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呪術師は勇者になれない  作者: 菱影代理
第20章:外の世界へ
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第375話 ヤマタノオロチ再討伐(1)

「————ちっ、この再生力は、やっぱキリがねぇな」

 灼熱のファイアーブレスによって黒焦げとなって崩れ落ちていたはずのオロチの頭が、ピカピカの青白い鱗に包まれた新しい頭部を生やし、再び動き始めた。

 黒竜リベルタを駆る龍一と四本首のヤマタノオロチとの戦いは、一進一退の攻防が続いている。

 自在に宙を舞い、オロチの巨躯にも打撃を与えうる火力を備えたリベルタ。古代の生物兵器として単独で強力な黒竜に跨る龍一も、習得した数々の魔法によって攻防共にサポートができる。

 当然ながら現代の高校生にドラゴンに乗って空を飛ぶ経験など皆無だが、天性の才能によって龍一は正しく人竜一体と化したように巧みに操り、互いの力を合わせて空中戦を演じていた。

 これがただの飛行モンスター、あるいはサラマンダーのような飛竜が相手であれば、苦も無く倒せるだけの空戦能力を発揮しているが、相手はレイドボス同然のヤマタノオロチ。たとえその首の数が半減してあったとしても、単騎で相手するにはあまりにも強大な魔物だ。

「しかし、肝心のコアもあの岩山の奥底なのじゃろう?」

「ああ、殻剥き出しなのは前より楽なんだが……岩山同然なのは変わらんねぇな」

 地響きと共に現れたのは首だけでなく、本体とも言うべき中心部もこのエリアの表層に現れていた。

 大量のガーゴイルが住まう岩山こそ形成していないが、サザエのような刺々しい巨大な殻が鎮座している。かつて倒したヤマタノオロチの岩山には巨大な石柱が林立していたが、どうやらそれはより長く発達した殻の棘であるようだった。

 それと比較すれば以前のよりも外殻は未発達だと思われるが、だからといってそう易々と破れるほど脆くはない。

 だが無限の再生力を誇るヤマタノオロチを仕留めるためには、その体の中央に宿す、巨躯に見合った巨大なコアを破壊しなければならない。

 ブレスを連発する四本首の相手をしながら、堅牢極まる外殻を破壊しコアにまで攻撃を届かせる、というのが如何に困難かというのは、リベルタに乗る龍一に浮かぶ苦い表情が如実に物語っていた。

「集中攻撃できれば、あの外殻とて壊せぬことはないのじゃが」

「それが出来ねーから、苦労してんだろうが」

 断続的に放たれるブレスの対空砲火を潜り抜け、外殻への攻撃は多少なりともできている。黒竜の火球は硬質な外殻を穿っているが、まだまだ浅い。

 かつて小太郎が『腐り沼』で掘削した時、その厚さはおよそ5メートルであった。首が半分なので、殻の厚さも半分、という楽観的な予測に基づいたとしても、それを破るにはまだ及ばない。

 このままの戦い方を続けるだけでは、コアを破壊するまでにどれだけの時間がかかるか————

「むむっ、ご主人様、新手ですよっ!」

「おいおいマジかよ、勘弁してくれ」

 ゴゴゴゴ、と地響きを上げながら大地が隆起する。規則正しく植えられた庭園の木々を根こそぎひっくり返しながら、地中より出でたのは新たに突き立つ白い巨塔。すなわち、五本目のオロチ頭であった。

「アイツは風属性か」

「嵐の刃で範囲攻撃とは、厄介じゃな!」

 五本目の頭が咆哮を上げると共に、口腔より放たれたのは淡い緑に輝く竜巻のようなブレス。そこには無数の風の刃が混ざり合い、炎や雷と比べてより広く拡散して攻撃範囲をカバーする。

