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呪術師は勇者になれない  作者: 菱影代理
第20章:外の世界へ
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第387話 蒼真悠斗は勇者になれない

「な、夏川、さん……」

「ごめんね、蒼真君」

 謝罪の言葉と共に繰り出された刃はしかし、一片の容赦もなく勇者の背を貫いている。

 深々と突き立つ二振りの刃は、どちらとも激烈な猛毒を宿す。


『デスクリムゾンスティンガー』:猛毒を持つ巨大サソリ型モンスター『デスストーカー』の毒槍尾を刃とした短剣『デススティンガー』の強化形。黒一色の刃は、本来の毒槍尾と同じ血に濡れたような紅色と化し、その毒性も原液と同等の濃度を誇る。この赤き刃に裂かれれば、紅に染まりゆく視界の中、煉獄で焼き尽くされるが如き苦痛と共に残酷な死へと誘われる。


『ガンマ式ゴールドパラライザー』:アラクネと黄色いカエルの麻痺毒を掛け合わせた『クモカエルの麻痺毒』を刀身に宿すナイフ『イエローパラライザー』の強化系。隔離エリアのボス『試作型リザードタイプγ・変異体』から摘出した牙と機械式の化学毒生成パーツを組み込まれている。『クモカエルの麻痺毒』と『ガンマ式化学麻痺毒』の二種類の麻痺毒液が刃から分泌され、両方の毒性が通れば文字通りに指一本動かせないほどに相手を無力化する。


 すでに霊獣キナコを相手に彼女が使っていた、二本の毒ナイフだ。常人に対しては即死級の威力を誇る危険物。霊獣化したキナコほどの頑強極まる巨躯であっても、繰り返しその刃にかかれば毒の影響を受ける。

 勇者とはいえ、体のサイズは人間。素の耐性でキナコを越えることはない。

 それも勇者の盾と鎧があれば、毒などの状態異常も難なく防げるだろうが————鎧はすでにその身にはなく、盾もまた呪いの矢を防ぐのに使われている。

 桜ちゃんの『黒流星』は、絶対防御たる『天の星盾セラフィックイージス』を使わせるための陽動だ。貫通してそのまま命中すれば、それで良し。防がれても盾の守りを使わせることで、完全な無防備にさせることが出来る。

 そうして蒼真悠斗は、妹の攻撃こそが最後の切り札と思い込んで、その防御に集中した。

 注意が逸れている上に、硬直状態にある相手の背中を刺すなど、天職『盗賊』にとっては容易いこと。これほどまでに無防備に背を晒していれば、ゴーマだろうが勇者だろうが、大差はない。

