声を漏らしてしまう。
状況としては、馬車に乗っていた一団が、ゴーマ部隊に襲われているといったところ。
大きな幌付きの荷台を引く馬は、生け捕りにしようというのか縄が方々からかけられており、そのまま走って逃走もできそうにない様子。
馬車の中に何人いるかは分からないが、剣や槍を手に戦闘態勢をとっているのは僅か二名。たかが数十のゴーマと数体のゴーヴを前に、明らかに腰が引けている。天職持ちとは、とても思えなかった。
絵に描いたような馬車の襲撃シーンである。
小太郎であれば「人生でこんな異世界テンプレなシーンに遭遇するとは」と呑気な感想を漏らしただろうが、山田にはその手の素養は全くない。部活の野球と趣味の釣りに勤しんで来た健全な高校生男子の山田にとっては、物語の中の出来事と感じるよりも、すでにダンジョン攻略で身に染みている魔物の危険性からリアルな襲撃としてのみ認識している。
そして案の定、目に見えて劣勢にある人間を、楽しむようにゴーヴ戦士共が攻撃を加え始めた。
最初から『重戦士』という強力な天職を得た山田は、ゴーマに苦戦したことは一度もないので見たこともなかったが、小太郎から奴らは弱い獲物をいたぶって楽しむ残虐性があると聞いたことがあった。その典型的な例が、今まさに目の前で示されていた。
「ぎゃぁああああああああああああっ!」
「ブギャギャ、ゲブラァ!」
「ウンブラガ、ギャーギャーッ!!」
痛烈な一撃を喰らい、握っていた剣を取り落して地面に転がる人間の姿を、取り囲むゴーマがゲラゲラと大笑いを上げている。
それを目にした瞬間、山田は飛び出した。
それまで巡らせていた、冷静に観察するという思考は吹き飛び、後先などまるで考えていない。
あそこにいるのは十分に倒せるゴーマ部隊に過ぎない。しかしゴーマ王国のように強力なバックがついている可能性。同じ人間でも、異世界という未知の勢力の者。彼らと接触することもまた、当然リスクが付き纏う。
小太郎であれば、馬車の集団がもっと追い込まれるまで観察を続けただろう。窮地に陥れば、何かしらの奥の手を使うかもしれないし、どうせ助けるならば、ピンチであればあるほど恩も深まる。
そして何より、馬車の集団の戦力が最低になっていれば、こちらの戦力的な優位は絶対的。最悪のケースに備えて、楽に皆殺しにして全てなかったことにできる選択肢も残せる。
だが山田は呪術師ではなく、守護戦士だ。
そして何より、彼自身が心の奥底で強く思ったのだ。守らねば、と。
「うぉおおおおおおおおおおおおお————『重剛突進』っ!」
授かったばかりの新たな力、守護戦士の武技を発動。
自他ともに認める鈍重な戦士であるところの山田だが、突進の速度は軽快な剣士が移動強化武技を使って駆けるのと同等以上の速度を発揮した。
これまでにない高速で自分が走っていることに驚く余裕さえなく、山田はただ人間を襲うおぞましいモンスターを打ち倒すべく駆け抜ける。
「ンガァ、ゾダゴォ!」
「ブードズ、ブンダガァッ!」
高速とはいえ、丘の上から一直線に疾走する山田の姿を、ゴーマ達は即座に捉える。
新しい獲物がまた一人、のこのこやって来た————そう判断を下したのが、彼らの命運を決した。怒りに燃える守護戦士の姿を目にした瞬間、一目散に逃げるべきだったのだ。
「————ブゲッ」
山田の前に最初に立ち塞がったゴーヴ戦士が、弾け飛んだ。
予備の武装とはいえ、小太郎が丹精込めて作った全身鎧に、サラマンダーのブレスだって真正面から受けられるだけの頑強さを誇る大盾。それを前面に掲げて突進された時の威力は、ゴーヴの肉体を轢き殺すには十分過ぎた。
「ンバッ!?」
「ブギィッ!」
「ンダァバァアアアアアアアアアアア!」
血飛沫と共に、ひしゃげたゴーヴの体が宙を舞う。鋼鉄の塊が高速でぶち当たったことで、手足はあらぬ方向にねじ曲がり、衝撃で大半の内蔵が潰れている。
口から血と臓器の肉片が混じった汚物を吐き散らして、無様なゴーヴの轢死体が転がる。
筋骨隆々のゴーヴ戦士でさえ、その有様。子供のような背丈でしかないゴーマなど、ただ蹴散らされて肉塊へと変わる。
「ふうぅ……ゴーマ共が、俺の前で人様に手ぇ出せると思ってんじゃねぇぞ」
情けは人の為ならず。
ガタゴト、とそれらしい音はするものの、驚くほど乗り心地の良い馬車に揺られながら、山田はその言葉の意味を考えていた。
「どうか、改めてお礼を言わせてください。本当にありがとうございました」
そう言って深々と頭を下げるのは、商人を名乗る若い男だ。若いと言っても、高校生の山田より年上なのは間違いない。
二十代半ばといったところで、家庭を持ち、子供もいる。今この馬車の御者を務めているのも、彼の息子であった。
当然の如くゴーマを完膚なきまでに叩き潰して殲滅した後、負傷者を馬車に収容し、ゴーヴのコアと首を獲り、速やかに馬車を発進させた。
早い段階で助けに入ったお陰で、護衛らしき二人の負傷も命に別状はない。だが苦痛を感じるには十分な傷であり、今は鎮痛剤の効果で眠りに落ちていた。
そうして、ひとまず事態を収拾し終えて、ようやく面と向かって話ができるようになった。
「いや、大したことはしていない……」
ぶっきらぼうに応えて、真っ直ぐな謝意を述べる商人の顔を直視できなかったのは、どことなく今は亡き友人であるヤマジュンに似ていたからか。