 高速で宙を飛び回る黒竜に対しては、ブレスの線攻撃よりも威力が拡散する面攻撃の方が良い、と学習でもしたのだろうか。

 多少ダメージが落ちるとしても、少しでも消耗を強いた分だけ有利になる。今回はヤマタノオロチを倒して終わりではない。まだ後に本番が控えている以上、こんなところで全力を費やすわけにはいかないのだ。

 だがしかし、五本目の首が現れたことで、ほとんど拮抗していた戦況が相手有利へと傾いてしまった。これをひっくり返すには、龍一もそれ相応の消耗を覚悟しなければならない。

「あっ、ご主人様!」

「今度はなんだ、六本目も出たってんじゃないだろうな!」

「オリジナルと桜が来ましたよ! それから、あっちには料理長が!」

「桃川と双葉が来たか」

 桃子が指さす方へ視線を向ければ、白馬に仲良く二人乗りをしている小太郎と桜。そしてもう一方では、芽衣子が愛莉を背負って走っている姿があった。

 双方共に、すでに互いの存在は把握しているようで、ヤマタノオロチから隠れ潜む様に森の方を走りながら合流を目指すように動いているのが分かった。

「涼子の手前カッコつけたが、アイツらの手も借りなきゃ後がキツい……俺達も一旦、合流するぞ」

「うむ、それが良かろう。妾も少し羽休めをさせてくれ」

「きゃはは、ババ臭いですよ」

「振り落とされたいか小娘」

「わはぁーっ! ご主人様、桃子を離さないでぇー」

「うるせぇ、さっさと仕事しろ」

 急旋回しながら加速する黒竜の背の上で騒がしくしながら、攻撃を中断し離脱のために動き出す。

「五本目の風野郎が邪魔だな……俺が潰して来るから、ちゃんと拾ってくれよ、リベルタ」

「無論じゃ、全て妾に任せるが良い」

「スモークグレネード、発射ぁーです!」

 龍一がリベルタの背より飛び降りると同時に、メイドスカートの内より颯爽と取り出したランチャー二丁を構えた桃子が煙幕弾頭を乱射する。

 俄かに空中へと濃密な黒煙が広がり、オロチの四つ首周辺を覆ってゆく。さらには、周回するように飛ぶリベルタの口からも、火球の代わりに黒煙の帯を吐き出して、さらに色濃く煙幕を厚くしてゆく。

 黒煙による明らかな目くらましを掃うべく、風属性を持つ五本目の首が、その竜巻状のブレスで一掃しようと口を開いた。

「黙って閉じてろ————『ネザーヴォルテクス』」

 闇の王剣『冥剣・ザムド』を振り上げた龍一が自由落下の勢いのまま、今にも竜巻を放たんとするオロチ頭を強襲。

 炸裂した黒き破壊の渦が大きな頭を砕き、穿つ。大技の直撃を喰らった頭は半壊し、そこで機能を停止した。

 力を失い倒れてゆく首の上で、再び龍一が宙に身を躍らせると、

「おかえりなさいませ、ご主人様」

「なんでお前が偉そうにしてんだよ」

 完璧なタイミングで飛来してきたリベルタの背へ着地した龍一に、渾身のドヤ顔でメイドの決まり文句を言い放つ桃子であった。

 ともかく、四つ首は分厚い煙幕に巻かれて、一時的にこちらを見失った。五本目の首もすぐに再生してくるが、多少なりとも猶予は稼げる。

 そうしてヤマタノオロチから離脱した龍一達は、小太郎と芽衣子の合流地点へと真っ直ぐに飛んで行った。




「————何やってんの、姫野さん! もっと早くして、間に合わなくなるでしょ!!」

「うっ……ううぅ……なんで私だけぇ……」

 龍一が小太郎達の合流地点にやって来ると、そこはすでに鉄火場と化していた。

 場所は森の中にある、最下層へと通じる階段が備えられた神殿のような建物。ここは保護が働いているせいか、ほとんど石壁に劣化は見られない。太い円柱に囲まれただだっ広いエントランスのど真ん中に、これ以上なく分かりやすく下への階段が続いている。

