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呪術師は勇者になれない  作者: 菱影代理
第20章:外の世界へ
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第381話 煌の霊装

勇者おれ』は負けない————『煌の霊装アストラルメイル』」

 致命の二撃が今まさに悠斗の体を切り裂く瞬間、その身から眩い輝きが発せられる。ただの光ではない。その輝きは確かな質量を伴って顕現する。

 それは煌めく白銀の装甲に、鮮やかな蒼と黄金の装飾が施された、神々しい鎧。美しい装甲が胴体を覆い、手甲と足甲が嵌められ、頭には七つの宝玉で彩られたサークレットが現れる。そして背中に大きく広がる青いマントは、蒼白のオーラを纏いながら靡く。

 正しく勇者に相応しい、女神より授かりし聖なる鎧の装着が完了した直後、王と狂戦士の振るう刃がついにその身に届き、

「くっ!」

「うおっ!」

 キィン、とどこまでも澄んだ音と激しい閃光を発して、二振りの刃を勇者の鎧は弾き飛ばした。

 確実に仕留められた状況にも関わらず、それがひっくり返された驚愕に龍一と芽衣子も目を見開くが、それで攻撃の手を鈍らせる愚は冒さない。

 弾かれたなら、もう一撃。即座に切り返し、二の太刀を叩き込むが、

「無駄だ。お前達の剣は、もう俺には通用しない」

 先に動いたのは勇者の剣と盾。二人の追撃に対し、鎧の防御に頼らず自らの技でもって迎え撃つ。

 より一層に輝きを増した『光の聖剣クロスカリバー』が王剣を弾き返し、突き出された『天の星盾セラフィックイージス』がハルバードを押し返した。

「……これは硬い、だけじゃない」

「パワーが増したな。強化もされてやがる」

 完全に体勢を立て直した悠斗にこれ以上を無理に踏み込むのは危険と察し、二人はほぼ同じタイミングで間合いを離れる。

 そうして、改めて光り輝く白銀の鎧を纏った悠斗の姿を見て、その新たな力を感じとる。

「ああ、そうだ。この『煌の霊装アストラルメイル』はただの防具じゃない。これを授かって、俺はようやく理解したよ」

 ゆっくりと、鷹揚に剣と盾を構え、マントをなびかせて悠斗が語る。

「剣と盾、そして鎧。この三つが揃わなければ、本当の勇者の力は発揮されない」

 勇者の剣『光の聖剣クロスカリバー』。それは光り輝く聖なる刃で、あらゆる敵を一刀両断する必殺の剣。

 勇者の盾『天の星盾セラフィックイージス』。蒼白に輝く光の盾は、あらゆる攻撃を防ぐ最強の守り。

 いずれも強力無比な性能を誇る、勇者の固有スキルだ。だがしかし、この二つは強力ではあるが、全力ではない。

 勇者の鎧『煌の霊装アストラルメイル』。防具という点では盾と同じように思える。実際、鎧が発揮する防御力は盾と同等。

 しかし鎧が宿す真の能力は、これを纏う勇者が振るう武器。それに更なる強化を施すことだ。

「力が溢れて来る……この鎧を纏って、剣も盾も、ようやく全てが俺の体と一体になったかのようだ」

 それが決して気のせいではないことは、剣と盾が纏うオーラが目に見えて色濃くなっていることだけでも、十分に察せられる。

 事実、難なく龍一と芽衣子を押し返したパワーが、その強化の何よりの証明となっている。

「こいつは桃川の言うチートってヤツだな」

「やっぱり追い詰められると、新しい勇者の力が目覚めるんだね」

 小太郎の言う通りだった、と龍一も芽衣子も同時に思った。

 このスーパーエース二人を蒼真悠斗にぶつけるにあたって、真っ先に想定した事態である。王と狂戦士のタッグであれば、勇者すら完封できる。

 だが追い詰められた勇者が、そのまま無様に敗北するとは考え難い。そもそも、このダンジョンサバイバルは勇者覚醒のための出来レース。勇者の敗北を決して神は認めない。

 ならば当然、あるはずだ。いざという時の『テコ入れ』が。

 今回は、それがこの『煌の霊装アストラルメイル』というわけだ。

「……ここで使おうかな」

「待て、まだだ」

 芽衣子の動きを、龍一は制止した。

 対する悠斗は無理にこちらへ仕掛ける気はないのだろう。新たな力を手にした勇者に、戦うのを躊躇するならそれもまた良し、とでも言うように剣と盾を構えたまま、ただその場に立つのみ。