 暗殺系スキルである『ハイドアタック』と相まって、夏川さんは完璧なクリティカルヒットを決めてくれた。

「ぐっ、あ……がはっ……」

 強烈な神経毒と麻痺毒が蒼真悠斗の体を襲う。すでに言葉を発することもなく、苦し気な呻き声を上げている。

 ついに硬直は解けたようだが、青白く輝く『神判の腕ゴッドハンド』はプルプル震えて、虚しく空を掴むだけ。すでに反撃に移れるほどの体の自由は、奪われてしまったようだ。

 でも相手は蒼真悠斗だ。お前が完全に力尽きて倒れるまで、攻撃の手は緩めない。

「桜ちゃん」

「ええ、分かっています……」

 血濡れの手で再び『大黒桜・威天衝角』に番えた矢は、分かりやすく黄色に塗られた麻痺毒の矢だ。それを何本も束ねて弦を引く。

 そして僕は『無道一式』を構えて、ニョロニョロと一塊の肉片を呼び出す。

 大きな舌のように滑った赤い肉の塊は、不気味に蠢きながらその表面にビッシリと鋭い棘を生やした。

 麻痺毒が宿る棘のついた伸びる舌。これも横道と最初に戦った時に奴が使っていた能力だ。でもあの時にアイツが使っていた時よりも、さらに強力な麻痺毒を配合している。

 喰らいやがれ。蒼真悠斗、お前がこれから一生、全身麻痺で寝たきり生活になろうが知ったことか。

「これが自ら選んだ道の先だ。報いを受けろ、蒼真悠斗」

「無為な戦いも、これで終わりです、兄さん」

 桜ちゃんの矢と、僕の棘が同時に放たれる。

「ぐっ、うぐぅぁああああああああああっ!」

 絶叫を上げて矢と棘が全身に突き刺さる。肉体的な損傷と、さらに体を蝕む毒の追加によって、即座に失神してもおかしくないダメージが通っている。

 だが、それでも勇者は倒れない。

「うっ、ぉおおおお……そ、『蒼功波動』ぉ……プリ、ベイショ……」

 口から血が漏れ出ながらも、歯を食いしばって蒼真悠斗はスキルを発動させる。

『蒼功波動』は、より強力な光のオーラを纏う、万能な強化系スキル。そして『防疫プリベイション』は状態異常の回復と抵抗力を上げる治癒魔法。

 学園塔の頃に、きちんと君のスキルを聞き出しておいて良かったよ。

「諦めろ————『赤き熱病』」

 第一の呪術、発動。その真価であるバフの無効化を受けるがいい。

『蒼功波動』によって生み出される光のオーラは止められない。けれど、魔法を自らの肉体に作用させる『防疫プリベイション』は、『赤き熱病』で無効化できる。

 治癒魔法の力によって、病魔に対抗する強力な免疫を獲得する効果が、ただの微熱というだけの症状に強制的に回帰する。

 微熱状態になったところで、戦う敵なんて止められない、と最初に僕は思ったけれど……しこたま毒に蝕まれていれば、戦う力は失われる。

「く、あ……ああぁ……」

 毒の回復は阻害され、全身に負った傷からは刻一刻と鮮血が流れ出てゆく。

 猛毒に冒され、血濡れの勇者の体は唯一発動している『蒼功波動』で僅かに青白い輝きに包まれているだけ。

 最後に残った戦う力さえ尽きたかのように、震える『神判の腕ゴッドハンド』もその輝きを失い————ついに、弾けて消え去った。

「お、俺は……負ける、ワケには……」

 それでも諦めぬとばかりに、僕へ向かって失った腕を伸ばす蒼真悠斗に、

「もういい。もう、いいのよ悠斗君」

 委員長が、前に立つ。

 握りしめた愛用の氷杖『スノウホワイトブルーム』。雪の結晶を模した先端を、蒼真悠斗の血濡れた胸元へと突き付ける。

 一度だけこちらに振り返った委員長は、

「後は頼んだわよ、桜、桃川君————『氷結封晶アイズエンド・クリスタルピラー』」

 氷の封印術が発動する。

 勇者を包む青白い輝きを、さらに上書きするかのように鮮やかな水色の光が閃く。

 足元に描かれるのは半径二メートルほどの円形魔法陣。キラキラとダイヤモンドダストのような煌きを放ちながら————次の瞬間には巨大な氷塊が、いいや、凍てつく結晶の柱が突き立った。

 その透き通った結晶の中に、蒼真悠斗と、彼を刺し貫いた夏川さんも、術者たる委員長も、まとめて閉じ込めて。

 そこで、音が消える。シンと静まり返った大広間。その沈黙が、勇者との戦いの終わりを告げていた。

「はぁ……やっと終わったか……最後の最後まで、手間をかけさせやがって」

「う、ううっ……兄さん、ごめんなさい……」

 流石に疲れた。腰が抜けたように僕はその場にへたり込んで、重苦しい特大の溜息と共に、ようやく掴んだ勝利に安堵する。

 すぐ隣では、ズタボロの毒漬けになって封印された哀れな兄貴の姿に、とうとう桜ちゃんが泣き崩れているけれど、今は茶化す元気もない。

「ありがとう、委員長、夏川さん」

 出来ればこの手段までは、使いたくはなかった。けれどレイナを囮とした天道君とメイちゃんの攻撃すら凌がれた最終手段として、桜ちゃんとの連携で夏川さんのハイドアタックと委員長の封印を決めるプランは準備しておいた。

