第380話 紅き屍鎧
「準備はいいかい、僕の闇精霊。ギアを一つ上げていくぞ————」
僕は『亡王錫「業魔逢魔」』とは別に、もう一つの装備を手にする。それは杖ではなく、仮面。ギラ・ゴグマ、バズズの髑髏である。
オーマを守る最強の大戦士はザガンに間違いない。だがしかし、同じ巨人化の力を宿すバズズもまた、王国において選び抜かれた最強戦力の一角を成す。すなわち、オーマの忠実な僕であり、王を守護する大戦士なのだ。
そのゴーマ王国を滅ぼす時には、すでにバズズ仮面となって大いに僕の力として貢献してくれたが……今は術者たる僕だけでなく、真の主であるオーマも共にある。君と同じく、僕が手ずから仕上げた装備品としてね。
レムが『巨大化』する時に、『亡王錫「業魔逢魔」』と『巨人の兜』をセットで使うように、バズズもオーマと一緒に使ってやるのだ。
そうするとどうなるか。忠義を尽くすべく偉大な王から直々に命じられるのだ。全身全霊で頑張ってくれるに決まっているだろう。
さぁ、行くぞ、バズズ。オーマの名を持って命ずる!
「————『屍鎧「業魔紅魔」』」
仮面を被り、杖を振り上げ唱えれば、黒く渦巻く混沌の沼と、禍々しい血色の召喚陣が弾ける様に展開する。
ドロドロの混沌沼からは赤黒い肉塊が触手のように飛び出しては僕の体に絡みつき、さらには血の召喚陣が崩れながら、不気味に輝く真っ赤なラインとなって肉塊へ刻み込まれてゆく。
紅い光のラインを纏った肉塊は瞬く間に僕の体を覆い尽くし、四肢を伸ばして戦士の体を形成してゆく。
血の滴る気持ちの悪い肉塊は、密度を増して寄り集まっては引き締まり、強靭な筋肉の鎧と化す。分厚い、という表現を越えるほど大きく隆起した胸筋と背筋。肩も大きく盛り上がり、そこから伸びる腕はゴリラと比べても遥かに太い怪物の剛腕だ。力強く大地を踏みしめる両脚は、筋肉の鎧を纏う巨躯を俊敏に動かすに足るパワーを秘めている。
一瞬の間に変身を終えて、再び開けた視界が戻ってきた時、ここ二階建てかと思うほどにまで視点が高くなっている。それも当然だ。この『屍鎧「業魔紅魔」』は、王国攻略の際に使った時よりも、さらに大型化しているのだから。
その身は正にゴグマを彷彿とさせるほどの巨躯。赤い毛皮と大山羊の如き立派な二本角は巨人化バズズと同じ特徴。しかし表皮はタイヤゴムのように黒く厚い、柔軟性と耐久性を持つ性質へと変わっている。
そして何より、その黒い肌に浮かび上がる真紅の呪印。刺青のように全身へ術式が縦横無尽に刻み込まれている。真っ赤な輝きが脈動し、全身に魔力と————闇の精霊の力が行き渡って行くのを僕ははっきりと感じた。
「なっ、なんだ……モンスターに変身しやがったのか」
「そういえば、お前には『屍鎧』を見せたことなかったね」
王国の爆破工作と、オーマとの決戦、どちらも小鳥遊は居合わせなかったし、こちらの状況を監視する余裕も準備も出来ていなかったのだろう。あの時点の小鳥遊は、呑気に北門からゴーマ王宮にカチコミかけてきた勇者様御一行について行っただけだ。
もっとも、精霊対策皆無であった小鳥遊が、事前に『屍鎧』を見ていたとしても、何もしなかっただろうけど。
所詮は魔力消費と引き換えに、モンスターパワーで前衛職並みの力が発揮できるというだけのこと。決してメイちゃんや天道君のように、隔絶した強さまでは持ちえない。シンプルに戦うだけの能力は、かえって与しやすいとも言える。
だがしかし、この『屍鎧「業魔紅魔」』は僕がかなり力を入れて仕上げた一品である。
「コイツはレア素材をつぎ込んだ一品モノのユニーク装備だぞ————」
全身にみなぎる闇精霊に、僕の意思を伝えて動き出す。