 お陰で、ざっと状況を確認し、話し合うだけの猶予が生まれていた。

「見ろ、桃川の方は優勢だ」

「小太郎くん、楽しそう」

 屍鎧を纏い、パワフルなモンスターと化した小太郎が嬉々として暴れ回っている様子は、ここからでも良く見えた。何か叫んでいるようだが、どうせいつもの挑発的な台詞ばかりであろう。因縁のある敵には、煽ってやらねば気が済まない。それが呪術師の流儀である。

「なら、まだこっちも無理を推すほどじゃねぇ」

「先に小鳥遊を殺せるなら、それでいいってことだよね」

 この戦況において重要なのは、勇者と賢者の分断だ。片方を速攻で仕留めて合流、残る一方に戦力を集中させるというのが理想的だが、そこまで上手く事が運ぶとは誰も思ってはいない。

 四つ目の固有スキルを覚醒させ、こちら側の戦況は不利になったと言える。しかし、小太郎の方が優勢であるなら、そちらを維持するのが安定だ。

 二人で勇者は倒せないかもしれないが、抑えることは十分にできる。優勢を保つ小太郎の邪魔を、悠斗にさせなければそれでいい。総合的にはいまだ戦況有利は覆らない。

「この分じゃあ、まだあと一つか二つ固有スキルを覚醒しかねないからな」

「そうだね。まだ温存しておかないと、後がなくなっちゃう」

「————相談は終わったか? どうする、大人しく降伏してくれると言うなら、俺は喜んで受け入れよう」

「相変わらずの甘ちゃんだな、お前は。そうやって降参のフリしたアホに、背中を刺されそうになったことがあっただろうが」

「ああ、あの時は龍一が蹴り飛ばしてくれただろう」

 ナイフを握りしめ、破れかぶれのヤケクソといったように奇声を上げて悠斗の背中目掛けて突っ込み、その凶刃が届く間合いへ踏み込む寸前に、横合いから飛んで来た龍一の強烈な飛び蹴りによって吹き飛んだのだった。そのまま降伏していれば無傷で済んだところを、全治三か月の重傷を負う羽目になった、馬鹿な不良の話である。