 そんな場所で小太郎は、雑多な材料をぶちまけて、急造したであろう複数の『魔女の釜』をフル回転させて、錬成作業を行っているようだった。

 よりによってこんな時に、こんな場所で、と龍一も呆れる思いだったが、いつもの小生意気な表情はすっかり鳴りを潜めて切羽詰まった顔で作業に集中する小太郎を見れば、呑気にやっているワケではないのだな、ということは伝わって来た。

 そして本気で焦って作業している小太郎に付き合わされて、愛莉がいつもよりも悲痛な泣き言を上げていた。

「あっ、龍一!」

「桜、ちょっとリベルタを治してやってくれ」

「ちと羽先を焦がしてしまってのう。よろしく頼むぞ、聖女よ。」

「んんっ、もう、分かりましたよ!」

 如何にも言いたいことが色々あります、といったむくれた表情だが、肩乗りサイズに小型化したリベルタが飛んできたのを受け止めて、まずは治療に専念することとしたようだ。

 桜の愚痴に付き合っていられるほど暇ではない。今は時間の経過が相手の有利に、こちらの不利へと繋がっている。それぞれの仕事に専念しなければならない状況だ。

 この僅かなインターバルで、ブレスがかすって少々の手傷を受けたリベルタを回復させるのは、『聖女』桜だけが可能とする。

「天道君、オロチは」

「煙幕焚いて置いて来た。ここを見つけるまでに、多少の猶予はあるはずだ」

 チラと一瞥だけして、端的に聞いて来た小太郎の問いに、龍一も余計なことは言わずに答えた。

今更、何をやっているんだ、と問うことに意味などない。小太郎がわざわざやっているのだから、そこに必ず意味はあるのだ。

「涼子達は先に下へ降りたぞ」

「分かってる。そっちは」

「五本首の相手は厳しい。手を借りられるか」

「じゃあ、私も出るよ」

 小太郎の傍らで静かに佇んでいた芽衣子が、名乗りを上げる。

「すまん、双葉。助かる」

「ううん、いいんだよ。ヤマタノオロチを相手にするのは、大変だもんね」

「桃子、僕の鞄から必要なの持ってって」

「全部いいんですか?」

「ケチって倒せない方がまずいからね。全部いいよ」

「ふふん、桃子にお任せですぅ!」

 嬉々として小太郎の鞄を漁り始めた桃子を後目に、龍一は懐から煙草を取り出し、一服を始めた。

 ヤマタノオロチは、見失った敵を探しているのだろうか。あるいは、ただ怒り狂っているだけか。遠くからブレスが炸裂する音が、遠雷のように響き渡って来る。

 そんな轟音の中、円柱に背を預けて、ゆったりと紫煙を吐き出して、龍一は言う。

「お前らだけで、下に行って大丈夫か」

「行くしかないし、何とかするためにこうしているんだ。ヤマタノオロチだって、何としてもここで倒しておかないと、絶対に後で詰む」

「だろうな……急ぎはするが、アイツはタフだ。双葉の手を借りても、まだ少しかかるぞ」

「時間稼ぎくらいはできる、と信じたい」

 険しい表情でそう呟いた小太郎。どうやら、本当に残された猶予はないようだった。

「双葉、準備はいいか」

「いつでもいいよ」

「桃子」

「完全武装、フルアーマー桃子、行きまーっす!」

「はい、リベルタは綺麗に治療しておきましたよ」

「ありがとな、桜。お前も気をつけろ……いや、覚悟決めて行けよ」

「当たり前です。絶対に私が、兄さんを取り戻して見せますから」

 ヤマタノオロチ再討伐組みは、総員準備が完了。龍一が煙草を吐き捨てると、外へと向けて一歩を踏み出す。

「それじゃあ、桜ちゃん。僕らも行こうか」

「ええ、涼子達が心配です。急ぎましょう」

 そして分身と化した小太郎と共に、桜は最下層へと向かう。

「あの、桃川君……私達だけ残ってていいの?」

「言っとくけど、ここ別に安全地帯でも何でもないからね」

「えっ」

「当たり前じゃん、妖精広場じゃないんだから」

 龍一が危険を承知で涼子達だけで最下層へと先行させたのも、このエリアに留まるよりかはまだマシだと判断したからである。

 ヤマタノオロチが健在で、五本もの首でブレスを連発している状況は、さながら空襲を受ける工業地帯で、工場を動かしているようなもの。次の瞬間、この神殿にブレスが直撃して吹き飛んでもおかしくないのだ。