やや前傾姿勢となり、強靭な脚力で踏み込み、一気に駆け出す。急速に流れゆく視界と、フワリと飛ぶような浮遊感。一足で何メートルも進む魔獣が疾走する感覚と共に、力を込めて振りかぶった腕を振り下ろす。
その先にいるのは、悪霊入りスケルトンに集られて足が止まっている守護天使の一体。
「————お前らみたいな量産品に、負けるかよぉ!」
バギン、と金属質な轟音を立てて、屍鎧の拳と天使のバリアが衝突する。
奴らの『聖天結界』など、所詮は量産型の劣化品。桜ちゃんの武技でも切り裂けるのだから、コイツのパワーで砕けないはずもない。
だが、流石に一撃は止めたようだ。バキバキと砕け散った光の破片が舞っているが、その内に立つ天使にダメージはない。
なら、もう一発ぶん殴ればいい。
「オラァッ!」
砕けた結界を修復するよりも先に、二発目の拳をぶち込めば今度こそ中身の天使は純粋物理攻撃により叩き潰された。
ふふん、そのご立派な鎧兜は見掛け倒しだな。プラスチックで出来てんのかよ。
「ふはははは! 見ろよ小鳥遊ぃ、これぞ力こそパワーッ!」
「ああっ、貧弱チビがぁ、ちょっとデカくなっただけで、調子こいてんじゃねぇっ!」
僕が守護天使を殴り飛ばすのと同時に、小鳥遊も展開していた召喚陣から新手を繰り出してくる。
むっ、違う装備に違う姿の奴らも混じってるな。
盾を持った一回りデカいのと、二刀流スタイルの細いのが、それぞれ二体ずつ。ふふん、こっちが攻勢に出たから、ビビってさらに手札を切って来たな。
「雑魚に構うなっ、さっさと桃川を殺せっ!」
「はっはっは、そうだかかって来いよ雑魚共ぉ! たまには僕にも俺ツエーさせろ!」
正しくボスモンスターが如く圧倒的な力を振るうのは、楽しくてたまらないね。おまけに、相手も悪手を打ってくるなら笑いが止まらない。
今この場で誰よりも目立つ存在となった僕が、さらに挑発することで小鳥遊は完全に僕だけをターゲットとしている。
実際、僕を殺せればアンデッド軍団も止まるし、他に用意していた策も使えなくなってしまう。桃川小太郎の大将首を上げれば、確かに小鳥遊の勝利は確実である。
でも、だからこそ僕がヘイトを一手に引き付けるタンク役として成立するのだ。
悪霊がインしてイヴィルアンデッド軍団と化した時点で、すでに僕と桜ちゃんの役目はスイッチしている。『聖天結界』の万能防御と薙刀による近接能力で前衛を務めていた桜ちゃんは、今はもう僕の後ろへと下がり『聖女の和弓』を構えている。
悪霊が操作する状態だと、僕の制御が完璧に効かないという欠点がある。要するに、下手すると桜ちゃんにも襲い掛かる奴がちらほら出ちゃう。
いやぁ、初めて悪霊操作を試した時、スケルトンみんな桜ちゃんに群がって、大変なことになったよね。僕はキツめの往復ビンタを喰らった。
ともかく、桜ちゃんは後衛に徹し、そして守護天使の狙いが僕だけに絞られたとなれば、召喚したアンデッド軍団はフリーになる。
小鳥遊、お前さぁ、雑魚無限湧きするタイプのボスと戦ったことないのかよ。アクションでもRPGでも、古来からある定番のギミックだろうに。
基本的にゲームでボス戦ってのは一対一、あるいはボス一体に対して主人公パーティ複数人、という構図だ。しかし、そこで群れを率いるボスらしく、手下を呼ぶパターンもある。
最初だけ雑魚が一緒にいる場合や、途中で増援が来る場合。状況や雑魚の湧く条件も様々で、一定時間で永遠に現れ続けることもあれば、ギミックやボスの部位破壊などで停止できたりもする。あるいは、ボス部屋にいる雑魚の数が一定以下に下回れば常に補給される、などなど。ゲームによって色んな仕様があり、そしてそれに応じた攻略法、最適な立ち回りというのが確立されるものだ。
さて、今の僕はどうかといえば、
「ふっふっふ、この形態で雑魚を呼べないとは言っていない」
混沌の沼と血色の召喚陣を、僕は手近にいた守護天使を踏みつぶしながら展開する。