 悠斗と龍一、二人の間では似たようなエピソードなど山ほどある。ありふれた、けれど今となっては掛け替えのない思い出。

「そうだ、俺がお前の背中を守った————小鳥遊に、同じ真似ができるかよ」

 だが、今は親友たる悠斗と龍一は敵対している。

 甘い判断を下した悠斗の背中を、龍一が守ることはない。

 今の彼の相棒は、小鳥遊小鳥。あんな腹黒チビ女に背中を任せるのかと、龍一は嘲笑った。

「必要ないさ。俺は『勇者』だから。たとえ一人でも、みんなを助けて見せる。龍一、お前も俺が必ず助ける」

「ったく、散々経験してきてまだ覚えてねーのかよ。そういうの、大きなお世話ってんだぜ」

 お喋りの時間はお終いだ、と言わんばかりに龍一と芽衣子が再び武器を構えた。

 両者の戦意が満ちて、悠斗もその目を鋭くする。やはりこの二人は、そう簡単に諦めたりはしてくれないのかと。

「残念だよ。やはり、二人を傷つけなければならないのか」

「やってみろよ、ご自慢の勇者の力ってヤツでなぁ————『ネガウェイブ』っ!」

 大上段に構えた『冥剣・ザムド』を振り下ろせば、刀身に纏う闇の魔力が黒々とした衝撃波となって放たれる。

「さぁ、もっと輝け、『天の星盾セラフィックイージス』!」

 勇者の盾を構えれば、呼応するように勇者の鎧も輝きを発した。盾の表面にはこれまでにないほど青白いオーラが膨れ上がる。

 そして迫り来る漆黒の衝撃波へ対抗するように、光り輝く波動が放たれる。

 黒と白。二色の相反する力は、互いが互いを喰らい合うように入り混じり、そして何も残さず消えてゆく。

 勇者の盾は『ネガウェイブ』を完全に相殺した。

「はぁああああああああああっ!」

 そこへ間髪入れずに飛んで来るのが、芽衣子の『黒嵐剣斧ギラストーム』より放たれる雷撃。

 武技でも魔法でもない。だが武器に宿す強力な雷の力を、自らの魔力でもって励起し解き放つ。

 最初に放った時よりもさらに鋭い雷撃が、盾を構える悠斗の横合いから迫る。

「この程度の雷なら、盾を使うまでもない」

 翻るのは、長大な蒼き外套。布切れ一枚に過ぎないマントが、迫り来る雷撃の前に靡けば————バシィイッ! と激しく紫電を散らして炸裂する。

 フワリと揺れるマントには焦げ跡一つなく、悠斗の身にも静電気ほどのショックも伝わっていない。

 マント一枚翳しただけで防がれた。否、弾かれた。

「これは、マント型の『聖天結界オラクルフィールド』」

 雷撃を防いだ際の反応から、芽衣子はそう確信した。

 背中に広がるマントは、ただの飾りだとは思わなかったが、まさか『聖天結界オラクルフィールド』並みに強力な防御力を誇るとは。

 直撃を弾いてみせた鎧の守りだけでも厄介なのに、さらにマントの防御まで加わっている。身に纏った鎧は全方位を固め、前面は盾で、背面はマント、二重の守りが立ちはだかる。

 そしてマントによる防御は、悠斗の動きを阻害しない。すなわち、反撃の体勢がすでに整っているということ。

「上手く避けてくれよ、双葉さん。君を殺したくはない」

 眩い輝きと共に振るわれる『光の聖剣クロスカリバー』。瞬く三筋の閃光。青白い光の刃が虚空を走った。

 芽衣子に追撃する暇などない。飛んで来た縦一文字の斬撃を左にステップを踏んで避け、続く横薙ぎの一閃を飛び越える。

「くっ!」

 三撃目は斜め上への切り上げ。狙いすましたかのように、空中に飛んだ芽衣子へ迫る。

 咄嗟に左手の『ザガンズ・プライド』を拡張して盾とする。ギャリギャリと白熱した斬撃が、強烈に刀身を叩く。

 勢いのまま宙で押されるが、体勢は崩すことなく着地。その瞬間に四撃目が飛んでこなかったのは、すでに龍一が攻撃を仕掛けてくれていたからだ。

「まとめて吹っ飛べ————『ファイアブレス』」

 龍一が紅く輝く左手を掲げれば、そこに生み出されるのは四つの火球。燃え盛る大きな火の玉は、ただの火属性上級攻撃魔法ではない。

 これは竜の息吹。炎竜サラマンダーを喰らって得た、灼熱のブレスの顕現。

 四つの火球がそれぞれの軌道を描いて、悠斗へと飛ぶ。

「行け、『大火聖霊』」

 今度は盾ではなく、左手に握る『聖火蒼雷』を振るう。

 それに反応したのは、悠斗の黒髪に輝くサークレットだ。

 七つの宝玉が嵌められた、戦闘用というより美しいだけの装飾品といったデザインだが、これにも確かに勇者の力が宿っている。

 それぞれ異なる色合いの七つの宝玉は、その色に応じた属性を司っている。

 この瞬間、一際に強い輝きを放つのはルビーのように真っ赤な宝玉。キラキラした真紅の煌めきの内には、燃え盛る炎のような光が灯っている。

 強大な火属性の力を宿した赤き宝玉が、『聖火蒼雷』を通して繰り出される聖なる炎に反応。顕現する聖霊の力を、さらに高めてゆく。

 そうして呼び出された聖霊は炎の竜のブレスにも負けない、巨大な火球と化して現れる。その数は五。

 五つの火球が同時に発射。青く燃え盛る火の玉はただの攻撃魔法ではなく聖霊という意思を宿す。勇者の命を忠実に遂行する聖霊は、寸分の狂いもなく迫り来る四つの火球へと向かう。