細身で柔和な笑みを浮かべる眼鏡の彼を見ると、ついそんな印象を覚えてしまい————後先考えずに、助けに入った甲斐はあったと思うのだった。
「まさかこんな都市近郊で、ゴーマの集団に襲われるとは思いませんでした。最近、出没の噂はちらほらあったようですが……急いでいたとはいえ、最低限の護衛で済ませてしまった私の手落ちですよ」
ああ、と何となしに相槌を打ちながら、山田は商人の言葉から状況を推察した。
どうやらここは、本当にダンジョンの外であるらしい。その上、それなりに大きな街にも近いようだ。彼の口ぶりからして、ゴーヴ戦士率いる小隊にこの場所で襲われるのは、かなりイレギュラーなケースであるらしい。
ということは、少なくとも壁で囲われた街の外に一歩でも踏み出れば、即モンスターとエンカウントする、ダンジョン内と同じ環境ではないようだと、少しだけ安心する。何より、あの程度のゴーマ集団だけで、結構な脅威だと認識されているということは、この辺なら自分の力もそれなりには通用すると判断できた。
「ああ、失礼、すっかり名乗るのが遅れてしまいました。私はリカルドと申します」
「俺は……山田だ」
「ヤムダ様ですね」
ヤマダ、とわざわざ言い直すことはしない。明らかに日本人離れした堀の深い顔立ちをしたリカルド相手に、正確な発音を求める気にはならなかった。
今更の事ながら、当たり前のように異世界人と言葉が通じているだけで、十分にありがたい。
「その卓越した腕前に、高品質な魔物素材の武具。さぞや名のある戦士様とお見受けします」
「いや、俺はただの通りすがりだ」
「では、そういうことにしておきましょう」
山田の態度を、素性を詮索されたくないと受け取ったリカルドは、分かっていると言わんばかりの微笑みを浮かべて、それ以上の追求を止めた。
「私共はこのままヴァンハイトに向かいますが、ヤムダ様もそこまで同乗していただければ幸いなのですが」
「頼む、俺もそこに向かうところだ」
「そうでしたか。やはり目的は、ダンジョンですね」
ダンジョンがあるのか、と口まで出かけたが、ギリギリで飲みこんだ。
とりあえず窮地を救ったことで友好的に接してくれているリカルドだが、かといって自分の状況を洗いざらい白状するのに抵抗を感じた。
信用の問題ではない。言ってしまえば、このヤマジュンに似たお人よしそうな男を、余計なことに巻き込んでしまいそうな気がしたのだ。
「まぁ、そんなところだな」
「天職の力を授かった方にとって、ダンジョンはよい稼ぎにも、よい修行場にもなるそうですからね。ヤムダ様ほどの腕前であれば、最深部までの踏破も夢ではなさそうです」
「そのダンジョンは、誰も最後まで攻略しきっていないのか?」
「ええ、完全攻略どころか、各エリアもまだまだ未踏の領域が広がっていますね。ヴァンハイトを有名なダンジョン都市として成立させるだけの、巨大ダンジョンですよ」
「なるほどな」
またしても適当な相槌を打ちながら、山田は考える。
そのヴァンハイトという街のダンジョンが、自分のいたあのダンジョンなのか————少し考え、残念ながら否という答えが出た。
小太郎が杏子と共に学園塔から逃げ出した後、リライトと合流して最下層エリアまでやって来るまでの道中で、一旦ダンジョンの外に出てショートカットをした話を聞いている。
その話によれば、辺り一帯は広大な森林地帯であり、険しい大山脈が続く大自然が広がっていたと。
道を進む幌馬車の周囲に広がる光景には、それほど大きな山影はない。どう考えても小太郎達が登山した場所に近しいとは思えなかった。
「私も幼い頃は、未知のダンジョンを行く冒険者に憧れたものです」
「冒険者、か」
「誰も彼もが一攫千金を夢見てダンジョンへ挑む時代は、もうとっくに終わってしまいましたが。それでも、力ある者にとっては、まだまだ夢のある場所です。ああ、そうだ、もしもヤムダ様がダンジョンへ挑んだ時は、少しでも良いので戦利品を私に卸していただければ。命を救っていただいたご恩にかけて、必ずやお力になれるかと」
「そうか……それは、助かる」
いざ本当に人里へ辿り着くという実感が湧けば、次に気になるのは先立つモノ、すなわちお金である。
高校生という未成年ではあるものの、住所不定無職、その上ガチガチに完全武装しているくせに所持金はゼロ、という自分の状態には大いに不安を覚えた。リカルドの馬車に同乗していなければ、次の瞬間には強盗か略奪でもするのではないかと、問答無用でしょっ引かれてもおかしくない。
野球部一本でやってきた山田には、アルバイトの経験すらない。この異世界でいきなり就職活動をするといっても、何から手を付けるべきかも分からない。
しかしながら、ダンジョンに潜って魔物素材を採取してくるだけで、とりあえずリカルドが買い上げてくれるというなら、何とか飯代くらいは稼げるかと思えた。
「リカルド、その時は世話になる。よろしく頼む」
「とんでもございません。ヤムダ様のような強い戦士様と縁を結ぶことが出来たのは、この上ない幸運ですから————おっと、見えてきましたよ」
リカルドが指を差せば、その先には大きな街の影が確かに見えて来た。
「おお、あれが……」
「はい、アストリア有数のダンジョン都市ヴァンハイトです。ヤムダ様、貴方に多くの恵みがあらんことを」