 本来なら蒼真悠斗一人だけを結晶の封印に閉じ込めるはずだったが……最後の最後まで足掻く勇者に、ナイフを刺した夏川さんも離れず追撃をかけ、魔力が限界だった委員長は自らを封印内に取り込むことで、『氷結封晶アイズエンド・クリスタルピラー』の発動を成功させた。

 命に別状こそないものの、さらに二人も費やして、ようやく勇者を封印することが出来たというわけだ。ああ、本当に、払った犠牲に見合わない。チート勇者の相手なんて、もう二度と御免だよ。

「小太郎くん、大丈夫?」

「メイちゃんこそ」

「私は大丈夫だよ。天道君が庇ってくれたから」

「お礼は言わない方がいいよ」

「そっか、そうかもね」

 まだ『ベルセルク✕』の効果が切れていないメイちゃんは、戦闘能力は十分に残っている。

 一方、勇者の必殺技を真正面から受け止めて倒れた天道君は、当然ながら気を失ったままのようだ。

 けれど、さっさと桃子が回収して下がらせている。良かったね、デキるメイドがいて。

 ご主人様が無茶をやらかした時も、邪魔せず黙って見守った桃子の判断はなかなかクレバーだ。流石は僕の妹。あの瞬間は天道君が身を挺して庇わなければ戦線崩壊していた、と桃子も分かっていたのだろう。

 天道君だけ倒れるか、全員倒れるか。その違いはあまりにも大きい。

 全員が全員、判断を一つ違えれば負けていた。勇者の圧倒的なチートスキルの力の前に、あえなく全滅というリスクは最後まであった。

 けれど、乗り越えた。僕らの勝ちだ。

「見たかよ、蒼真悠斗。これが仲間の力だ」

 俺が強ければ、俺がみんなを守れれば。お前はこのダンジョンサバイバルを通しても、結局その独善的な考えのままだった。

 確かに『勇者』の力は強大だ。けれど、その人よりも優れた力だけで、全てを守り切ることはできないのだと、最初の犠牲者が出た時点で明白だっただろう。もしかしたら、自分の力だけでは及ばないことがある、と自らの無力を認めることを、心の底で何よりも恐れていたのかもしれない。

 まぁ今更、君の深層心理などどうだっていい。

 ただ、僕らが勝った。僕達には、全てを任せて守ってくれる勇者様、の存在は必要なかったと、ここに証明されたのが全てなんだ。

「蒼真悠斗は勇者になれない……そりゃそうだ、お前はただの人間なんだから」

 僕らと同じ、力の限界がある、一人の人間に過ぎない。

 それをもっと早く認めていれば、こんなことには————


 ゴゴゴゴゴ……


 その時、重い地響きが広大なフロアを揺らす。

 発信源は明らか。ボディプレスを決めて地に伏した巨人。その真下からだった。

「ちっ、小鳥遊め……やっぱりお前も、往生際の悪い奴だ」

「————『大守護天使ギガ・ミカエラ』、召喚っ!!」

 小鳥遊を押し潰していた、巨人の体が持ちあがる。

 十メートルを超える巨大な召喚陣が眩い輝きを放ちながら、そこから巨人化レムを下から押し上げる大きな腕がまず現れた。

 五本の指を備えた、二本の腕。やはり巨人に対抗するパワーを持つのは、同じ巨人ということか。だがしかし、巨大な肉体に装甲を纏った巨人化レムとは異なることは、一見して明らかだ。

 それは鋼の巨人だった。

 鎧兜を纏っているのではない。これは純粋な機械マシンだ。

 鈍い光沢を放つ鉄色の金属フレームに、白と金色で彩られた装甲が疎らに張り付いている。そこには完成された美しさはなく、まるで作りかけで放置したプラモデルのように中途半端な印象。