 炎竜の紅蓮と聖霊の蒼炎が、虚空で激突。盛大な爆炎を咲かせて、灼熱の嵐が吹き荒れる。

 破壊力は対等。共にその場で爆散したが、悠斗が放った『大火聖霊』は五つある。

 爆炎を突っ切って、一つの蒼き火球が龍一を襲う。

「これ見よがしに一発多く撃ちやがって。舐めんじゃねぇ————『ネザーヴォルテクス』っ!」

 漆黒の渦を纏う王剣を振り上げた龍一は、眼前まで迫り来る火球を恐れることなく前進する。

 蒼炎の球が今にも着弾しようかという寸前、振り下ろした『ネザーヴォルテクス』は火球ごと飲み込み、悠斗へと迫る。

「舐めてなんかいないさ。龍一、お前が相手なら、俺はいつだって全力だ————『刹那一閃ネロ・ライトニング』」

 巨大な破壊力の渦となって頭上より迫り来る一撃に対するは、勇者が誇る必殺の武技。

 眩い輝きを放ちながら、瞬く間に巨大な光の刀身を形成した『光の聖剣クロスカリバー』は、強烈な蒼白のオーラを発する『煌の霊装アストラルメイル』に呼応し、更なる輝きを増した。

 これまでで最大の、光と闇の力がぶつかり合う。

 悠斗と龍一。勇者と王。対等な二人の関係を現わすように、互いに威力を相殺する結果に終わったが————今はついに、光の勇者へと天秤が傾いた。

「ぐっ、うっ、ぉおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 漆黒の闇が、聖なる輝きによって祓われてゆくような光景だった。強大な破壊力と化して渦巻く闇の魔力は、聖剣の光によって解かれ、瞬く間に掻き消えてゆく。

 そうして全ての闇を晴らしても尚、灼熱の光刃はそこで輝きを発し続けている。

 悠斗の『刹那一閃ネロ・ライトニング』は十全な威力を保ったまま、龍一へと振るわれた。

「————『飛雷閃』」

 寸前、耳に届いたのは武技の名。

 聞き覚えのない武技名だが、雷の力を宿すハルバードを振り回している以上、その効果は容易に想像がつく。実際、ピリピリと肌を刺激する魔力の気配からして、今まさに鋭い雷撃が放たれようとしていることは明らかだ。

 だが今の悠斗にとって、ただの雷撃など恐れるに足りない。魔法や武技の威力へと昇華した一撃になろうとも、このマントと鎧を貫くどころか、よろめかせることもできないだろう。

「むっ————」

 しかし、悠斗は龍一へ直撃させるはずだった『刹那一閃ネロ・ライトニング』を振り抜く途中で切り上げ、咄嗟にその身を翻した。勇者の直感が、防げと囁く。

 そしてその直感が正しいことは、直後に証明される。

「うぉおおおっ!」

 気迫の籠った声と共に、いまだ巨大な光の刃を保っている『光の聖剣クロスカリバー』を振るう。

 強烈な手ごたえ。雷撃を切り払うだけでは、こうはならない。

 煌々と輝く聖なる光の刃すら貫かんばかりに鋭い一撃と化して飛来したのは、雷を纏う漆黒の斧槍。

 そう、『飛雷閃』は雷撃を放つ技ではない。雷のような速さと鋭さでもって、長柄武器を投げる投擲武技であった。

「やぁああああああ————」

 そして『黒嵐剣斧ギラストーム』を投げた後を追うように、芽衣子自身が猛烈な勢いで迫り来る。

投擲武技を放って開いた右手には、すでに新たな刃が握られている。禍々しいオーラを放つ呪いの刃、『八つ裂き牛魔刀』だ。

「流石は双葉さんだ」

 ついさっきまでの自分であれば、これで押し切られていただろう。『飛雷閃』を防ぐのに精一杯で、直後に斬りかかって来る芽衣子への対応が一手遅れ、そのまま押し込まれてしまう自分の姿が容易に想像できた。

 この局面で貴重にして強力な魔法武器である『黒嵐剣斧ギラストーム』を使い捨て同然の投擲武技に使う、という思いきりの良さも、とてもついこの間まで戦いの素人とは思えない判断力と胆力。