 無論、この場に小太郎と愛莉の二人が残っていることは、龍一も承知している。出来得る限り、こちらにブレスが飛んでこないよう立ち回るだろうが、それも絶対的な安全保障とはならないだろう。

「だから今の僕らに出来ることは、一秒でも早く作業を終わらせることと……神様に祈ることだけだよ」

「桃川君が神頼みとか言い出すと、不安しかないんだけど」

「僕は結構、神頼みだよ? 呪術師として、呪いの神ルインヒルデ様をそれはもう厚く信仰してるんだから————んんっ!」

「ちょっと、なに!?」

 お喋りしつつも錬成速度は片時も落ちたりはしない小太郎だが、思わずと言った様子で手が止まるリアクションをされると、愛莉も何事かと驚く。

「あ、危ねぇ……桜ちゃんが移動系武技習得してて、マジで良かったよ……」

「だから、何が起こってるのよ!」

「洗脳キナコにブレスぶっ放されたとこを、桜ちゃんが『聖天結界オラクルフィールド』で滑り込みセーフ」

「ホントにギリギリじゃない!?」

 仲間達のピンチに何とか間に合うことが出来たことで、彼らの前に現れた分身の方は自信満々な態度を取らせるものの、本物の小太郎としては強張った顔で重い溜息を吐いてしまう。

 ヤマタノオロチとの激闘だけでなく、最下層の方でも死闘が繰り広げられていたことが判明し、いよいよもって余裕が消し飛ぶ。

「キナコがかなりヤバい感じに強化されてるから、こっちも巨人化を使うしかない……姫野さん、マジで頼むよ」

「わ、私に振らないでよぉ……」

 分身の方が戦闘に集中するとなると、本体の集中力も削がれてしまう。日常会話や調べもの、単純な錬成作業などであれば、本体と分身の三体同時並行で行うことができるが、極度の集中力と思考力を要する激しい戦闘となれば、如何に今の小太郎といえども限界がある。

 小鳥によって改造強化されたとしか思えない、翼が生えて青白く輝く聖獣キナコを相手にするならば、全力を尽くさなければならない。

 だがしかし、ここにいる本体が行う錬成作業も、何としても完了させておかなければ、最後の敵となる『勇者』と『賢者』に対抗しきれない。

 どちらも手が抜けない。両方、やり遂げなければならないのだ。すなわち、ここでの錬成がどれだけ詰められるかは、愛莉の働きにかかっているのだった。

「頼む。みんなの命がかかっている」

「ああっ、もう、分かったわよ! やるわよ、やればいいんでしょぉ!?」

 悲鳴のような叫びを上げて、愛莉の両手はより一層激しく、錬成陣を輝かせた。

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― 新着の感想 ―
コイツがやっているなら意味があるんだろう。 だから口に出して聞く必要は無い。 とか。 どんだけ高いんだ、王から呪術師への信頼はw 、、、みんな、中嶋君のこと、聞いたのかな?
[良い点] 混んだけ複数の作業同時進行してたら並列思考とかそりゃ鍛えられてるわ……いずれ複数の呪術同時発動とか出来ちゃいそう
[良い点]  今回初めて記述された設定だと記憶していますが、『魔女の釜』はやっぱり錬成作業の効果、効率を上げるか、錬成陣そのものの効果があるみたいですね。  名前からも、フレーバーテキストからも予想…
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