「ちいっ、まだ雑魚共を呼べるのかよぉ!」
そうだよ小鳥遊。しかも攻撃と同時に召喚もできる。
守護天使を強靭な脚力と数百キロ単位の体重を込めた踏みつけで、装甲ごとバッキバキに蹴り砕きながら、僕の周囲から新たなスケルトン達が生えて来る。
「————『悪霊憑き』」
そして悪霊インストールのスケルトン達は、狂気のままに前線へと走り出す。
それにしてもこの場所、やけにスムーズに悪霊が出てくるんだよね。
古代都市アルビオンの規模と文明度を鑑みれば、かつてこの場所は東京駅のような賑わいだったことだろう。そして大量の人が集まれば、その分だけ大量の思念もあるということで……特に悲劇なんざなくたって、日々の積み重ねで莫大な負の感情や怨念も溜まってそうなものだ。
予期せぬ有利なフィールド効果である。折角だから大いに利用させてもらう。何千年モノだか分からん古代の悪霊共も、体を得て大暴れできる千載一遇の機会に喜んでいることだろう。
そうして新たなアンデッドモンスターズを湧かしつつ、僕自身も次なる獲物へと殴りかかる。
「自分で言うのも何だけど、割とクソボスなんだよね、今の僕は」
ボス本体は強靭なパワー型の上に素早い機動力を誇る。
そして魔力が尽きない限りは、『愚者の杖』で召喚出来る速度で常に雑魚を生やし続けることが可能。都合よく、破壊すれば召喚を止められるギミックや弱点も存在しない。
何故ならば、『愚者の杖』で召喚を実行しているのは、『屍鎧』の中にいる僕本体が行っているからだ。
この『屍鎧「業魔紅魔」』は闇精霊を介して操作している。戦うのに十分な指示さえ闇精霊に伝えることができるなら、僕自身の手は空いている。だから、自ら杖を握って呪術の行使が可能。
暴れ回る『屍鎧「業魔紅魔」』の中にいながら、安全にね。
「やっぱり、中を広くしておいて良かったよ」
僕の視界に映るのは、『屍鎧「業魔紅魔」』が見ている守護天使達と戦う光景と、僕自身の目がみている屍鎧内部、二つが混成している。
まぁ、デュアルモニターで操作なんてPC使う上では常識だし、携帯機のくせに画面二つあるゲームハードだってあるしね。その上、僕は常日頃から『双影』を全力稼働させて、一人で複数人分の動きをしているのだ。
それぞれ別々の視界を有しながらの行動は慣れている。このマルチタスクが呪術師としての僕の地味な強みでもある。蒼真悠斗だって残像を出せる程度だし、小鳥遊の『投影術』はお喋りするくらいが精々だ。折角、熟練度を上げれば僕と同じくらいにはマルチタスク化が出来るだろう『投影術』というスキルを持っていながら、ロクに伸ばさなかった小鳥遊の自己責任である。
さて、そんなワケで『屍鎧「業魔紅魔」』を大暴れさせつつ、その内部にいる僕は生体コックピットに座っている、という感じの状態だ。
元々は隙間なく肉に包まれて、自分自身がモンスターへと変身した感覚だったのだが、闇精霊操作をする関係上、それほど直感的なダイレクト操作にこだわる理由はなくなった。要は動けばいいのだから。
自分の意思が即座に反映されるよりも操作性は若干落ちるとはいえ、それでも内部の僕自身が自由に呪術を行使できる状態にある方が、遥かにメリットがある。そのために最低限必要なのは、『愚者の杖』を筆頭とした杖を自分で握りしめて構えられるだけの空間。
頑張ってコックピットスペースを確保するため、『屍鎧「業魔紅魔」』が元々の姿よりも大型化することとなった。かといって、そう簡単にデカくは出来ないから、なかなか難しいバランス調整となったよね。
試行錯誤を重ねた結果、完成した『屍鎧「業魔紅魔」』の生体コックピットがこれだ。