 作りかけ、あるいは、壊れかけ。けれどそこに秘めるパワーは本物の巨人と遜色ない。

「いい加減にぃ、小鳥の上から退けよデカブツがぁっ!!」

 小鳥遊が怒りに吠えると同時に、ついに巨人レムの体がひっくり返された。

 ドズンッ! と超重量の巨躯が地に伏せる轟音と衝撃が駆け抜ける。俄かに巻き上がる粉塵で煙る向こう側に、巨大な人型の上半身だけが見えた。

 その姿はやはり、完全に巨大人型ロボである。

 フレーム剥き出しに部分的にしか施されていない装甲など、半端な状態にあるのは腕だけではなく全身がそうなのだろう。開かれた胸元には肋骨型の金属フレームが見えて、魔力の通りを示すように青白い光のラインが幾何学模様を描いて走っている。

 わき腹や腰元には白い装甲が装着されており、全体的にはスケルトンが壊れかけの鎧を着ているような有様。

 頭部もまた、半分だけ兜を被っているような状態だ。守護天使と同じような兜だが、顔を覆うスリットの入った面はロボらしい無機質さを感じさせる。

 けれど額にはサイクロプスの目玉のように、大きく青々と輝く一際大きな光が灯っていた。僕にはどうも、アレがただの額を飾るランプだとは思えない。明らかに周囲から配管のようなものが繋がり、ドクドクと脈打つように激しく青白い魔力の輝きを送り込んでいるように見えた。

「ははっ、終わり……もう終わりだよ、桃川。この『大守護天使ギガ・ミカエラ』を呼んだ以上は、もうお前ら全員————」

「————動くな、小鳥遊。勇者がどうなってもいいのか」

 僕は結晶に封印された勇者へと、『無道一式』を向けた。

 小鳥遊の様子と、実際に巨人レムをひっくり返したことから、あの『大守護天使ギガ・ミカエラ』とかいう巨大人型ロボの古代兵器は、僕らの対処能力を超えている。

 いまだ全身を現わさずに、上半身だけ召喚陣から出ているのは、本当に上半身しかなく、下半身が存在していないからかもしれない。

 手持ちの武装はなく、大守護天使と名付けられながらも、その背中に翼らしき装備も見えない。恐らくは翼型の兵装かブースターを取り付けるためと思われる突起が、半端な長さで肩の後ろから伸びているだけだ。

 コイツはきっと召喚陣から動けないし、本来の性能の半分も発揮できていない。

 だが消耗しきった僕らを倒すには、あまりにも十分過ぎる戦力を秘めている。コイツを小鳥遊の怒りのまま、暴れさせてはいけない。

「……はぁ?」

 そこで、初めて小鳥遊は状況を認識したのだろう。憎悪に燃える目で僕を睨んでいたのが、杖の先に示された結晶封印を見て、驚きに目を丸くした。

 分かりやすいほどの驚愕。

 なんだよ小鳥遊、そんなに勇者がやられたことがショックなのか? 馬鹿だなぁ、蒼真悠斗の言葉を信じるなんて。

「は、えっ、なんで……蒼真くん、負けたの……?」

「ああ、蒼真悠斗は負けた。見ての通りだよ」

「嘘……嘘だよ、そんな……勇者が負ける……? 小鳥の勇者が、こんな雑魚共に」

「ふーん、こんな雑魚に負けるなんて、真のクソザコってことじゃん」

「黙れっ!!」

 ドン、と小鳥遊は足で床を打つ。うわぁ、本当に悔しくて地団駄を踏む奴、初めて見たよ。

 いやホントに、そこまで蒼真悠斗の勝利を信じていたとはね。あの男に一番騙されていたのは、実はお前なのかも。

「分かったか、小鳥遊。お前の勇者様の生殺与奪は、僕が握っている」

「……こ、殺せない。そうだっ、お前に蒼真くんは殺せない!」

「確かにね。封印結晶越しに即死させるのは難しいし、それをやったら僕が桜ちゃんに殺されそうだよ」

 多少は冷静になったか。無様に喚くのは止めて、必死で頭を回しているのだろう。

 小鳥遊は僕の脅しなどただのハッタリだと、そう確信を得たいはずだ。そうすれば、戦力で上回った以上、再び圧倒的な優位に立てる。

「でもさ、ほら、そこに天送門があるじゃろ?」

 この白く輝く天送門はさぁ、一体どこに繋がっているんだっけ?