 やはり双葉さんは、あの龍一と肩を並べて戦うに相応しい実力者だ————そんな感想を抱くほど、今の悠斗には余裕があった。

「けれど、一人で突っ込んで来たのは悪手だよ————『無双剣舞ライオットブレイザー』」

 連撃武技の発動に、芽衣子に衝撃が走る。

「技後硬直を————」

 無視しやがった、この野郎。芽衣子でさえ、思わずそう叫びたい気分だった。

 大技である『刹那一閃ネロ・ライトニング』を、途中で軌道を変更したばかりか、さらにはその直後に続けて新たな武技を発動させたのだ。

 これまでではありえない。だがしかし、絶対に発生するはずの隙を埋めるための力が、勇者の鎧には備わっていた。

 たとえ肉体が武技の発動によって硬直しようとも、その身を覆う鎧そのものが動けば、体は追従して動く。時間にすればほんの僅かな硬直。けれど天職を宿す超人同士の接近戦においては致命的な隙となる僅かな時間を、鎧が動くことで初動を起こすことができる。

 その結果、悠斗は武技の連続発動という掟破りの行動を見せた。

「ぁああああああああああああああああああああっ!!」

 そこまで理解していながらも、勇猛な狂戦士は止まらない。想定外の一手。自身の不利を悟りながらも、それでも一歩も引かぬ勇気に敬意を表するように————悠斗の『無双剣舞ライオットブレイザー』は全力でその速度と威力を解き放つ。

「ぐっ、ううっ……くあああっ!」

 時間にして、たった3秒。だがそれだけの秒数に瞬いた剣閃は数十にも及ぶ。文字通り、常人の目には留まらぬ超高速斬撃。

 芽衣子はそれを呪いの刃と巨人の剣、頼れる二振りの武器にて必死に喰らい付いて行ったが……一秒後には押され、二秒後には凌ぎきれず、そして最後の三秒に至る瞬間には、その身に直撃を許した。

 手足に幾筋もの創傷が刻まれ、さらに胴体には袈裟懸けの斬撃を叩き込まれて、血飛沫を上げて芽衣子は弾き飛ばされる。強靭な狂戦士が、ついにその身を地へと伏した。

「————これで分かっただろう。龍一と双葉さんの二人がかりでも、真の勇者の力を得た俺には勝てない」

 龍一は太刀筋の半ばで止まったとはいえ、『刹那一閃ネロ・ライトニング』を受けて膝を屈した。あまりにも強大な灼熱の斬撃は、その身から濛々と湯気が立ち昇るほどの熱量を刻み込んでいる。

 そして疾風怒濤の連撃武技によって、無数の傷と一つの直撃を許した芽衣子は、血濡れとなって倒れている。止めどなく流れ出る鮮血が、セーラー服を紅に染めてゆく。

「もう諦めるんだ。これ以上、二人が傷つく必要はない」

 慈悲の籠った憐みの視線を悠斗が、ついに傷つき倒れた二人を眺め、

「はっ、バカじゃねぇのか……」

「……この程度で、私達を止められると、思っているの?」

 煤けた顔に心底からの嘲笑を浮かべて、王が立つ。

 血濡れの顔に底なしの闘志を宿した瞳を輝かせ、狂戦士が起きる。

 不屈と言うより他はない、二人の誇り高き姿に、勇者はただ、悲し気にその目を伏せるだけだった。

「————そうか、ならば立ち上がれなくなるまで、壊すしかないな」

 2022年12月30日


 今年最後の更新となります。流石に来年には、この第20章も終わると思いますので、どうぞお楽しみに。それでは、来年もよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[一言] 真の勇者の力をモンスター相手に使うことなくクラスメイトにしか使ってないこと自称勇者
[良い点] 簡単には勇者を倒せなかったところ。 ヘイトがさらに蓄積されたところ。 [気になる点] 勇者:下げ→上げ(今ここ) さらなる上げはあるのか。 鎧の持続時間とか、制限はあるのかな。 何の制限…
[一言]  『第337話 外法の先(1)』で――アレはいまだ中庸にある。理を外れ使徒と化すか、人の身に留まれるか――と、ルインヒルデ様がおっしゃられておられましたが、今の蒼真悠斗ってもう完全にあっち側…
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