大きく太い肋骨のフレーム内部に、ドクンドクンと脈打つ真っ赤な筋肉の壁で囲われた、実に肉々しい空間。僕の下半身は完全に肉に埋もれ、上半身だけが狭苦しい内部で露わとなっている。
目の前には肉の触手が絡んで固定されている『愚者の杖』。操縦桿のように杖を握りしめて、僕は呪術を発動させるのだ。
「うおっ!」
すでに三体目となる守護天使をぶっ壊したところで、飛来した攻撃が着弾して屍鎧の巨躯が揺らいだ。
結構な威力と衝撃である。分厚い毛皮を焼き焦がし、少しばかり肉が抉れた。
痛覚を感じる、なんていうアホ仕様は勿論採用していない。だが損傷具合の把握は必要なので、傷の深さは何となく感じ取れるくらいには調整してある。具体的に言えば、ジンジンと熱を持つような感じだろうか。
「なるほど、大砲持ちのタンク野郎か」
撃ってきたのは、小鳥遊の前に陣取って盾を構えるデカい守護天使。よくあるタンクタイプの雑魚敵、通称デブ。
四角い大盾を左手で支えながら、右手には大口径のライトマシンガンみたいなゴツいブラスターを構えている。そりゃあ、我が身を盾に護衛するなら、その場を動かずに攻撃できる飛び道具を装備するのが一番に決まってるか。
その見た目に違わず、唸りを上げて大きめの光弾を連発してくるLMGブラスターは、ライフル型よりも威力が高い。いくら『屍鎧「業魔紅魔」』を着込んでいても、集中砲火に晒されれば蜂の巣にされてしまう。
けど、こういう時にスピードが活きるんだ。バズズはお前らみたいなデブとは違うんだよぉ!
「バリアがあるからフレンドリーファイア上等って感じ? 遮蔽物になるだけで十分だよ」
脚力を活かして駆け回りLMGの射線から逃れる。多少素早く動いたところで、今の僕はデカい的だ。だだっ広いこの空間で狙い続けるのはそう難しい事ではない。
でも、ボス部屋というのは基本的にそういうもんだ。そして、そんな時に相手の遠距離攻撃を凌ぐ遮蔽物として、付近の敵を利用するというのも基礎的な立ち回りだろう。
守護天使は『聖天結界』に守られており、その見た目以上に防御範囲は広い。結界の広さの分だけ弾避けになるのだ。
そしてこの場の守護天使は小鳥遊の命令通りに、全て僕を狙っている。剣や槍の近接装備持ちは、わざわざ近寄って来てくれるほど。接近戦を挑んでくる奴らが複数いれば、もうそれだけで射線を遮ってくれる壁の完成だ。
「僕を守ってくれてありがとね。コイツはお礼だ、取っといてくれ」
屍鎧を倒すには微妙な威力の剣を振り回している一番近い奴をぶん殴ってシールドブレイク。そこで頭を掴んで、有り余るパワーで投げつける。
勿論、狙うは小鳥遊の立つ場所。それだけでタンクは射撃を中断し、しっかり盾を構えて防御姿勢をとった。折角、ダメージを通すに足る武器を持っているのに、攻撃の手を止めるとは。使えないご主人様を持つと、苦労をするねぇ君達。
なんて、光る弾丸の嵐が和らいだことで多少の余裕が出たところで、
「おっと! やっぱりお前らスピードファイターだな!」
二刀流の守護天使がかなりの高速で突っ込んで来た。地上ではなく、空を飛んで。
正しく天使らしく、宙を舞って華麗な剣戟を繰り出してくる。装備している剣はやはり雑兵とは違って、より強力な装備らしい。
青白く輝く刀身は、屍鎧の毛皮も容易く切り裂く。そしてさらに、振るえば光の刃を飛ばす、遠距離攻撃も可能とする。
「そしてヒット&アウェイ……定番のウザ戦術だね」
高火力高機動を最も活かせる立ち回りだ。火力が高いから無理して攻撃回数を稼ぐ必要はない。速度を活かして、絶対に相手に捕まらないよう飛び続ければ、被弾もゼロに抑えられる。
コイツの空中機動力は、流石に地を駆けるだけのバズズでは分が悪い。ちょっとジャンプ攻撃したくらいでは、簡単に回避されてしまった。
狙われた方は距離を取りつつ、光の斬撃を飛ばしてチクチク。そして再開されるタンク&ノーマル天使からの銃撃。