 脱出先の王都シグルーンの神殿? いいや、違う。

 今の天送門の設定は、追放用の完全ランダムになっている。

「ここに突っ込んだら、勇者様は一体どこに飛ばされるんだろうねぇ」

「で、出来るわけがない……そうしたら、委員長と夏川も巻き添えだぞ!」

「でも勇者がどっかに飛ばされたら、お前は困るよね?」

 なんだっけ、女神様から賜った崇高な使命。勇者の力の覚醒を、このダンジョンサバイバルを通して促すんだっけ。

 勇者様、もうこのダンジョンからいなくなっちゃうねぇ?

「なぁ小鳥遊、勇者覚醒の使命が達成できなくなったら、お前どうなんの? 馬鹿なの死ぬの? 天罰で雷にでも撃たれて死ぬの?」

「くっ、くそ、がぁ……」

 幼稚な悪態しか口に出ないか。小鳥遊の顔には冷や汗がありありと浮かび、明らかに目が泳いでいる。

 小鳥遊自身も、本当に使命の遂行を失敗した場合どうなるか、というのは分からないのだろう。神様がそんなこと、わざわざ詳しく教えてくれるはずもないし。

 詰んでいる。お前は蒼真悠斗を失った時点で、詰みなのだ。

「諦めろ小鳥遊。その大守護天使を戻して、大人しく投降しろ。蒼真悠斗と一緒に、命だけは助けてやる」

 勿論、嘘だ。お前は殺す。絶対に殺す。

 そんなことはお前も分かり切っているだろうが、どうしようもなく詰んだ時、命だけでも助かる、と思えば縋りたくもなるだろう。

 さぁ、折れろ。お前はもうお終いだ。勇者になれない蒼真悠斗は、絶対にお前を助けることはできないのだから。

「————開け、天送門」

『タカナシ臨時総督閣下の『天送門』再起動申請を受理。否決。現在、エメローディア軍令の優先適応により、再起動申請の審議を受け付けておりません』

「再申請。緊急事態だ、ジェネラルコード所有者に問い合わせろ」

『再申請内容をテンドウ臨時司令官に確認中————応答、なし』

「小鳥遊っ、お前まさか————」

 天道君は意識を失っている。何かしらの通信がセントラルタワーから入っても、応えられる状況じゃない。

 それを分かった上で、小鳥遊は自分の権限を通そうとしている!

「司令官の応答がないなら、さっさと小鳥の申請を通せ! 天送門を、再起動させろぉ!!」

『再起動申請、受理。天送門、起動シーケンスに移行します。開通まで、10,9,8————』

 俄かに輝きを増してゆく、天送門の白い光。門にはギラギラと青白い光の文様が蠢き、稼働している様子をあからさまに示している。

「お前っ、逃げる気かっ!?」

「逃げる? 違うよ、小鳥は、やり直すの」

 一際に眩い輝きが天送門から放たれると————その門の内には、白い光の円形魔法陣が綺麗に映し出されていた。

 天送門が、完全に起動した。ここを通れば、このダンジョンを脱して、ゴール地点である王都シグルーンへと至るのだろう。

「蒼真くん、先に行ってて————転送開始」

 穏やかな微笑みと共に小鳥遊が呟けば、天送門から白い光の帯が放たれ、突き立つ封印結晶を包み込むと————次の瞬間には、全てが消えていた。

 結晶の内に蒼真悠斗と、そして委員長と夏川さんを含めた三人丸ごと、天送門は転移を発動させた。

 これが、ダンジョンサバイバルの終わり。

 定められた脱出枠。ここにその三人は選ばれたのだ。

「あはは、お前ら全員ぶち殺してから、もう一回やり直せばいいんだよぉ」

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― 新着の感想 ―
小鳥に天罰早よ落として。
[一言] ええ……ここはまじで気持ちよく決着つけて欲しかったのに……
[良い点] 勇者が正規の転移を使って脱出ですか… ここで小鳥遊とは決着をつけるとして、 ダンジョン脱出後も物語が続きそうですねぃ
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