いかん、これは被弾が多すぎる。このままだと流石に削り倒されちゃう。
「でも今の僕はクソボスだから、回復もしちゃうんだよね————燃えろ、『肉体活性』っ!」
バズズの修めた武技が発動する。
全身が燃え上がるように薄っすらとした赤い魔力のオーラに包まれると、全身の筋肉が大きく脈動し……刻み込まれた傷跡が、波打つように蠢く肉によって塞がれてゆく。
髑髏にスキルが宿るのは、天職持ちに限った話ではない。ただの雑魚なら何も持ちえないだろうけど、バズズは立派なボスモンスターであり、栄えあるゴーマ王国の最精鋭、ギラ・ゴグマの一角。
バズズの髑髏には、文字通りに骨身に沁みつくほどに馴染んだ、鍛え上げた武技が宿っている。
火属性魔力を用いて肉体を再生させる回復武技、『肉体活性』もその内の一つだ。
いやぁ、回復するボスモンスってマジで萎えるよね。ただでさえ大量のHP持ってるくせに、回復って……プレイヤーの努力と時間をドブに捨てる、シンプルにクソ行動だ。
どうだ小鳥遊、ボス回復は効くだろう。
「ゴキブリ並みの生命力かよ……だったら死ぬまで切り刻めっ!」
おっと小鳥遊、有効とみたかここでさらに二刀流を追加か。
コイツはどれだけ増援を出せるのだろうか。だが無限ということはあり得ない。準備してある天使の数だけか、あるいは魔力など何かしらのリソースを削っているはず。必ずどこかで限界はあるし、それはそう高い上限でもないはずだ。
そうじゃないなら、魔導人形なんて雑魚に頼らず、天使だけ使っていればいいんだからな。
「回復力を火力で上回るか。お前らしい単純な解答だな」
だが悪くない。シンプルだからこそ、直接的な結果に繋がる。
けれど、それはあくまで想定通りに事が運んだ場合の話だ。
「ブンブン飛び回るだけの、エセ剣崎流の羽虫如き、堕とせないワケないだろうが」
新手の二刀流共が合流するよりも前に、再び僕は跳躍し宙を舞う最も近い奴へと迫る。
当然、こちらの接近を察して素早く身を翻して間合いから逃れていくが、
「逃がすかよ。しっかり捕まえろよ横道————『百腕掴み』」
屍鎧の内で、僕が握りしめた『無道一式』が『完全変態系』を解放する。
それは屍鎧を通り、その体表で顕現。傍から見れば、胸元から突如として巨大な触手が飛び出たように見えるだろう。
最初に編み出した拘束技である『百腕掴み』は、文字通りに様々な腕を生やしたムカデのような気持ち悪い触手と化して、逃げる天使を追う。
「捕まえた」
展開している『聖天結界』ごと巻き付くように『百腕掴み』が捕らえ、宙から強引に地上へと引きずり下ろす。
床へと叩きつけた程度でバリアは割れないが、僕は多少の被弾を無視して接近。足の止まった高機動型など、そのままワンコンボで散る運命である。
連撃を見舞って二刀流を始末した頃には、大きな隙と見てもう一体の二刀流が突っ込んでくる。
再び伸ばした『百腕掴み』だが、すでに見た技など通じるかとばかりに、華麗なバレルロールで回避し、
「————『閃光白矢』」
桜ちゃんの放った上級光攻撃魔法が直撃した。
彼女が後衛に徹していれば、この程度の狙撃など容易だ。それくらいの能力がなければ、無理を推してでも前に立たせているっての。
「はい、捕まえた」
桜ちゃんの一撃をバリアで防ぎはしたものの、体勢を崩してスピードが落ちた二刀流野郎を、『百腕掴み』で握るのは簡単なことだった。
後は同じように処理する。敵を殺すに十分なパワーがあると、楽でいいね。
「まだ手札があるなら、切っておくのは今の内だよ。この程度じゃ、僕らは止められないぞ、小鳥遊————」
攻めているのは、こっちの方だ。これ以上、何もないというのなら、邪魔な天使共を削り倒し、お前を殴りに行ってやる。




